追憶〜ウィル〜
先も長いので、僕等は休憩を取ることにした。
ミリーナが興味津々で僕に話し掛けてきた。
「もふもふさんは、鏡の部屋で何を見たんですか?」
「鏡の部屋?あ、鏡みたいのがクルクル回ってた奴ね、あの時は、メグの偽装葬式を見させられたね。」
「偽装?」
「ああ、死んでないのに、葬式やるのは偽装だろ。」
「ま、確かに。」
メグがそこに入り込んで、
「そこで、大喧嘩して、出禁になっちゃったんだよ、面白いでしょ。」
と、はしゃいで言った。
僕は、メグを制しながら、
「ミリーナは、どうだったんだい?」
ミリーナの目が光った。かかったという感じなんだろう。
「私は、ウィルさんと一緒だったのて、ウィルさんの小さい頃から様子をずっと見てたんですよ。」
と、意気揚々と話してくれた。
頼んでもいないが、ミリーナはウィルの話をし始めた。
ウィルは、スラム街に捨てられていたという。
だから、両親が誰なのかもわからないらしい。
気がついた時には、人買い小屋に鎖をつけられ、売られてたということだ。
そんな、人買い小屋に一人の男がやってきた。
「だんな、どんなものをお探しですか?」
男は、鋭い目つきで、
「ヒューマンだ。」
ヒューマンは、人買いが扱ってはいけないことになっていたのて、人買いは、匂わす感じで、
「わたしはやってませんが、知り合いにはいますが紹介しますが…それなりに頂かないとむずかしいですよ。」
と人買いは、話を持ちかけた。
男は、考え込んで、
「こどもでもできるか?」
人買いは、顔を引き攣らせながら、「こどもが御所望ですか?」
内心、本物だなこいつ…と思いながら、
「大丈夫です。」
と応えた。
男と人買いは、2日後に町外れの空き家に、待ち合わせということで、一旦男は帰った。
人買いは、ウィルの目の前までくると、醜い顔で
「よかったな、お前の御主人様がみつかったぞ…ド変態だけどな。」
ウィルは、その言葉を聞いて寒気がした。
ウィルは何とかして逃げようと試みたが、鎖に繋がれているため、いづれも失敗してしまった。
町外れの空き家の一室に鎖に繋がれたまま、放置された。
男は時間通りに現れ、ウィルを見ると、冷たい目で、
「おい、特技は何だ。」
ウィルは、ぶっきらぼうに、
「盗みかな?」
と言った。
男は、鼻を鳴らし、
「ふん。今日からは辞めろ。今日からは俺の弟子になれ。いくぞ。」
男はスタスタ歩き始めた。
「いや、ちょっと、鎖を外してもらわないとうごけないよ。」
男はウィルを睨みつけ、
「こんなものも外せないのか、全く能無しだな。」
男はウィルの頭を掴み、
「いいか、全神経を集中して鎖を分子レベルまで分解するイメージを持って一気に爆発させろ!」
「分子?」
「いいから、細かく砕くイメージを持て!」
ウィルは、半信半疑で集中して言われた通りやったができなかった。
「できない。」
と、そう告げると、
「は?出来るまでやるんだ。」
ウィルは、ヤバい奴に買われたことをこの時悟った。
3日3晩不眠でやっているうちになんだか妙な感覚なり、頭の中に何やら力を感じる様になってそれを爆発させた。
見事に空き家毎吹き飛ばす結果になったが鎖は粉々に吹き飛んだ。
男は、ウィルの頭を叩いて、
「よくやった。やればできるじゃないか。」
最初の印象とは違い、すごい明るい青年に見えたが、多分まだ裏の変態の顔があるかもしれないとウィルは、警戒しながら男についていった。
男についていくと意外と大きい邸宅に連れていかれたのでびっくりした。
「え?貴族とかなの?」
男は苦笑いで、
「そんな大層なもんじゃない。ただの冒険者だよ。」
ウィルは、家を見て、
「冒険者って儲かるんだな。」
と、少し感動していた。
家の中には、使用人らしき者が2名、くつろいでいるバカ面が1名いた。
男は、くつろいでいるバカ面を紹介してくれた。
「コイツはキース。元弟子だ。」
「え?何だよ。元って今も弟子だろ。」
