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ワールズダスト  作者: Hekuto


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第百十九話 忍ぶ者達と里の夜

 どうもHekutoです。


 日々余裕がないですが、修正完了しましたので投稿させていただきます。楽しんでいただければ幸いです。



『忍ぶ者達と里の夜』


 時刻は昼を少し過ぎ眠気を感じ始める時間帯、ナルシーブと別れた後その姿を里の内外でエルフ達に目撃されていたユウヒは、現在与えられた自室にて忍者達と向かい合っていた。


「なるほどね」


「申し訳ないとは思うのだが・・・」

「拙者もこんな気持ちは初めてでござる」

「不思議だよな」


 山と積まれた複数の草木を選別するユウヒの前では、申し訳なさそうな顔をした忍者達が背中を丸めながらユウヒの様子を上目使いで窺っていた。


「まぁ・・・何となくわかる気もするけどな、俺もアルのキラキラした目とか心が痛くなるんだよね」

 その視線に若干嫌そうな表情を浮かべたユウヒは、作業の手を止めると忍者達に向き直り、困ったような笑みでそう洩らす。


「あぁ・・・あの王子様の目って汚れが無いもんな」


 ヒゾウが言ったように、アルディスの瞳は純粋無垢な少年の様な印象を受ける。それは彼の性格が滲み出ているからなのだが、その純粋な瞳は人々を虜にすると同時に、現代社会の荒波に溺れもがく大人達には、薬を過ぎた劇毒に近かった。


「・・・うん、それじゃさ今日出ようか?」

 ユウヒの言葉に首を縦に振りながら理解を示す忍者達、そんな忍者達はユウヒにスケジュールの繰り上げ依頼に来ているのだ。その理由も理解できない事は無いユウヒは、自身も今の高待遇に慣れない為、シリーの館に居る時間が少なかった事を思い返すと、今日中に出ると言う提案をするのである。


「ええ! いいんでござるか!?」

「大丈夫かユウヒ? 何かあったのか?」

「こっそり出て行くのか? なにやった?」


 忍者達もこの斜め上を行く提案には驚いた声を上げ、またユウヒを心配するように中腰に立ち上がり、どこか自首を勧める友人の様なジェスチャーで心配そうな表情を浮かべる。


「なにかやった前提かよ。まぁそうだな・・・シリーには言っておいた方がいいか」

 忍者達からの善意とも悪意ともとれる言葉に、ユウヒがじっとりとした視線を忍者達に突き刺すと、彼らは慌てて声が出なかったものの、大きく手と頭を振って他意が無かった事を示すのだった。


「・・・よし、それじゃ食後にまた来てくれるか? 頼みたいこともあるし」

 ユウヒは忍者達が様子を窺う前で、どこかデジャビュウを感じる散らかった荷物を手際よく仕分けると満足そうに頷き、忍者達に振り返り言外に部屋から出ていくよう促す。


「おう、何だかわからんが任せてくれ」

「忍者に不可能はたぶん無いでござる」

「脳内撮影も完璧だぜ!」


「そかーよかったなー」

 合成魔法の準備と言う事は分かっても、鑑定能力や知識の無い彼等には、今からユウヒが作ろうとしている物が何なのか分からない様だ。それでもここに居ると危険な気はした様で、いつも通り騒ぎながらユウヒの平坦な声に見送られ部屋を後にするのであった。





 それから数時間後、気のせいか肌のつやが増したユウヒは、シリーに誘われた夕食の席で、今日の夜にもエリエスを発つ説明をしていた。


「え?」


「急なのね・・・何かあったのかしら?」

 その言葉にはシリーだけでなくセーナも少なからず驚いたようで、少しだけ寂しそうに微笑むと、小さく驚きの声を上げたまま動かなくなったシリーの代わりに問い掛ける。


「いえ、特には無いのですが行きたい場所もありますし」


「そう、ですか・・・」

 冒険者とは、自由を愛する者達だと言う事はシリーも良く分かっていた。だからと言って急な別れをすんなりと納得できるわけも無く、ユウヒに少なからず思うところがある彼女の表情は、自然と暗くなってしまう。


「ほらシリーそんな顔しない」


「あ、ごめんなさいユウヒさん、あまりに急だったものだから」


「こちらこそ急ですみません」

 そんな彼女の表情からそれなりに気心が知れた事を感じ取ったユウヒは、嬉しくも申し訳ない気持ちになり、自然と表情にもその感情が出てしまう。当然その表情には彼女達も気が付き、互いに頭を下げ合うシュールな光景が展開されるのも道理である。


