流れ星
幼少期の耀&聖。
「セイ、今日の夜は起きてなくちゃダメだよ」
双子なのに弟よりずいぶん大人びている兄の耀は、新聞を開いて言った。
「何で?」
まだまだ幼い弟の聖は兄に近づき、後ろから新聞を覗き込む。
「ほら、ここ」
耀は下の方の記事を指差す。
「……ししざ……りゅう…?」
「獅子座流星群。今日の夜中がいちばんすごいんだって。絶対見ようよ」
「うん!! 流れ星見てみたい!! どんな感じなのかなあっ……」
「それは見てのお楽しみだよ。そうだ、セイ、流れ星が流れている間に願い事を心の中で3回となえると叶うらしいよ」
「ねがいごと?」
「うん。ちゃんと3回となえるんだよ」
「わかった!! 楽しみだね!」
聖は満面の笑みで兄の背中に抱きついた。聖はどんな時でも兄と一緒にいられればいいのだ。生まれた時から傍らにいた、頼もしい兄と。
耀の首が締まらない程度にぎゅっと力を入れて腕を絡ませ、頬をすり寄せていた聖は、兄から送られてくる体温に瞼が重くなっていた。
「…セイ、眠いの…?」
耀の声さえもどこか遠くに聞こえる。聖は条件反射で首を縦に振った。
「…しょうがないなぁ…いいよ、セイは寝ててもいいよ。僕が起こしてあげるから」
「うん……」
「ほら、ちゃんと立って? ベッドで寝なよ」
「……ヨウがいてくれないとやだ」
「しょうがないやつだなあ…セイは。……いいよ、一緒に寝てあげる」
「ありがと…」
聖は半分眠りに入っていて、脱力した体は重かった。耀は半強制的に歩かせ、やっとのことで聖を自室の二段ベッドの下段に寝かせた。
(ふう……いつまでたっても甘えん坊なんだから…)
自分の弟を見て彼は一息ついた。生まれた日は1日として変わらないのに、どうしてここまで違うのだろう。
「……ヨウ…」
「何?」
聖はとろんとした目で兄を見つめ、ものをねだるように愛しい兄に向かって両手を突き出した。
「セイ…」
何がしたいか分かる。さすが10年間一緒にいるだけあって、言葉にしなくてもおおよその見当は付く。
耀は聖の隣に潜り込み、聖の求めるがままにキスを与えてやった。何度も角度を変え、お互いの舌を絡ませ合って――。
彼らにとっては、キスが挨拶の代わりになっていた。おはようの時もおやすみの時も、濃厚なキスをする。そうやってお互いの存在を確かめ合う。
彼らにとってキスはご飯を食べるくらいに必要不可欠なもので、またごくふつうのことだった。
キスを堪能して満足したらしい聖は、ぐっすりと眠りに入っていった。兄の耀はその可愛らしい寝顔を撫でながら苦笑していた。
同じ双子なのに、顔かたちは瓜二つなのに、何でここまで違うのだろう。もう少し自分を追いかけてくれてもいいのに、と耀は思った。
聖の寝顔を見ていたら、耀も眠くなった。密着した肌から伝わってくる心地よい体温のせいもある。耀は少し寝ようと、目覚ましをセットして聖の隣に落ち着いた。
……聖の頬に口付けをしてから……。
目覚ましが鳴り、耀はガバッと起き上がって止める。背伸びをして、窓に駆け寄る。
空は、たくさんの星々が降り注いでいた。耀はしばしの間、それに見とれていが、弟を起こさなければと引き返し、聖の肩を揺すった。
「セイ、起きて」
熟睡しているセイは起きる気配もない。
耀が何度も何度も揺すってやっと目覚めたらしく、起き上がる時に勢いあまって覆いかぶさっていた耀の額に頭をぶつけた。
「いったー…セイ、石頭なんだから」
「ごめんごめん…」
聖は兄の額を手探りで探し当て、手を当ててみた。少しだけ熱かった。よほど思い切りぶつけてしまったのだろう。聖自身の頭はそれほど痛くなかったが、昔から石頭と言われ続けていた頭だから、ぶつけられた方は痛かったのかもしれない。
「ごめんね…」
聖は耀の頬を両手ではさみ、自分の方に引き寄せて額にキスを落とした。それで痛みが引くわけではないが、昔に耀から同じことをしてもらって、気持ち良かった覚えがあるからだ。
「セイ…」
聖にいじらしく触れられて我慢ができなくなったのか、耀は自ら弟の濡れた唇にキスをした。
喰うようなキスをした後、唇を離して耀はにっこりと笑った。
「これは、よく起きましたのご褒美だよ、セイ」
耀は弟の頭をガシガシと撫でてベッドから降りた。
2人はベランダに出て、並んで手すりに寄りかかった。しばらくの間は無言で光のシャワーを浴びていた。時々物体がヒュウーっと落下する音や、バアンッと物体がぶつかって砕け散るような音がして、とても迫力があり、聖はおおはしゃぎした。
そんな聖の様子を隣で眺めていた耀は、クックと笑いを堪えるのに必死だった。
「いつになってもコドモだなあ」
聖は、いかにも自分はオトナですという耀の物言いに、カチンときた。
「……だってコドモだもん。それを言うならヨウだってコドモじゃん」
頬を膨らませて言う聖は思わず見るものの頬が緩んでしまうほど可愛かった。
耀は頬を緩めたままベランダの手すりにもたれかかった。
「僕はそこまで無邪気にはしゃげないもん」
「なんで」
「体の弱いセイを守らないといけないから、いつでも僕はお前より大人にならなきゃいけないの」
耀は手すりに少しだけ体重を預けて、空を見上げた。相変わらず、いく筋もの流れ星が紺のスクリーンに絵を描いている。
「そんなにぼくのこと心配しなくてもいいのに…」
聖は俯きながら小さく呟いた。耀は見上げていた顔を聖の方に向けた。
「だめ。僕はお前がいなくなったら死んじゃうよ」
慈愛に満ちた笑顔を投げ掛けると、聖もほっとしたように微笑んだ。そして、聖は兄の体に寄り添い、内緒話をするように耳元で囁いた。
――大丈夫だよ…ぼくはずっとヨウのそばにいるから――…
耀は嬉しさに薄く微笑んだ。心が温かさで満ち足りていくのを覚えた。
流れ星が流れている。彼らはその下で、身を寄せ合っていた。心の中で、いつまでも愛する兄弟と一緒にいられますように、と――……