と、キースは、寝転びながら反論してきた。
「新しい弟子をとったから元弟子だ。」
キースは、ウィルをまじまじとみて、
「珍しいな弟子なんて、しかも女の子とは。」
「え?」
男はびっくりして、ウィルを見て
「女なのか?」
「そーだよ。知らなかったのか?」
男は、かなりショックを受けている様子だった。
ウィルは心配になって、
「女だとだめなのか?」
と男に聞いてみた。
「いや、そうじゃないんだけど、部屋改装しないとな。トイレも汚いから交換だ。後なんだろ…あ、ミリアさんわかるかな、手配よろしくね。」
男が使用人に頭を下げて頼んでいた、そんなことしなくて平気なのに。
「悪いけど、部屋は殺風景な部屋だけど勘弁してくれ。」
「え?私だけの部屋?」
ウィルはビックリした。
今まで、狭い牢獄のようなところで食事もろくに与えられずに生きてきたのに…こんなことって。
「そうそう。食べてなかったよね。たくさんたべよう。」
そう言われてついていくと、食べ切れない量の食事がテーブルに置かれていた。
食事を取りながら、男が謝った。
「すまなかったな。女の子ってわかってたらあんなに無茶させなかった、やりすぎだな。」
ウィルは男を見て、
「おっさん、気を遣いすぎだ。私は男になんかに負けない。」
「ははは。そうか、負けないか。よし、明日からお前をビシビシ鍛えてやる。そうだ、俺はおっさんじゃなくてミライっていう名だ。」
と、豪快に笑って言った。
ウィルは、あれ?と思った鍛えるって、あの鎖を壊したやつみたいのか?ひょっとしてミライって、
そういう奴を探してた?
「ミライ、ちょっと聞いていいか?」
「ん?なんだ?」
「お前、私を買った理由って、変態的なことをするためじゃなくて、弟子を探してたのか?」
ゴホ、ゴホ。
ミライが激しく噎せた。
「あっはっは。変態だってさ。そりゃー、ヒューマンの女の子を人買いから買うなんて、そう思われるよな、あー傑作だ。」
と、キースは腹を抱えて笑った。
「いらん心配をさせたようだな。あれは、違法な人買いの調査と解放だ。君は違法に捕らえられていただけなんだ。あの業者は明日に逮捕、捕らわれている者たちは即時解放だ。」
と、ミライは顔を引き締めて言った。
「変態じゃないんだ。良かった。」
ウィルは、ホッとしたのかそのまま寝てしまった。
ウィルが起きた時には、ミライもキースも起きていて、ミライは草花の手入れ、キースは昨日とおなじでゴロンと横になっている。
「やあ、おはようウィル。」
ミライ、爽やかすぎてちょっとウザい。
「お、おはよう。」
「朝御飯食べたら、特訓するよ。」
「特訓?」
「まずは君の特性を調べないとね、キースも来てくれ。」
キースは嫌そうな顔で、
「え?俺も?面倒くせーな。」
「はいはい。朝御飯食べよう。」
ミライは、張り切って朝御飯の準備を始めた。
いったい、ここの使用人はなにをやるんだろう。
朝御飯を食べたら、特訓が始まった。
「さあ、まず魔導士の白魔法行こうか?」
…。
「キース、どう思う?」
「並程度。」
「さあ、次魔導士の黒魔法行こうか?」
…。
「一通りは出来そうなんだけど魔力量と釣り合わないな。」
「キース、どう思う。」
「適性はあるが、ちょっと違うな。」
「次、暗黒魔法いくか。」
…。…。
ミライが、慌てて駆け寄った。
ウィルは、ミライが見せた暗黒魔法の魔力に当てられて失神してしまったようだ。
キースは、苦笑いして、
「弱点は暗黒魔法で決まり。」
ウィルは暫くして、復活して、続きをやったが、
神官術は適性なし。
剣士はそれなりだが、魔力量をかんがえると違う。
「う〜ん。まいったな。キース、他に何ある魔力量の強そうな奴。」
キースはちょっと考えて、
「こんな魔力量の奴みたことないが、ある血統でバケモノみたいな魔力量のアサシンがたまにいるときいたことがある。」
ミライは半笑いで
「アサシンか、ウィルっぽくて面白いね」
