第百三話 赤いのはそんなもの
どうもHekutoです。
只今遠出中なので、スマホからの更新です。修正不良などあるかもしれませんが、楽しんでいただけれ幸いです。
『赤いのはそんなもの』
時刻はそろそろ昼食時、一般的には昼食の準備を始めたり昼寝をして過ごしたりと、暖かい日差しの下ゆったりした一時を満喫する時間帯である。
「ジライダどうするよ・・・」
「と言われてもな・・・ゴエンモ」
「むぅ・・・ユウヒ殿と合流したいのは山々でござるがしかし」
しかしこの三人は、一般的な状況から微妙に逸脱した状況に置かれていた。その逸脱した状況とは、
「ん」
既に二日連続で続いている酒盛りと同じような光景であった。今も三人は、一切お酒を飲んでいないウパ子や、だいぶ彼等にも慣れてきたウパ族少女達により、次々酒を注がれ続けている。
「ああ、すまぬでござる。・・・これを振り切る事は出来なかったでござる」
「くやしい、それでもむが!? おまいら無理矢理のませんじゃやめむぐ! むぐぅぅ!?」
「・・・完全に遊ばれているな」
また慣れたことにより、彼女達が一番接しやすくなったのはヒゾウのようで、両手に花状態で無理矢理酒を飲まされているが、どちらかと言うと遊ばれていると言う認識が正しい。
「しかし何故この種族はこんなにも酒好きでござるか」
そんなヒゾウをスルーしながら、ウパ子から注がれたお酒をちびちび口にしているゴエンモは、もう見慣れてしまった光景である、酒を楽しそうに飲み交わし合うウパ族たちの姿に首を傾げる。
「そう言ぅてくれるな、これは昔から続く歓迎の宴なのじゃよ」
ゴエンモの疑問にジライダが無言で頷いて要ると、蟒蛇合法ロリこと、ウパ族の長老が酒瓶片手に姿を現し、ニヤニヤと楽しそうな笑みを浮かべながら彼らの前に腰を下ろす。
「うたげ? 宴会なら二日前にもしただろ・・・」
「そうでござるな、その後はなし崩し的に・・・これで三日連続の酒盛りでござる」
長老の言葉に怪訝そうな表情を浮かべるジライダとゴエンモ、どうやらここ二日ほどの宴ですっかり打ち解けたのか、彼女の前でも緊張する事は無くなった様だ。因みにヒゾウはウパ族達に圧し掛かられ、既にこの輪からはリタイアしている。
「うむ、それはじゃな、遠い昔我等ウパ族はこことは違う場所に住んでおってな、そこで火の精霊様を崇め暮らしておったのじゃ」
忍者二人の疑問の声に、長老は居住まいを正すと酒を片手に語り出す。嘗て、ウパ族がその数を減らす原因となる事件が起こるより昔、彼女達はエリエスから遠く離れた山岳地帯にその居を構えていた。
「水じゃないのでござるか」
「水棲生物だとおもっていたのだが、まてよその精霊の名前ってまさか」
「精霊様か? サラマンダー様じゃよ、今でも我らの信仰はサラマンダー様と酒の女神であるサカミ様に捧げられておる」
その地で彼女達が信仰の拠り所にしていたのが、火の大精霊であるサラマンダーと、酒の女神であるサカミと言う神である。なぜその二柱を崇める事になったかは定かではなく、サカミを崇拝しだしたのが先か酒を飲み出したのが先かは、いまでもウパ族の謎とされている。
「この括り方はものすごくサブカル臭がするでござる」
「・・・だな」
「そんなある日じゃ、精霊様が女神様と大喧嘩をしてな、集落のあった山が火に焼かれ、最後には無くなってしまったのじゃよ」
そんなウパ族を襲ったのは、精霊災害や神災と呼ばれ、各国で最低でもA級以上に指定されている災害であった。
神や精霊が多く、また実在するこの世界では大小様々な形で起きるもっとも知名度の高い災害である。実際真相を知らないだけで、今回の暴走ラット災害も神災の一つと言う事になり、大半が彼らの癇癪や失敗で起るものである。
「喧嘩で山消すとかどんだけでござる」
「この世界の精霊も神もパネェ」
まさかの情報に顔を引き攣らせるジライダとゴエンモ、もし彼らが少し前に会った二柱の神も、似た様な神災を起していると知ったらどういう反応をするのだろう。そう、その位この世界にとってはポピュラーとも言える災害なのである。
