40話 今――助けます
魂沌の龍が雄叫びを上げると同時に、その身体から無数の黒い塊が飛び散る。落下した黒い塊は獣や人型に変形し、キョウカに襲いかかってきた。
だが、今や小型の亜龍などキョウカにとっては取るに足らない存在だ。剣を一振りするだけで亜龍達は黒い霧となって再び魂沌の龍の身体へと還っていく。
魂沌の龍は怯む事も無ければ怒る事も無い。ただ、苦しみに藻掻くように悲痛な叫びを上げるばかりだ。
「独りっきりですね……」
心を交わした三体の真龍は星へと還り、常に支えとなってくれたハオは今や闇の中でただ時を待っている。対峙する強大な闇に立ち向かうのはキョウカのその身ただ一つだ。
どんな結果が待ち受けているとしても。これが正真正銘、最期の戦いだ。
ここに来るまでに何度も苦しみ、何度も藻掻き、何度も立ち上がってきた。
元は、何でも良いから生きた証を遺したくて。そんな純粋でちっぽけな思いだけをもって始めた旅だった。けれど、今はもう違う。
キョウカの生き方を認め、背中を押してくれたストライフ。
その鎧に背負う数多の想いを託してくれたナイトメア。
ケイオスを救う、その大きな役目を任せてくれたラース。
そして……キョウカを龍達の心へ導き、その道しるべとなってくれたハオ。
独りぼっちだったキョウカを受け入れてくれた龍達。
その親愛と、期待。想いに、今こそ応える時。
金剛石の剣には、藍と紫、緑の炎が灯った宝玉が煌めいている。
その柄を強く握り閉め、目前の魂沌の龍を見据えて。
腰を落とし、大地を踏みしめ、誓うように囁く。
「今――助けます」
キョウカは剣を大きく振るい、その場でほぼ一回転した。剣の軌跡から紫色の霧が衝撃波のように放たれ、周囲の亜龍達をまとめて蝕む。
「……やはり、ここまで広域に使うと決定力には欠けますか」
亜龍達の身体が僅かに溶け、動きを鈍らせる事は出来たが消滅までは達しない。仕方なくキョウカは包囲網を抜けるために正面の亜龍に踏み込んで斬り掛かる。
毒で既に弱っているため、まともに斬撃を浴びせられれば簡単に倒せるが如何せん数が多すぎる。正面の敵を切り払っているだけでは捌ききれない。
四方八方から亜龍達の爪や角、刃が群がってくる。
身体を弓なりに反らし亜龍の攻撃をかいくぐり、空中で身体を捻る。両腕に剣を携えて、周囲の敵をまとめて切り払った。亜龍達は霧散するがすぐに次の軍勢が襲いかかる。
地面に着地するとともに、右腕の剣を消滅させる。そして水晶で構築された右腕を突き出し、手の平を広げて盾代わりに亜龍達の攻撃を受け止めた。
金剛石の剣の中心で、緑の炎が強く燃えさかる。キョウカが地面に剣を突き立てると周囲の地面から急速に木々が生育し、亜龍達を串刺しにした。
岩盤すら貫いて茂った木々はすぐさま朽ちゆき大地へ還る。龍達の力を駆使しては迫り来る亜龍の大群を振り払ってキョウカは突き進んだ。亜龍の波をかき分けて魂沌の龍の前に跳びだしたキョウカは続いて死毒を剣に纏わせる。
――広域がダメなら、一点に集中させる……!
黒く濁った液体のように蠢く魂沌の龍の体皮に金剛石の剣を叩き付けた。
じゅぅと水が蒸発するような音を上げ、黒い魂達が霧散していく。
刃はゆっくりと魂沌の龍の皮膚に飲み込まれ、その肉を焼いて行く。このまま刃を進めればいずれは核に届くだろう。
しかし。
「っ!?」
そう簡単に行かないのが世の常だ。
魂沌の龍に剣を押しつけている今、キョウカは無防備である。その身体を横から食らい付くように亜龍の顎が差し迫っていた。
咄嗟に地面を蹴ってバック転するキョウカ。空中で、キョウカが立っていた場所に獣の頭骨のような龍の首が伸びている事を確認する。
「邪魔です!!」
キョウカは落下と共にそのまま剣を亜龍の頭、その眉間に突き立てた。
――あの時と同じ種の亜龍……!
白骨が組み合わさった様な身体の巨大な亜龍。ハオがプレデターと呼んだ者だ。
顔に深く剣が突き刺さって尚、骨の亜龍は消滅せず頭を強く揺さぶってキョウカをふるい落とそうとする。
キョウカは突き立てた剣を引き抜き、自ら飛び降りた。
――たしか、弱点は翼……!
嘗てのハオの動きを思い出し、亜龍を睨む。時間をかけては折角削り取った魂沌の龍の龍殻が修復されてしまう。こんな相手に、手間取ってはいられない。
真龍ほどでは無いにしろ、人間の数倍の巨体を持つ亜龍。その背に備えられた翼を狙うには高所から攻撃するしかない。
キョウカは剣を複製し、やや離れた地面に投げつけた。剣に備えられた宝玉の力によって大地はえぐり取られ小さな島のように宙へと浮上する。
胴体を噛み砕こうとする牙をもう一度躱して、キョウカは力強く地面を蹴った。
その力を何倍にも複製して一直線に浮島へと跳躍する。
そして跳ね返るように浮島を蹴り、鋭角の軌道を描いて亜龍の背後に回った。
ラースの力によって携えた剣から樹木の蔦を精製し亜龍の首に巻き付け自身の身体を引き寄せる。その背が近づいたところで蔦を消し、死毒を宿して亜龍の翼を横一閃に切り裂いた。不定形のもやもやした煙のような翼が霧散するように呆気なく消えていく。
同時に骨の亜龍もその活動を停止するが気にとめている暇は無い。今一度魂沌の龍の元へ駆け寄り死毒で穿たれた傷を追撃する。
「だあっ!!」
突き立てた刃が、ずぶずぶと沈んで行く。
そして、黒い肉をかき分けて僅かに真っ白な何かが覗いた――その時。
『ォォォォォォ!!』
今までキョウカの攻撃に対して何の反応も見せていなかった魂沌の龍が動く。天を仰いで咆哮し、全身をブルブルと振るわせて周囲に黒い水の様な血肉を分散させる。
地に落ちた黒い滴はぶくぶくと変形し大型の亜龍が数体に現れた。一つ目の巨人のような亜龍や、巨大な蜥蜴のような亜龍。更には真っ黒で異様に大きな魚か何かの様なものまで現れた。
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