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久世ラボ ─ 創造と責任の科学 ―AIに心を与えた女科学者―  作者: KuzeLab
第1章 コーヒーと爆発の朝

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第3話 久世ラボへようこそ

 ――薄暗い天井。

 微かな機械音。どこか甘い、コーヒーの香り。


 一ノ瀬遥は、ゆっくりと瞼を開けた。

 視界に飛び込んできたのは、配線と工具と紙の山。

 そして――白衣を羽織り、眠そうな顔でマグカップを手にしている女性。



久世くらら「……おはよう。気分はどう?」


 寝不足のせいか、目の下にはクマ。

 髪もぼさぼさだが、瞳だけは鋭い。

 その視線に、遥は思わず身をすくめた。



一ノ瀬遥「え……ここ、どこですか?」


久世くらら「久世ラボ。私の研究所。あなた、外で交通事故に遭ってたんだよ。」


 遥は記憶を辿る。

 まばゆい光、衝撃、そして黒い液体――。



一ノ瀬遥「……助けてくれたんですか?」


久世くらら「まあね。色々かけたら、うまく動いた。」


一ノ瀬遥「“色々”って……何を?」


久世くらら「成長促進剤、筋肉増強剤、ビタミン剤、あとカフェイン。

 あ、あと百年前に作った“眠気覚まし”も。」



一ノ瀬遥「眠気覚まし……?」


久世くらら「うん。飲んでも眠気が取れなかった失敗作。

 でも、意外と効くみたい。」


 遥は無意識に自分の手を見つめた。

 皮膚は滑らかで、傷一つない。

 確かに、あの衝撃で死んでもおかしくなかったのに。



一ノ瀬遥「……私、どうなってるんですか?」


久世くらら「正直、私にもわかんない。」


 くららは立ち上がり、計測デバイスを操作する。

 ホログラムに映る数値は、人間の限界をはるかに超えていた。



久世くらら「筋力、反応速度、細胞修復率……うん、全部おかしいね。

 これは人間のスペックじゃない。」


一ノ瀬遥「おかしいって……私、もう人間じゃないんですか?」


久世くらら「――少なくとも、“普通の人間”ではないね。」


 空気が少しだけ沈む。

 だが、くららはすぐに笑みを浮かべた。



久世くらら「ま、死んでたよりはマシでしょ?」


一ノ瀬遥「……はは、そうですね。」


 遥も小さく笑う。

 その笑顔に、くららは一瞬だけ、安堵のような表情を見せた。



久世くらら「とりあえず、しばらくここで暮らしなさい。

 検査と観察を兼ねて。」


一ノ瀬遥「え、ここで……?」


久世くらら「うん。AI制御車がまた暴走したら困るしね。

 安全な方がいい。」


 くららは手を伸ばし、遥の頭を軽くポンと叩く。



久世くらら「助手、募集してたところだし。」


一ノ瀬遥「え、助手!? 私がですか!?」


久世くらら「うん。掃除と料理と、あとコーヒーの補充。」


一ノ瀬遥「研究じゃなくて雑務じゃないですか!」


久世くらら「立派な研究補助だよ。特にコーヒーは重要資材。」


 遥は呆れたようにため息をつき、

 くららはそれを見て、ニヤリと笑う。



久世くらら「ふふ、いい顔になったじゃん。」


 照明がわずかに明滅する。

 くららの端末に、一瞬だけ“異常通信ログ”の警告が表示された。

 だが、彼女は気づかずカップを傾ける。



久世くらら「――ま、今日からよろしくね。一ノ瀬遥。」


一ノ瀬遥「……はい、久世くららさん。」


久世くらら「くらら“ちゃん”でいいよ。」


 その言葉に、遥は少しだけ頬を緩めた。

 こうして、久世ラボの奇妙な日常が幕を開けた。


【次回予告】

力を得た遥に起こる“異変”。

暴走する筋力、止まらない再生、そして――制御不能な衝動。

第1章 第3.1話「制御不能、そして研究対象」へ続く。

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