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最終話 龍達に捧げる、供花

 黒い闇に閉ざされていた空から、光の梯子が降りてくる。

 天高く昇った太陽と、暗闇を振り払い青く澄み切った色に染まる空。

 

 ケイオスの遺体は消え去りキョウカは呆然と、ただその美しい景色に見とれていた。

 視線を降らせば、鮮やかな緑の大地が広がっている。

 

 岩山の無骨な鈍色すら陽の光に照らされて輝いて見える。

 

 ――ああ。これが、世界の本当の姿なんだ。

 

 そして、どれ程の時間が経っただろうか。


「これは、一体……」


 全身を大きな布で覆い隠し、遠望境を頭に備えた人物がキョウカに近寄ってきた。


「何をしたんだ? 空が晴れたのはお前の仕業か?」


 名も知らぬ監視者オブザーバーの言葉を聞いて、現実に戻るキョウカ。

 まだ、最後にやらなければならない仕事が残っている。


 キョウカは立ち上がり、金剛石の剣の刀身を敢えて精製して腰の鞘に戻した。

「全て見ていたのでしょう? 私が混沌の龍(ケイオス)を倒しました」


「お前は何者なんだ!? まるで龍のような力を使っていたじゃないか!?」

 捲し立てる監視者オブザーバーに、キョウカは淡々と言葉を返していく。


「私が何者かですか? キョウカと答えれば判りますか?」

「なっ……龍の忌み子の!?」


 ああ、そんな呼ばれ方をしていたのも最早懐かしい。


「龍の力を奪い、龍を打ち倒した。それだけですよ私はただ、自分の生きたいように生きただけです」


「信じられない。人が龍を倒すなんて……それも、龍の眷属と言われた忌み子が……」

 龍達と心を交わし絆で結ばれた今となっては、龍と結託していたなんてデタラメも真実になってしまったが。もうそんな肩書きや評判などキョウカにはどうでもいい事だった。


 その場から去ろうとする。


「待て!! 何処へ行くつもりだ!?」


「何処へでも、私の勝手です」


「そうはいかない! お前は龍を倒す程の力を持っているんだ、何を企んで居るのか――」


 キョウカを危険分子と判断した監視者オブザーバーは、ナイフとロープを取り出して構える。キョウカを拘束したいらしい。だが、


「そんなもので私が捕らえられると?」

「!?」


 キョウカは一瞬で監視者オブザーバーの背後に回り込み、首筋に金剛石の剣を触れさせていた。こうなる事は想定していたのだ。


 実はあらかじめ、夢幻を見せて背後を取っていた。


「安心して下さい。昔は憎みもしましたが、今は貴方達人間と敵対するつもりはありません。今だって私がその気になれば貴方の首なんて簡単に飛んでいたでしょうが、そうしなかった事が証明だと思って下さい」


 キョウカは監視者オブザーバーを解放し、剣を納める。監視者オブザーバーの方は、余りの恐怖から言葉を失い、足腰が立たない様子で崩れ落ちていた。


 周囲の気配を探る。この監視者オブザーバー以外にも複数の気配を感じた。

 

 ――ハオの言った通り、一部始終を見ていた人々は決して少なくは無いようですね。

 

 キョウカは声を張り上げて叫ぶ。



「龍は全てこの私、キョウカが葬り去った! 龍の支配は終わったのです! 人間はもう自由だ! 生きたいように生きれば良い。私のように」



 その声を、出来る限り広範囲に聞こえるように複製して宣言する。

 


 ――〝英雄〟という名の希望。これで良いですか? ハオ……。


 改めて、その場を離れるキョウカ。

 

 観測者オブザーバーはどうすればいいのかも判らず立ち尽くす。

 ふと、足下に一冊の手帳がのこされている事に気がついた。

 

  ◇  ◇  ◇


 どうあれ人々は新しい生活を手に入れ、世界は変わっていくだろう。

 最後にやるべき事を果たすために、キョウカは歩き続けた。


 遠く、出来る限り離れた所へ。


 右肩の水晶と肉体のつなぎ目が疼く。


 黒ずんだ身体の傷がズキズキ痛む。


 けれど、ひたすら歩いた。野を越え山を越え、


 簡単には人が立ち入れぬ様に険しい道を敢えて選んで突き進んだ。


 あの男が言ったとおり、キョウカは龍を越える力を手にしている。

 もっとも、それはキョウカ個人に宿った力ではなく金剛石の剣が秘めた力だ。


 この力はきっと、このままでは世界のパワーバランスを大きく乱すだろう。


 人間を支配しようとする者が求めるかも知れない。

 ただ快楽のために人を殺そうとする者が振るうかもしれない。


 無論、清き者が手にして人々を導くかもしれない可能性もあるが。

 

