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ワールズダスト  作者: Hekuto


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102/155

第百一話 エルフと森のワンコ?

 どうもHekutoです。


 修正作業完了しましたので、どうぞお楽しみください。



『エルフと森のワンコ?』


 薄暗い荒野を少女が一人、息を切らしながら走っていた。その肌には大量の汗を掻き、肩口で切られた真っ赤な髪を肌に貼付ける姿は、明らかにオーバーペースである。しかし彼女は止まらない、なぜなら・・・。


「逃げ切ったと、思ったのに、なんでまた、追いかけて・・・来るのよー!」


「ワゥゥ・・・ワンワンワン!」

 現在進行形で中型犬ほどの大きさの犬に追いかけられているからである。しかしまだ叫ぶだけの気力があるのか、それとも気力を振り絞る為か大きな声を上げる。その声に反応するように、彼女を追いかける中型犬も大きな声で咆え始める。


「うるっさい! し○! ○○○が! ○○で○○の○○○○ー!」


「ワ、ワゥ!? ワンワンワンワン!!」

 後ろから咆えられた少女はその長く特徴的な耳をピクリと動かすと、怒りの籠った叫び声を上げる。どうやらまだまだ元気はあるようであるが、如何せんその口から飛び出た言葉の質が悪かった様で、追いかける犬は戸惑ったような鳴き声を上げた後、すぐに大きくかつ怒りの籠った咆哮を上げる。


「いやぁー! 怒ってるぅ!?」

 その咆哮が何を言っているか分からずとも感情だけは伝わったようで、赤髪のエルフ少女は半泣きになりながら走る速度上げるのであった。



 そこから少し離れた丘の上では、


「・・・なんぞあれ」

 ユウヒが一連の光景を目にし、どこか呆れた様な声を漏らしていた。


「うにゃー・・・凄い汚い言葉なのにゃ、おっかないのニャ」

 その隣では、少女の叫んだ内容が聞えたのであろうノイが、どんな言葉を聞いてしまったのか、若干の怯えが混じった声を漏らし耳をペタリと伏せている。


「そうなのか? ・・・ふむ、女の子はあまり汚い言葉を使わない方が良いな」

 隣に居るノイの様子に、叫び声の内容を聞き取れなかったユウヒは首を傾げ、未だ犬から逃げて走り続けるエルフの少女と思われる人物に目を向けると、そうごちる。


「そうなのかニャ? ノイも気を付けるのニャ」


 そんなユウヒの独り言に、ノイはユウヒを見上げるように見詰めると、何か納得した様に頷き機嫌よくそう言葉にするのだった。


「・・・んん?」





 ユウヒが、ノイの性別を勘違いしていたことに、気が付けたのか怪しい雰囲気で首を傾げている頃、ここはアルディスに用意された執務室。


「・・・」


「現在、兵の収容は3割まで完了しましたが・・・どうしたのですか?」

 そこではバルカスからアルディスに様々な報告がなされてるのだが、どうやらこちらは話を聞いているのか怪しい雰囲気である。何故なら、アルディスの視線は机の上の羊皮紙やバルカスの方ではなく、そろそろ暗くなり始める窓の外に向けられているからだ。


「あ、ごめん聞いてなかったかも」


「ふむ、お疲れの様であれば休憩にしますか」

 バルカスの問い掛けに気が付いたアルディスは、はっとした様に顔をバルカスに向けると、どこか気の抜けた様な声で謝罪する。謝罪を受けたバルカスは、アルディスの様子に疲れた雰囲気を感じたようで、報告書の羊皮紙を丸めると机の上を片付け始めた。


「・・・バルカス、なんだか最近優しくなったよね? なにかあった?」

 その様子をどこか訝しげに見つめたアルディスは、小首を傾げながら最近優しくなったらしいバルカスを見上げ、不思議そうに問い掛ける。


「・・・ほう、でしたら追加ではこちらの資料を」

 すると、ピタリと動きを止めたバルカスの口からいつもより1オクターブほど低い声が漏れ出し、徐に足下から持ち上げられた羊皮紙の束によって、アルディスの机を埋めるだった。


「わわ、うそうそ!」


「冗談です。それで何かありましたか?」

 最初の量の5倍ほどの羊皮紙に隠れてしまうアルディスが慌てた様に声を上げると、バルカスはいつもの仏頂面とも言える表情で羊皮紙を元に戻すと、今度は少し気遣い気に問い掛けた。


