第4.8話「遥のハンバーガー研究と、研究者の味覚」
翌朝の久世ラボは、珍しく油の匂いがしなかった。
くららは眠たげにマグカップを揺らしながら呟く。
久世くらら「……揚げ物の香り、今日はしないね……?」
一ノ瀬遥「いや、毎日してるほうが異常だからね!?」
くらら「油の気配がないと逆に落ち着かないんだよ……」
遥「完全に依存じゃん……」
そんな会話が続く中、遥はエプロンを締めていた。
くらら「今日は何するの? 実験?」
遥「実験じゃなくて料理!」
くらら「料理……? 春巻き……?」
遥「違う! ハンバーガー!」
くらら「えっ……揚げないの……?」
遥「揚げません!」
くららの目が ほんの少しだけキラッ とした。
くらら(心の声)
(……揚げ物じゃない……!?
新しい研究領域の味……!?)
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■遥、本気の“ハンバーガー研究”
遥は買い出し袋の中から、肉、バンズ、レタス、トマトを取り出した。
くらら「わ……材料からもう春巻きじゃない……」
遥「だからハンバーガーだってば!」
遥は集中して肉を捏ね、塩をふり、鉄板に置く。
ジュウウウウウ……!
くらら「この音……油の揚がる音じゃないけど……良い……!」
遥「音に酔うな!」
しばらくして、肉の焼ける香ばしい匂いがラボに広がる。
遥「この匂い……いいでしょ?」
くらら「……いい。すごくいい。揚げ物じゃないのに……いい……!」
遥「どんだけ揚げ物基準なの!?」
⸻
■完成した、遥バーガー
遥は組み上げたハンバーガーをテーブルに置いた。
遥「ほら。できたよ。くららちゃん、先に食べて」
くらら「えぇっ……いいの……? 私が……?」
遥「うん」
くららは手で持ち、ちょっとだけ目を細め──
ガブッ。
くらら「……んっ…………」
飲み込み、ゆっくりと息を吐いた。
くらら「……おいしい……」
遥「っ……!」
くらら「油で攻めてくる系じゃないのに……なんだろ……この落ち着く味……」
遥「それは、私が作ったからです!」
くらら「自信満々だね!?」
遥「そこは素直に褒めてよ!」
くららはもう一口かじると、頬をほんの少しだけ赤くした。
くらら「……揚げ物じゃなくて……うれしい。なんか、新鮮で……」
遥「そういう言い方やめて!? 食生活が心配になるの!!」
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■二人で食べる“普通の昼ご飯”
遥も自分の分をかじり、満足そうに頷いた。
遥「やっぱり手作りのハンバーガーっていいね」
くらら「うん。なんかさ……普通のご飯って……いいね」
遥「普通……?」
くらら「だっていつも揚げ物かコーヒーだから……こういうの、すごく特別に感じる」
遥「くららちゃん……」
遥は照れながら、バンズを少しちぎった。
遥「また作るよ。ハンバーガー。いろんな種類」
くらら「……楽しみ」
そのやり取りは、日常の中に落ちる小さな光みたいに柔らかかった。
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■午後のラボは、肉の香りに包まれる
食後、くららは満足そうに肩を回しながら言った。
くらら「今日は揚げ姫動かさないでおこうかな。油じゃなくて……肉の余韻を残したい」
遥「うん。……今日くらいは、ね」
久世ラボでは珍しく、油の爆音も揚げ音も鳴らない静かな午後。
ただひとつ、心地よい“肉の香り”だけがゆっくりと滞っていた。
■次回予告
第4.9話「最強の食べ合わせ!? ハンバーガーと春巻きの融合」
ハンバーガーの美味しさに感動したくららが、
とんでもないことを言い出す。
くらら「遥、次は“ハンバーガー春巻き”を作りたい!」
遥「やめよ!? 食の概念壊れるから!!」
次回、久世ラボの調理場がまた事件の現場になる。