「ご先祖様達は命辛々避難したのじゃが、集落は女神様の放った酒の水柱とその水を飲み込み一層燃え上がる炎と爆発で灰も残らなかったそうじゃ」
そんな災害の一つがウパ族を襲った災害で、原因は謎とされているが複数の国や部族で語り継がれるほど大きな災害であった。空を炎が舞い踊り、大地より吹き上がった水柱が大地を削り、水柱を飲み込むように拡大した炎は大きな爆発と共に山肌を吹き飛ばしたと記されている。
「それ、アルコールが原因でござるな」
「気化したアルコールに引火して燃え上がって爆発・・・酒の度数高そうだな」
現代科学を知っていれば予想できる範疇であるが、過去の記述はまさに彼らの言った通りの現象により引き起こされたものであった。
「そこへ偶々訪れた水の精霊様が、火を消し水柱を押流し火の精霊様と女神様の怒りを鎮めてくださったのじゃが、集落はすでに跡形ものうての・・・ご先祖様は涙したそうじゃ」
そんな災害を鎮めたのは、どこからか現れた水の精霊だったらしい。突如現れた水の精霊は燃え盛る火を消し、荒ぶる水柱を押流し、そのままその災害は爪痕だけを残すと、急速にその脅威を消失させた。
後に残ったのは荒れ果てた大地とそこに住んでいた者達の亡骸と涙であった。
「そらまそうだろ」
「普通恨むでござるな」
「はっはっそんな事、精霊様や神様を恨んでも百害あって一利無しじゃて。それにその後すぐにサラマンダー様とサカミ様が現れて集落を元通りにしてくれての、さらにご先祖様達は僅かに残った集落の灰から酒の杯を創り賜ったのじゃよ」
生き残った者達も多少なり思う所があったのであろうが、そうな事を考えても意味が無い事を、この世界の人々は経験的に理解している。そんな彼らの考え方は、この世界の神や精霊の力も存在も、身近に感じることが出来るからなのかもしれない。
「「酒の杯?」」
その一つが神々や精霊達からの贈り物である。アーティファクトや神器、精霊の贈り物など様々な呼び名はあるものの、そのほとんどが人の手では作る事が不可能なオーパーツとされており、ウパ族が賜った物もその一つである。
「そうじゃ、今もその杯からは酒が湧いておる。お主達が飲んでおるのもそうじゃ、それから三日三晩宴を開き我らと精霊様と女神様は深い絆で結ばれたのじゃよ」
ウパ族を襲ったこの災害は、三日三晩山を焼き続けており、そのお詫びにとサカミとサラマンダーの二柱は、同じ三日三晩の間酒を振る舞い、死んだ者達の鎮魂と生き残った者達の慰めを行ったのであった。
この昔の出来事により、『三日三晩の宴』は大切な客人を持成すウパ族の伝統的な宴として、『サカミの杯』と共に後世まで残されてきたのである。
「それが三日連続酒盛りの理由か、とりあえず神様自重しる」
「ん? でもそれなら水の精霊は崇めてないのか」
聞く者が聞けば感動する神話の話しも、彼らにとってはそうでも無いらしく、神様に暴言を吐くジライダの隣で、ゴエンモは話に違和感を感じ首を傾げている。
「ようわからぬが、水の精霊様については詳しい事の他言を禁じられた故、表だって信仰できなかったとかでな? 口伝でも伝わっておらぬのじゃ」
「むむ、何があったか気になるな」
「うーむ、触れたら危険な気配がビンビンするでござる」
しかし、そんな彼らも伏せられた謎とや未知に対しては畏敬を感じる様で、首を傾げ思い出す様に語る長老の言葉に、難しい表情で唸るのであった。
その頃、昼間っから酒を飲み交わす忍者達の居るエリエス大森林から遠くて近い壺の中では、ユウヒ達が目的地に到着したようである。
「はぁ近くで見ると結構でかいな、うちの首都の赤いタワーよりは小さいけど」
まだ塔の足元までは少し距離があるものの、到着したと言って良い距離で塔を見上げたユウヒは、元の世界で遠くから眺めてはいたが一度も昇った事の無い電波塔の事を思い出し、その高さを比べていた。
「・・・」
「あれがピカピカの元なのね、何なのかしら?」
「太陽より眩しくないのニャ」
「ワン(月よりは明るいでありますな)」
