表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死にたがりの令嬢、最強の呪われ騎士に拾われる〜呪いを解いたら、狂愛ルートに突入したようです〜  作者: 綾瀬蒼


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/10

第8話 王都へ向かう荷造りと、逃げ道の消し方

「王都へ向かう」


 レオンハルトの宣言は、朝の光みたいに唐突だった。

 セレナは抱き上げられたまま瞬きをする。


「……王都って、あの王都?」


「他にどれがある」


「だって、あなた……人を避けてるんでしょう。噂だと」


「噂は正しい。だからこそ、行く」


 意味が分からないまま、セレナは彼の胸当てに手を置いた。昨夜より鎖のざわめきが強い。黒い糸が小屋の外へ伸び、赤い糸がそれに絡みつく。

 呪いが揺れている。集まっている。

 このまま森に留まれば、また影喰いみたいなものが来る。——そういうことかもしれない。


 レオンハルトはセレナを椅子に座らせ、毛布を肩から整えた。

 その仕草が、昨夜より自然だ。慣れるのが早すぎて怖い。


「荷造りをする。お前は――」


「手伝うわ」


「座っていろ」


「手伝う!」


 食い下がると、レオンハルトは少しだけ黙り、折れた扉のほうを一瞥した。

 そして渋々という顔で言う。


「……なら、俺の視界から出るな」


「はいはい」


 セレナが小さく呆れると、レオンハルトは眉を寄せたまま、棚の上の袋を下ろし始めた。乾燥肉、硬いパン、塩、薬草、油紙。旅慣れした手つきだ。

 セレナは自分の持ち物がほとんどないことに気づき、唇を噛んだ。没落して、身につけているドレス以外は売り払った。持ってきたのは小さなハンカチ一枚だけ。


「……わたし、何もない」


「ある」


 レオンハルトは即答した。


「お前はここにいる」


 言い方が、ずるい。

 胸の奥がじわっと熱くなって、セレナは視線を逸らした。


 荷造りが進むにつれ、セレナは“見えない糸”の異変に気づく。

 小屋の中に漂っていた黒い糸が、外へ引っ張られている。まるで何かがここを嗅ぎ回り、糸の匂いを辿っているみたいだ。


「……追われてる?」


「追われている、というより——集まっている」


 レオンハルトは袋の口を縛りながら言う。


「呪いは、ほどきを嫌う。ほどかれれば消えるからな」


「じゃあ、わたしがほどくほど危険になる?」


「危険になる。だが——」


 彼の視線がセレナに落ちる。鋼の青が、まっすぐだ。


「危険でも、やめさせない」


 守ると言うより、決定事項。

 セレナは喉の奥が乾く。


「……わたしの意思は?」


「尊重する」


「ほんとに?」


「死にたい以外は」


 あっさり言われ、セレナは思わずため息をついた。

 けれど、その“死にたいだけは奪う”という理不尽が、今はどこか救いにも見えてしまう。自分で自分を終わらせる自由が残っていたら、いつか簡単に手放してしまいそうだから。


 レオンハルトは棚の奥から古い外套を取り出し、セレナの肩へ掛けた。

 大きい。肩がすっぽり隠れる。彼の匂い――鉄と乾いた草の匂いがした。


「……これ、あなたの」


「目立つ。令嬢の服は」


「わたし、令嬢じゃないわ」


 自嘲のつもりで言った言葉に、レオンハルトは手を止めた。

 そして、低く言う。


「お前はセレナだ。それ以上でも以下でもない」


 そのまま、外套の前を寄せ、紐を結んだ。

 結び目が、きゅっと締まる。

 それは衣服の結び目なのに、別の意味にも聞こえて、セレナは小さく息を呑んだ。


「……王都に行ったら、どうするの?」


「起点を探す」


「誰が、あなたにあんな誓約を……?」


「分からない。だが、王都には情報がある。……俺の呪いに関わった者がいるなら、王都だ」


 レオンハルトの声は低く、怒りが沈んでいる。

 彼は憎しみに飲まれるタイプではない。だからこそ怖い。決めたら、淡々と実行する。


 セレナは指先を握りしめた。

 自分は何をする? また結び目をほどく?

 ほどけばほどくほど、彼の赤い糸が濃くなるのは見えてしまっている。


「……レオンハルト」


「なんだ」


「呪いが解けたら、あなたはどうなるの」


 レオンハルトの手が、わずかに止まった。

 答えが難しい質問だったのだろう。

 それでも彼は、すぐに言った。


「自由になる」


「……自由になったら、わたしを手放す?」


 セレナは自分で言っておいて驚いた。

 手放される不安を口にしたのは、初めてだったから。


 レオンハルトの目が、細くなる。

 青が、鋭く濃くなる。赤い糸が、ふっと増える。


「手放す?」


 その言い方が怖くて、セレナは慌てて付け足す。


「だって、わたしはあなたの重荷かもしれないし――」


 言い終わる前に、レオンハルトがセレナの顎を掴んだ。強くない。けれど逃げられない角度に固定される。


「重荷なら、なおさら持つ」


「……ひどい理屈」


「俺の理屈だ」


 レオンハルトは淡々と、けれど確実に言った。


「自由になったら、もっと選べる。

 選べるなら、お前を選ぶ」


 胸が、どくんと鳴る。

 言葉が甘いのに、刃のように断言だ。


「……それ、狂愛ってやつよ」


「狂っていてもいい。お前が逃げないなら」


「逃げたら?」


 レオンハルトは少しだけ考える顔をして、真面目に答えた。


「追う。……見つける。……二度と迷わないように、次は手段を増やす」


 背筋がぞくりとした。

 なのにセレナは、笑ってしまった。怖いのに、笑える。


「あなた、本当に最強ね」


「剣の話か」


「……執着の話」


 レオンハルトは一瞬だけ目を伏せた。

 そして、セレナの額へ短く口づけた。


「出発する」


 セレナは外套の紐を握りしめ、頷いた。

 王都へ行けば、過去が待っている。婚約破棄の相手も、没落の原因も、世間の噂も。全部、嫌な形で目に入るだろう。


 でも隣には、呪われ騎士がいる。

 最強で、理不尽で、逃げ道を潰してくる男が。


 小屋を出る直前、セレナは扉のない入口を振り返った。

 昨日までここは、死に場所になるはずだった。

 なのに今は、“生きてしまう道”の入り口に見える。


 レオンハルトがセレナの手を取る。

 指が絡まる。ほどくのではなく、結ぶように。


「離れるな」


「……分かってる」


 森の影が揺れ、黒い糸が遠くでざわめいた。

 けれどセレナは、歩き出した。

最後までお読みいただきありがとうございます。


『おもしろい』『続きが見たい』と思いましたら…


下にある☆☆☆☆☆から、作品への評価をお願いします。


面白かったら星5つ、正直な感想で構いません。


ブックマークもしていただけると嬉しいです。


よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