「じゃ、短刀を両手に持って、短刀に魔力を込めて溜めて爆発させる。いいかな?」
ウィルは頷いて、
「分かった。」
と、返事をした。
ウィルが魔力を注入し始めると、ミライとキースの顔色が変わった。
「ミライっ!これヤバいぞ!」
ミライが真剣な顔になり、巨大な防御結界を発動した。
「ふう。危なかったね、キース。」
「あんなのまともにくらったら死ぬわ。」
「アサシンだけど、ただのではなかったね。Masterクラスだ。」
「ミライ、とんでもないの拾ってきたな。」
ミライは倒れているウィルを見て、
「まず魔力制御をまず教えないと、だめだな。」
と呟いた。
ウィルは数時間、意識を取り戻した。
ウィルは部屋の中を見渡して、ミライをみつけると、
「ゴメン。次からはもっと上手くやる。」
ミライはちょっと難しい顔で、
「まず、制御出来なくてあーなったのか、意識してめいいっぱい出したのだけ教えて。」
ウィルは言いづらそうに、
「出来ないとここに入れなくなるから、次は絶対に倒れないから、上手くやるから…またあそこには戻りたくないから…見捨てないで欲しい…。」
とうつむいて絞り出す様に言った。
ミライは、ウィルの肩に手を置き、
「いいかい、ウィル?君が私を見捨てても、私が君を見捨てるなんてことは絶対にない。無理する必要はない、ゆっくり力を磨いて行こう。」
と、優しく言った。
ウィルは崩れる様に泣き出した。
話し続けたミリーナが、号泣して止まらないので、
僕は小休止する様に言った。
気が付くと、リリー、メグともに号泣してた。
「お前等、そんなに涙もろかったの?」
リリーが嗚咽しながら、
「お、お前、なんとも思わないのか?」
「いっ、いや。それなりだけど。ミライって。父さんだよね…意外と優しいんだね。そんなとこみたことないけどな。」
メグが涙を拭きながら、
「そんなことないよ。私にはウィルみたいな感じだったよ。」
へぇ〜。女には甘いんだな。
「じゃ、続きいくよ。」
ミリーナがようやく復帰したみたいで続きを話始めた。
ウィルは、毎日稽古をしてメキメキと力をつけていった。
ある朝、ミライが草花の手入れをしていると、
ウィルが、
「この植物あまりみたことないんだけど…。」
と、ミライに聞いてみた。
「それはそうだ。この世界には無いからな。」
「はい?」
ウィルは、ミライを見てコイツまた何を言うんだと思った。
「実は、俺はここじゃない別の世界で生まれて、その世界にはこの植物が沢山あるんだ。」
「この植物はなんていうの?」
ミライはニコッと笑って、
「ヒマワリっていうのさ。こいつはね、おひさまに向かってニコニコしながら咲くのさ。」
と、満面の笑みで言った。
「なんだか、ミライってヒマワリみたいだね。」
「俺は、ウィルにもそうしてもらいたい。」
ウィルは、冷たい顔をして、
「それは無理。」
と、その場を去り稽古し始めた。
ミライは、キースを呼んで、
「そろそろいいんじゃないかと思うよ。」
「確かにな、実力もついたし、じゃ声を掛けてみるよ。」
数日後、30前後の男が訪ねてきた。
ミライがウィルを呼んで、
「こちらが、アサシンの最高峰の方だ、腕を試してみないか?」
ウィルは、頷いて、
「分かった。」
と、言って外の稽古場に向かった。
「すみません。無愛想で。よろしくお願いします。」
「気にしなくて結構。」
と、男はウィルを追って稽古場に向かった。
キースが審判を務めることになった。
「では、始め。」
男は無数の分身を繰り出したが全てウィルに読まれ、ウィルの速度についていくことが出来ずに壁際に追い込まれ、死の幻を見せられ失神した。
ウィルは、ミライに向かって
「なんなんだ。弱過ぎる!」
と、怒鳴り散らした。
キースは、ウィルに、
「お前が特殊なの。アサシンって気づかれないように戦ったり、呪いをかけたりするんだよ。正面から行って力で、圧倒するなんてお前くらいだ。」
と、呆れて言った。
男が起き上がって、
