表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『ドラゴンズ・ディザイア』:龍の友人は龍を殺し涙する  作者: わじゅ
三章 望まぬ憤怒に灼かれようとも
32/43

32話 ずっと、ずっと、いつまでも。この先にどんな未来が待っていようとも……

 憤怒の龍(ラース)の龍殻が、バラバラになって崩れ落ちた。

 

 瓦礫のような枯れ木の山の中に、二人の人影が横たわっている。

 

 その内の一人がゆっくりと起き上がった。

 

 栗色の長い髪が風を受けてふわりと舞う。

 

 ヒラヒラと無数の布が重ねられたゆったりした着物と、帯には少しだけ小振りな太刀。

 そして――その背には、木々の枝葉の様な一対の翼。


「懐かしい感覚ですね……」

 少女は目をつぶって大きく息を吸い込んで、ゆっくりと吐き出した。


「空気の匂いも、随分と変わってしまいました」

 続いて目を開いて天を見上げる。


「空の淀みが、減っている……他の真龍が倒されたのですね」

 空の淀みからは藍色が消え、紫が薄らぎ黒と暗緑だけが色濃く残っている。


「……私の龍殻もまた、打ち破られた」

 周囲の残骸を見渡して、一つ一つ状況を確認していく少女。

すると、残骸の中に倒れていたもう一つの人影……キョウカを発見する。


「……貴女が、やったんですね」

 少女はそっとキョウカへと近づいた。そして屈んでその顔を覗き込む。


 無防備なキョウカにゆっくりと手を伸ばし、


 その首を――


「えい、つつつっと」


 擽る様に指先でなぞった。キョウカの意識は戻らないが、不快そうに顔をしかめる。


「ふふふ。これだけの事をやってのけたというのに、可愛い顔で寝てるじゃないですか」

 続いてからかう様にその頬を二、三度つんつん突くと、満足したのか立ち上がった。


「よっと」

 少女が腕を振るうと木々の残骸がつむじ風に吹き付けられたかのように散っていく。


「今は、準備をして目覚めるのを待つとしましょうか」

 十分な空間を確保すると、枯れ枝を集めて焚き火を始めたのだった。

 

      ◆  ◆  ◆ 


 誰かの記憶を見ていた。


「〝真龍計画〟……私が、その一人に?」


 栗色の髪をした少女は、少しだけ驚いた様に聞き返す。

 その表情には以前のような明るい笑顔は浮かばない。


「……これで漸く対等に――なんて言ったら怒りますか?」

 冗談めかした口調で、けれど哀しげな表情で少女は呟く。


 〝真龍計画〟。それは力のある優れた人材から極少数を選りすぐり他の仲間の魂をその者達に結合する事で強大な龍の力を手に入れるという内容だ。


 後に闘争の龍(ストライフ)と呼ばれる者は、その試験段階で生まれた。故に技法に欠陥があり感情が大きく欠落するという失敗を経たが戦闘面に関しては問題無く、そのまま真龍の一人として選ばれた。


 後に悪夢の龍(ナイトメア)と呼ばれる者には、一人の血縁者が居た。その者も龍たり得る力を持っていたが扱いきれず暴走し、ナイトメア自身が討伐したのだが……血縁者であるが故に魂の融和性が高く、ナイトメアの力と統合させる事に成功した。


 後に憤怒の龍(ラース)と呼ばれる者は植物を支配するという戦闘にも、兵站にも幅広い応用が出来る事、王への忠義が厚くまた逆に王からの信頼も厚いと言った理由から真龍に選ばれた。


 そして……後に魂沌の龍(ケイオス)と呼ばれる者はこれまで彼らの組織を王としてまとめ上げて導いてきた者が引き続き龍達を統べる王として選ばれた。


 名目上は残りの三人の真龍はその配下に当たる訳だがそれでも真龍というのは王の切り札であり、最も重要な役職である。王と横に並び立ち戦う者と称されても問題無い。少女がずっと目指し続けてきた地位だ。


 なのに。


「……もっと、嬉しいものだと思っていました」

 少女は物憂げに空を見上げるばかりだった。


 だが、それも仕方が無いだろう……。


 ここに来るまでに多くのものを失ってしまった。この計画も、結局は苦肉の策。


 起死回生を目論んだ背水の一手である。


 つまり、彼らの組織はそこまで追い込まれていたのだ。

「今一度、この剣に誓いを立ててもよろしいでしょうか」


 腰に差していた刀を鞘ごと引き抜いて両手で掲げるように持ち、敢えて跪く。


「私はずっと、貴方の側に居ます。何があろうとも最期まで貴方を守り抜くと誓います」


 少女の親愛が、胸に突き刺さる。嬉しいはずなのに、辛い。

 差し出された刀は、本来少女の魂から作り出された物。それを改めて王の前へ差し出して誓いを立てているのだ。その意味は、己が存在の全てを捧げるという事……。


 これだけの覚悟と重荷を少女に背負わせてしまった事が、何よりも心苦しい。


「ずっと、ずっと、いつまでも。この先にどんな未来が待っていようとも……」


 あれからどれだけの時が経っただろうか。どれ程世界が変わっただろうか。それでも彼女はその誓いを、一度たりとも違えた事は無かった……。 

 

     ◆  ◆  ◆ 


 淀んだ空は宵闇に包まれその暗さを増している。

 キョウカは何故か暖かい光に照らされ眠っていた。


「う、ん?」

 ぱちぱちと何かが弾ける音が聞こえる。ほんのり身体が温かい。

 寝ぼけ眼のまま、周囲の様子を探る。周囲には枯れた木々。円形の開けた空間と隅に積み上げられた樹木の残骸の山。


 中央に焚き火が見える。そしてその焚き火の前に座る人影。


 ヒラヒラとした幾つかの布を重ね合わせた様な独特の服装が目を引く。

 なんだか、凄く既視感があった。


 ――ハオ……?

 身体を持ち上げてその人物を観察する。


「あ、漸く目を覚ましましたね」

 少し明るい声が聞こえた。暖かさを感じる穏やかな雰囲気の声色だ。その人物はキョウカが目を覚ました事に気がつくと腰を持ち上げて近づいてくる。


 キョウカの正面に来ると膝を折って目線の高さをキョウカに合わせた。

「大丈夫ですか?」 

 優しそうに微笑む女性、それが先ほどまでの人影の正体。


「……ハオが……綺麗なお姉さんになっちゃった……?」


 ぼんやりした頭がとんでもない答えを導くが女性はにこやかに否定した。


「ハオという方ががどなたの事かは存じ上げませんが、私は貴方達が憤怒の龍(ラース)と呼ぶ者ですよ」


 意識をハッキリさせる為だろうか。ぺしぺしとキョウカの頬を平手で軽く叩くラース。


「はっ!? ら、ラース!? 貴女が!!?」

 漸くハッキリと目を覚ましたキョウカは跳び上がるように立ち上がった。


「ええ。その証拠に、ほら」

 驚くキョウカに対して嫌な顔一つせずラースもまた立ち上がって握り拳をキョウカの目の前に差し出す。


 キョウカがその行動の意味を理解しかねていると、拳を裏返すと人差し指と親指の先端で、何かを摘んでいる。


「枯れ木に花を、咲かせましょう♪ ――なんちゃって」

 摘んでいたのは折れた細枝だった。その分かれ目の蕾が、ラースの言葉に呼応してポッと一輪の花を咲かせる。5枚の花弁からなる美しい桜の花だった。


 植物を支配する、紛れもない憤怒の龍(ラース)の力の一端だ。


「信じて頂けましたか?」

「は、はい……あの、私、キョウカと言う者です」


 心拙く人形の様だったストライフや優しさを見せながらも乱暴で不器用な印象をもったナイトメアとも違う。随分と穏やかで、茶目っ気を感じる龍の姿にどう取り合って良いのか戸惑うキョウカ。


「なんだか親近感を覚える名前ですね。気に入りました」

「あの、貴女のお名前は? 本当の名前があるのでしょう?」

 キョウカの問いに、ラースはニッコリ微笑んだ。


「ラースで良いですよ。今更過去の話を持ち出したところで何の意味もありませんから」

「は、はぁ……」


「さて、自己紹介も済んだ事ですし――」

 ふと、ラースは木々の残骸の方へ近づいた。すると残骸の幾つかが焚き火の少し前の方へずりずり移動してくる。


 龍殻との戦闘を経たキョウカにとって、ラースが植物を使役する様子は攻撃行動という刷り込みがある。なので思わず剣の柄に指先を当ててしまうが、今の相手に戦意が無い事は火を見るより明らかだ。柄を握りこもうとした手の平を自ら叩き伏せ首を横に振るった。


 そして樹木の残骸は少しだけ形を変えながら積み木のように組み合わさり、小さなテーブルと二つの椅子へと変化した。


「お茶にしましょうか」


 一足先に椅子に腰掛けたラースがもう一度優しく微笑んだ。


「……は、はい?」


 ――なんだか、マイペースな人だな……。

 彼女と向かい合う様にキョウカも座るのだった。


よろしければいいねやご感想、ブックマークなどして頂けると嬉しいです。

少しでも面白いと思っていただけたら、下の☆☆☆☆☆ボタンを押して評価して下さるととても喜びます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