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君もいる世界

 あれからおよそ2ヶ月が経った。時が止まった世界だ。太陽の動きで計算なんて不可能。


 何回寝たかで1日を数えていた。


 この2ヶ月で僕は時が止まった世界を謳歌して…



 いなかった。


 それも当然だ。時間が止まっていればやれることなんて限られてくる。


 もちろん、僕の大好きなゲームはネットが繋がってないからできる訳もない。


「誰だよ、無限の可能性がうんたらかんたらとか言ってた奴は。無限の時間があっても選択肢が減ったら意味ないに決まってるだろ。」


 何をするにも難しいこの世界に、僕は早くも限界を迎え始めていた。


 しかし!この2ヶ月間僕だって何もしていなかったと言うわけではない!


 まず、今日がクリスマスであると言う事はカップルが多い。そのため、僕は真っ先にカップルの邪魔をすることに見事成功させた!


 キス寸前のカップルのどちらか片方の首にキスマークをつけさせた。また、いい感じの雰囲気のカップルを堂々と上裸にさせて台無しにさせるなど完璧な仕事だ。


 うん、何くだらないとことをしてるんだろうか。正直に言って、自分でも最低だとは自覚しているし、子供じみているとも思う。


 そんな本気7割冗談3割の話も程々にして本題に入ろう。ぼくはこの2ヶ月間この時間停止空間に関して常に研究を続けていた。


 結論から言おう。この時間停止空間について僕は…


「何も分からなかった」


 色々と調べてはみたが、ただただ何かがおかしいということが分かるのみだった。


 僕が調べたのは時間停止の条件、そしてこの空間はどれくらい時が止まっているのかを調べることだ。


 考えてみてほしい。時が止まっているのであれば、本来空気も止まっているべきではないだろうか。しかし、空気が動いているのは僕が普通に呼吸できているところから明らかだろう。


 そこで気になってくるのがどれくらいの物が時間停止の影響を受けているのかだった。


 結局殆どのことは何も分からなかったが、少なくとも生物は全体的に影響を受けていることが分かった。


 仮説を立てるのであれば生物以外は僕が触れたもののみ一定時間動くといったところだろう。


 時間停止の条件に関しては止まった原因が僕の能力なのだから時を動かす鍵になるのも僕の力だと考えるのが正常な思考だろう。


 いつも能力を使うときのような感覚で能力のON/OFFを切り替えようとしても全く意味がない。


「ガサッ!」


 そんなことを考えていたらクリスマスツリーの方から何か物音がした。僕だけしかいるはずのない場所に何者かがいると思うと不気味で怖くなってくる。


 クリスマスツリーの方はカップル共が多くてどうにも行く気になれなかった場所だ。


 僕の影響で物が動いたということはないと考えていいだろう。


 一体何が原因で物が動いたのかは気になる。しかし、全く行く気になれない。


 長い自問自答の末に僕はやっとあちら側に進む決断を下した。


 足が重い。一歩、また一歩と進むごとに周りの陽のオーラに触れて嫌な記憶がフラッシュバックしていく。


「ガサッ」「ゴソッ」


 近づくごとにどんどん音が大きくなっていく。


 やっとたどり着いたクリスマスツリーにいるのはさっきまで恐れたような化物ではなく・・・



「へーいそこの君。今だけ限定で私を助けてくれたのなら世紀の美少女を自由にする権利をプレゼントしてあげよう」



 何故か動き、何故か木にぶら下がっている背丈が僕と同じかそれより一回り小さいくらいの女の子だった。なんだか言動からしてめんどくさそうな匂いがプンプンする。


 自分のことを美少女などと言うやつにまともなのがいないことは、人生経験がまだまだ足りない僕ですら簡単に察することができる。


 よし、にげよう。今は木にぶら下がっているようだし追いかけることなどはできないだろう。逃げるぞ。本っ当に逃げるぞ。5秒経ったら逃げよう。行くぞっ、5・4・3・2・・・


「おーい。いいのかな?こんな美少女を好き勝手できる機会なんてそうないんだぞ〜。」


 急に話しかけてきたせいでカウントがぐちゃぐちゃになったじゃないか。もう一回数え直すとするか。


 そもそもの話、助けて貰う立場のはずなのに偉そうなのがムカつく。そして事実として美少女であるのを否定しきれないのが怒りを増長させる。


 それでも、こんな世界で動けている貴重な人間だ。完全に無視を決め込むわけにはいかない。長い葛藤の末に俺はーー



「いや〜ありがとうね。助けてくれて。」


 た・す・け・て・し・ま・っ・た。猛烈に後悔が僕の心に押し寄せる。


 誰もが二度見をするような美少女のピンチを救い感謝される。ふむ、文字だけ並べれば小説の王道展開らしい悪くない響きではある。


 だが現実はピンチと言っても木にぶら下がっていただけだし、感謝の言葉も「〜」みたいなやる気のなさそうなのが入っているし真面目に言ってないことが一瞬で理解できる。


 どうやら、余裕があるようなので気になっていたあの奇行について問いを投げかける。


「ずっと気になっていたんだけど、何が原因で木にぶら下がっていたの?」


 あんなことを素でやるやつが存在するとは思えず何か深い返答が返ってくると思い、回答はこの時間停止空間に深く関わってくるという予想で問いを投げた。


しかし、帰ってきたのは最初見たときに彼女のことをまともなやつなはずが無いと考えた僕の思考を裏付けるように常識的にあり得ないであろうとてつもない変化球だった。


「理由?そんなもの単純だよ。そこにでっかい木があったから。登山家に山を登る理由を聞くなんて野暮なことをするべきじゃないよ」


 この女は一体何をほざいているのだろうか。でっかい木を見つけたからって登る?


 さらにはそのせいでぶら下がって動けなくなる?アホなのだろうか?バカと煙は高いところが好きというのは事実ということなのだろう。


「そうそう、私の名前は陽寺ひでら 沙津紀さつき。きみは?」


 僕からの視線を受けて辛くなってきたのか彼女はおもむろに話題を変えようとする。それでも聞かれた以上はちゃんと返したほうがいいだろう。


清谷きよたに のぞむ。」


「じゃあ、清谷くん?それとも望くん?君はどっちで呼ばれた方が嬉しい?」


 恐るべし陽キャと言ったところだろうか。僕がどれだけ無愛想にしてもちゃんと会話を続けられるとは。


 しかし、呼び方か…ぶっちゃけ清谷も望もそれなりに良さげな漢字を使ってるし別にこだわりはないのだが。


「何も言わないってことはどっちでも良いよね!というわけでよろしくね望!」


「待て待て!せめて僕の返事を待ってくれてもいいと思うんだけど?というかさっきは君付けで呼んでたのに一瞬で呼び捨てに変わってるし!」


 つい先程出されたばかりの前提を崩されてしまえば僕だって少しくらい呼び方に文句が出てきたりも・・・するか?いや、多分しないな。


「じゃあ、何か「これで呼んで欲しいな〜」って考えているこだわりでもあるの?ないでしょ!顔を見れば分かるもん」


 なんだコイツ、エスパーか?


 こうして君と出会い、何も起こらなかったこの世界で何にも勝る大きな変化が訪れた。

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