「素晴らしい技だった。是非、我が家の跡を継がないか?」
と言った瞬間、男を殴りつけてミライに涙目で、
「私は、要らないということか?」
と、訴えてきた。
ミライは慌てて、
「そういうつもりじゃないけど、俺の何処にいても冒険者にしかなれないぞ。」
「それでいい。他には行きたくない。」
キースは、首を横に振って、
「勿体ないけどしょうがないな。」
キースが、男に頭を下げて、
「すみませんが、今回の件についてはなかったことにお願いします。」
「いや、負けは負けだ。これを譲ろう、アサシンMasterの称号だ。君が、相応しい。」
ウィルは、キョトンとして、その称号の指輪を受け取った。
キースは、ミライに耳打ちした。
「そろそろ、ケジメつけないとだめなんじゃないか。」
ミライは、難しい顔をして、
「ああ、そうだな。」
と言った。
次の日、ミライは、ウィルを近くの海辺まで連れて行った。
「あ〜、ウィル。前に話したと思うんだが、オレって異世界から来たっていったよな。」
ウィルは、ピクっと反応したが、平然を装って
「それがどうした。」
「突然、いなくなるかも知れないんだよ。」
ウィルは慌てて、
「いつだ。私も行く。」
ミライは、ニヤリと笑い
「嘘だ。」
ウィルは、顔を引き攣らせながら、
「殺すぞ。」
「俺な、お前とならずっと一緒にいたい。俺と一生一緒に居てくれるか?」
ウィルは赤くなって下を向いて
「わるくない。」
「え?」
「それでもわるくないって言ってるんだ!」
ミライは、笑って、
「ウィルらしいな。最高だ。ありがとう。幸せだ。」
ウィルは、下を向いたまま涙を堪えていた。
ここて、ミリーナが話を中断する。
「皆さん!どう思いますか?」
「え?なんで怒ってるの、いい話だと思うが…。」
と、僕が言うと、ミリーナが
「何なんですか、わるくないって?そりゃ、え?ってなりますよ。ミライさんだからいいですけど何なんですか!」
「いや〜、ウィルでしょ。僕は精いっぱい頑張ったと思うけどね。」
メグは、
「私もそういうのしたい。」
と、理由のわからんことを言い始めた。
リリーがミリーナに
「ウィルは、なんて?」
「ミライがそれでいいって言ったからいいんだって言ってましたけど。」
ジークが、
「ミライさんが幸せだって言うのが全てだよ。二人はそれで良かったのさ。」
と、頷きなから言った。
ミリーナは、ちょっと不満気に話のつづきを始めた。
キースが、
「新居じゃなくていいのか?」
「構わないよ。」
「俺は暫くギルドの仕事をするから、二人でよろしくやってなよ。」
と、笑いながらキースは去って行った。
二人は恐らく一生の中で一番穏やかで一番幸せな時を過ごした。
「ウィル、俺はね次生まれ変わっても君と一緒にいたいと思うよ。」
ウィルは、真っ赤な顔をして、
「バカじゃないの!」
と言って怒ってその場を去って、外にでて空を見上げて、
「私、こんなに幸せで大丈夫なの?」
と呟いた。
ある日、ミライが真剣な顔で、ウィルに話があると
呼んだ。
「今まで黙っていたんだが、俺は病に侵されてな…。」
ウィルは、絶望の淵に叩き落された。
「な、なんで。いつまで…生きれるの?」
半泣き状態でミライに聞いた。
「ん?いやいや、死ぬんじゃなくて、逆で死なない病なんだよ。」
ウィルは涙を拭き、怒りの形相に変わった。
「は?!死なない病?そういうのは病じゃね〜だろ!ふざけるな!」
そう言ったあと、ウィルはその場にすわり込んでしまった。
「ゴメン。ウィル、そんなに心配すると思わなくて。」
ウィルは首を横に振って、
「よかった。私より長く生きて、もう一人は無理だから。」
1年後、二人の間にはこどもが生まれ、名前をウィルがつけ、『もふもふ』と名付けた。
リリーが話を中断するさせた。
「は?『もふもふ』って本名?冗談キツイわ。」
「僕も、びっくり。ウィルって最初から僕のこと分かってたんだね。」
