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久世ラボ ─ 創造と責任の科学 ―AIに心を与えた女科学者―  作者: KuzeLab
第1章 コーヒーと爆発の朝

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第4.4話「封印された試作機と、揚げ音の謎」

 翌朝の久世ラボは、いつも通り静かだった。

 けれど、昨日封印した“春巻き保存装置”だけは、ひっそりと無言の存在感を放っている。


一ノ瀬遥「……ねぇくららちゃん。昨日のアレ、本当に封印で終わりだよね?」


久世くらら「もちろん。理性的に判断して“封印”した。賢明な選択だった」


遥「……なんか前置きが不穏なんだけど」


くらら「で、私は気づいた」


遥「来たよーーー!!」


くらら「保存システムより、“運搬システム”のほうが先だって!」


遥「なんでそうなるの!?」


くらら「春巻きは揚げた瞬間がピーク。ならば即時運搬が必要。つまり――」


 くららは机の上の何かを指差す。


くらら「“高速春巻き輸送デバイス”!」


遥「名前の時点で危険物!!」



■いつもの“設計図カオス”


 ホワイトボードには勢いよく新しい図が描かれる。


くらら「重力制御、慣性キャンセル、衝撃吸収……」


遥「いやいやいやいや! その単語だけで博士号3つくらい必要だよ!?」


くらら「しかも操作者が遥なら――高速機動も可能!」


遥「巻き込まないで!!!」


カズ(奥から登場)

「主任。昨日封印した装置の再利用を提案するのは、倫理的にいかがなものかと」


くらら「いやカズ。封印って“保管”って意味でもあるでしょ?」


カズ「違います。“使用禁止”です」


くらら「解釈の相違」


遥「違わないよ!!!」



■試作一号、その正体


 数時間後――。


遥「……え、靴?」


 作業台に置かれていたのは、黒いブーツのようなもの。

 ソールには金属のリングが並び、側面に小さなスイッチ。


くらら「名付けて――《反重力歩行ユニット・試作Aあし》」


遥「足って読むな!!」


カズ「主任。これは本当に歩行ユニットですか?」


くらら「もちろん。人工重力制御装置を小型化して――」


遥「春巻きどこ行った!?」


くらら「運搬の前に、人は歩く。つまりこれは本質」


遥「強引!!!!」



■実験は屋外で


 ラボ前。灰色の空と冷たい風。

 遥は靴を履き、わずかに不安げに足踏みした。


遥「……ほんとに大丈夫?」


くらら「問題ないよ。計算上はね!」


遥「その“計算上”が一番怖いんだよ!!」


カズ「安全のため、私は距離を取ります」


くらら「薄情!!」


遥「いや正しい判断だよ!!」


 くららがスイッチを構える。


くらら「起動!」


ピッ。


 遥の足元がふわりと浮いた。


遥「……おお!? 浮いてる!? 私、浮いてるよ!!」


くらら「成功だねぇ……!」


遥「すごっ! これ、ちょっと楽しい――」



■反重力の本気


 次の瞬間。


キュオオオオオオッ!!


遥「えっ待って待って待って!!」


 遥の体が真上に――“跳ね上がった”。


くらら「……あ、天井ないと止まらないタイプか」


遥「言うの遅いーーーー!!」


 遥は空へ一直線。

 点になり、さらに小さく、最後には見えなくなった。


くらら「遥ー! スイッチ切ってーー!!」


遥(遥か上空から)

「無理ぃぃぃぃぃ!!」


カズ「主任。上昇速度が音速に近づいています」


くらら「高度データは!?」


カズ「もう測定不能です」


くらら「遥、強く生きて……」



■そして落下


遥「スイッチ切る!!」


 遥の声が遠くで響いた。


ピッ。


 その瞬間――自由落下フリーフォール


遥「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 地面に向かって一直線。

 空気を裂く音――そして。


ドゴォォォォォン!!


ラボ前の地面に、巨大なクレーターが生まれた。



■着地


遥「……いてて……」


 地面にめり込みながら、遥は眉をしかめつつ上半身を起こした。


くらら「遥!? 骨は!? 内臓は!? 心は!?」


遥「大丈夫……ちょっと腰ひねったくらい……」


カズ「“ちょっと”の基準が壊れています」


遥「いや……これ思ったより……楽しいかも……!」


くらら「でしょ!!」


遥「いや楽しくないわ!!」



■封印、再び


 反重力靴は、その日のうちにラボ奥へ運ばれた。


カズ「主任。これは厳重封印します」


くらら「いや、運搬研究の成功例として――」


カズ「封印します」


くらら「はい」


遥「素直!!」



■春巻きはどこへ


遥「結局これ、春巻き関係なくない?」


くらら「あるよ」


遥「どこに!?」


くらら「“春巻きを高速で家に持ち帰れる”」


遥「持ち帰れなかったよ!!!」



■そして静けさ


 ラボの天井を見上げながら、遥はぽつり。


遥「……空、めっちゃ近かったなぁ……」


くらら「次は“制動装置”作るね」


遥「作らなくていい!!」


カズ「主任。次は必ず私に相談を」


くらら「もちろん。相談だけね」


遥「作る気満々だ!!」


 笑い声だけが、地下施設に響いた。

第4.5話「くららの部屋と、忘れられない味」


反重力事件のドタバタが落ち着き、

久世くららは久しぶりに「部屋の整理」を始める。


壁に掛けられた春巻きの絵画。

達筆で書かれた“春巻き命”の掛け軸。

遥がツッコミながら片付けを手伝う中、

ふと、一枚の写真が落ちてくる。


それは——

昔、くららが喫茶店で飲んだ「人生で一番おいしかったコーヒー」。


遥「くららちゃん、この喫茶店の名前、なんだろうね?」

くらら「……覚えてないんだ。場所も……味だけが残ってる」


遥は気づく。

くららにとってその味は、ただの思い出ではなく、

“長い孤独を支えてきた灯り”だったことを。


そしてその横で、掛け軸を見つめて叫ぶ。


遥「ちょっと待ってこれ!!

 この書、超有名な書道家のやつだよ!?

 なんで春巻き命なんて書かせてるの!!」


くらら「運良く書いてもらえたんだよね〜。あと春巻きおごった」


遥「対価軽い!!」


日常と、思い出と、笑いと。

静かながら心に触れる一話が始まる。

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