第百二十三話 その名を呼んで・・・
どうもHekutoです。
修正作業完了しましたので投稿させていただきます。楽しんでいただければ幸いです。
『その名を呼んで・・・』
早朝、まだ日が顔を出して間もなく、一般家庭なら眠気眼で朝食を、寝坊な子はあと5分と最後の抵抗を行う時間帯。そんな平和な時間帯を過ごす予定であったユウヒ達4人は、想定外の来客によりその頭を朝から最高速度で回転させていた。
「作戦は以上で、いちにのさんで行くぞ」
槍を片手に忍者達と円陣を組んでいたユウヒは、すっくと立ち上がると引き締められた表情で忍者達に目を配る。
「おう、一点突破だな」
「貫通できそうな忍術の集中運用でござる」
「どのくらい固いのか不安だけどな」
ユウヒの視線に頷いた三人もどこか男臭い表情で懐から忍術用の護符を取り出す。
彼らの作戦は実に単純明快である。現在周囲を囲んでいるカースツリーはユウヒの結界に阻まれる形で密集している為、結界を解除した瞬間同じ方向に向けて強力かつ、貫通力のある魔法と忍術で逃走経路を確保、あとはそこを全力で走って逃げるだけである。
この作戦に至るまでは地味に長い相談がされたのだが、様々な障害とトラウマにより力押しな作戦になった様だ。
「まぁな、とりあえずフラグは無しの方向で」
力押しな作戦を成功させるために少しでも障害を無くしたいユウヒは、槍を構えて前を向くと目だけ後ろに動かして真剣にそう告げる。
フラグとは、創作物に置いて特定の状況を引き出すための行為また事柄を指す。たとえそれが迷信だとしても、緊迫した状況では特に気を付けるべき事柄である。
「ガチですね解ります」
「それでは、いちでござる」
「にの」
忍者達もその事には賛成な様で、ユウヒの言葉にそれぞれ頷くとユウヒの左右に並び真剣な表情で護符を構えるとカウントを始め、
「さん! 【結界解除】【アイシクルランス】!」
「土遁【石柱突撃】でござる!」
「風遁【圧殺爆風】食らいやがれ!」
「火遁【魔炎乱舞】汚物は消毒ですwww」
ユウヒの結界解除と共にそれぞれ魔法と忍術を同じ方向へと放った。
ユウヒが放った複数の重厚な氷の槍に追巡するようにゴエンモの石柱、その石柱を加速させるように高圧縮された空気の塊がジライダにより放出されると、直線状のカースツリーが薙ぎ倒されて行き、倒れた魔物はヒゾウの火遁によって瞬時に炭化し、熱風がユウヒ達の肌を撫でる。
「くっ・・・」
しかしフラグ、所謂お約束とはいかに注意したところで人の意志ではどうにもできないものの様で、魔法の余波を避ける為に顔を手で覆ったユウヒの後ろからは、
「やったか?」
「ああ!」
「おま!?」
ヒゾウがしっかりとよくあるフラグである言葉を洩らしてしまい、ジライダとゴエンモの驚きの声で口を押えるヒゾウ。
「・・・いや、これは」
しかしヒゾウの一言は彼らが予想した状況では無く、もっと違った何かを呼び込んでしまったようで、ユウヒが頬に汗を伝わせ表情を引き攣らせた瞬間、砂埃が晴れるより先に膨大な熱量を伴った火柱が姿を現した。
「え? 何この火あつ!?」
「あつつでござる!?」
彼らを囲むようにあちらこちらから出現した火柱は、カースツリーを焼きながらその火力を増して行き、空から降り注ぐ火の粉はユウヒ達に容赦なく降り注ぎ、熱風はユウヒ達まで焼き尽くしそうな勢いである。
「・・・しまった」
そんな中慌てて自分の手元を確認したヒゾウは、顔を蒼くすると震える手に握った護符を見詰めて小さく引き攣った声を漏らす。
「あつ!? 【氷の壁】」
「えーっと・・・不安定注意の護符使っちゃった。テヘペロ」
ユウヒが慌てて魔法を使いドーム状の氷で壁を作る後ろでは、ヒゾウが男には到底似合わない表情で自分の頭を軽く小突いている。
「何やってんの!? あれ封印しただろ!」
「いやぁ荷物がこうぐちゃっとなってて、混ざってたっぽい?」
「疑問形で何言ってるでござる! 辺り一面火の海でござる!」