「特には、と言うと嘘かな? ユウヒはだいじょうぶかなぁと・・・」


「ユウヒ殿ですか、あれだけの実力があれば早々危険に晒されは、しないと言いたい所ですが・・・」

 どうやらアルディスは未だ帰らぬユウヒの事が気になっていたようで、その言葉にバルカスも暗くなってきた森の空を見上げながら難しい表情をつくる。


「そろそろ日も落ちちゃうだろうし、戻らないって事は森で一夜を過ごすのかな」


「それは、危険ですな・・・うーむ」

 一般的に慣れない森、ましてやエリエス大森林の様な特殊な場所で、夜通し探索行為をする冒険者は少なく、アルディス達の心配も当然と言えた。


「でも、ユウヒなら平気でそのくらいしそうな気も、するんだよね」


「・・・否定の言葉は見つかりませんな」

 じーっと暮れていく空を見ていたアルディスは、ぽつりと静かに語り出すと微妙に困ったような笑みでバルカスを見上げる。アルディスが漏らしたその言葉に、バルカスは一瞬否定しようか考えたようだが、脳裏を飄々としたユウヒの姿が通り過ぎると、その為の言葉が思い浮かばなくなるのだった。


「一人は慣れてるって言っていたし、何か用意があるのかな?」


「一人での冒険を安全にする物とかですか、それは軍にも欲しい所ですね」

 昨日アルディスに様々な質問をされたユウヒは、答えられない部分を濁す為と心配するアルディスを安心させる為に、いつも一人旅だから一人は慣れていると答えていたのである。


 一人での行動など許されないアルディスにとっては、一人っきりの冒険など未知の世界であった。若干の羨望が表情に出ているアルディスの言葉に考え込むバルカスは、野営の為のコツや道具などを思い浮かべたのか、そんな言葉が漏れ出て来る。


「一人・・・寂しくないのかな」


「一人ですか、どうでしょうな?」

 それからしばらく、メイが休憩の為のお茶を持って来るまでの間、二人はユウヒの一人旅について想像を膨らませ話し合ったのであった。





 一方、アルディス達がユウヒの一人ボッチ旅想像談義をしている頃、ゲームの世界でもリアルな世界でも一人ボッチ旅が板につきつつあるユウヒはと言うと、


「へっくしょん! ・・・さて、とりあえず捕獲してみたが、犬?」


「きゅーん」

 噂話によるアレルギー症状なのか横を向いて大きなクシャミをすると、訝しげな表情を浮かべつつ、両手で小さな子供ほどある大きさの犬を抱え、捕まえた犬? の違和感に首を傾げていた。


 口の悪い赤髪エルフ少女を丘の上から確認したユウヒは、ノイと共にその後を追いかける事数、無事エルフ少女を追いかけていた犬を捕まえる事に成功し、エルフ少女を強制ランニングから解放する事に成功していた。


「はぁっはぁっ! ・・・・っふぅはぁ」


「大丈夫かニャ? 何か飲み物飲んだ方が良いのニャ」

 ユウヒに両脇を抱えられ何とも情けない声を上げる犬の前で、ノイはエルフ少女に心配そうな声をかけている。


「はぁはぁ・・・飲みたい、けど! ・・・無くしたのよ! はぁはぁ」


「うにゃ、こまったのニャ」

 ノイに声をかけられて返事をしたいのであろうエルフ少女は、まだ呼吸の乱れを制御しきれないようであるが、ノイにはしっかりと伝わったようでエルフ少女の前で困ったように耳を垂れさせる。ついでにユウヒに抱えられた犬も力なく耳を垂れさせている。


「水か? じゃ用意「わんわん!」ん?」

 少女二人の会話に、ユウヒは魔法で水を出そうと提案したかったのだが、その言葉は抱えていた犬の元気な鳴き声により遮られてしまう。


「うるさい! この駄犬!」


「わ、わふぅん」


「【意思疎通】・・・で、何か伝えたいのかワンコ」

 エルフ少女の言葉に対する犬の反応と、耳や首などに装飾品を付けているその姿から何かしらの違和感を持ったユウヒは、エルフ少女に罵られてショックを受けたような悲しい鳴き声を漏らす犬に、【意思疎通】の魔法で対話を試みてみるようだ。


「ワン! ワンワン! (ワンコではないであります! 自分はコボルド族の戦士であります!)」


「ほうコボルドか、どっかで聞いたことある種族だな」

 その試みは成功したようで、犬・・・もといコボルド族の鳴き声と共に意志と言葉が伝わってくる。

 

 コボルド族とは、温帯から寒帯地域に広く生息する犬系亜人の一種である。主に森や山間部などに住み狩猟などを行い生計を立てるが、その狩猟の腕を使い冒険者になるものも少なくは無い。