「いいのよ、冒険者なんてそんなものなんだし」

 感情を抑えきれないシリーに対してセーナは慣れたもので、流石は長く生き!? け、経験豊かな女性デス。


「あの、またこちらには来るのでしょうか?」


「あーそうですね、貰った土地の事もありますから」

 妙にニコニコとした笑みを浮かべて虚空を見つめるセーナに首を傾げながらも、シリーはユウヒに一番気になる事を問い掛ける。それはまたエリエスに来るのかと言う事で、それに関してはユウヒも土地と残して来たゴーレム達が気になるらしく、すぐに肯定する。


「そうですか」


「まったく、外交の時とは対応が違い過ぎよシリー」

 心配そうだったシリーの表情は、ユウヒの言葉を聞いた瞬間安心した様に綻び、それを見ていたセーナは、呆れ半分微笑ましさ半分と言った表情でシリーを冗談めかしに諌めるのだった。


「そ、そうかしら?」

 セーナの言葉に顔を赤くするシリーは落ち着きなく視線を泳がせ、チラチラとユウヒ顔を窺う。


「・・・(とりあえずこれで大丈夫かな・・・)」

 一方ユウヒは彼女達の話を聞き流しつつ、計画が順調に進んでいる事を感じていた。


「ふふふ(何かあったのは間違いなさそうだけど、それが何なのか・・・)」

 セーナはセーナで、シリーの珍しく挙動不審な様子に満足しつつも、ユウヒの動向も気になっているようである。


 その日、ユウヒにとって緑の里で摂る最後の夕食は、若干浮ついた空気の中穏やかに終わるのであった。





 夕食を終えた後自室に戻った俺は、とあるミッションの為の準備に小一時間ほど費やし、三人が集まったところでミッション説明をし、


「それでは諸君に以上のミッションを遂行してもらう」

 今に至る。


「「「ビシ!」」」


「口で言うのかよ」

 忍者なのにまるで軍隊の様な敬礼を見せる三人に心の中でイイネ! をあげつつ、今回の作戦に必要な物資に目を向けた。


「気分でござるよ」


「それでどの位かかりそうだ?」

 今回の作戦は、緑の里を今日の深夜に出て行く為、夜中にこっそり置き土産を置いて行う作戦である。本当は直接渡す方が良いのかもしれないが、直接渡すと色々まずい物もある為、三人のお願いは丁度いいタイミングであった。


「そうでござるなぁ一番遠い所がユウヒ果樹園でござるから全力で4時間?」

「果樹園担当を専任にすれば3時間で行けるんじゃね?」

「そうだな、こちらも二人で3時間もあれば十分だろうしな」


「それじゃ作戦の開始はフタフタマルマル。完了後は東門前に集合でおk?」

 お礼やお土産、さらに支援物資など、置いて行く物は結構な量である。一号さん達に関しては手紙だけなので軽いものだが、普通に歩くと片道半日かかる距離を往復3時間と言うのもどうなのだろう。いや、俺も魔法を使えば出来るけどね?


「おkでござる」

「そいじゃ今のうちに分担だな」

「俺はこれとこれと「「ちょいまち!」」」


 俺の確認に頷いた三人は、妙に慣れた手付きで配達先の分配を始めるが、ヒゾウが率先して始めた作業に関してジライダとゴエンモは即座に大きな声で静止をかける。因みに騒音防止の結界は張ってあるので、多少騒いでも問題は無い。


「お前なんで美人の所ばかりだよ!」

「ズルいでござる!」


 どうやらヒゾウは女性陣の所ばかり選んでいたようだ。うん、その気持ちはよく分かるが、よくよく考えたら女性の寝込みに侵入して良いものだろうか、いやこれはサンタさん的な好意なので良い筈、もしダメと言うなら全世界の子供たちが可愛そうである。


 でも一応俺は行かないよ? あれだね、男でも危険だね、アルとかアルとかあとアルとか、喜びそうで怖い。


「うっせ! だいたい果樹園はゴエンモ担当だろうが!」

「な、ナンダッテー!?」

「まぁ妥当だな」


 おっと、ちょっと怖い発想をしていたら三人が白熱してきたが、どうやらゴエンモは多数決で一号さんルートらしい。唯一の一号さんオリジナル犠牲者なだけあり、やはり怖いのだろうか? しかし迷子的な理由から一番安心できるのも事実である。


