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『ドラゴンズ・ディザイア』:龍の友人は龍を殺し涙する  作者: わじゅ
一章 闘争の果てに求むる願いは
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8話 さあ、覚悟を決める時が来た

 キョウカの言葉に、闘争の龍(ストライフ)は返事を返さない。

 水晶の如き異質な肉体はピクリとも動かず、随分と無機的だ。

 

 もしかしたら意識というものがないのかもしれない。

 やはり対話なんて無理なのだろうか?

 そう諦めかけた時。冷たい声が降ってきた。


『何の用だい。闘志を忘れてしまった人間達に今更興味なんて無いんだけど』

 キョウカは目を見開いた。こちらの言葉を理解し、真っ当に返答してきたのだ。


「私の言葉が判るのですか!」

『うるさいな。当たり前だろう?』

 思わず高揚するキョウカに対し、水晶の龍は煩わしそうに答える。キョウカはハッと己を諫めた。相手は人智を超えた怪物だ。迂闊に機嫌を損ねる訳にはいかない。  


「すみません。興奮してしまって」

『騒ぎ立てるだけなら目障りだよ。早く失せな』

「待って下さい。私は、貴方と――話がしたいんです」

『話? キミはそんな事の為だけにボクの前に現れたのかい?』

 龍はどこか驚いたような、呆れたような、僅かに抑揚のある声色言う。


「はい」

『……ふ~ん』

 つまらなさそうに、龍は首をもたげる。


 しかし、


『退屈なんだ。ちょっとだけなら答えてあげる』

 対話に肯定的な言葉を示し、キョウカは思わず目を見開いた。


「あ、ありがとうございます!」

『で、話ってなにさ』

「……」

 そうやっていざ迫られると、次の言葉が出てこない。龍相手に、どのように切り出したものかキョウカは迷った。けれど、ここまでのやりとりから感じるに闘争の龍(ストライフ)は人間に敵意を持っている様に感じられない。


 ここは、あえて単刀直入に尋ねてみる事にした。

「貴方はどうして他の龍や人間を襲うのですか?」

『そんなの、戦う為に決まってる』

「すみません、聞き方を変えます。――貴方は何故、戦うのですか?」

 闘争の龍(ストライフ)は考える間もとらず言葉を返した。


『それが、ボクの〝生きている意味〟だからだよ』


 その言葉がどれ程の意味を持っているのか、この時のキョウカには判らなかった。

『戦い続ける事がボクの望み。ボクの願い。ボクがボクである証だ。戦っている時だけボクの心は満たされる。だから戦うんだ』

 ただ、与えられた言葉の通りの解釈をする。


 闘争の龍(ストライフ)にとって、戦いこそが生きている意味、存在の理由。闘争の化身と呼ばれ恐れられている存在だ。当然と言われれば当然の答えだ。しかし。もしそうならば……根底から人間とは理解し合えない。


 人間は何かを護る為や奪う為に、あるいは己の理解の及ばぬ者を排除する為など、何か理由を持って戦うものだ。しかし、この龍は違う。戦いに理由など無い。戦う事そのものが戦う理由だと言っているのだ。


「……そう、ですか」

 元より『戦いを止めて下さい』なんて懇願して万事解決、だなんて甘い事は考えてはいなかったが、やはり根本的な種族差を感じて落胆を拭えない。


『話ってそれだけかい? なら、やっぱりつまらなかったな』

 闘争の龍(ストライフ)はその水晶質の首を気怠げに持ち上げ、大きく口を開いた。やがて、言葉として成り立たない声を上げる。どうやらキョウカへの興味を失ったらしい。


 このままでは何の実りも無く対話が終わってしまう。


 さあ、覚悟を決める時が来た。


 ここから先の発言次第で、きっとキョウカの運命は決まる。


 一言一言が己の命、定めを賭けた選択枝となるだろう。

 

 ――けれど、そんな事はどうだって良い。

 

 もう、後には引けない。 

 

 ――例え今この場で殺されてしまうとしても……構うものか!!

 

 自分がこの世界に生まれ落ちた意味を、生きた証を見つけるために、キョウカは一歩踏み込んだ。人間という枠組みの及ばぬ領域――龍の土俵へ。


「もしも。私が貴方と戦いたいと言えば、貴方は取り合ってくれるでしょうか?」 

 対等に話し合うには、同じ目線に立つ必要がある。戦いが全てだと言うこの存在と向き合うには、やはり己も戦いに身を投じるしかない。


 闘争の龍(ストライフ)はキョウカの言葉を聞いた途端にその気配を変えた。


 鎮座しているだけで漂っていた威圧感は、鋭さを孕む殺気へと変貌する。

 瞳には爛々と輝く闘志の炎が宿る。


『キミが、ボクと?』

 しかし、その声色は訝しげだ。


『ボクも伊達に長生きしてる訳じゃ無い。キミが戦いの素人だって事くらい判るんだよ』

 筋肉の付き方。歩行の癖。装備の損傷。キョウカのそのどれもが決して『戦士』のそれではない事は、簡単に判った。このまま戦いを始めても、一瞬で決着がついてしまう。


 いくら戦いを求めていても――いや、戦いを求めるからこそ、そんなつまらない結果は望んでいない。けれど。今、ほんの一瞬だけこの人間から感じた魂の『重み』。強い意志、生命の重圧が闘争本能を刺激する。戦いへの渇望はとどまる事を知らずに疼き出す。


 闘争の龍(ストライフ)は惹かれていた。だからこそ、キョウカの次の言葉を待つ。


「確かにその通りです。今の私では、勝負にもならないでしょう」

『じゃあどうするんだっていうのさ。虚言に付き合ってやる義理なんて無いよ』


 キョウカは静かに膝をつき、闘争の龍(ストライフ)に頭を下げた。

「――どうか、私に戦い方を教えて下さい」


 その言葉は闘争の龍(ストライフ)にとって、あまりにも意外なものだった。


 首がずいっと下ろされる。瞳がキョウカのすぐ目の前で大きく開かれる。

『ボクから戦いを教わるだって?』

「はい。今はまだ、無力な人間でしかありません。けれど、必ず強くなってみせます。貴方を満足させられるほどの強者に、なってみせます」

『――クク、あはははは!!』

 闘争の龍(ストライフ)はケラケラと幼い少女の様に笑う。


『そうか。そういう事か。その発想は無かったな……』

 ずっと、己の闘争心を満たしてくれる強者を求めていた。けれどそんな存在は見つからず、渇いた日々を過ごしていた。その一つの答えが示された様だった。


『ボク自身が強敵を育むのか。それも、面白いかもしれない』

 その言葉に、キョウカは心の中で拳を握り込んだ。


 ――乗ってくれた。これでひとまずは、狙い通り……。

 あくまでただの人間に過ぎない自分に何処まで出来るのかは判らない。しかし、今まで誰も行おうともしなかった事に挑戦してみてこそ、新しい情報が得られる筈だ。


 これが、キョウカの〝英雄〟としての第一歩だった。

 そして、やや離れた大木の枝に腰掛け。遠目にその様子を見守る人影が一つあった。


「……龍に歩み寄る、か」

 呆れるでも、心配するでも無く、ハオはただ真っ直ぐにキョウカの姿を見つめていた。


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