どうやらヒゾウは廃鉱山で使った不安定な試作触媒を使ってしまったようで、しかも今回は手加減抜きの一撃であり、地面から立ち上る複数の火柱はその一本一本が廃鉱山で周囲の村人を震えさせたものより赤く勢いがあった。
「え、不安定なのってこんなに威力出るの・・・」
「うまく噛み合うと想定の何倍も威力が出るでござる」
「失敗すると何も出ないんだがな、何故か火遁だけ噛み合うんだよ」
「うわぁ・・・木のお化けが逃げ惑ってるお」
氷の壁の維持をしていたユウヒが聞いていた暴走以上の状態に驚いて振り返ると、三人は検証結果を説明する。どうやらこういう状況になるのは火遁限定だったようで、氷の壁の向こう側、ユウヒ達の開いた道はカースツリーの代わりに火の海で埋め尽くされていた。
「むむ、氷の壁がもたんぞこりゃ【氷の壁】うお!?」
「うぼあ!?」
「とととと溶けた!?」
「一瞬かよ・・・」
火の海は逃げ惑い蠢くカースツリーを飲み込みその火力を増していく、その火力はユウヒの魔法でも抑えが効かず。さらには巨大な火の玉が、追加で大きく広げた氷の壁を掠めるように一瞬で溶かしていく。
「ユウヒ何か無いのか、こうなんだ強力な水の魔法みたいなの!」
「飲み水用くらいしか真面に使った事ない!」
溶かされ低くなった氷の壁に背を預けて頭を低くした四人は、狭い氷壁の中で互いに視線を合わせ合う。焦りから既に素が出ている忍者達、ジライダは何時もと違う焦りきった声でユウヒに何か無いかと魔法を催促するも、ユウヒは水に関する魔法はあまり試しておらず、咄嗟には思い浮かばないのか難しい表情で考え込む。
「何でもいいから何か水!」
「あーんー【消火用水】これでって駄目っぽいなぁ」
ジライダに続いてヒゾウが声を上げると、ユウヒはキーワードを口にして妄想魔法を発動する。直後ユウヒの足元からは大量の水が吹き出し、
「蒸発した!? ・・・でござる!」
氷壁の内側から跳びだした先から蒸発していくのだった。
「うそ!? 何アレ意志持ってない?」
「あ、魔炎乱舞って自動追尾系だっけ?」
「それって意志持つのでござるか?」
その理由は、空中を飛び交う圧縮され小さな太陽にも見える火の玉が、跳びだしてくる水を狙い澄ましたかのように迎撃していくからである。
「異世界だしなぁ・・・やばいぞ氷の壁が」
まるで意志でも持って居そうなその動きに、ユウヒは視線を向けながらも次第に薄くなってくる氷の壁に冷や汗を流す。
「ユウヒえもん! 死にたくないでござる!」
「何か無いのかユウヒ! 森を押流すくらいの魔法が!」
「俺が死んだらどうかPCのDドライブを・・・」
厚みが薄くなると同時に高さも低くなる氷壁に、忍者達は逃げ場を求めるように仰向けになりながら、だらだらと汗を流し現実逃避を始める。ヒゾウに至っては、自分が死んだあとの事にまで思考が飛んでいるらしく、その目は何処か濁っていた。
「押流す・・・津波・・・あ、そうだ!」
そんな三人に苦笑いを浮かべるユウヒは、ギリギリのところで某心得が精神を繋ぎ止めているらしく、その頭では打開策を考え続ける。そしてある森でとある精霊達と話した内容を思い出し、その時話した内容を実現してくれそうな人物の名前をその脳裏に思い浮かべた。
一方、ユウヒ達がフラグ建設に成功? した頃、モミジの目の前にはヒゾウ以上に目の濁った精霊が虚空を見詰めている。
「・・・」
「・・・」
その目には何も映らず、口からは周りを不安にさせる言葉として聞き取れない奇妙な音が漏れ出しており、そんな空間汚染源に対してモミジはしばらくの間、心底呆れた視線を注いでいたが、
「・・・あいた!?」
「鬱陶しい」
流石に鬱陶しくなってきたのか、どこかからか取り出したハリセンの柄で空間汚染源、もとい水の大精霊ミズナの頭を強かに叩き抜くと、不機嫌そうに抑揚の無い声を漏らす。
「傷心の友人に酷い言草ね・・・」
頭を強かに叩かれたミズナは、衝撃と共に濁りがどこかに飛んで行った目に涙を浮かべながら頭を押さえると、目の前で仁王立ちしているモミジへと恨みがましそうな視線を向ける。