「・・・すまんゴエンモ」

 とりあえず俺にはそれしか言いようが無い、きっと一号さんも問答無用で襲ったりしないと思うから頑張ってほしい。


「くっ! 泣かないでござる! だって男の子だもん!」


 ほしいんだが、涙出てんぞ・・・そんなに悔しいかゴエンモ。


「あ、そうだ」

「ん?」


 ルート強制をゴエンモに言い渡した二人は、床に四つん這いで落ち込むゴエンモを後目に配達先の検討に移るが、ヒゾウは頭を上げてこちらを見てくる。


「ウパ子にも何か置いて行きたいな」

「あぁそうだな、それなら今から渡せばいいだろ」


 どうやら仲良くなったウパ族少女にお土産を置いて行きたいようだが、何故かこちらをじっと見つめてくる、目だけ怪しく光る忍者達。


『と言うわけで何か無い? ユウヒえもん』


 そうなりますよね解ります。それとゴエンモ、落ち込んでたのにいつの間にか混じってるし、実はフリだったの? まぁいいけど、それならシリー達と同じでいいかな。


「しょうがないなぁ君達は、って誰が○型○ボットだよ」


「良いノリツッコミでござる」


「まかせろ。それじゃこれ持っていきなよ、はい」

 やはりこいつらと話していると楽だし楽しい、これが良い悪友と言う奴なのかもしれない。どっちかと言うとボッチ気味な俺にとっては得難い友だろう、そんな友の期待にはしっかり応えるべきである。


「ほう、綺麗な光沢だが、何塗ってあるんだこれ? 漆?」

「中身はドライフルーツか、上手そうな匂いだな」


「さぁ? まぁちょっと出来が良過ぎたんだが、世話になったらしいからこの位いいかなと」

 彼らに渡したのは、精霊の宿っていた木々で作った両掌に乗る位の大きさをした艶のある小物入れ、その中身にはこちらも精霊達から貰った果物を使ったドライフルーツ。どちらも元の品質の影響か質が良くなり過ぎており、その品質の良さは一目で分かるほどだ。ついでに艶がなぜあるかは謎である。


 まぁここで世話になった人達にならいいんじゃないだろうか、既にシリーには同じ物を贈っているし、それにしてもシリーは異常に喜んでいけど、エルフは甘いもの好きと聞いていたので作った甲斐があったな。


「あ、薬はどうなったでござる?」


「あぁあれか、とりあえず言われた要望も取り入れて似た様なものを用意したけど、材料が足りなかったからこんなもんかな」

 耳を忙しなく動かし喜んでいたシリーを思い出していると、既に平常と変わらない様子のゴエンモが薬について聞いてくる。薬と言うのはあの激不味酔い覚ましの事だろう、正直あれを口に入れる勇気は無かったが、とりあえず美味しいと言う要望を満たす似た物は作っておいた。


「そいつも持って行っていいか?」


「いいよ、はい」

 作りたいと思って作ってないせいか性能はそこそこ、ただし激不味じゃないだけ総合的にはあの薬と変わらないんじゃないだろうか。




【エリエスの酔い覚まし】ユウヒ作

 エリエスの森で採れる物を使い、ユウヒによって作られた酔い覚まし。

 ウパ族の秘薬を参考にするも多数の要望を寄せられたことにより、すでに参考にした秘薬とは違うものとなってしまった。また味やその形状は金平糖に酷似しており、逆に薬と言われても訝しむレベルである。


品質 外観:C+ 香り:C 味:C+ 

効果 酒精分解促進(小) 酒精分解物質排出促進(中) 高利尿作用 治癒促進(小)




「では引き続き作戦を練るでござる。これヒゾウこっちジライダ」

「適当に選ぶなよ!」

「おいちょっと待てそこは嫌だぞ!」


 とりあえず俺は任務を伝え終わったので、立つ鳥跡を濁さずの精神で部屋を片付け始める。そんな俺の後ろでは、元気を取り戻したゴエンモによる配達先の分配が始まったようであるが、