「コボルド族はエリエスに結構住んでるニャ、小さい時は普通の犬と大して変わらないニャ」


 また子供のころは普通の犬と見分けることが難しく、大人になるにしたがって骨格が二足歩行に適したものへと変わってくる。また犬と間違われる事を極端に嫌がるタイプが多いようだ。


「ワン! (犬言うなであります!)」

 そんなコボルド達は、5年ほどで青年となり二足歩行を覚え、大人達と共に森へと狩りに出るようになるのだが、大人になっても二足歩行より四足歩行の方が早い為、大人になっても大型犬と間違われる事が多い。その為、彼らは間違われないためにと小さいころから何かしらの装飾品を身に着け、成人の儀式ではちゃんとした服を贈られるが、基本服を必要としない体質の為、年間を通して薄着なのは余談である。


「まぁ犬云々は良いとして、お前はなんでそこの子を追っかけてたんだ? コボルドはエルフ少女が好物とか?」


「ひぃ!?」

 このコボルドはその背格好から青年ほどの年齢の様で、ユウヒの質問に耳を傾ける仕草からは若干の幼さも窺えるが、エルフの少女にとってはそれでも脅威の様だ。今もユウヒの問い掛けにユウヒとエルフ少女を見比べるコボルドに、エルフ少女は怯えた様な声を上げノイの後ろに隠れだす。


「ワンワンワン! (食べないであります! 自分は果物の方が良いであります!)」


「エルフ少女果物に負けるっと、それじゃなんで追いかけてたんだよ」

 しかし当のコボルドは果物の方が好きらしく、ユウヒの質問に答えるコボルドの尻尾は果物の事でも思い出しているのか嬉しそうに揺れている。そんなコボルドが何故エルフ少女を追いかけ続けたかと言うと、


「わふ(落し物を届ける為であります)」


「落し物?」


「水筒ニャ」


「あ! それ私の水筒・・・もしかして」


「わふ。・・・くぅ~ん(届けにきたであります。・・・とりあえず人間殿、そろそろ下ろして欲しいのであります)」

 エルフ少女が落したものであるらしい水筒を届ける為であった。良く見れば彼は簡素な腰巻サッシュや首輪などと一緒に、肩から竹製と思われる水筒を一つ下げている。


「ほいよ、御届け物だそうだぞエルフ少女」


「シーリンよ、そう呼んで・・・それとあ、ありがとう」


「わんわん!(御届け物完了であります!)」

 まだ若干の警戒心が残っている様子のエルフ少女シーリンは、ユウヒにより目の前に下ろされたコボルドに一歩下りながらも、気丈に名前を告げると、コボルドから水筒を受け取る。色々な感情が巡っているのであろうシーリンが赤い顔で礼を言うと、コボルドは満足げに背筋を伸ばし、満足気に尻尾を振るのであった。


「・・・わふぅん? ワンワン? (・・・ところでここは何処であります? もしかしてまだ夜でありますか?)」


「ここは不帰の壺と言う危険物の中だ。脱出にはもう少し時間がいるな」

 目的達成に喜んでいたコボルドであったが、周りを気にする余裕が生まれた為か急に周りを見まわし始め首を傾げる。彼らの会話内容から既に数日この壺の中で過ごしている筈なのだが、コボルドはようやくその異常に気が付いたようで、言葉は上手く伝わらないものの何となく言っていることが理解できたらしいシーリンとノイは、呆れた様な視線を送っている。


「・・・かえらずの壺? もしかしてあの黒い手が出てきた古壺の中なの?」


「うにゃ! きっとそれニャ、ノイが躓いたのも古い壺だったニャ」


「わふわん!? (追いかけるのに必死で分からなかったであります!?)」

 コボルドの事を呆れた様に見詰めていたエルフ少女だったが、ユウヒの説明に顔を上げると、ユウヒを見ながら問い掛ける。その問い掛けにユウヒより早く反応したノイが元気よく答えると、隣のコボルドは両目を見開き驚いた様に口を開けるのだった。


「・・・まぁそう言う事だな、ちょいと出るのに時間は必要だが出られるから安心していいぞ?」

 そんな三人の様子に、ユウヒは学園都市の中等部生達を思い出して思わず微笑むと、自然と説明する語気も柔らかくなる。


「それは本当なの? 失礼かもしれないけど、人族の言葉は信用できないわ」


「本当にすごい失礼なエルフなのにゃ」


「わんわん(赤の氏族はこんなものであります)」

 しかしユウヒの笑顔もシーリンには効果が微妙だった様で、険しい表情と刺のある言葉をユウヒに向けた。どうやらこれが赤の氏族と呼ばれるエルフ氏族の性質らしく、コボルドの言葉にもどこか呆れが含まれている。