その塔の先端には、遠くからもよく見えていた光を放つ球体がしっかりと固定されており、球体を見上げる者達に様々な感想を与えている。
シリーは呆気にとられたように高い塔を見上げ、ピクシーは見上げているユウヒの頭の上で腹ばいになりながら首を傾げ、ノイは太陽と、クラは月とその光の強さを比べた。
「明らかに人工物っぽいが・・・あぁ、当りか」
そんな中ユウヒは、ようやく右目の力が認識できる距離まで来たことを感じ、その力で見上げた光る球体を鑑定し始め、それが目的の物であることを確信する。
【ライフマネージメントコア】
限定空間内における生命の維持管理を行う装置の心臓部、現在は一部の故障により必要最低限の機能を維持している。
機能: 光源(10%) 空調(40%) 熱源(25%) 防護(25%)
「・・・(俺が何かしなくても壊れそうなコアだなぁ)」
「ねぇあれ見て!」
「ん?」
鑑定内容に対してユウヒが微妙な表情で目を向けていると、コアが近づいて来るにしたがって歩調が速くなり、いつの間にか先頭を歩いていたシーリンが大きな声を上げる。その声でコアから目を離したユウヒは、首を傾げながらシーリンの指さす方へ目を向ける。
「うにゃ! いっぱい集まってるニャ」
「ワンワン! (自分の仲間も居るであります!)」
その視線の先には、光に照らされたいくつもの人影を確認することが出来た。ユウヒには分からなかったが、その人影の中にはノイとクラの仲間も居たようで嬉しそうな声を上げる。
「・・・虫じゃないもん、光に集まってもちがうんだもん」
「はいはい違う違う、とりあえずあそこに行ってみるか」
仲間の姿に嬉しそうな声を上げる三人と対照的に、ユウヒの頭の上では影を背負ったピクシーが四つん這いで力なく肩を落とし、ボソボソとまるで呪詛の様に言葉を漏らし続けていた。そんな透き通った翅が黒く変色しそうな雰囲気のピクシーに、苦笑いを浮かべたユウヒが慰めの言葉をかけると、ピクシーは言葉無く頷くのであった。
「ほら早く!」
「もう行ってるのニャ」
ユウヒの言葉でピクシーが持ち直し始めた頃には、シーリンは走り出し始めており、今までどこか冷静で澄ました雰囲気のあった少女は、ノイやクラと変わらない感情をその表情いっぱいに浮かべていた。
「元気だなぁ」
走り出したシーリンを追いかけるように歩調を速めだすノイとクラ達の様子に、ユウヒはそう呟き小さな溜め息を漏らすと、ピクシーが落ちない程度に少しだけ歩く歩調を速めるのであった。
それから数分後、コアを支える大きな塔の足元に集まる人々の下に、シーリンはたどり着いていた。
「父さん!」
どうやら彼女はその集団の中に自らの父の姿を確認したようで、一際力強く地面をけると、大きな声を上げながら集団に駆けはじめる。
「ん? シーリン? なぜここに!?」
そんなシーリンの声に気が付いた赤い髪に赤い民族衣装を着た男性エルフは、振り返るとその視界に走ってくる少女の姿を捉えた。男性は最初こそ突然娘の声が聞えたことで呆けていたものの、すぐに事態を認識すると驚いた表情を浮かべ、様々な感情が混ざった声を上げる。
「父さん!」
「おっとと、どうしてお前がここに? 母さんは、里の皆は無事なのか?」
驚きで動けない父に向かって、シーリンは走って来た勢いそのままに飛び込み抱き着く。お腹の辺りでシーリンを受け止めた男性エルフは、娘を優しく抱き留めると、柔らかな口調で娘に問い掛け始める。
「探しに来たの・・・皆帰、って来ないから、心配で・・・里は、いつも通りよ」
「・・・ここは叱った方がいいのだろうが、心配かけたな」
本来ならここに自分の娘が現れることなど無いと思っていた、いや考えもしなかった事態に様々な憶測が彼の中に生まれ、周りで同じ赤い髪が特徴的なエルフ達が見守る中、嗚咽を我慢しながら途切れ途切れに話す娘を叱る事も出来ず、優しく抱きしめるのだった。
「うぅ・・・」
「二着ニャ!」
抱きしめられたシーリンが漏らす小さな嗚咽に、アットホームな空気が流れ始める赤いエルフ達、しかしそんな空気もノイの明るい声により霧散する。
