第二章 第三話 『剛風VS土虎』
ひっさしぶりー。
爆音は近い距離から聴こえていた。
当然、これは俺達を歓迎しているようなものではないだろう。
と、なると。
「戦闘が起こっている、あまり平和な街じゃなさそうだな」
「休憩はできそうにないのかなー……」
ぐったりとした様子なクオリナ。
ただでさえ氷属性な彼女はさっきの猛暑とサボテンへの暴行で疲労していた。
「……まぁすることもないんだし、ちょっくら戦闘を見に行ってから宿屋にでも行かね?」
─+×+─
爆音の発生地では戦闘が行われていた。
「あぁ? その程度か?」
大地が盛り上がり、柱のように飛び出したそれは各方位から一直線に標的へと向かう。
逃げられる隙間はほとんど無い。
だが。
「うおあぁぁァッ!!」
ズオオオオオオオオッ、と剛風が標的の周りを取り囲む。
剛風を纏った標的は柱がぶち当たる直前に、風を解放した。
溜め込んでいた力が解き放たれ、
「な……ッ!!?」
「舐めてんじゃねぇよ、下っ端」
解放された風は柱を一本残らず消し飛ばした。
さらに柱は大地の破片となって男に襲う。
だがそれは男の目の前で粉末になり、土へと還った。
「……はッその程度かσ君ッ!!」
「そのくせ息上がってんじゃねぇかロッジェさんよぉ」
「何故私の名を……ッ!?」
はッ、と鼻で笑い、シグマはロッジェに向けて右手を上げる。
そして手に持っていたものを見せた。
「それはIDカードッ! テメェいつの間に!?」
ロッジェはすぐさまそれが本来あったはずのコートの内側ポケットを見る。
(底が……切り裂かれているッ?)
「とりあえずコイツさえありゃ『神無き世界』とやらに入れるんだよな? ありがたくもらっておくぜ」
「ざけんじゃねェッ!! 早く返さねぇと肉塊にするぞッ!!」
瞬間。
ロッジェの周りの大地が震えだした。
徐々に大地が持ち上がり、やがて1つの形を作り出していく。
「……虎か」
まさしくそれは虎だった。
大地で形成された虎、けれどその体長は10m程もある。
シグマは特に焦る様子もなくそれを見つめる。
「余裕こいてんじゃねぇぞォォッ!!」
10m程もある巨大な土の塊がシグマへと襲い掛かる。
シグマは特に動こうとせず、大地で形成された虎の口が彼を飲み込んだ。
静寂。
イラツキで少し我を忘れていたロッジェはやがて自らの失態に気付いた。
「まいったな……これじゃ私のIDカードまで消えてしまったじゃないか。いや、どうせ上層部に頼めば数日で手に入れる事ができるか、まぁ再発行されるまでの間は面倒なわけだが」
そういって彼は土塊の近くへと歩いていく。
一応の死体確認とIDカードが運よく見つかるかもしれないからだ。
ロッジェは右手を土塊に付け、大地を操……、
ズガオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!!!
鼓膜が破けるかのような爆音が鳴り響いた。
発生源は土塊。
これはロッジェによるものではなかった。
ならば。
(まさか……あの攻撃で死なないっていうのかッ?)
中心部から粉々に破壊されたそれはもはや虎の形を保っていない。
そしてその中から出てきたのは。
「バーカ、余裕こいてんのはそっちじゃねぇか。浮かれてる暇があるんだったら俺が生きてる可能性を考慮して逃げときゃ良かったものをよ」
無傷のシグマだった。
「…………は、は」
「まったくこれがテメェの全力かよ。こりゃ俺が本気だすまでもねぇよなぁ」
本気だすまでもない。
ならばさきほどまでの戦いは全て手を抜いていたとでもいうのか。
ロッジェの額から汗が流れる。
逃げよう。
本能は告げている。
こんな奴に敵うわけが無い、と。
だが、足はもつれて上手く動かなかった。
(ならばせめてものガードをッ!!!)
必死に土壁を前に展開させる。
「さぁて、遊びが終わったらお昼寝の時間だぜぇ」
シグマの両手から生み出された烈風は槍をかたどり、
土壁を貫き、
ロッジェをも貫通した。
バシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ
ロッジェが倒れていく様を見てシグマはぽつりと、
「IDカードを奪った時点でもうテメェに用はねぇんだよ」
そういって路上を去ろうとする。
と、そこでリズリーが待っていたことに気付き、彼女を呼び戻そうと後ろを振り返り、
奥に見知った顔つきの男とそのパートナーがいるのに気がついた。
水泳の授業で精神的に死にそうです。