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41話 嘘ばっかり……でも、それが貴方で、そうやって私を導いてきた……

「こうなるのは判っていましたが……くっ」

 小型の亜龍ならば無視して魂沌の龍(ケイオス)を攻撃している所なのだが流石に大型の亜龍はそうもいかない。


 新たに現れた一つ目の巨人のような亜龍がキョウカを見つめる。その大きな単眼には幾何学的な模様が描き込まれている。


 そしてその瞳が大きく見開かれたとき。直感的に嫌な何かを感じ取ったキョウカは回避のために横へステップを踏もうとした。


だが。


「これは!?」


 突如、全身の動きが止まる。空中で不自然に、何かに捕縛されたように静止した。

 めい一杯力を振り絞る事でどうにか首を動かし、一つ目の巨人の方を見ると瞳が怪しく輝いている。


 ――アレのせいか……まずい……!


 孤軍奮闘していたこの状況で、自由を奪われること。それは何よりも危険な状態だ。周囲の亜龍を打ち倒したといってもすぐに新手が魂沌の龍(ケイオス)から分離してやってくる。


 今まさに小型の亜龍が次々に発生し、一つ目の巨人に随伴してキョウカを取り囲もうとしていた。このままでは袋だたきにされる……!


 どんなに焦っても四肢は動かない。その上魂沌の龍(ケイオス)の龍殻は再生していく。


 ――こんな時、ハオならなんて言うだろうか……。


 すがるような思いで、自分の心に問いかけた。


 もしも。もしもハオが今、この場に居てくれたら。


『まずは落ち着け。優先事項を整理しろ』


 敵の術中にはまった以上被害を被るのは避けられない。大切なのは、その被害を最小限に留める事。何が必要で、何が不要なのかを導き出す。

 

 ――多少の傷は仕方ない。亜龍に飲み込まれるよりマシだ!

 

 次に、どうすればこの状況を切り抜けられるのか……。

 

 ――どうして、どんな原理で拘束されているのかまるで判らない。判らないけど……私は〝例えそれがどんなモノでも〟蝕み屠る力を借りている……!

 

 読みが外れていれば、自身の身体を悪戯に傷つけるだけだ。けれど、不思議な自信が胸に満ちていた。それはきっと、その身で直接向き合い戦って来たキョウカだからこその力への信頼……!


「死毒よッ!!」


 キョウカは動かない手に携えられた剣にめい一杯祈りを込めた。そして自身の身体をナイトメアの猛毒で包み込む!


 身体が。黒紫の煙を上げて少しずつ溶けるように灰になっていく。だが同時に、自由が戻って来た!!


 死毒を纏いながら、駆け抜ける。目指すは、一つ目の巨人、その死角! 


 道行く亜龍などものの数ではない。


 巨人の背後に回って、漸くキョウカは死毒を振り払って掻き消した。


 無茶な行動に身体中が悲鳴を上げている。水晶の右腕はぱらぱらと表面が剥離し、生身の皮膚は黒ずんで皺が入り場所によっては体液が滲み出ていた。


 ――まだ、死ねない……死ぬわけにはいかない!!


 高鳴る心臓と高揚する心。けれど。戦いにおいて重要なのは、冷静な観察眼だと心の中の友が窘める。結局堂々巡り、今から一つ目の巨人を打ち倒しても新しい大型の亜龍が現れて邪魔をしてくるだろう。


 その対処に追われているウチに魂沌の龍(ケイオス)の龍殻は回復してしまう。

 

 ――ラースの時と似ている……。

 

 破壊してもすぐに蘇る、森という巨大な武器を備えた龍との戦い。彼女へは、森が消えている間に勝負を付けるという方法をとった。

 

 だが、今回はそうもいかない。いくら倒しても際限なく復活する亜龍達。彼らを一時的に一掃したとしても魂沌の龍(ケイオス)には決定打を与えられず勝負を決める事など出来ないのだ。

 

 どうすればいい。際限なく襲いかかる亜龍達を一々倒していては体力が持たない。

 

 ……ふと。今一度、頭の奥で友人の声が聞こえた気がした。


『答えは既に出ているだろう?』


 それが幻聴だったのか、それともキョウカの心に繋がったハオが遺された力を使って伝えてくれたのかは判らない。


 ――そうだ。答えはもう、出ている。〝亜龍なんて相手にしてはいけない〟んだ。


 倒してもキリが無いのなら、倒す度に消耗するのは無駄としか言えない。


 考えるべきは〝どうやって魂沌の龍(ケイオス)を攻撃するか〟ではない。〝どうやって亜龍達の妨害を止めるか〟だったのだ。


 更に、もう一つ。重大な事実に気がつく。


 ――どうして、大型の亜龍がこうも少ないんだ?


 骨の亜龍はキョウカが魂沌の龍(ケイオス)に攻撃を仕掛けるまでは現れなかった。

 そして骨の亜龍を倒して漸く、一つ目の巨人やその他に四足で佇む蜥蜴のような亜龍と黒く巨大な魚の様な亜龍が現れた。


 本来魂沌の龍(ケイオス)は全ての亜龍を支配しその身体に取り込んでいるのだ。亜龍達の知性は無くなっているとはいえ自分達の住処あるいは親玉の危機にこうして外敵を排除しようと躍起になっている。


 が。ならば……全ての亜龍が同時にこの地に顕現し、襲いかかってきてもおかしくないのでは? なんで、今キョウカを襲ってきている亜龍の数が限られているのだ?


「……ハ……オ……」


 キョウカは、戦う前にハオが口にした言葉を思い返した。


『始まったら加減は出来ない』


 けれど。この状況が差す真実は……。


「嘘ばっかり……でも、それが貴方で、そうやって私を導いてきた……」


 ハオも、戦っているんだ。そうとしか考えられなかった。


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