「ワンワン! (三着でも悔しくないであります!)」
一部のエルフは、走り込んできたノイの姿にできょとんとした表情を浮かべていたが、続くクラの出現と言葉で何となく状況を察し始める。
「競争だったのかよ」
「もう! ユウヒが遅いから負けたじゃない!」
大方シーリンと行動を共にしてここまでたどり着いたのであろうと言う認識で、暖かい表情を浮かべていたのだが、その空気は暗闇の奥からユウヒが現れたことで一変した。
「だったらいいかげん頭から降りればいいだろうに・・・」
「やよ」
ユウヒが頭の上のピクシーと言い合いをしながら集団に近づき始めると、その刺々しい空気は顕著に表れ始め、
「あの、ユウ「貴様何者だ」え?」
目が赤くなったシーリンとユウヒの目が合った瞬間、最高潮に達する。追いついて来たユウヒにシーリンが赤い顔で話しかけようとした瞬間、シーリンは父に手を強く引かれると背に守られる様にしてユウヒの視界から遮られた。
「えーっと、このパターン知ってるぞ、あれだろ? 名を尋ねるなら先ずは自分からとか言えばいいんだろ?」
ここでユウヒについて一つ語らねばならないことがある。
元々ユウヒのコミュニケーション能力は、温和な相手に対しては特に問題無いのだが、高圧的な相手と話すときは一気に緊張してしまうと言う性質がある。最近では仕事の関係もあり改善はしているものの、それは緊張を抑え込んでいるだけで緊張自体はしているのである。
さらに知り合いから軽度コミュ障と言われ、様々な改善策や緊急時語録を伝授されたユウヒなのだが、伝授した人間達が悪かったのか、度々言葉のチョイスを間違うトラブルを起こしている。
「何だと? 人族風情が、ここに居ると言う事はあの壺があった場所に居たと言う事だ。あの辺りは国外の者が勝手に侵入して良い場所では無いのだぞ!」
この世界に来てから、ユウヒが緊張するような対話相手が居なかった為、今まで何事も無く過ごせて来ていたのだが、どうやらここに来てそのトラブルが起きてしまった様である。またこの時【狩人の心得】は何故か反応することは無いのであった。
「そうなのか?」
突然の事で緊張していたユウヒも、波が過ぎ去ると次第に落ち着き始め、赤いエルフ達が一定の距離を保ちながら警戒する中、散策許可を得た時にそんな注意をされていない事でユウヒは不思議そうな表情を浮かべ、同行者達に問い掛ける。
「知らないわよ」
ユウヒの問い掛けは、頭の上で不機嫌そうな表情を浮かべるピクシーに知らないと即答され、
「わふん(自分も分からないであります)」
「うにゃ?」
今度は足元のクラに視線を向けるもやはり知らないらしく、首を横に振りながら申し訳なさそうな声が返って来て、ノイに至っては考える事すら放棄したような表情であった。
『・・・・・・』
「えっと・・・あのね「シーリンは下がって居なさい」父さん?」
答えを出せる同行者がいないことに四人は見詰め合うと、最後の頼みであるシーリンを見詰め始める。ユウヒ達から注がれる困ったような視線に気が付いたシーリンは、何とも言えない苦笑いを浮かべると前に出て説明しようとしたのだが、その動きも直ぐに遮られてしまう。
「何者か知らぬがそのような勝ってが許されると思うな!」
「むむ、一応エルフ側からの依頼で許可されてるからここに居るんだけどなぁ」
シーリンの言葉を遮りユウヒの前に出るシーリンの父、周りの赤いエルフ達もその動きに合わせるようにユウヒを半包囲し始める。その動きにユウヒは頭を掻きながらそう説明するのだが、
「戯言を」
その言葉は短く切って捨てられ、さらに武器を構えると言う態度で返答されるのであった。
「・・・なんでエルフってこう、対話が嫌いなの?」
「ワン(赤の氏族ならこんなものであります)」
少し前にもエルフとの間に似たような空気を生じさせているユウヒは、この世界のエルフに対す認識を益々好戦的と言う方向に修正する。ユウヒの隣では姿勢を低くして威嚇体勢をとっているクラが、どこか呆れた様な口調でそう呟く。
