第一章 第九話 『相性悪い……』
戦いって書いてて楽しいですよね。
爆炎の中から出てきた男はそのまま怪しげな男に向かい歩き出す。
体格はやや細身で、強気な口調とは対極的な位置にいるように見える。
「デュアラ……」
ポツリ、と男が呟いた。
その名前の主が笑みを漏らす。
「おォ、俺の名前を知ってるとは、ずいぶん知れ渡っちまったなァ」
その名前を聞き、周りの客がざわざわと騒ぎ始めた。
嘘だろ、ついにここにも……? など様々な言葉が飛び交う。
デュアラと呼ばれた爆発を起こした張本人はそれらの言葉を受け流しながら。
「そォだよ、俺が新人潰しで有名なデュアラ様だよォ」
新人潰し。
俺はその言葉に少し危機感を覚えた。
デュアラはそのまま男の前まで歩くと、いきなり胸倉を掴み上げた。
「ぐぁ……」
男が小さく呻く。
「ギルドに登録してから6日で《神の塔》に行くための資格を手に入れた強さは認めてやるよ。だが《神の塔》をこの町で最初に攻略するのは俺だァ。誰も先に行かせるわけにはいかねェんだよ。今の俺にはパートナーがいねェしなァ。パートナーが見つかるまでの間は誰も行かせねェ……」
デュアラの右手に燃え盛る炎が灯される。
おそらくはこの場で消し炭にする気なのだろう。
何とかして止めたいが、あまりにも唐突な出来事に体が反応してくれない。
俺は自分の行動力の無さに悲観しながらその行く先を見る。
「そんなわけでさらばだァ、ジーニス=ローウィラン」
「…………ッ!」
勢いよく右手が振り下ろされる。
手に灯された炎が大きく弧を描き、目の前の男を焼き尽くす。
ジュゥ、と物体が溶けるような音が聞こえた。
瞬間的に俺は目を瞑っていたのでその時、どのような事が起きたかは分からない。
だが俺が目を開けた時、デュアラの炎は氷の壁によって防がれていた。
誰が? どうやって?
「…………チッ」
デュアラは忌々しそうに突如出現した氷の壁を、右手の炎を振り回して溶かす。
そして一度だけ周りを見渡すと。
「……氷の壁か。粋な真似してくれるじゃねェかお嬢ちゃんよォ」
俺はハッとして横にいるクオリナを見る。
デュアラの目が彼女に向いているような気がしたからだ。
そして、彼女は現に『氷』を操る事ができる。
「罪の無い者に手を出さないでくれる?」
クオリナは床から数本の氷の針を出現させ、デュアラに突きつける。
彼女の声には強い意志と、少しの怯えが混じっていた。
デュアラはそれを読み取り、
「そうか、人が目の前で死んでいくのは嫌なんだなァ?」
憎たらしい笑みを浮べ、炎を灯していない右足でジーニスを蹴り飛ばす。
最早、用無しとでも言いたそうな顔でデュアラは瞬間的に両手に炎を灯した。
「だったらお嬢ちゃんから殺してやるよォ。その狼耳には心当たりがあるからなァ……。後々厄介になる前に葬ったほうが楽ってもんだァァ!!」
デュアラの両手から50センチ弱の火の玉が生み出される。
直後、火の玉は俺達に向かって振り飛ばされた。
「……ッ!!」
ようやく動くようになった足で俺とクオリナは隣の座席に飛び込んだ。
さっきまでいた座席が勢いよく燃える。
テーブルに倒れていたパフェは無残にも溶けていた。
「なんつー威力だよ……」
俺は思わず呟く。
魔法って凶悪だな……。
「もしかしてお嬢ちゃんの横にいる奴ってパートナーかァ? 羨ましいなァ、俺にもパートナーを分けてくれよォ」
ボオォォ、とデュアラの右手に灯されている炎が不意に剣を形作った。
そしてそのままこちらに……駆け抜けてくる!?
避けようとするが座席の位置が悪く、隣は壁になっていた。
もう隣の座席に逃げ込むことは出来ない。
元々、俺達の席と入り口が結構近かった所為か、すでに剣はすぐそこまで迫っている。
「カミヤ! 下がって!」
唐突にクオリナが両手を前に突き出した。
言われたまま俺は後ろに飛び退く。
すると次の瞬間、俺のいた場所にさっきの3倍の大きさはあるであろう氷の盾が出現した。
「小賢しい真似をするなァ。でもよォ、炎が氷を溶かせないと思うかァ?」
ザシュゥゥゥゥ。
炎剣は氷の盾をいとも容易く貫き、クオリナの頬を掠めた。
それに続けるようにして、炎剣は貫きの動作をやめ、横薙ぎの姿勢に入った。
これは……マズいッ!
「終わりだァ」
デュアラは横薙ぎに炎剣を振り払った。
濡れた紙を引き裂くように簡単に氷の壁は溶け、クオリナを真っ二つに切断───
───する前にギリギリ彼女を抱き抱えるようにして炎剣から逃れる。
「はぁ……はぁ……危ねぇ」
俺は彼女を抱え、テーブルが少ないエリアまで駆け抜けた。
とりあえず、ピンチを乗り越えただけでも良しとするか……。
「さて、ここからどうするか……」
「カミヤ……」
クオリナが怯えたように呟いた。
彼女の頬からは血が垂れ、火傷も負っていた。
「ごめん……あいつと相性最悪だったのに喧嘩吹っかけるような真似をして……」
「…………大丈夫だ。俺もたぶん同じことをしようとしていた」
結局出来なかったけどな、とそれは心の中で呟き、俺は迫ってくる男を見つめた。
最初と違って体は自由に動く。
俺は怒りを言葉に乗せ、右拳を強く握り締めた。
「デュアラ……てめぇ、人のパートナーを傷つけておいてタダで帰れると思うなよ」
この世界に来て、俺の初めての戦闘が始まった。
ついに神也の戦闘が始まる……ッ!!
炎を操るデュアラを相手に神也に勝ち目はあるのか……!?
次回をお楽しみにー。