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35話 龍殻なんてまるで比じゃ無い……!!

「ご安心を。いくら私でも、木々を思うままに操れる訳ではありません。この手で直に触れたモノなら細胞レベルで操作できますがこれだけの範囲、規模の環境破壊をされては木々を武器にする事は出来ない」

 

 けれどラースは不適に笑う。その言葉に秘められた裏の意味をキョウカは必死に読み解こうとした。『思うままに操れない』と言いつつ森はラースの意志に呼応して変幻自在に襲いかかってきた。つまり、裏を返せば制限付きならば操れるという事では無いだろうか?


「私の力。それは武を誇る同胞の様な創造の力でも、義に厚き同胞の様な破壊の力でもありません」

 ラースは刀を鞘に戻し、キョウカに一礼した。


 すると、どういう事だろうか。


 大地が激しく揺らぎ、緑の芽が無数に現れたかと思うと天高く伸びていくではないか。

 このままでは串刺しになってしまう。キョウカは再び駆け出した。


 走る間も木々はどんどん成長してゆきあっという間に森を再形成する。


「栄枯盛衰、栄え滅びるは自然の理。されど受け継がれし種は新たな緑を生み出す。切り裂かれ、朽ち果てて尚新たに芽吹く命の循環こそ我が力の神髄と知るが良い!」


 一瞬にして森に穿たれた大きな傷は癒され、戦いは仕切り直しとなった。

 破壊したはずの地形。奪ったはずの有利条件が、一瞬にして覆される。


「この葉は、我が龍鱗と思いなさい。〝木の葉時雨〟!!」


 どこからかラースの声が聞こえ、再び空から鋭い刃の如き落葉が降り注ぐ。喰らったところで被害は少ないが行動を阻害されてしまう。かといってまた空に向けて毒を放ってもすぐに生い茂るだろう。堂々巡りだ。


「!」

 襲いかかる木の葉を振り払って散らし、気付く。弾かれ、或いは回避により地に落ちた木の葉があっと言う間に褐色にそまり、はらはらと溶けるように崩れ去ったのだ。これはナイトメアの死毒によって消滅した時と明らかに違う。


 ――〝命の循環〟とはそういう事ですか……!


 ただ、その歩を進めるだけで数多の植物を育む大自然を従えし龍。その、木々を支配し育成するという面ばかりが目立っていたがそれが彼女の力の全てでは無かったと言う事だ。支配下にある植物なら、〝育むも殺すも自在〟なのだろう。そして死した木々は新たに育つ命の糧となる。


 ――……まさに、自然の理。


 焦り、キョウカの動きが鈍る。その動揺を見逃すラースではない。森の闇から透明な水晶質の刀がキョウカの胸目掛けて差し迫る。寸んでのところで直撃を免れるが脇腹を僅かに裂かれてしまった。ほんの少しでも対応が遅れれば、首か肺。或いは心臓か肝臓を刃で貫かれるだろう。


 どれだけ森を破壊しようと切り倒された木々が養分となり新たな命を芽吹かせ森は再生する。ラースの居城たるこの広大な森は〝絶対に打ち壊せない〟。


 故に、地の利は常にラースの元にある……。


 嫌な汗がキョウカの頬を伝った。

 広大な森の影に潜み、森の自体がキョウカを責め立て追い詰める。少しでも隙を見せれば必殺の刃がキョウカを仕留めようと襲いかかる。


 常に囲まれ、油断すれば見えない敵から一撃の慈悲が下され勝負が決まるというプレッシャー。そんな重圧から逃げだそうと森を打ち崩してもすぐに相手のペースに引きずり戻される、絶望。

 

 始めにラースは言った。『この森は私の手足、私の力そのもの。私の全て』と。

 

 まさに言葉の通りだった。

 

 ――龍殻なんてまるで比じゃ無い……!!

 

 肉弾戦を好みその身一つで襲いかかってきたストライフとも、巨大な剣と斧でキョウカを退けようとしたナイトメアとも〝戦いの質〟がまるで違う。

 

 抜け出せない森の全てがラースの武器。その能力の空間的規模とキョウカへのしかかる肉体、精神双方への圧力は間違い無く龍達の中で最も強大だった。

 

 ずっと、ラースの手の平の上で弄ばれているかのような錯覚すら覚えてしまう。


「っ」


 襲いかかる木の葉を振り払っていると、枝の槍が四方から同時に迫り来る。


 正面から伸びる枝を、身を翻す事で背に流し背後から迫っていた枝にぶつけ相殺する。さらに回避と同時に左右からの枝を剣で切り落とし何とか凌ぐが……。


 ――攻勢に出られない……。

 じわじわと奪われる体力と気力。ラースはこちらが弱った所を容赦なく追撃してくるだろう。しかし、現状キョウカはラースの位置すら把握していない。


 これはもう、覚悟を決めるしか無いだろう。


 キョウカはもう一度空に向けて死毒を放つ。木の葉が一瞬で散り、丸裸にされた木々のある一つの幹にもう一度鋭く重たい斬撃を加える。


 先ほどの光景を繰り返す様に、今一度斬撃を無数に複製して周囲の木々を薙ぎ倒した。


 そして捉える、ラースの姿。


 結局、姿を隠すラースを捕捉する方法などこれしか無いのだ。また森はすぐに復活すると判っていても、切り開かなくてはやられるがままなのだから。

 

 キョウカは地面を強く蹴り、その反動を数倍に複製する。足に、砕け散らんばかりの衝撃が響くが歯を食いしばり俊足をもってラースへと接近した。

 

 ――森が再び蘇る前に、決着をつける!


 金剛石の剣が琥珀色の軌跡描き、ラース身体へ振り下ろされた。


「甘いっ!」

 鋭く凛々しい声と共に繰り出される、居合いの一閃。それはキョウカの攻撃よりも圧倒的に素早い斬撃。

 金剛石の刃がラースに届くよりも先に、キョウカの身体が両断されるだろう。


 ――攻撃したのが、本物のキョウカだったなら。

 

 ラースの刀がキョウカを縦に切り裂いた瞬間。その姿が霧の様に消えて無くなる。


「なっ!?」

「今しかないッ!」

 正面に居たはずのキョウカが、ラースの背後に現れる。


 ナイトメアの力は、死毒だけではない。時には五感全てを偽るほどの強力な〝夢を見せる〟力があってこそ、かの龍は龍殻を為し得ていたのだ。

 

 キョウカが譲り受けたその力は、勿論大本のナイトメアとは比べものにならない程ちっぽけなモノで五感の支配など到底不可能。せいぜい視覚と聴覚を偽るのが限度だ。 

 

 だが、虚を突き戦いの流れを引き寄せるにはそれだけで十分な筈!

 背後は取った。今は彼女の武器であり鎧である木々も地に伏せている。

 

 この好機、逃しはしない!!

 

 今度こそ、幻などではない本物の刃がラースの背を切り裂いた。


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