「まぁユウヒも挑戦的だったけどねぇ・・・あ! 私は嫌いじゃないわよそう言うの」
「なるほど、言葉のチョイスを間違ったのかぁ」
「ニャニャ!? 赤いエルフが十より多いのニャ!」
ピクシーの言葉でようやく言葉の選択ミスに気が付いたユウヒは、しまったなぁと言った表情を浮かべると周囲を窺う。ユウヒの見た周囲の状況は、ジリジリと赤いエルフ達がその距離を縮めて来ている。その状況に、最悪両脇に居る二匹を抱えて逃走するしかないかとユウヒは苦笑いを浮かべた。
「父さんやめて! ユウヒは悪い人じゃないんだから!」
「人間など大抵が屑だ。よって問題無い!」
「これは酷い偏見、緑の氏族もそうだったけどちょっと短気すぎね?」
ピンチな時ほど余計に冷静さが増すらしい【狩人の心得】の影響も有り、心に余裕が生まれ始めたユウヒは、赤いエルフの言い草に思わずツッコミを入れてしまう。
「ワンワン! (自分は隊長殿に助太刀であります!)」
「フシャー!」
「ヤルってんならやってやるわよ!」
ユウヒとの距離が縮まりエルフ達の気配がいよいよ剣呑になって来ると、流石獣人なのか野生の本能をその体から溢れさせ、ユウヒの隣で戦闘態勢に入るクラとノイ。さらにユウヒの頭から飛び上がり淡く発光しながら気合に満ちた声を上げるピクシー。
「こっちにも短気なのいたよ!? 落ち着いて話し合おうよ!」
そんな思いがけない三人の反応に、ユウヒは驚いた様に声を上げると、ノイの襟元とクラのサッシュを掴み落ち着くように促す。
元々血の気が多く、エルフの中でも粗暴な者の多い赤の氏族、その大半が脳筋と呼ばれるそれであるからか、彼らは致命的な事に気が付いていないようだ。それは彼等のやり取りを遠巻きから窺っている多数の種族、彼ら同様壺に引きずり込まれた中の三種族ほどが、いつでも動ける体勢になっている事に。
「聞く耳持たん! かかれ!」
「ああもうめんどくせー! コミュ障には荷が重いわ!」
そして一斉に動き出したエルフからノイとクラを連れて逃げようと考えているユウヒの周りで、高濃度の魔力が膨れ上がっている事実にである。
「軽く痛めつけてから尋問し!? ・・・っ」
最初に動いたのはシーリンの父、しかしその動きは腰のロングソード抜き放った姿勢のまま、動くことが出来なくなる。
「お父様に・・・何をするですって?」
その理由は、冷たい冷気を放つ槍の穂先がその喉元に突きつけられていたからだ。一瞬の事であったが、辛うじてその槍が喉に突き刺さる寸前で動きを止めたシーリンの父が見た光景は、口元にだけ冷笑を浮かべた人とは思えない様な冷たい美しさを纏った女性の、鋭い眼差しであった。
「ぐあっ!?」「ぬふぁ!?」「へぶっ!」
動きを止められていたのはシーリンの父親だけでは無く、同じように先行して動き出していた二人の男性エルフ達も同じ状況であったようで、彼らは皆同じように喉元から槍の穂先が消えると同時に、腹部を強かに蹴りあげられ大きく後退する。
「ちょ!?」
そんな一連の攻防はユウヒの目の前で一瞬のうちに行われ、彼女達スニールコンパニオンは槍と盾を構えると、ユウヒを守る様にエルフ達の前に立ちはだかる。そう、膨れ上がっていた魔力とは、彼女達がまたぞろ勝手に出て来る前兆だったのである。
「フフフ・・・マスターご安心を、すぐに片付けます」
「片付けるってちょいまてい!?」
「なんニャ!? どっからでてきたニャ?」
いつもながらいきなり現れる彼女達、さらに不穏なセリフ付きとなればユウヒも慌てざるを得ない。そんなユウヒの声に正気を取り戻したノイは、突然現れて赤いエルフを一蹴りにしたスニールコンパニオンズに驚き、どうしたらいいのか分からずきょろきょろと周囲を窺い始める。
「まさか、精霊だと!? 貴様外道術士か!」
スニールコンパニオンは精霊達でも良く見ないと解らないほど、精霊に近い存在である。それは当然、頭に血の上ったエルフに判別することなど出来る分けも無く、また捻じ曲がった思考心理により、すぐにユウヒの事を禁術を使う外道魔術士だと断定する。
「誰が外道だよ! まだ道踏み外しとらんわ! 「氷漬けに」しません!」