「鬱になるなら別の場所でなって」
「いいじゃない少しくらい、はぁ・・・ユウヒさんが呼んでくれるかもって期待させておいて」
そんな苦情など知った事かと言った雰囲気のモミジに、頬を膨らませるミズナ。どうやら彼女はユウヒに呼ばれなかった事に思いのほかショックを受けているようで、期待を持たせたモミジに対して少なくない不満がある様だ。
「そんなの知らない」
「・・・良い性格してるわよね」
「・・・」
不満溢れるミズナに対して首を傾げて恍けるモミジであったが、流石に何も感じていないわけでは無いらしく、ミズナからの圧力を伴っていそうなジト目に思わず視線を泳がせる。なんだかんだと言ってモミジもミズナを気にしており、森を出て行くユウヒに伝えた言葉も彼女の事を思ってのものであった。
「はぁ・・・今呼んでくれたら、一国だって滅ぼしてあげるのに」
「・・・やめて」
モミジにジト目を向ける事に飽きたミズナは、急に立ち上がると胸を両手で抑え頬を赤らめながらそんな言葉を洩らす。その言葉にモミジは珍しく表情を崩すと、心から制止の言葉を口にする。何故ならミズナにはそれをやり遂げるだけの力があり、また前科もあるからだ。
「あぁこの胸に溢れる想い、貴方にとど・・・」
頬を染めながら虚空を見詰めるミズナであったが、急に動きを止めたかと思うと目を見開きそのままの姿勢で動かなくなる。それも束の間、
「・・・? どうし「キターーーーー!」え?」
「ユウヒさん! 今行きますわ!」
キョトンとした表情を浮かべるモミジの前でミズナは急に叫んだかと思うと、突如現れた水の転移門に身を翻し飛び込んでしまう。
「あ・・・いったい何が」
円形の水の壁が無くなるとともに静寂が戻るその場で、モミジはびっくりした表情で立ち尽くすのであった。
「あれ? 姉さんどこぉ?」
「いないね? どこ行ったのかな」
「折角元気出る物持ってきたのにー」
ちょうどその時モミジの背後に小さな水の転移門が出現し、静寂を壊す騒がしげな少女達が姿を現し、きょろきょろと周囲を窺い首を傾げる。
「・・・嫌な予感がする」
そんな彼女達に目を向けながら、モミジは嫌な予感に背中を妙な汗で濡らすのであった。
少し時間は戻り、周囲を火の海で埋め尽くされているユウヒ達はと言うと、
「ユウヒ何か思いついたのあづ!?」
「ヒゾウのケツがもえちょる!?」
「何かはたくもの!?」
さらに状況が悪化しているようで、とうとうヒゾウのケツに火が付いたようである。
「ケツバットでござる!」
「いて!? あつ!? いて!?」
「なにやってんの!?」
目の前でお尻を燃やすヒゾウに焦ったゴエンモは、一番近い所にあった自らの相棒を鞘から抜かず振りかぶると、ヒゾウのお尻に容赦なくぶつけた。それにより火は消えたものの、ヒゾウは四つん這いの姿で疲れた様に項垂れている。
「助けを呼ぶぞ!」
そんな目の前のミニコントなど気にせず立ち上がったユウヒは、キリッとした表情で気合の籠った言葉を発する。
「「「たすけ?」」」
「・・・っ助けてミズナァァァァァ!!」
ユウヒの言葉にきょとんとした表情で首を傾げる三人の忍者達、その言葉には言外にどこから? と言った意味が含まれていたようで、ユウヒが大きな声で助けを呼ぶ声を聞き周囲を見回す三人。彼らが見た周囲は、気のせいか燃え盛る炎も周囲をうかがうような動きをしているように思えた。
「ミズナ?」
「こんな暑いときに鍋か?」
「季節的には問題無いでござるが、サラダかもしれないでござる」
しかし誰も現れない事に視線をユウヒに戻した三人は、思い思いの感想を述べる。燃え盛る背景を背にボケているのか素なのか分からない事を話し合う三人は、案外余裕があるのかもしれない。
「「「あ?」」」
そんな三人がもう一ボケしようかと口を開いた瞬間それは現れた。彼らの頭上に突如現れた水の円盤は薄く広く広がると、その中央を歪め中から女性の足が現れ数秒と経たずその全身をユウヒの前へと舞い降りさせた。