「うるさいでござる、拒否権は無いでござる。だいたい効率的に選んでいるでござる、これヒゾウ」


 気のせいかチラリと横目で見たゴエンモの目は座っている気がするのであった。


「よくやった!」

「フ○ック!」


 とりあえず問題起さなければ文句は無いのだけど、だいじょうぶだよね。





 ヒゾウルート【アルディス王子寝室】


「うにゅ・・・」


「・・・この王子様、王女様と言われても違和感ないくらい美少女っぷりなのだが」

 おはよぉうござ・・・いやこんばんはか、こちら王子様の寝室におじゃましているヒゾウです。すでに熟睡しているらしい王子様が眠るベッド、そのサイドテーブルにユウヒからの贈り物を置いて後は脱出するのみなのだが、正直この王子様は美少女過ぎだろと。


「ゆぅひぃ・・・とんじゃうぅ」


「こいつぁ薄い本が厚くなるな!」

 俺は比較的オールマイティに紳士である。浅く広くの心構えで色々手を出しているわけだが、こっち方面にも適性があったとは、いやまてこれはどう言うジャンルだ? かけるのか? いやまてこんなかわいい子がおと、女の子な訳ないじゃない! ・・・じゃやっぱりかけるほうでいいのか。


「まぁいいや、サクサク次に行きますかね」

 ついつい妄想のし過ぎで軽く混乱しちまったが、結構大きな声出したけど熟睡って・・・見てて心配になるおうじょさ・・・王子様だな。それでは良い夢を、次はだれにしようか、やっぱりデザートは最後だな、俺は苦手な物を間に食べる主義なのだキリッ。


「失礼しましたっと・・・!?」


「貴様、何者だ」

 そんなわけでそっと王子様部屋から出てきて扉を閉めたのだが、俺の第六感忍者警戒網に危険な気配がかかった瞬間、飛び退いた俺の頬を霞める銀線。


「いや誰何するなら切りつける前にしてよ、マジで心臓に悪いって」


「何をざれ・・・お前は自由騎士団の?」

 マジ怖い、かすめたって言っても風圧感じただけなんだけどさ、何なの? 俺の頭を西瓜みたいにぱっかり逝きたいの!? あ、これ面白いかも・・・うん意外と余裕あるな、流石俺。


「どうもコバンワ、説得力皆無だけど怪しいものじゃナイデスヨ?」


「本当に皆無だな・・・」

 ・・・そんな残念そうなジト目を向けられても大男の視線じゃ萌えませんが? ウホッとか言ってほしいの? だが断るマスオ。


「あ、ちょうど良いや。えーっと、はいこれユウヒから置き土産だって」

 あ、丁度いいじゃんこの人にも届け物あったし、めんどくさく無くて大変宜しいです。うん、少しだけ大男さんへの高感度アップだお、でも俺の始めてはあげられないんだお、既に・・・考えるのは止めよう、震えが出て来る。


「なに?」


「それと、ユウヒや俺達の事報告するのは明日の朝にしてね?」


「どういう、まさか・・・発つのか?」


「イエスだね」

 え、なにこの人察し良過ぎじゃない? 良く見ればそこそこイケメンさんだし、あれだなテキダナ・・・。


「・・・そうか、善処しよう。しかしアルディス様に問われれば今からでも報告することになる」


「それはしょうがないよねーそれじゃねー」


「消えた!?」

 くそ、察しが良くてイケメンで空気が読めるとか、マジデラスボスデスカ ソウデスカ。くっ! これは撤退では無い! 要件が済んだから帰るだけなんだ。


「・・・恐ろしい技量だな」

 お前の天然パッシブスキルには負けるよバーカバーカー。



【メイドのメイ寝室】


「ぐへへ、恐ろし技量を持った男入りまぁす」

 と言うわけで傷ついた心を癒す為に最後のデザートタイムです。でも悪い事はしません触りません、何故なら私は紳士だから・・・表情に説得力が無くても私は紳士だ。


「くは!? なんて眩しい寝顔! いかん、このままではただの変態に、通報される・・・俺は紳士俺は紳士―――」

 ゴフッ!? さすが天然モノホンメイド、カフェの店員とは輝きが違う。寝顔なんてマジ天使・・・は!? だめだ、ここで道を間違えばコロサレル。


「ふぅ・・・危なかった。とりあえずこの辺でいいかなっと」

 ふぅ危なかった。まさか自分を取り戻すのに小一時間必要になるとは思わなかった。とりあえずテーブルに贈り物を置いてさっさと撤退しよう。


「・・・やっぱ、カメラ欲しいよなぁ」

 くっ、なぜだ撤退するはずが扉とは逆方向に、ある意味ここに撮影機材が無くてよかった。きっとカメラの一つでもあれば俺は道を踏み外いていただろう、これは自信を持って言える。それにしてもこの世界って女性のレベルが高いよな、なんでだろう。