『もふもふ』が1歳の誕生日に悲劇は起きた、魔族の襲撃により『もふもふ』は拐われ、異世界へ連れ拐われた。
ウィルは悲しみのあまり泣き崩れていたが、
ミライが、
「俺が連れ戻す、ただ、時間がかかる。こどもは再び10年後、北の神殿近くの洞窟の前に獣人のこどもの姿で現れる、僕はすぐ帰ってくるが、魔族領にいかないといけない。君は10年後こどもと一緒に僕のところに来てくれ。」
と言って姿を消した。
ウィルは、10年間アサシンMasterとして技術を磨き、実力を蓄えて行った。
10年後、洞窟の前に獣人のこどもが洞窟の前で倒れた時は、その場で大号泣した。
「ナルホド。だいたい、今までの謎は解けたね」
と、僕が納得してると、メグが
「あ〜、ウィルが、うらやましい。すごいいい人生じゃん。」
と、僕をじ〜と見ている。
僕は、誤魔化す様に、
「父さん、なんで未来のことわかったんだろう。」
ミリーナが思い出したように、
「ミライさん、そういう人なんだって。」
僕は、半笑いで、
「そういう人って?」
リリーが間に入って、
「そういう能力がある人ってこと。でしょ?」
「そうなんです。そう言いたかったんです。」
メグが歩きながら、僕の方を見ながら
「いいな、ウィルは…、あんな風に思われてたなんて、私も思われたいな。」
全く、ミリーナがこんな話するから面倒なことになるじゃないか。
「ミリーナ、なんでこんな話したんだい?」
「だって、ウィルさんにずっと止められていたんですよ、もう喋りたくて。」
ミリーナに、秘密は喋れないな。
リリーが、
「ウィルは、本人に伝えなくて良かったのかな?」
と、もふもふの顔を覗きながら言った。
僕は首を横に振って、
「言うわけ無いよ。なんて、顔で言うのさ。僕だって言われてもどういう顔していいか分からない…でも、一言だけ欲しかったと思うだけさ。」
メグが横に来て、
「私は、ウィルに話したから後悔ないけどね。」
僕は青ざめた、こいつ何を言ったんだ。
「でもね、今度そんな口叩いたら、殺すって言われた。」
何言ったか知らないけど、本当に怖い物知らずだよなこいつ。
そんな下らないやり取りをしているうちに、底が見えてきた。
ジークの顔色がガラリと変わり、
「あの扉の向こうにいるぞ。魔王が。」
ジークの足が小刻みに震えているのがわかる。
魔力というか、なんだろうこの心が重くなる重圧、息苦しい。
メグが手を広げ、
「シルフ、瘴気を払って。」
少し楽になった。
「メグ、ありがとう。」
ジークが、
「ここからは、結界を張りながら進んだ方良さそうだ、体が持たない。」
僕は頷いて、物理、魔法結界を発動し、メグにその中で瘴気を浄化してもらった。
扉の前まで来ると、聞き覚えのある声がした。
「ようやく来たか、バカ息子よ。」
紛れもなく、父さんの声だ。
「ああ、父さんの恥ずかしい話をいっぱい聞いたところだ。」
扉の向こうでは、激しく動揺したようで、大きな物音が聞こえた。
仕切り直した、父さんが、
「覚悟はできているか?」
「無論だ、母さんのウィルの魂もここにいる。」
扉がガラガラ開き始めた。
そこには、号泣している、父の姿とそれに呆れ果てている魔王の姿が、あった。
僕は、久しぶりに会った父に
「一つ聞いていいか?なんで号泣なんだ。」
父は悔しそうに、
「ウィルの魂がなんでお前と一緒にいるんだよ!」
一同無言になり、
「糞じじい、単なる言葉のあやだ、気にするな。」
メグが、追い打ちをかけるように、
「でもね、おじさん。ウィルの最期はもふもふのことしか言ってなかったよ、おじさんのことは何にも言ってなかったよ。」
ミライは、
「そうだろ、亡くなる時に最期に僕につたえたのも、素敵なパートナーが息子にできて安心したってそれだけだよ。あんまりじゃないか。」
と言って、地面を叩いて号泣した。
半面メグは、凄いよろこんでいたが…。
魔王が立ち上がり、こちらに歩き始めた。
周囲の雰囲気が一気に変わり一同の緊張感が最高潮に達した。