「あなたのミズナが今参りましたわ! ユウヒさん!」
「た、たすあつ!?」
彼女、水の精霊であるミズナは地面に足をつくと同時に感情のままに大きな声を上げる。しかしそんなミズナの声も、彼女が現れた瞬間からさらに荒れ狂い始めた火の玉に邪魔され、声を聞かせたい人物であるユウヒも火の玉から逃げる事に必死でミズナの声を聞く暇もない様子であった。
「え? 何この火・・・この気配、サラマンダー?」
忍者達と一緒に飛び盛る火の玉を避けるユウヒの姿を見て冷静さを取り戻したミズナは、ユウヒを狙って飛んでくる火の玉だけを軽く掌で払いながら周囲に目を向け状況を確認する。
「ミズナいきなりで悪いが火を消してあつ!?」
火の玉を掃いながら周囲に目を向けているミズナのおかげで、話しかける余裕が出てきたユウヒは、頭を低くし守りながらミズナに消火を頼むが、その言葉も後ろから飛んできた火の玉が背中をかすめた事で言い切る事が出来ない。しかしこれはミズナとって不幸中の幸いであった。
「・・・サラマンダー、次は無いと言ったのに・・・うふ」
「おふ、すごくゾクゾクする笑みですねお姉さん」
「ユウヒこの人誰よ? 妙に冷笑が似合いそうな人なんだけど」
「それよりも早くこの火を消さないと、ってお姉さん危ないでござるよ背をひく・・・く?」
何故ならこの時のミズナはその表情を怒りに染めており、フードに点いた火を忍者達に消してもらっているユウヒには、とても見せられない顔だったからである。事実その表情の一部を見ただけでも、忍者達の足はその意志に反して震えていたのだ。万が一にも正面から見ていれば心に深い傷が刻まる事は避けられない。
「ふふ、その程度の火で何をしたいのかしら? ねぇサラマンダー」
そんな表情を浮かべたミズナは、真後ろから狂ったように飛んできた大きな火の玉を避ける事無く手の甲で払い退け、ユウヒの消火に成功した三人を驚かせると、美しい声で炎に話しかけた。
「ミ、ミズナ!? これは違うんだ!」
「何がどう違うのかしら?」
ミズナの声に反応するように大きく揺れた地を焼く炎は、その形を人の形へと転じながら震える炎と同じように恐れを伴った声を漏らす。
「うお!? 今度は筋肉魔人だと! てあつつつ!?」
「燃えてる燃えてるでござる! もしかして・・・この人達って」
その炎が集まるとそこには筋肉隆々の真っ赤な肌が存在し、その膨れ上がる固そうな大胸筋の上には、こちらもその筋肉同様燃え盛る髪を持った厳つい男の顔がのっていた。しかしその厳つい顔は赤い肌にもかかわらず蒼くなっており、男の厳つさを著しく損なわせている。
「あぁなんだ・・・水の精霊のミズナさんとそっちも精霊らしい」
その原因は当然、顔を上げたユウヒを守る様に立ちユウヒから見えない顔を怒気で染めて、目の前の燃え盛る赤い肌の大男を睨みつけるミズナであった。そして睨みつけられているこの大男もまた精霊であり、過去ミズナにトラウマを刻み付けられたウパ族の信仰精霊サラマンダーである。
「ちょ、ちょっと散歩してたら良い火の気配を感じてだなミズナ」
「それで油を注いだと?」
しかし今、サラマンダーに伝承で語り継がれる様な猛る気迫は無く、ミズナに問質される姿は悪戯が発覚して現行犯逮捕まで喰らった悪餓鬼のそれであった。
「そそ、そうなんだよ。そこの黒いのは以前にも良い火の力を使っていてな、その時にもちょっと手伝って以来気に入ってな、なぁ?」
「え? 俺? 火って鉱山以来あまり使ってないけど」
ミズナに問質されたサラマンダーの話によると、今回の火遁が暴走した理由は全てこの火の大精霊に有るらしく、またその原因となった行為は以前にも行ったそうで、ヒゾウに目を向けたサラマンダーは愛想笑いを浮かべ同意を求める。
「そうそうそれだよ! 良い火だったぜ兄弟!」
「あぁあの時のでござるか」
「そうか、あの時のはこいつが油注いだのか・・・」
そう、初めてユウヒの作った触媒護符一号を使ったヒゾウが、こんがりを通り越して黒焦げになった理由は、もちろんユウヒの触媒の不安定さもあったがそれは呼水に過ぎず、最も大きい原因はこの大男の仕業であったのだった。