「うぅ・・・ん」


「(どっきーん!? 今見つかったら大変な変態になってしまう! 退避!)」

 やばい起き上がった!? 不用意に居座り過ぎたか、完全に起きちまう前に撤退だ。


「ん? ・・・んー・・・くぅ」



【セーナ寝室】


 ふぅ危なかった。しかし俺は学習できる忍者ヒゾウ、最後はエルフ美女だからって同じ失敗は繰り返さない。


「抜き足、差し足、しの「誰!」へ?」


「精霊よ蒼き水の礫となれ!【アクアバレット】!」


「あべし!?」

 ハイ失敗しましたね、でも同じ様な失敗じゃないからセーフで痛い!? マジで痛いですからぁ。


「やったかしら」


「イテテ・・・それはフラグだお! マジびっくりしたんだお!?」

 回避行動とってなかったら危なかった。ナニがって息子がエターナルスリープするとこだったお、言わせんな恥ずかしい。


「うそ、手応えあったはずなのに・・・」


「ちわーっす、ユウヒさんからの御届け物でーす。怪しくないので杖下ろしてつかぁさい」

 あの、お姉さんそうな驚愕の表情で怖い事言ってますが、もしかしなくても殺すつもりで魔法使いましたか? 違うと言って欲しいです。


「あら? あなたは確か」


「もうほんとやだー、当りと思ったら全然危険だよこっちのルート」

 俺が誰か分かっても杖を下ろさない辺りプロなんですか、きょとんとした可愛表情にドキドキしちゃうけど、杖の先端にできた水の刃がマジ怖いです。ゴエンモに選んでもらったルートの半分以上が女性だから当たりと思ったら落とし穴多すぎだろ。


「夜這い? ごめんなさいね、私子供がいるから・・・」


「マジで!?」

 あ、やっと槍、もとい杖を下ろしてくれた上に照れた姿マジ可愛い・・・え? 子供だと!? うそだろ誰だ旦那は、今なら嫉妬だけで呪えそうだお! あと娘さんいませんか。


 この後全力で子供のノロケ話と相談をされました。





 ゴエンモルート【ユウヒ果樹園中心地】


「あぁ・・・本物でござる」

 こちらゴエンモ、対象を補足したでござる。あの時HMDの画面越しに見上げたのと同じ姿が目の前に存在してたでござる。


「ん? 君誰?」


「い、一号さんでござるか?」


「そだよー」

 あの黒鉄が今、目の前で動いて目を光らせこちらに首を向けたかと思うと、声までかけてきたでござるが、妙に声が若いというかボーイソプラノって言うのか、その姿とのアンバランスさのおかげで少しだけ余裕が生まれた。それでも噛んだのは秘密でござる。


「ユウヒ殿からお手紙でござる」


「郵便屋さん?」

 普通に話ができると言うことはAIが搭載されているとう言う事なのだろうけど、拙者を見て郵便屋さんと言う発想をする辺り、声も相まって子供を相手にしている気分になるでござる。


「忍者でござる」


「汚いやつ?」


「それは訓練されてない忍者でござる。訓練された忍者は紳士でござる」

 ・・・子供? 拙者は汚れてないでござる。率先して前に出て仲間を守り少女を愛でる訓練された紳士でござる。


「警察呼ばないといけない奴だね!」


「ち、違うよ!? 僕は悪い紳士じゃないよ!?」

 ユウヒ殿!? この子めっちゃネットスラングに詳しいでござるがどう言う育て方したでござるか!? 通報ダメ、ゼッタイでござる。でもこの場合通報先はユウヒ殿なのでそれは安心、いやそのまま行くとアミール殿へ・・・やっぱりダメでござる。


「そなの?」

 巨体で首をかしげても可愛くなんて、意外と可愛いかも知れないでござる。


 この後全力で身の潔白を説明したでござる。





 ジライダルート【グロアージュ寝室】


「中から起きてる気配がビンビンするのだが・・・普通に入るか」


「ん? 誰だ」

 気が進まないが終わらせないといけないのが仕事である。正直扉の向こうに居る我に気がついているのは明白、ならば忍び込まずにノックして堂々と入ればいいのだ、我ったら賢い。