「マスター、ねじ切ってしまいましょ「だめ!」ぅ」
そんな大声を聞けば、先ほどから娘達と穏便に事を進める交渉をしているユウヒもだまっては要られない。娘達から「氷漬け」や「なます切り」など不穏な提案が上がり、さらに「すり潰す」や「ねじ切る」などの提案を却下し続けるユウヒのストレスはそろそろ限界の様であった。
「おのれ外道め、精霊様を洗脳するとは万死に値する! その醜悪な面共々矯正してくれる!」
そんな所に理不尽な暴言がかかればどうなるか、過剰なストレスとは様々な蓋の鍵を緩める作用がある。如何に温和な人間でもその状態が続けば当然、
「・・・・・・うん、もうとりあえず頭冷やそうか? 話はそれからでいいよね? 話したいとは思わないけど、あと答えは聞いてないから。それだけ侮辱してなにもされないとか、おもってないよね? 【飛翔】」
怒りもすれば、切れもする。怒りを押し込めるかの様に笑みを浮かべたユウヒは、口早にそう述べると、飛翔のキーワードを口にしながらノイとクラに近づく。その笑顔から漏れる迫力にはノイとクラも、ポカンとした表情を浮かべユウヒを見上げている。
「うにゃ!?」
「わふ!?」
そんなノイとクラを左腕で纏めて小脇に抱え上げたユウヒは、背中の槍袋から槍を引き抜くと軽く一振りし、氷の乙女たちと共にふわりと飛び上がる。
「死にはしないよ、拘束系統の魔法だからね・・・【範囲指定】愚かな民よ、今一時荒き心澄める縛に付け【縛れる結氷大地】」
飛び上がったユウヒに驚きの視線を向けるエルフ達、しかしユウヒが言葉を発した後、彼らを強烈な魔法が襲う。
ユウヒが言ったように致死性の魔法ではないが、短い呪文でしかも一瞬で発動したその魔法は、ユウヒの視界に入っていた全ての赤いエルフ達の体の半分以上を氷漬けにし、その体を大地に縛ったのであった。
【縛れる氷結大地】とは、ユウヒがクロモリオンライン内で愛用してきた拘束系統の魔法である。基本ソロ行動の多いユウヒにとって、戦闘を安全に進めるためには必需と言って良い魔法で、一切のダメージが入らない代わりに広範囲、かつその拘束能力が高く、対人戦で嫌がられる魔法トップ5に入る様な魔法だ。
「フフ良い様です」
「はぁ・・・おまいらも帰りなさい。心配してくれるのは嬉しいが、女の子なんだからもう少し御淑やかにな」
そんな魔法で氷漬けになっているエルフ達を、ユウヒの娘達はその名に恥じぬ笑みで見下ろし楽しそうな声を漏らしている。その姿にユウヒは溜息と共に肩を落とすと、若干なげやりな口調で帰りを促す。
「・・・善処します」
「・・・ふぅ、親に似るとは言うが誰に似たんだ?」
ユウヒの言葉に今一つ釈然としない表情を浮かべていた氷の乙女たちは、小さく頷きそう漏らすと、スッと空気に溶けるようにして姿を消して行く。消えていく寸前ニッコリと言った感じの笑みを残した彼女達に、ユウヒは彼女達の親になる人物たちを思い浮かべ、首を傾げるほかないのであった。
「わふぅ(た、たかいでありますぅ)」
「ユウヒは精霊魔法士様ニャ?」
そんな色々な意味で危険だったものの排除に成功したユウヒは、安定しない【飛翔】の魔法を使い慎重に地面へと降下していく。小脇に抱えるクラは高い所が苦手なのか尻尾を丸めているが、ノイはそんな事よりもユウヒが精霊を従えていた事に興味があるらしく、目を輝かせてユウヒを見上げるように見詰め聞いてくる。
「ん? さぁなんだろなっと・・・だいじょぶか?」
期待に満ちたノイに首を傾げて誤魔化したユウヒは、着地と共に抱えていた二人を解放する。地面に下ろされたノイは猫のように音を立てずに着地し、クラは緊張していたせいかバランスを崩しお尻から落ちたようで、声にならない声を上げてノイに介抱されるのだった。
「ユウヒ! 父さんをどうして!」
「大丈夫だ、死ぬような魔法じゃないから」
ノイとクラの様子に苦笑いを浮かべつつ、今のうちに塔へ登ろうと踏み出したユウヒに、シーリンからの責める様な声がかかる。ユウヒの【範囲指定】の妄想魔法は、赤いエルフの集団からシーリンを除くためであった様で、振り向いたユウヒの視線の先に居るシーリンには、一切魔法の効果は及んでいない様である。