その事実に、ユウヒが立つのを補助していたゴエンモは何とも言えない表情でヒゾウを見詰め、ジライダは大男をしたから上まで見た後、ヒゾウに慈愛の籠った目を向ける。
「・・・お、おお、お前のせいかぁぁぁぁ!!」
そしてユウヒもまた目を向けたヒゾウはと言うと、悲しい記憶とその真実に顔を俯かせていたかと思うと、心の奥底から湧き出る怒りにまかせて雄叫びを上げ、同じく怒りに染まった目で大男を見上げ睨みつけた。
「えぇ!?」
「あぁヒゾウが黒焦げになったって言う・・・」
ヒゾウからの言葉があまりに予想外だったのか驚くサラマンダーに対し、そのやり取りで色々察したユウヒはそっとヒゾウの肩に手をのせるのであった。
「そう、ねぇ・・・あなたの判決は?」
最初こそ怒気溢れる表情だったミズナだったが、ヒゾウの叫びのせいか落ち着いて来たのかその表情を微笑みに変え、されどその目には冷たい怒気が揺れている。そんなミズナはユウヒの優しさに目を潤ませるヒゾウに目を向けると、小さく微笑みヒゾウに裁量権を譲渡した。
「ギルティ!」
「そうね、有罪ね」
結果、サラマンダーは有罪となりその結果に顔を俯かせるジライダとゴエンモ、顔を両手で覆うヒゾウ、そして何とも言えない苦笑を浮かべたままヒゾウの肩を叩くユウヒ。そんな中ミズナは一人良い笑顔をサラマンダーに向ける。
「ちょちょっとまて!? 待つんだミズナ落ち着け、話せば分かる!?」
「む・り♪ 頭だけじゃなくて魔核まで冷やしてきなさい! 堕ちろ【シーフォール】」
まるで傍聴席で判決を聞いた人の様な四人を余所に、ミズナはだらだらと恐怖で汗を流すサラマンダーの言葉に無言の笑顔を向けると、心が冷え切りそうな明るい声で刑を執行するのであった。
ただ問題が一つ、この時のミズナは冷静そうに見えてそうでは無かった為、その執行内容にユウヒ達の安全を考慮していなかった。いくら大精霊と言っても動き始めた大魔法を途中停止させることなど出来ない。
「・・・空から海が、落ちてくる」
「ユウヒ殿バリアバリア!」
「ハーリー!ハーリー!」
結果、火の大精霊の魔核まで冷えそうなミズナの魔法は、ユウヒ達も巻き込む形で発動した。
「お、おう! 【全周囲物理シールド】うぉあ!?」
空に生まれた海を呆然と見上げていたユウヒは、慌てる忍者達の声で正気に戻ると慌てて妄想魔法を唱える。
「「「な、ながされるぅぅぅ!?」」」
死に直面した人間にある様な思考の加速でも起きたのか、突然の新しい妄想魔法の展開に成功したユウヒであったが、彼の魔法をあざ笑うかのように空から落ちてきた水の柱は、大地を抉り球体状のシールドに包まれたユウヒ達4人を足元の僅かな大地ごと押流す。
「む、むちゃくちゃだぁぁぁぁ―――」
そして当然ミズナのメインターゲットであるサラマンダーもまたその水に押し流され、その叫び声は大量の水に飲み込まれると、そのまま激流に押し流されるのであった。
「アハハハハハハハハ!」
そして残ったのは水面の上に何事も無く立ち、狂ったように笑い声を上げる水の大精霊ミズナ。彼女がユウヒを巻き込んだことに気が付いたのはこの30分後である。
【シーフォール】
瞬間的に膨大な水を空中に出現させ大地に落とす推定Sランクの広域殲滅魔法。この魔法を行使できた記録は人の歴史に存在せず、使用できるのは精霊と神だけとされている為、ランクは推定のものである。
またこの魔法を完全にコントロールすることが出来れば、狭い範囲を長時間に渡り攻撃することが可能と言われ、嘗てその攻撃によりとある国の王都から王城だけが更地にされたと言う記録が古い文献に残っており、水魔法士の間では憧れと畏怖として語り継がれている。
いかがでしたでしょうか?
ようやく彼女の願いが叶ったようですね、まぁその結果がこれですが彼らがどうなったかは次回をお楽しみに。
それではまたここでお会いしましょう。さようならー