「赤の氏族? ふむ、一応緑の氏族長からの依頼と言う事になってるんだが、それでも信じられないか?」


「シリー様の依頼? もしかしてあなた、冒険者なの?」

 ユウヒは、緑の氏族と似た様な氏族名に、何かしらの関係があるのかと名前を出してみたのだが、それよりもユウヒが冒険者だと言う事に気が付いたシーリンは、その表情をキナ臭げに歪める。この反応は特別であるが、エリエスの住民が冒険者に抱く印象はそれほど良い物では無く、ある程度の理解が無い種族にとっては要注意人物とされているのだった。


「まぁな、俺の主目的はこの危険な壺の回収なんだが、どうやら行方不明の原因ぽいから同時進行で進めてたんだよ。結果は正解と言う事の様だな」


「それほんと!? 行方不明者は皆ここに居るの!?」

 特に赤の氏族は基本的に排他的な思考の為、冒険者と言う彼らにとってあまりに異質過ぎる存在を本能的に嫌っている。しかしそんな冒険者が相手でも、その目的を聞けばただ嫌い続ける分けにもいかないようだ。


「さぁ? 全部かは知らないが、現に行方不明者を三人見つけた訳だし・・・誰か探してるのか?」


「・・・うん、父さんが行方不明なの、捜索隊だったんだけど・・・帰ってこなくて」

 何故なら彼女がここに居る目的は、ユウヒの目的と重なる部分があったからである。


 彼女の話しによると、数日前に赤の氏族から、行方不明者捜索に出た十数名エルフ達が3名を残し行方不明となってしまったのだと言う。その不明者の中には彼女の父親も居たらしく、大人エルフ達の暗い表情に居ても立っても居られなくなったシーリンは、父を探す為に里を飛びだしてきたのだと。


「・・・そうか、とりあえず今日はこの辺で休憩して、明日はあそこの光ってる所に向かおう。たぶん外はもう日暮れくらいだろうからな」

 顔を伏せ、ぽつぽつと喋るシーリンに何と言ったらいいか悩み頭を掻いたユウヒは、疲れと空腹を満たせば多少余裕も出て来るだろうと、少し明るい調子で話し出す。


「あそこにはご飯あるのかニャ?」


「くぅ~ん(そういえばずっと走りっぱなしでお腹が空いたでありますな)」

 ユウヒの言葉に逸早く反応したのはノイとコボルドの二人であった。先ほどまで干し肉を齧っていたにもかかわらず、期待に満ちた目で遠くの灯台の様な灯りとユウヒの顔を見比べるノイと、今頃になって空腹を感じ始めたらしいコボルド、そんな二人の隣で頭を上げたシーリンは、


<きゅぅぅぅ・・・>


「「「・・・」」」


 自分の意志を無視して告げられる事になった空腹を知らせる可愛い音に、その透き通るように白い肌の顔を耳まで赤くすると、無駄に暖かい笑みを向けてくる3対に瞳に向かって口を動かす。


「・・・っ・・・!」

 しかしあまりの恥ずかしさに混乱しているせいか、言葉を発する脳の働きが阻害され口は動くが言葉は出てこない、という行為を見せてしまい追加で暖かぁい視線を注がれるのであった。


「・・・し、しょうがないじゃない! ここに閉じ込められてから何も食べてないんだもん!」


「誰も悪いとは言っとらんがな、とりあえず落ち着ける場所探して晩飯だな」

 やっとの思いで出てきた言葉は悲鳴にも近い怒声で、それでもユウヒにとっては微笑ましく映り、シーリンの羞恥と怒りと混乱が綯交ぜになった叫びは、困ったような笑みと共に受け流される。


「ご飯ニャ!」


「ワン! (ご飯でありますか!)」

 ユウヒが良い場所を探す為に歩み出すと、猫と犬は我先にと前を進みキョロキョロと良い休憩場所を探し始め、やはりそこは森での暮らしや野性的な本能があるのか、互いに的確な意見? 鳴き声? を述べ合い選別しているようだ。


「ん?」


「あの、少し分けてもらうわけには・・・」


 そんな犬猫コンビのやり取りを面白そうに見ていたユウヒは、背後からポンチョの裾を引っ張る軽い負荷に気が付くと、首だけで後ろを確認する。その視線の先には、表情が赤いままのシーリンが申し訳なさそうな上目使いでユウヒを見上げていた。


