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【天使】養殖・第三話(10)

作者: AMAKA

 コスプレが増殖する。


 本気の仮装、極限まで行ききった変態仮装が感染する……。


「【準奇跡】の核心が何か、あんたらわかってますえ?」


 ちべたい口調で【天使長】の嫁が言うた。


「それは、標準弁の使用で肥え太った『演技性人格』のごく軽い誘導暗示どす。演技、プレイ、ごっこ……それも他人やなく、まず自分自身をだまそうとする演技への飢え。その意味で、この標準弁ていう人工語は『憑依言語』と言うてさしつかえない。かつて狂信的な時代精神が育ったんもうなずけるンジュ。武士道礼賛もうなずけるンジュ。腹切りて、あれ大人のお遊戯え。そら超がつく国家主義にも簡単に染まる」


「染まらしすぎたな」て、つぶやくように【天使長】、「あれはこちらの不手際やった……」


「非現実への憧れ。自分以外への希求。まともに鏡も見ることもできん。自分をごまかし自己を消し去るお遊戯おままごとに人間価値の中心を据えるイカレポンチ……極限まで暴走さしたらどうなりますえ? こうなるんどす」


 そう言うて、嫁は背後の狂乱を自慢げに示して見せた。


 ……【万聖化崩壊】。


 のちに消息通気取りどもの間でそう呼ばれることになる、社会的大カタストロフ現象。


 標準弁によって刷りこまれた『演技』や『憑依』へのキラキラな没入癖をてこにした煽動ないし集団発狂技術の本質。


 自我まるごとの仮装。


「うちはそれを誰よりも理解して、この【準奇跡】にたどりついた。最強の【召命材化作用】どす。これ以上はない。……なああんた、あとから来といて負けるやなんて、少々不細工すぎやおへンジュ?」(『【天使】養殖・第三話(11)』に続)

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