「この卑怯者が! この程度の魔法など! くそ、何故割れない!?」
「ほらね?」
「でも・・・」
ユウヒの説明に父親へと目を向けたシーリンには、氷漬けにされたとは思えないほど元気なエルフ達が、氷から抜け出そうと元気にもがいている姿が見て取れた。中には既に諦めた様な者もおり、そんな姿がシーリンに安心と拭いきれない不安を与えるのであった。
「俺も怪我したくないし、鬼の・・・赤エルフの居ぬ間にさっさとあれを破壊しないとな」
「あれって、あの光る球体?」
ユウヒがシーリンに説明をしている後ろでは、遠巻きから様子を窺っていた者達が動き出し始めた。最初に動いたのはピクシーの仲間達、ユウヒが飛ぶと同時に安全な場所に避難していたピクシーは仲間達と再会の抱擁を交わしている。
次に動き出したのがクラの仲間であるコボルド族と、ノイと一緒に森に入ったウェアキャットと思われる獣人たちで、お尻を押えるクラはコボルドの集団に抱きしめられ、ノイは嬉しそうに燥いでいる。
「・・・そそ、あれがこの壺のコアなんだよ」
「コア? 光の魔石か何か? 壊すとどうなるの?」
ユウヒはチラリと横目で獣人たちの様子を窺うと、ホッとしたような笑みを浮かべシーリンに説明の続きを始める。しかしコアと言われても、シーリンには巨大な光の魔石のようにしか見えず、何が起こるのか想像もつかない
「壺から全員強制退場で外に出れるらしい」
「ねぇ、何でユウヒはそんな事まで知ってるの?」
ユウヒも詳しくは知らない為、簡単に説明したのだが、シーリンはそれを適当にはぐらかされたと思ったのか、きゅっと眉をしかめると真剣な表情でユウヒを、その青い瞳で見つめるのだった。
ユウヒはこれ以上は話せない事にも触れそうだったので、曖昧な笑みで誤魔化すと、シーリンをおいて塔へと走り出す。そんなユウヒの行動に何となくだが話せないと言う事を察したシーリンは、つまらなさそうに頬を膨らませたかと思うと小さく微笑み、抜け出そうと必死にもがいている父の下へとゆっくり歩を進めるのであった。
壺の中でそんなやり取りがあった時間より少し時は戻り、忍者達がウパ族の族長から昔話を聞いている頃、ここは精霊の寝床。
「・・・ずず」
「ふぅ・・・ずず」
そこではモミジとミズナの二人が、暖かなお茶の前でゆっくりとした時を刻んでいた。しかしそれは表面上の事であり、目を閉じたミズナは視覚情報を同調させた水の小精霊達に森を見て周らせる事で森の状況を探り、モミジはエリエスの森全体と同調することで森に響く全ての音を聞いていた。
「ところでミズナ、聞こうと思ってたんだけど」
そんな中、今まで虚空を見詰めていたモミジの肩がピクリと小さく動く、何気ない動きであったが、ミズナがもしその仕草を見ていれば訝しげな眼を向けたであろう。視界の同調により気が付かなかったミズナの様子に、モミジは何事も無かったように落ち着いた様子でお茶を一口飲み唇を湿らせると、目の前の親友に声をかける。
「何?」
モミジからの問い掛けにも視界の同調は解かず、口と耳だけで応対するミズナは、首を傾げると目を閉じたまま顔をモミジの声のする方に向ける。
「あなた、サラマンダーとサカミに何したの? 昔コルト山の方でなんかやったんでしょ?」
「・・・・・・なんで、あんたがその事知ってるの?」
しかしモミジの口からとある事柄についての質問が飛び出ると、即座に同調していた視界情報を解除し大きくその目を見開いた。モミジを見詰めるミズナは、わなわなと震えるくちびるに力を籠めると、信じられない物でも見るかのような表情でゆっくりと言葉を紡ぐ、何故その事を知っているのかと・・・。
「・・・二人から少し聞いただけ」
「・・・うそね。あなた、かまかけたわね」
そんなミズナの問い掛けに対して、わざとらしいほど余裕を持った表情で答えるモミジ。しかしその時モミジの視線はミズナの視線から逃げるように小さく右上に向けられ、その仕草に目を細めたミズナは、モミジの発言を嘘だと断じ、モミジが行った行動を言い当てる。