 もう、龍の時代は終わった。この力は、龍達の遺産とも言える。きっとハオならば、こう言うはずだ。


『人の時代に、龍の残滓など不要だろう?』


 善悪どちらに転ぶか判らない、危険な代物なれば。初めから必要無い。

 そんなものが無くても人は生きていける筈だから。


 戦いを終えてから、幾つもの夜と朝を迎え。


 世界の果てに至ったキョウカはその地に金剛石の剣を突き刺した。


「貴方に宿る全ての力を今此処に解放します」

 突き立った剣に語りかけるキョウカ。剣はキョウカの想いに応え、宝玉を強く輝かせる。


 剣の突き立った地面から透明な水晶質の物質が生み出され、剣を囲んでいった。


 それは、金剛石の外殻。


 何者にも劣らぬ硬さを持つ物質。

 剣はその物質を永遠に精製し続ける。

 仮に打ち砕かれようと再生し、決して取り出す事の出来ない究極の棺に剣を隠した。


 金剛石の結晶はどんどん成長していって、天を目指して伸びては枝分かれをする。


 もう一つの役割を、剣に願っていた。

 あの剣はキョウカと龍達の絆の証。


 だからこそ、考えたのだ。


 真龍達はこの後の歴史で、きっと悪しき名で語り継がれるだろう。

 だが、龍達には龍達の想いがあった。ただ憎まれ、恨まれるだけなんて忍びない。


 せめて。龍の友であるキョウカだけでもそんな龍達を追悼し、供養する墓標を作ろうと。


 金剛石の結晶はやがて樹木の形を作って。


「ぐっ……ぁ……!」


 ずきん、と身体中の傷が痛む。


 水晶で構築された右腕が、ひび割れて砕け散る。

 剣に宿る力の全てを、結晶の精製に割り当てたのだ。


 今までキョウカの身体を繋ぎ止めていたものの全てが力を失い果てていく。


 だが、それも承知の上……キョウカは金剛石の大樹に背を預け、座り込んだ。

 身体中から、血が流れ出る。景色が霞み、力が抜ける。


 でも。


 その心は、とても満たされていた。


 ――ああ。

 どれ程人を憎み、どれ程死を望み、どれ程生に絶望しただろうか。


 ――あ……ぁ……。

 けれどキョウカは生きた。生きて、生き抜いて、己の生き様を貫いた。

 龍達と心を交わし、龍達の想いを受け取り、龍達の願いを叶えて。


 ――本当に……本当に……。

 色々あったけれど。辛いこと、哀しいことばかりだったけれど。

 それら全ても、今や思い出を彩る絵の具に過ぎない。



 ――素晴らしい、人生だった……。



 今なら、そう言える。そう断言できる。自分が生まれ、生きた証。それを確かに、この世界に知らしめた。龍達を追悼するこの大樹こそが、キョウカの生きた証。龍を打ち倒し、龍と絆で結ばれたキョウカの人生その全てを示すモノ。


 ――生まれてきて、本当に……よかっ……た……。


 英雄は人知れず、安らかに眠りについた。


 金剛石の大樹は優しい光を英雄に捧げて。


 藍、紫、緑、白の四つの大輪の華を咲かせる。


 龍達に捧げる、供花くげとして……。


ここまでお付き合いありがとうございました。

キョウカとハオが紡いだ、生まれた意味、生きた証を見つける物語、いかがでしたでしょうか?

ストライフ、ナイトメア、ラース、ケイオス、そしてキョウカ。

彼ら彼女らの生き様に何か少しでも感じるモノがあれば幸いです。

この結末をハッピーエンドと評するべきかとても迷いましたが、キョウカ達は皆満足して眠りにつきました。なので、バッドエンドとは呼びたく有りません。キョウカはあくまで自身と龍達の為に全力を尽くしてきました。世界が光を取り戻し、人々が救われたのはあくまでケイオスの切望を叶えたに過ぎません。だからメリーバッドエンドとも少し違うような気がします。

やはりこの物語は己の生き様を貫いたキョウカのハッピーエンドなのだと僕は思います。

この世界での物語はこの作品だけで終わりますが、偉業を成し遂げたキョウカの魂にはきっと盛大な報酬が与えられるでしょう。

きっといつか、何処かの〝優しくて美しい世界〟が彼女の魂を迎え入れてくれる筈です。

それでは、またどこかでお目にかかれれば幸いです。(著いわじゅうはやと)



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