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34話 我らが王と戦おうと言うのです、その意気でなくては!

 ラースの力に呼応して、枯れていた木々は一度朽ち果て新たな樹木が芽吹き生い茂る。森に緑が戻り、暗闇と静寂が周囲を支配する。

 完全に閉ざされた訳では無い。木漏れ日のか細い光が辛うじて地形を可視化している。


 ふと、姿を消していたラースが再びキョウカの前に現れた。

「正々堂々、と言ったとおり宣言させて頂きます。この森は私の手足、私の力そのもの。私の全て。虚を突く攻撃を、卑怯などと言ぬよう!」


 彼女はそう言うと、再び姿を眩ませる。


 ざわざわと木の葉が揺れる音が聞こえたかと思うと、頭上から雨のように木の葉が降り注いできた。その一枚一枚に鋭利な棘が見受けられる。


 ――受けても大した被害は無い。けど……。

 キョウカは駆け出し、木の葉から逃げる。元々キョウカが立っていた場所を追うようにトストスと木の葉が地面に突き立っていった。


 いくら勢いがあるとは言え所詮は木の葉。目にでも入らない限り致命傷にはなり得ない。しかし、微弱でも痛覚は判断を鈍らせ、舞い踊る木の葉は視界も遮る。


 ナイトメアの毒を使いすぎる事は身を滅ぼすが、ストライフの力で対応するには消耗が激しい。ここはもう一度生い茂る葉の天井を打ち払い、木の葉を一網打尽にするべきだ。


「滅相もない、私に戦いを教えた人はこう言っていました……!」


 大きな樹木のうろに潜り込んで、剣にナイトメアの力を宿す。

 そして飛び出すと同時に空を仰ぐように振り払った。


「『極上の死闘に、卑怯なんて言葉は存在しない』!!」


 剣から紫色の波動が放たれ、空を覆う木の葉を一斉に枯らし散らせる。

 だが、今この瞬間キョウカは天に向けて攻撃を放った為に隙が生じていた。


 もしも仮に相手がストライフだったなら、この隙を逃す事はしない。

 片手にもう一つの剣を複製し逆手に持って盾代わりに刀身で首を庇う。


 ガラスが割れるような甲高い衝突音が森の静寂を引き裂いた。


「それを聞いて安心しました。やはり貴方は、真の戦士ですね」

 一瞬だ。ほんの一瞬の隙を突いてラースはキョウカの首を狙っていた。防御用の剣を出さなければ首が銅を離れ宙を舞っていただろう。


「我らが王と戦おうと言うのです、その意気でなくては!」


 一撃離脱。ラースは三度森の中へと消えていく。


 入れ替わるように、周囲の樹木から無数の蔦と枝がキョウカへと伸びてきた。


 捕らわれない様に、脱兎の如く森の中を駆け抜ける。ラース本体の位置も判らなければ、四方八方に続く無数の木々全てがキョウカの敵だと言っても過言では無い。このままでは消耗するばかり。まずは森をどうにかしなければ!


 まずいつもの仕込みだ。逃げながら龍の宝玉を複製して森中に放り投げていく。

 その後ろから、木々を渡ってラースが追尾してきているのを気配で感じ取っていた。

 木の葉の刃と枝の槍を受け流し、少しでも足を止めると死角から急所を狙った刃と共にラースが姿を現し、反撃する暇も与えずに森の闇へと消えていく。


 ――今はとにかく、地の利を奪うしかない!!

 

 キョウカは止まらない事だけを意識して森の中を駆け抜けた。

 そして正面から迫る幾つもの枝の槍をスライディングするようにくぐり抜け、一際大きな樹木を視界に捉える。


 樹木は上部で枝分かれしていくので、根本に枝の槍を届かせるには大回りで上から迂回する必要がありそこに僅かな隙があるのだ。無論、その樹木以外の木々からも幾つも枝の槍が伸びてくるので悠長な事はしてられない。

 

 金剛石の剣を斧の形へと変化させ、ありったけの力と駆け抜けた勢いを込めた渾身の一振りを巨大樹に打ち込んだ。その攻撃自体は巨木の腹にがっしり受け止められてしまうが、その斬撃をめい一杯周囲に複製した。


 只でさえ複製が困難なものと大量展開するのだ。精度も何もあったモノじゃない。キョウカを中心に、まるでかまいたちが暴れ回るかの如く乱雑に木々を切り刻んでいく。

 

 ――荒れ狂え!!