「最初からそのつもりだぞ? グロアージュ達からも多少多め貰って来たから問題無いぞ?」


「わふん! (隊長は太っ腹であります!)」

 元々、行方不明者に出会った場合などを考慮してグロアージュから携帯食料を貰っていたユウヒは、なんてことの無い調子でシーリンにそう答える。そのユウヒの言葉に表情を明るくしたシーリン、以上に喜んだのはコボルドであった、何せ彼はノイ同様に一切の食糧を所持していなかったからである。


「誰が隊長だよ、俺は冒険者のユウヒだ。ワンコは何て言うだ? てか言葉それしか話せんのか?」


「・・・冒険者のユウヒ」

 テンションが際限なく上がって行くワンコに対し呆れた様に名前を問うユウヒ、その後ろではシーリンがユウヒのなまえを呟き、何故か頷いているが誰も気が付いていない。


「ワン! くぅーん(ワンコじゃなくて名前はクラであります! 共通語は習得中で)アります」

 

「語尾だけかよ」

 シーリンが何かを確認するように頷く一方、ユウヒに名を問われたコボルドはクラと名乗り、未だ習得中だと言う共通言語を少しだけ披露し、感心されるどころかユウヒにツッコミを受けている。


「それはコボルド族戦士の癖ニャ!」


「ワンワン! (癖じゃなくて誇りであります!)」

 どうやらその語尾には、語尾だけでも先に共通語としてを覚えるだけの何かがある様であるが、それはコボルドだけの誇りの様で、ノイは理解できないといった表情で首を傾げていた。


「まぁその辺は飯を食いながらだ。どこか良さそうな場所探すぞー」

 益々賑やかになって行くその場の空気にユウヒは苦笑を浮かべると、楽しげな声で指示を出し先を歩き出すのだった。





 その頃、ユウヒが出て行った緑の氏族の里では、


「そうですか、ユウヒ殿は帰らないですか」

 シリーがエルフの男性から、ユウヒがまだ戻らない旨の報告を受けていた。今日中に戻るとも戻らないとも聞いていないシリーであったが、一般的な視点から考えれば戻ると考えるのが普通であり、戻らないユウヒを心配するのも当然であった。


「はい、森でも見たと言う話しもありません。やはり、無理だったのでは」

 そんなズレにズレた思考経路のユウヒを心配してもしょうがないのだが、それ以前に報告に来た男性エルフの中では、既にユウヒは見限られているようだ。


 その男性エルフの発言に、精霊の友であるユウヒに対しある種の信頼を懐いているシリーは、思わず視線を剣呑なものに変え、


「そう判断するのは早計です」


「・・・そう、早計」

 冷たい空気を伴った様にすら感じる言葉を放つも、その言葉に続くようにシリーの後ろから殺気が籠った不機嫌全開の声が聞こえてくる。


「は? ・・・!?」


「モミジ様!?」

 その声の正体は、自分の管轄する森の中でユウヒが急に行方不明になってしまい、全力で不機嫌なモミジであった。モミジに睨まれた男性エルフはそのままの姿勢で固まると、その顔を一瞬で真っ蒼に染め、シリーは慌てて振り返るとモミジ前で膝を付き頭を下げる。


「ユウヒは、まだ生きてるから、そのつもりで」


「まさかモミジ様自ら御出でになるとは、里の者の非礼深くお詫び致します」


「そんなのいらない。ただ・・・友人を馬鹿にされるのは、嫌い。それじゃ」

 シリーが見たモミジには、男性エルフに向けた様な殺気は既に無かったものの、いつもの乏しい表情は不機嫌そうに歪められていた。そんなモミジは多少の良印象を持っているシリーに対して少しだけ声質を柔らかに、しかし良く聴かないと分からない程度軟化させそう告げると、静かにその場から姿を消したのだった。


「・・・・・・・」

 モミジが消えてから数分後、そこには立ち去ったモミジへの黙礼を済ませたシリーが一人立っていた。その疲れた様な視線の先には、男性エルフが真っ蒼な顔で失神している。


「一睨で気を失いますか、まぁ・・・仕方ないでしょうね」

 どうやら男性エルフはモミジからの殺気を受けて気を失ったようだが、これはエルフが殺気に弱いのではなく、精霊に対しての感応力が高いのも関係しているが、単純にモミジが圧倒的上位に位置する存在であり、その殺気が濃密だったからである。


 同じ殺気をもしユウヒが受ければ、【狩人の心得】の力で気を失いはしないものの、ただでは済まないであろう。かと言って現状の関係から考えると、先ずそんな事態は訪れないであろうことは確かである。



 いかがでしたでしょうか?


 エルフいいですよね、これからも様々な特色をもったエルフを紹介できればいいなと思っています。色々な種族のことを考えるだけで妄想がはかどります。


 そんなわけで、またここでお会いできればと思います。さようならー

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