5 暴言と暴行にまみれた半生 3
戦闘に直接関係のない魅力。
貴重なレベル上昇での成長で、これを上げる。
正気の沙汰ではないだろう。
だが、ヒロハルの場合はこうせねばならない現実があった。
魅力の低さが他人からの嘲りと暴行を呼ぶ。
迷宮に来てからもこれは変わらない。
迷宮の前に出来上がった探索者の町で、ヒロハルは相変わらず命に危機に陥っていた。
周りの探索者や街の住人が隠すことのない敵意を向けてくるのだ。
店では値段を吊り上げられ。
場合によって販売拒否されて。
宿も寝泊りする場所を探すのが難しい。
料理屋で出された食事に生ごみが入っていたりいった事は日常の一コマだった。
そんなヒロハルの生活費は、他の探索者の5割増しなのが基本だ。
最低でもだ。
たいていの場合、値段が2倍になる事も珍しくない。
住民たちからの暴行も加えられる。
擦れ違いざまに殴られたり蹴られるのは当たり前。
むかつく、ただこれだけの理由で剣や槍や斧を握った連中に追いかけられたり。
投げナイフや弓矢で射殺されそうになったり。
魔術の実験と言われて、霊気が変化した火炎や石礫が投げつけられる事もある。
とにかく普通に生活する事ができない。
それもこれも、魅力の低さが原因だった。
「気に食わない」
ただこれだけで暴行が加えられる。
いや、殺害対象になっている。
不細工に人権はない。
なので、どうしても魅力が必要だった。
せめて人並みに生きていくために。
人並みの扱いを受けるために。
特別な待遇が欲しいわけではない。
人間として当たり前の生活がしたいのだ。
人気者になりたいわけではない。
そのための、こんな状況から抜け出すための魅力である。
苦労してレベルを上げて、迷宮での探索を順調にこなす。
こんな普通をヒロハルは望めない。
まず、それ以前の段階を越えねばならないのだ。
低い能力値のせいで、怪物退治もままならず。
ようやく倒して手に入れた経験値は普通の探索者よりも少なく。
そんな経験値を積み重ねてレベルを上げて手に入れるのは、戦闘に役立たない魅力である。
こんな現状にヒロハルは何度も泣いた。
ゲームでの魅力も、そう必要な能力値ではなかった。
なにせ、戦闘にほとんど絡まない。
単純な戦闘力を上げるなら、他の能力値を伸ばした方が良い。
直接的な戦闘力なら、体力と敏捷を。
魔術を使うなら、知恵と意思を。
魅力がこれらに関わることはほとんどない。
魅力をあげて変わるのは、NPCの反応くらいなもの。
あとは、装備品や消耗品、宿泊費がいくらか割り引かれる程度でしかない。
これとて、ゲーム後半では気にする必要がなくなる。
店で売ってる装備品は後半では使えないから購入する必要がない。
それに、強くなっていれば金だって大量に持っている。
わざわざ値段の割引を気にしないで済むほどに。
なので、魅力は最低値の5点でもかまわなかった。
ゲームならば。
だが、実際に現実としてRPG世界を生きてみると、そんな生易しいものではなかった。
魅力がない人間は周りから自動的に憎まれる。
殺してもかまわないと思われるほどに。
これをある程度は上げないと生きていけない。
周りの連中が本当に殺しにかかってくる。
怪物以前に人類が、社会全体が敵にまわる。
なにげない町が危険な戦場になる。
どこもかしこも迷宮内になる。
この事をヒロハルは我が身を以て学んだ。
だから、なんとしても魅力を上げる必要があった。
とはいえ、どこまで上げれば良いのか分からない。
せめて殺されないように。
そして、蔑まれたり暴言を吐かれないように。
そうなるためにはどれだけ魅力を上げれば良いのか?
分からないから、ただただ魅力を成長させ続けた。
その結果が今である。