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第一章 第三話 『鎖に繋がれた狼』

神也君はこのままでも充分強いです。

 俺は今、現在ギルドにいる。

 周りにはなんかドワーフみたいにゴツイ人や剣を研いでいる人などがいた。

 いずれにせよ彼らは何らかの防具を装備していて、

 私服の俺はかなり浮いている。

 本当に、場違いなぐらいのKY野郎に見えるほど俺は浮いている。

 とりあえず受付に言ってパートナーを見つけたいんですけど、と言ったらいきなり周りの奴らに笑われた上、リストに出されたのはデブで調子乗ってそうな少年だった。

 俺、なめられすぎじゃね?



△▼△▼△▼△▼



「確かに、こんな私服のガキがいきなり来られても困るだろーがよぉ」


 俺は道端に転がっている石ころを蹴り飛ばしながら呟いた。

 石ころは軽く蹴飛ばされただけにもかかわらず十数メートル先まで飛んでいく。

 まぁそんなことはどうでもいい。

 何故、ギルドの外にいるかって?

 そりゃ、居心地最悪だったからだよ。

 周りの奴らは大爆笑、受付の人も失笑。

 店の物でも壊せば証明できたかもしれないが生憎、弁償できる金は1円たりとも持ってないんでね。

 そもそもこの世界の通貨は円じゃないか。


 あの場で自分の力を証明できる術がなかったってことは俺は何だろう。

 デブ少年とでもペア組んどけってことか?

 神様の悪戯にしても酷すぎると思うんだが。

 

 恐らくここからもう一度ギルドに戻っても笑い者にされるだけだろう。

 別にギルドで探さなくてもこの街でパートナーを見つけ出せばいいだけだ。

 外なら壊していいモノはいっぱいあるしな。

 そこらへんの岩でも壊せばパートナー志望者が現れるはず。

 もっとも、俺が望むのは美少女だが。



 ~3時間後~



「あーもう! 何でみんな避けるんだよ!」


 俺はパートナーを見つけることはなく、やはり1人だった。

 正確に言うと何人かは岩を素手で砕く俺に興味を持ってやってきたのだが、ことごとく美少女とはかけ離れた存在だったので追い払ってやった。

 つか、本当に素手で岩を砕けるとは思わなかったんだけど。

 絶大的な攻撃力は伊達じゃないな。

 封印が解ければもっとすごいんだろうけど。

 

 いつしか日は沈みかかっていた。

 空の色で表すと夕焼けの朱色と夜の青の間ぐらい。

 こんな時間になると宿屋か何かに泊まろうとするリッチな奴がチラホラと出てくる。

 俺は金が無い=宿屋に泊まれない=野宿

 変な等式が頭の中で浮び上がってきた。

 しかも丁度いい具合に俺の真横には木々に囲まれた草原があるという。


「………………」


 俺は悟ったように草原へと足を運ばせた。

 本気で野宿しようかな、とか考えていたのだが、木々の隙間に見えたそれを見た瞬間にその考えは吹き飛んだ。

 俺が見つめる先には鉄柱に身を預けるようにして眠っている少女がいる。

 獣人───とでも言うべきだろうか、彼女の頭には何らかの動物の耳がついていた。

 歳はおそらく14か15だろう。

 俺の美少女センサーが反応する。

 この反応……間違いない、あの娘は美少女だ。


 木々の間を通り抜け、俺は少女の元へと向かおうとする。

 しかし、後十メートルぐらいの所で俺の足は止まった。


 不意に彼女の近くに男達が現れたのだ。

 数にすると3人。

 見た目は全員戦士だ。


「しっかし、これが噂の〔鎖に繋がれた狼〕かよ。ほとんど人間だって聞いていたがこりゃロリじゃねぇか。俺は熟したほうが好みだっつぅのによお」


 男の1人が前に出て少女の顔をまじまじと見つめる。

 聞いて初めてわかったが、鉄柱から伸びている鎖で彼女の両手は封じられていた。

 狼というのはあの耳のことだろうか。


「ボスの好みじゃないっつーと、こいつどうします?」

「どうせ、鎖に繋がれていて何も出来やしねぇ。てめぇらで好きにしやがれ」

「うっひょぉう、まってましたボス!」


 歓喜の声を上げる男の仲間の1人。

 それを見たもうひとりの方が、


「このロリコンが」


 と、小声で言っていたが男の仲間Aには聞こえなかったようだ。

 彼はボスの横を通り抜け、少女の体へと触れようとする。

 

 あれ? これなんかまずい展開じゃね?

 助けに行ったほうが良いよね?


 そこまできてやっと事の展開に気付いた俺は全速力で少女の下へと駆け寄る。

 ────が、男の指はすでに少女の体に触れようとしており、どう考えても間に合わない。

 ……はずだった。


 男の指は少女に触れる直前で止まっていた。

 原因は草原から飛び出た氷の針だ。

 針は男の腹に深く突き刺さっている。

 男は音も無く倒れた。

 眠っていたはずの少女の目はいつの間にか開いている。

 そして、残された男達に目を向け。


「あなた達は命が惜しい?」


 刹那、男達の首元直前まで氷の針が迫っていた。

 男達の顔が急激に青ざめる。


「……っちぃ! ずらかるぞ!」


 瞬く間に男達は俺の視界から消える。

 残されたのは俺だけ……って残虐美少女がこっちを見ている!?

 やべ、俺も狙われるかも。

 反射的に顔をかばうように腕を組むがいつまで経っても氷の針は来ない。

 俺は少し安心して顔を上げる。


「あなたは私にとって邪魔な人間?」


 安心したのは無駄だったようだ。

 だが、さっきの男達と同類にされていないだけ幸運だろう。

 俺はそう、自分に言い聞かせ言い放った。


「俺はただの通りすがりの心優しい冒険者だ。単刀直入に言う、君をパートナーにしたい」

 

 


 

狼ちゃんは容赦しません。

今の段階では神也君より強いよー。

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