第15話 狸の腹の探り合い?
「これからはそんな苦労はかけさせません。必ず幸せにしてみせます……少しだけ執務を手伝って頂けたら嬉しいですけれど」
今まで静かに見守っていて下さっていたシュマイゼル様が後ろから声をかけてくださいました。
「お恥ずかしい所をお見せしました……」
お父様も涙を拭いてシュマイゼル様に向き直ります。
「我らに変わり娘を救い出していただき誠にありがとうございます。私達はもう貴族でも何でもなくなってしまいましたが、何かあれば馳せ参じます」
「ははは、ご謙遜を。噂に名高いセルシオ・ハイランド伯をただ遊ばせておくなどする訳がないでしょう。今日からは我が国で侯爵家としてその手腕を奮って頂きますよ?」
「ははは、マルグ国王様もご冗談をお言いになるのですね。家も領地も持たぬ私が侯爵など! マルグ国の貴族様に笑われます」
「いえ、この書類にサインして頂ければ。ハイランド家を頼って一緒について来られた領民の事を考えれば、直ぐにでもサインをいただきたいと思いまして、無粋ながら久しぶりの親子水要らずにお邪魔してしまいました」
「はあ……?」
お父様がシュマイゼル様から渡された書類にはお父様が貴族として認める事と、かなりの広さの領地が与えられる事が明記されております。
「この様なものを頂いてもこの国に波風を立てる訳にはまいりません。謹んでご辞退をさせて頂きます」
恭しく書類を差し戻すと、シュマイゼル様ははぁ、と大仰にため息をつかれ
「やはりこの程度で満足頂けませんでしたか。分かりました、ではこちらの書類で……」
演技でしょうが、やれやれと別の書類を出して来られるのです。
「え? シュマイゼル王よ、私の話を聞いておられなかったのでしょうか? 我らは最早貴族ではないのですから……いやいや! シュマイゼル王、これはないですよ!」
「お父様……? あらまあ」
シュマイゼル様が次に出された書類を見ると今度は侯爵ではなく公爵に、領地も先程より王都に近く、倍ほどに広くなっているではありませんか。シュマイゼル様?! お父様のお話を聞いて……聞いて敢えてやりましたね……?
「ああ、ハイランド伯。流石にこれ以上の領地拡大は貴族院を通さねばならんから、明日になってしまうよ。これから皆を招集して緊急会議を……」
「せんで宜しいです!」
流石のお父様も声を荒げています。優しい狸と噂のお父様もシュマイゼル様の「狸」ぶりに一本取られたようですわ。
「おほほほ! 早く書類を作ってしまわねば、私達はレンブラントとお出かけしてしまいますからねー。ご一緒するならお早めに」
扉がほんの少しだけ開いてシュマイゼル様のお母様、王太后様がチラリと顔を覗かせてすぐに行ってしまいました。廊下から
「お、お祖母様! お祖父様おやめください、わ、わああああーー!」
レンブラントの困惑しつつも少しだけ嬉しそうな叫び声が聞こえて来ます。しっかりと躾けられたあの子がこんな大きな声を出すなんて。よほどの事があったのか、と思うのと少しだけでも子供らしくあれるのが嬉しくも感じます。
「あ! あなた! ま、孫が!」
「はっ! 孫が!!」
お、お母様?お父様……?!
「早くしませんとレンブラントが我が父上と母上に連れ去られ、城下で剣や魔導書、文具、服に至るまで全て買い与えられ、美味しい物を食べさせられ……お二人の入る場所が無くなってしまいますよ?」
「ぐぬう!! 謀ったな、マルグ国王シュマイゼル殿!!」
「ははは! 何とでも。謀られる方が愚かなのですよ! ハイランド伯!」
お父様とシュマイゼル様は暫し睨み合っていましたが
「あ、あなた! 早くしませんと! レンブラントが行ってしまいます!」
「ぐぬぅーーー! サ、サインをさせて頂きまする! 1枚目の書類をお貸しくださいませ!」
「最初から素直にそうなされば良かったのです」
「くっ! この借りは必ずかえさせて頂く!!」
お父様は奪い取る様に受け取った書類に荒くサインをし、
「覚えていなされーーー!」
と、負け犬の遠吠えのような叫び声を残して、王太后様が消えた先目掛けて駆けて行ってしまいました。
「レンブラントーー! お祖父様ですよーーー!」
「お祖母様も居ますわよーーー!」
そう言えば弟のフレジットには孫どころか今は妻も婚約者もいないので、あの二人も孫という存在に飢えているのでしたね……。
「上手く行きました。レンには感謝ですね、流石私の息子です」
シュマイゼル様がにこにこと書類をみて笑っております。一体この方はどこまで準備をしていたのでしょうか……?