「俺だよ俺俺」

 それでもネタを盛り込んでしまうのは、どうしても避けられない我らの性質、というかこれではただの詐欺師ではないだろうか? チョイス間違えたかな。


「・・・・・・」


「いやいや!? なに無言で大剣振り上げてんの!」

 はい、間違えましたね! 気になったので忍術を使って扉の向こう、圧力を感じる気配を放つ人物の背後をとったらこれだよ。筋肉隆々の大型エルフが大剣を思いっきり上段で振りかぶってましたが、あれですかそのまま待ってったら真っ二つでしたかそうですか。


「なに!?」


「後ろがガラ空きだぜ兄弟、そんなんじゃ勇者ユウヒには手も足も出ないぜ」

 駄菓子菓子! イニシアチブは我のもの、このまま勢いに任せてユウヒからの贈り物を渡せばミッソンコンプリート。


「む? 貴様はユウヒの」

 どうやら振り向いてこちらをよく見たことで誰だかわかった様だ。と言うか今、振り向きざまに大剣振り抜いたよね? 一歩下がってなかったら側頭部に一撃だよ、ヒゾウじゃないからご褒美にならねぇよ。


「勇者ユウヒからの御届け物だ。あ、サインはここにお願いします」


「は? あ、あぁわかった」


「しまった。つい仕事の癖でサインを・・・まぁいいか」

 まぁ若干の混乱に乗じて畳み掛ければ問題ないはず、しかしこんな時にまで仕事の癖が出るとは、我の社畜ぶりが垣間見れてちょっとなえる。


「・・・」

 しかし向こうも戸惑ってる様だから結果オーライ? え? これは呆れた視線だって? アーアーキコエナーイ。


「それじゃ失礼しました」


「まて!? 居ない、だと?」

 妙な空気のままここに居ても仕方ないので颯爽と去る事にしたが、決して生温い空気感から逃げるわけではありません。


「・・・ユウヒの周りは化物揃いだな」

 化物はお前だろ筋肉お化けが! チクショー我も女子の寝室行くんだからー!



 【野外病院 兵長のテント】


「・・・」

 はい、女子の寝室探訪してきたジライダです。でもいくら我とて怪我をした女子に興奮なんて出来ませんが? え? 何をしたって? ・・・ユウヒから受け取った果物を療養中の野郎と女性の眠るベッドのサイドテーブルにおいてきましたが、そうですねお見舞いですね。


「・・・・・・」

 痛みで苦痛に歪む女性の顔を見ても萎えるだけだっつぅの、ついでに今は兵長さんの寝室に大量の回復薬や包帯などの医療物資を運び入れてます。兵長さん起きる気配もありませんが、いいのかそれでグノー兵士、まぁお疲れなんでしょうね。


「ヤバい・・・何の障害も無く終わるのは、それはそれで面白くない事に気が付いた」

 あれ? 何も起こらず普通に終わってしまったのだが、いやまぁ悪いことじゃないんだけど美味しくないぞこれ。


「・・・くそ、次はきっと」

 なんだこのルート全く楽しくないのだが。ゴエンモ怒らせすぎたかな? いやでもまだある筈だ、きっとこの先にご褒美ラッキースケベがあるはずだ。





 ジライダが不埒な事を胸に抱き、次なる配達先へと駆けて行くこと数分後、彼の顔からは表情が消えていた。


「・・・」


 場所はナルシーブが眠るテントの中、寒さを凌ぐために温かくして眠る冒険者達の中でも、ナルシーブは一際暖かな様子で眠りについている。


「イケメン リアジュウ ニクイ ワレ セイサイス」


 何故なら同じ毛布の中には、こっそり忍び込んできたらしいシュツナイ族の少女ルワが、その裸体に薄く透けた布一枚着ただけの姿で潜り込んでいたからであった。


 ユウヒに頼まれナルシーブにも届け物を持ってきたジライダであったが、その幸せそうな寝姿には血涙を流すほか無く。ジライダが懐から取り出した油性マジックで、ナルシーブの顔に『イケメン』と落書きをしたとしても、これは彼の心情的に仕方ない事であった様だ。


