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第一章 第四話 『素質はない』

狼ちゃんと神也君はちょっと似ています。

「パートナー?」


 狼の耳を持つ少女は首をかしげた。

 さきほどまでの殺気はすでに消えており、純粋に悩んでいるようだった。


「この街を出るために必要なんだ。俺ってほら、見た目こんな弱そうじゃん? だからギルドでも相手にしてもらえなくてさ。よければパートナーになってくれないかなってー」


 俺も実際何を言っているのか分からない。

 でも何かここで失敗するともうパートナーは見つからないような気がした。


「私は……鎖に繋がれているから」


 少女は戸惑いながら、哀しそうにうつむいた。


「そんな鎖、俺が何とかしてやるよ」


 俺は笑いながら少女に近づく。

 出来なくても、やってやろうと思う。

 もう後戻りはできない、と俺は思ったのだが。


「近づかないで」


 少女の声によって止められる。

 いつの間にか、さきほどの男達と同じように首元まで氷の針が迫っていた。


「今までにも何人か、私の鎖を外そうと言ってくれた冒険者がいた。でも彼らには鎖を外す力など持ってなかった。それは私に近づく為だけの口実だったの」

「お前……」


 俺は冷水でも浴びせられたように覚醒した。

 そうだ。

 今までこんな強い美少女をパートナーにしようとした奴はいたはずなんだ。

 忘れていた。


「私の母は伝説の【氷狼】でね。神に匹敵するほどの力を持っていたの。そして、この世界は力こそが全て。全てを統べるためには力がいるから。ねぇ、あなたはこれが何を意味するか分かる?」

「……そりゃお前の母の取り合いになるだろうな。そんなに強いんなら味方につけたらかなりの戦力になるだろうし」


 神に匹敵する力というからには相当強いんだろうと俺は思う。

 だが、兄貴よりは弱いと思える。

 兄貴は神をねじ伏せる程の力を持っているらしいからな。


「母は結局、どこの組織にも属さなかった。でも母がどこかに雇われるのを恐れた組織はある日、私を人質にして母をおびき出した」

「…………」


「私が人質じゃなかったら勝てたはずの戦いだったのにね。10人や20人、一瞬で片がつくはずだったのに私の所為で抵抗できずに殺された」

「じゃあ、お前がここにいるのは……」


「その後、私は捕らえられた。そりゃ伝説の【氷狼】の血を受け継いでいる子だもん。危険因子を放って置くわけにはいけないし」


 何かこいつ、俺より重い過去を背負っている気がする。

 嘘ついているようには見えないしな……。


「お前、それでここに繋がれていたのか」

「……この鎖には魔法に対する対策が施されていて、魔法では傷1つすらつけられないの」


 魔法、この世界にはそれが存在していた。

 確か素質があるものなら誰でも使えるっていうやつだ。

 残念ながら俺に素質はないようだが。


「今まで私を助けようとした冒険者の中でも鎖に傷をつけることが出来た奴は1人もいない」


「あの2年前から私は……そしてこれからも繋がれたまま……」


 彼女の目から1粒の涙が零れ落ちた。

 絶対に抗えない現実への悲哀だろうか。

 自分の力でも他人の力でも解けない鎖……。

 全ての魔法が効かない絶対的な鎖……。


 ……全ての魔法が効かない(,,,,,,,,,,)


 俺は紋章の刻み込まれた右手を見る。

 魔法は使えないが、絶対的な力を引き出す紋章。

 俺は確信する。


「なんだ。やっぱりいけるじゃんか」


 俺は首元に迫っていた氷の針を右手で砕く。

 身体能力の大幅な底上げとか言っていたが、やはり一番能力的に上がっていたのは攻撃力だ。

 岩でも軽く壊せるこの力ならたぶん破壊は可能だ。


「……近づかないで」


 またも少女が牽制の為の氷の針が俺に迫る。

 今度は右足で根元から破壊した。


 俺は2歩、3歩と少女との距離をつめる。

 そして俺の右手が鎖に触れようとしたその時。

 

 3方向から一気に氷の針が飛び出した。

 やはりそれらは俺の首筋ギリギリで止まる。


 恐らく俺がこのまま鎖を壊そうとすると彼女は俺を殺すだろう。

 自分の運命に抗うのをやめて、彼女は罪を重ねるだろう。

 誰かが希望を与え、その希望はすぐに朽ち果てる。

 希望は絶望へと変わり、孤独な狼は抵抗をやめる。


 俺は絶望からの脱出方法を知っていた。

 かつて兄貴が俺を絶望から救い出してくれたから。

 今度は俺が兄貴に代わって救い出す側に立つ。


「殺したいんなら今すぐ殺せよ。俺は絶対にお前を裏切らない、絶対に絶望から救い出してやる。こんな狭い牢獄なんか俺の手でぶち壊してやるから」


「…………」

 

 少女は何か短い言葉を発した。

 神也を狙う氷の針が瞬く間に地面に溶ける。


 俺はそれを確認すると目の前の鎖に手を掛け、そのまま引き千切った。

 バギン、という金属音が響き、少女を絶望に閉じ込めていた鎖が壊れる。


 握っていた鎖の片割れを適当な場所に放り投げると、俺は下に座り込んでいる少女に手を差し伸べた。


「俺のパートナーになってくれないか?」


 

 少女は頬を伝う涙を服の袖で拭うとコクン、とうなずいた。

 

 


 

予想通りな展開でしたねー。

ま、パートナーが出来たんで物語はやっと「外」へと突入しますよ^^

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