第39話 地獄の熊女
「ぴぎゃあああああ!」
「なによ、アンタ!! 出てってよ! この家はアタシの家なんだからっ!!」
「ガガガガガラハト助けてえええええええ!」
「あーはいはい」
元ハイランド伯爵夫妻が、レイクリフ家につくと中は地獄だった。
「やめんか!! キャロライン!!」
レイクリフ公爵が顔を真っ赤にして叫んでいるが、地獄の発生源は猛っていた。
「よそ者が家に入り込んだのよ! 今すぐ追い出してやる!」
花も恥じらう年頃の女性がその辺りにある物を掴んでブン投げている。高そうな花瓶が宙を舞って壁に当たりガチャンと割れたのを目を点にして見つめてしまった。
「ひいいいいっなにあれっ人間じゃないっ熊!? 熊なのおおおおっ」
「そうかもしれませんね、アレを令嬢と呼ぶには私も些か難しい」
飛んでくる文鎮やペンをひょいひょいとよけるガラハトの後ろでフレジットが小さくなって震えていた。元伯爵はため息をつき最愛の妻にサインを出した。
「アイーダ、やっちゃって」
「真っ当な令嬢にしますわね」
夫にすべてを任された元ハイランド伯爵夫人アイーダは靴音を一つ鳴らす。
「レミー、ダリア。前へ」
「はっ奥様」
二人のメイドがアイーダの前に立ち、キャロラインに向ってスタスタと歩きだす。
「よそ者がが増えたわ! あっちへ行って!!」
色々なものを投げつけてくるが、レミーとダリアの二人のメイドはそれを優雅な手つきで払い落し続ける。この非常識なさなかでも高価なものはキャッチしてしっかり床に置く鑑定眼まで持っていた。その二人の後ろを悠々とそして優雅にアイーダ夫人は歩いてゆく。
そして暴れるキャロラインの前に立った。流石に目の前にアイーダが立つとキャロラインも一歩下がって手を止めている。
「話は聞いております。あなたは今日から私達の娘です。私達の娘に相応しい令嬢に躾け直してあげますので安心しなさい。今のままでは商家にすら嫁に出せませんわ。こんな粗暴熊女では」
「な、な、な、なんなの!? このおばさんっ私は由緒正しい公爵家の跡取り娘なのよっ!」
顔を真っ赤にして叫ぶキャロラインに上から冷たくピシャリと言い切る。
「貴女は跡取り娘ではありません。今日よりこのレイクリフ家の跡取りはそこにいるフレジット。貴女は特に必要がない存在。矯正出来なければ社交界はおろか貴族として扱う事も致しません」
「う、嘘……嘘でしょ、お祖父様っ」
キャロラインは信じられないととレイクリフ公爵を見るが、公爵も孫の粗暴さに怒りを隠せない。
「真実じゃ、キャロライン! お前のせいでどれだけレイクリフ家が恥を掻いたか! まだ貴族でいられるうちにその曲がった性根をアイーダ殿に叩き直されるがよい!」
アイーダの「部屋へ連れてお行き」という命令にレミーとダリアはキャロラインを両脇から固め連行する。
「暴れれば気絶させます」
「その方が手っ取り早いので。嫌ならご自分の足で歩いてくださいませ」
「ひっ!」
手際よく、二人のメイドはキャロラインを連れ去る。きっと部屋に閉じ込め、更に逃げ出せないように窓を封鎖したりの一連をつつがなく終わらせるだろう。
「フレジット……あなたは本当に女性に弱いわよね……」
「だ、だって、母さん……あ、あんなの女性じゃないですよおおお……」
「あんなの、じゃなくて義妹でしょう? 義理とはいえ兄の貴方がしっかりしなくてどうするの? 後、あなたが彼女と結婚するのがレイクリフ家にとって一番良いのよ? 分かるでしょう」
「むりむりむりむりむりですうううううう! 分かっていてもむりですうううう」
さっきまでの有能さはどこへやら、フレジットはへたり込んで泣きそうな勢いだ……いや、泣いている。
「はあ、どうしてこうなったものか……」
元ハイランド伯爵はさっきより心労で薄くなった気がする頭を労わるように撫でていた。