「くくく、良い面になったなイケメン。あばよ」


 ジライダは真っ黒な笑みを浮かべると、その視界にルワを入れないように気をつけながらテントを出ていくのであった。ただしこれは紳士的な行為ではない、ジライダ曰く、現実を直視することで溢れる血涙を流さないようにする為らしい。


「えっと、あとはヴァラさん宅か・・・それってどこよ?」


 そんなアホな事を終わらせたジライダは、同じテント郡で首を傾げている。どうやらあまりにテントが乱雑に張られている事で、次の届先がわからなくなったようだ。


「なんだい? アタシに用かい?」


 その時、手元の届け先リストを見ながらぶつぶつ呟き歩いていたジライダに、横合いの闇から声がかけられる。


「へ? うお!? デカ!」


 声をかけられジライダが振り返った先には、赤く燻った焚き火の前で丸太に座る鬼族の女性ヴァラの姿があった。その座ってもなお高く威圧感すらある身長と、思わず視線を誘導されるほど大きな身体的特徴に、ジライダは思わず驚きの声を漏らしてしまう。


「あん?」


「あ、いや他意はないんだが・・・ヴァラさんでいいでしょうか?」


 色々と驚くことが連続したジライダの言葉にヴァラは眉を上げ、その様子に怒られると思ったジライダは思わず素に戻ると、恐る恐るといった様子で彼女に声をかける。


「そうだね、アタシの名前はヴァラだが、何者だいあんた・・・相当の手練れだとはわかるけど」

 名を聞かれたヴァラはどこか訝しむ様な表情で答えると、目を細めジライダを見詰める。熟練の冒険者である彼女は、見ただけでもある程度相手の力量を測れるが、実はこの時ジライダの力量を測りきれずにいた為、彼女は表情の裏で冷や汗を掻いていた。


「勇者ユウヒからの届け物なんだが」


「こんな時間に届け物だって? ・・・ユウヒってぇと今日の昼間に会った兄ちゃんか」

 殺気は無い、覇気も無い、しかし力量はどう見積もっても自分を圧倒している。そんな相手が自分を探しているとなれば誰だって多少の緊張はするだろう、それが冒険者としての生活が長ければなおさらである。


「たぶんそれだな、えーっと・・・はいこれ、何か昼間のお礼だそうだ」

 

「お礼? そんな事・・・こいつは?」

 そんな相手がただの配達人だと言うのだから、困惑しないほうが可笑しいと言うのが彼女の言い分で、しかも依頼主は今日会ったばかりの人物。


 見た目も性格も冒険者らしからぬユウヒの姿を思い出すと、少し肩から力を抜きながら渡された木箱の中身を確認する。そこには仕切られた木箱の中、陶器の小瓶が9本収められていた。


「ん? それはユウヒ謹製の回復薬らしいが、詳しくは手紙に書いてあるからえーっと「有効に使ってくれ」だとさ、じゃなー」


「ちょいま、早いねぇ・・・ふむ、高そうだね。やっぱりお貴族様だったのかねェ?」

 言いたい事を言うだけ言って瞬く間にその姿を消したジライダに驚いたヴァラは、手元に視線を落とすと、釉薬が塗られ一目で高級であると解る掌サイズの小瓶を抓み上げ、受け取ったお礼の品とやらを夜光木の光に照らして見る。


「おいおい、この性能が本当なら回復薬じゃなくて魔法薬、下手すりゃ秘薬じゃないか」

 同時に、木箱内にあった紙切れに書かれた文字読んだ彼女は呆れと驚きの混ざった表情で声を漏らす。そこにはユウヒの文字で回復薬の説明が書かれており、その効果は今日ユウヒに教えた軍の秘薬に匹敵するような物であった。


「はぁ・・・もう少し親切にしときゃよかったかね?」

 一通り木箱の中身を確認したヴァラは、小さくため息を吐くと名前しか知らぬ謎の冒険者ユウヒを思い出し、彼がとんでもない大物であることを確信すると、もう少し恩を売っておくべきだったかと詮の無い事を考え苦笑を洩らすのであった。



 いかがでしたでしょうか?


 と言うわけでユウヒと忍者たちの暗躍? でした。こいつら何やってんでしょうかね、まったくあらやまけしから・・・ゲフゲフ、あとセーナ姉さんは次元を超えてこないで欲しいですね。


 それでは今回もこの辺で、次回もここでお会いしましょう。さようならー

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