 

 キョウカの想いに呼応して、森の中に展開した無数の宝玉が藍色に輝いた。それはまるで怒り狂う龍がその爪で世界を切り刻む乱舞を踊っているかの如き暴力的な見えない刃の嵐が森の各地で複製される!

 

 樹木は次々に倒れてゆく。ここで樹木に押し潰されては余りに間抜けだろう。キョウカは自身の頭上に死毒の濃霧を展開した。霧に触れた樹木は一瞬で枯れ果て灰の様に崩れ去る。結果、広大な樹海の中にぽっかりと穴が空いたような空間が生まれた。

 

 キョウカの剣に備わる宝玉の力には限界がある。例えばストライフの力を使って何かを複製する数に限りがあり、新しいモノを複製するには前に複製したモノを取り消して宝玉に力を回収しなければならない。


 その点において斬撃や衝撃といったエネルギーの塊というのは非常に効率が良い物だ。一瞬で効果を発揮し、一瞬で消え去り剣に力が帰って来る。そのまま別の場所で同じく複製し直すという行程を繰り返すだけで一度の攻撃を実質的に何十倍にも増幅できるのだ。

 

 降り注ぐ灰を手で払い、周囲を見渡す。かなり大きく切り開いたのだ、ラースが森まで身を隠す余裕は無い筈。ここで一気に仕掛ける!

 

 身構えたその時。

 

 視界のすぐ目の前に、ラースの刃が迫っていた。

 

 ――!!

 

 甲高い衝突音が開けた空間に響く。いくら不意打ちとはいえ、正面からの攻撃だ。今のキョウカならば防ぐこと自体は容易である。しかし何より驚いたのはラースが攻勢に出てきた事だった。

 

 身を隠し、同時にキョウカを包囲する武器でもあった森はこの周辺のみ消失し今、地の利はキョウカへ移った。形勢が傾いた以上一端森の切り開かれていない部分まで下がろうとするとキョウカは読んでいたのだ。

 

 ――裏を掻かれた? いや、違う。きっと何か理由がある筈だ。

 ラースは目にも止まらぬ早さで太刀を振るい、キョウカを牽制する。だが対処は容易だ。このまま防衛を続けていればいずれラースの体力にも限界が訪れ、剣技にも綻びが――

 

 そう考えつつラースの攻撃を躱す為に右足を半歩退いた。

 この瞬間、キョウカは得体の知れない違和感を感じる。


 ――あれ? ……もう、どれだけ後退した?


 怒濤のラースの攻撃。キョウカから横やりを入れる隙は無く、ただ受けるか躱す為に尽力する事が必要だった。そのため、既に何歩も後方に下がっている筈である。


 ただ、いくらなんでもこの移動によって森まで押し返される……というのはあり得ない。距離が十二分に離れているからだ。まだ、切り開いた広場の中心付近。森に戻るにはキョウカでも全力疾走で三十秒はかかる。


 そんな距離を数歩ずつ後退させられたところで森に到達する頃には日が暮れているだろう。

 ラースの狙いは、他にある筈だ。そしてこの違和感の正体は……。

 

 ――灰に変えたモノはともかく、切り倒した木々は何処へ!?

 そう、自身の足取りの軽さだった。何の障害物も違和感も無く、後方へ退くことが出来る。あれだけの数の木々を薙ぎ倒したのにそれはおかしいだろう。勿論そういった事に注意を向けて足を置く場所を探り探り攻撃をいなしていたからこそ気付いた違和感だ。

 

 まさか。切り倒された樹木を用いて何らかの巨大兵器でも構築するつもりなのか?


「なるほど。流石、と言っておきましょう」


 突如、ラースが口を開いた。


「私の森を打ち破った事。続く私の攻撃に対処しつつ冷静に状況を分析している事、どちらも並の人間にこなせるものではありません。貴方は十二分に成熟した戦士であるようだ」


 不意に、ラースは攻撃をやめる。


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