「正解」
相手の行動からその心理を読み解くのは、水の精霊であるミズナの得意分野である。その為ミズナの前ではあまり嘘を付けないモミジは、バレたと分かった瞬間から開き直ったようにモミジの目を見詰めて、自信ありげに返答する。
「・・・」
対するミズナの額には怒りの為か血管が浮いて見えており、一向に何があったのか話そうとはしない。
「なに、そんなに言いづらい事? 代わりにユウヒに聞いても「まったまった! 言うから」ら」
一向に口を開かないミズナの姿に焦れたモミジは、最終兵器であるユウヒのカードを早々に切ってくる。そのカードには流石のミズナも口を閉ざすことが出来ず、慌てた様にストップをかけ負けを認めた。
「はぁ・・・言っとくけど秘密よ? ばらしたら森から水を抜くからね?」
「・・・で?」
傍目からは分からない程度に期待を目に籠らせるモミジ、そんな親友の姿に溜め息を吐いたミズナは、身を縮めながら恥ずかしそうに小さく話し始める。しかし彼女の目に宿る光は本気であり、モミジはその約束は絶対に守ろうと心の中で誓う。
それもそうだろう、何せ水が無ければ森は必ず枯れるし、ミズナの様な強い力を持つ精霊が本気を出せば、待っているのは砂漠になる森の姿である。
「・・・はぁ、昔イライラしてた時にあのバカ二人がどっちの方が強いのかって、コルト山を焼き尽くすぐらいの大喧嘩始めるもんだから、ちょっと説教しただけよ・・・競い合うならもっと穏便な方法でやりなさいって」
そんな力を持つミズナは、嫌そうな顔で小さく溜め息を吐くと一息に何があったか説明し始める。その内容は大分簡略化されているが、確実にウパ族の伝承に残る出来事の仲裁をしたと言う水の精霊の話と一致する。
「ちょっと?」
「ぅ・・・まぁ、結構荒れたかなぁ?」
最後の部分が尻すぼみになった事に、モミジはじっとミズナの目を見詰めながら首を傾げる。その疑惑が多分に含まれた視線に言葉を詰まらせたミズナは、視線を左上へと彷徨わせると、そのまま下へ視線を落しながら小さな声でそう呟く。
「この間の妹達に仕出かした大渦の何倍?」
しかしモミジの追及は止まない、攻めるのは今だと言わんばかりに聞きだし始める。この二人の仲ではよくみられる光景で、よく小精霊達からは温い視線で見守られていたりするが、幸いな事にまだ二人には気づかれていない。
「・・・・・・倍くらい」
「大きな声で」
「10倍くらいよ! ちゃんと結界張って周りに被害は出さなかったわよ!」
そんな追求はクライマックスに到達したようで、いつも通りの流れなのか最後はミズナが大きな声を上げて白状するのだった。
しかし、水の小精霊が同じ属性である水の力であれだけの怪我をし、複数の姉妹達が一時再起不能になるほどの折檻、その十倍である。
「・・・むしろ密閉空間で物理的説教とか、ミズナってドSね」
「ち、ちがうわよ! ちょっとイライラしてただけでいつもは違うの!」
珍しくモミジが本気で表情を引き攣らせる辺りから、その説教と言う名の下に行われた行為が、如何に恐ろしいものなのか良く分かるのであった。
尚、この出来事は一柱の大精霊と、一柱の女神の心に大きなトラウマとして刻まれた事は、余談である。
「更年期?」
「!!???!?!」
そしてまた一人、いや一柱の精霊が小さなトラウマを刻まれる事になるのであった。
「あ、やば・・・弄りすぎ―――」
その日、とある森の一角で大規模な水柱が上がると言う異変が発生した。周囲の村人たちは精霊様の怒りだと震え上がり、領主たちは一連の対応に奔走させられるのだが、それはまた別の話しである。
いかがでしたでしょうか?
はじめてスマホで更新作業をしたので、色々と不安要素満載なのですが・・・。ちゃんと執筆できる環境に戻り次第全力を出さないと次が・・・。
そんなわけで今回もこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー




