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『ドラゴンズ・ディザイア』:龍の友人は龍を殺し涙する  作者: わじゅ
三章 望まぬ憤怒に灼かれようとも
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27話 逃げるぞ!!

「待たせたな」

 何事も無かったかのようにけろりとした様子で戻って来たハオを、今更驚く事も無く嬉しそうに迎えるキョウカ。


「おかえりなさい」

 しかし、次にハオから伝えられた言葉には流石に声をあげた。


「作戦が固まった。まずは俺達二人で憤怒の龍(ラース)と戦い消耗させる。そして現れた魂沌の龍(ケイオス)を、俺が悪夢の龍(ナイトメア)の元へと誘導する」 


「え!?」


 憤怒の龍(ラース)と共に戦ってくれるだけではなく、最も危険な囮役まで引き受けるというのだ。今までハオは、龍の知識を授けてくれることはあっても積極的に戦おうとしたことは無かっただけに驚きを隠せない。


 というか、いままで一人で戦ってきたので共に肩を並べてくれる存在が居るという事に大きな喜びを感じていた。


「……おい、言っておくが俺にできるのはせいぜいが撹乱と陽動程度だからな」

 ハオは呆れた様に忠告する。


「あ、は、はい! それでも心強いです!」

 それでも瞳をキラキラさせるキョウカにため息を吐くハオ。やれやれと首を振り、それでも何処かほほえましい気持ちを抱いてハオはキョウカの前を進んでいった。


     ◆  ◆  ◆

 

 その龍は、暗い闇の中を〝漂っていた〟。

 無数の悪意、無数の善意。或いは嘆き、哀しみ。或いは喜び、慈しみ。


 幾つもの心が混じり合い、真っ黒に塗りつぶされた世界。

 人間なら、僅かに接触するだけでその心を取り込まれてしまうような感情の濁流の中で、その龍は時々目を覚ましては微睡みの中で魂沌の龍(ケイオス)に語りかける。


 ――大丈夫、私はここに居ますよ。ずっと、いつまでも、側に……。

 最早、己の身体ですら自身の意志では動かすことも出来ない。


 ただ、心の中で眠っては目覚め孤独に震える魂沌の龍(ケイオス)に語りかける。

 それは、彼女自身が決めた生き方だった。


     ◆  ◆  ◆ 

 

 憤怒の龍(ラース)の足跡を追いかけ数日経った。周囲は生い茂った木々が目立ち、かの龍の領域に既に足を踏み入れている事を知らせている。闇に閉ざされ只でさえ太陽の光は薄く揺らいでいるというのに木々はそのか細い光すらのみ込んでいた。


 そんな中、二人は松明も灯さず探り探り森林を進んでいた。

 僅かとは言え光が全く差していない訳では無い。ほんの少しだけではあるが視界はある。


 お互いに手を固く繋いではぐれないようにゆっくりと進む。

 ハオ曰く、憤怒の龍(ラース)を中心に広がる森林全てがかの龍の龍殻――即ち肉体と同等の意味を持つらしい。故に火でも熾そうモノなら簡単に見つかり戦闘になってしまう。


 だが、広大な森の全てを正確に管理しているかと言うとそうでもなく、人が末端を這う虫に気付かない時があるように、大きな騒ぎを起こさなければ気付かれる確率は少ない。


 二人は息を潜め気配を殺し、静かに憤怒の龍(ラース)を追いながら気を伺っていた。

 今回の作戦では魂沌の龍(ケイオス)悪夢の龍(ナイトメア)の元までおびき寄せる必要があるが距離が余りに離れていると囮役であるハオへの負担が大きくなってしまう。

 そのため、悪夢の龍(ナイトメア)が出来る限り憤怒の龍(ラース)に接近する瞬間を待っていた。


悪夢の龍(ナイトメア)からの合図が来たら、すぐに行動を開始する』


 ハオの言葉に従ってキョウカは既に剣を抜き戦闘準備を整えているが、その刀身が決して木々に触れぬ様に気を張るのはそれなりの苦労がある。

 隠密行動による慣れない緊張感と相まって、嫌な汗が頬を伝い胸が激しく高鳴っていた。


『念を押すが、俺に大した戦闘能力は無い。更に、囮としての体力を残す必要もある。だから、出来る限り戦闘はお前一人で戦って貰う』


 どうしようにも無い状況に陥ったとき、或いは優勢になり一気に畳み掛ける機会が生まれた際に、ハオが憤怒の龍(ラース)を撹乱する、という手はずだ。


 ふと、ハオが足を止めた。そして、何かを確かめるように静かに周囲を見渡す。


 そして突如、こちらへ振り返った。

 その行動を疑問に思い、思わず名前を呼びかけようとしたその時。


 ハオは杖を振り上げキョウカへと突き出す。

 そのまま杖はキョウカの腹部に衝突し、キョウカは不意の出来事に倒れ込んでしまった。


 ハオの行動の意図が読めず起き上がろうとした、次の瞬間。


 暗闇の中にギラリと赤い光が瞬き、動く。そしてふわりと風を感じたかと思うと先ほどまでキョウカが立っていた場所に異質な何かが現れていた。


 ごつごつして四角い輪郭に、爛々と輝く赤い瞳。キョウカの身体と同等の大きさの〝頭部〟がそこにある。


 ただ本能的な恐怖がキョウカを襲い、気がついたら尻餅を付いたまま後ずさっていた。


「逃げるぞ!!」

 静寂を打ち破るハオの声にハッと我を取り戻すキョウカ。同時に、駆け寄ってきたハオの手を取りすぐに起き上がって駆けだした。


「い、今のは一体!?」

 ハオと共に駆けながら、状況を確認するキョウカ。


「大型の亜龍、プレデターだ!!」

「あ、亜龍!?」

「詳細を説明している暇は無い!! すぐさま憤怒の龍(ラース)もやってくる!!」


 亜龍は視界に入った人間や真龍を襲う。この暗闇で、火も灯していない状況でキョウカが狙われる等本来はあり得ない筈だ。少なくとも、何の気配も予兆も感じ取る事が出来なかったなんて余りにも不自然である。


「キョウカ!! 木には触れずに走れ!!」

「そ、そんな無茶な!?」

「っ!? 上だッ!!」

 それは、ストライフによって鍛えられた直感的な躍動。キョウカはハオの言葉を頭で理解するよりも早く横へと飛び出した。


 数秒遅れて、鋭い刃が天より降りて大地に突き刺さる。亜龍は明確に、そして精密にキョウカを狙っていた。


「……くっ!! 作戦は滅茶苦茶になるが、憤怒の龍(ラース)がここまで来るのも時間の問題――今、ここで倒すしかないのか!?」

「隠密はここまでですね!」

「ああ! 葉を散らせ! 最早隠れる意味もない!!」

 ハオの指示に従って、キョウカは剣を天へ向けて振るった。すると、宝玉が紫の炎を灯しその刃から黒紫の波動を放つ。ナイトメアの力を複製した死毒の風だ。


 その風はかの龍が持つ本物の死毒よりもかなり力が抑えられているがそれでも触れた木々は一瞬にして衰弱し、葉を散らしてしまう。


 キョウカは波動を空へと無数に放ち、か細い光すら遮っていた森の屋根を打ち払った。 暗闇は消え、闇に閉ざされた空から降り注ぐのは僅かな光であるにも関わらず眩く感じる。そして、漸く敵の姿がハッキリと見て取れた。


 真龍には及ばずとも、人間など一噛みで食いちぎりそうな大顎に、三つの巨大なかぎ爪を備えた骨のように白く細い四肢。背にはふわふわと漂う煙のような翼が二つ。


 まるで、獣に墜ちた死神のような龍がそこに居た。

「亜龍の中でも特に厄介な存在だ、気を抜くなよ!」


 亜龍はその爪を槍の様に繰り出す。キョウカは身を翻して攻撃を受け流し、伸びた腕を切り落とさんと金剛石の剣を振り下ろした。

 しかし、細くそれほど強靱には見えぬ腕はキョウカ渾身の一撃を容易く弾く。


「なっ!?」

 反撃に失敗し、隙を晒したキョウカに、もう一方の爪が迫る。


「キョウカっ!!」

 ハオは咄嗟に飛び出し、キョウカを抱え跳躍した。その身体の何処にそんな力が秘められているのやら、一気に枯木の枝まで登り上がる。


「あ、ありがとうございます」


 亜龍はキョウカとハオが登った枯木を押し倒そうと身体を強く打ち付けてきた。

 ぐらぐらと揺らされつつも今のうちに打ち合わせする二人。


「攻撃は考えるな。俺が何とかする。お前はとにかく逃げ続けて撹乱してくれ」

「し、しかし私を狙い続けてくれる保証は……」 

「その点は問題無い。アイツは俺を襲いはしない。さっきまでだってそうだっただろう?」

「え? 言われてみれば……」


「とにかく、早々に片付ける。忘れるな、この戦闘は本来不要な戦闘だ。体力を残しつつ逃げ回るんだ」

「また無理難題を……でも、やってみせます!」


 タンッと足場を強く蹴り亜龍の前へ飛び降りるキョウカ。着地後、受け身と共に右へ身体を回転させる。キョウカの姿を追うように亜龍の爪が地面を叩き付ける。攻撃を捨て回避に専念するのであれば、知能の低い亜龍の攻撃なんて簡単に対処可能だ。


 今のキョウカであれば何の心配もいらないだろう。

 ハオは木の上から冷静に亜龍の隙を伺う。


 ――龍の翼はその固有能力を司る器官、どの龍も弱点たり得る部位だがプレデターは特にその気が強い……。

 喰らった生物の魂を直接翼に蓄えてゆく亜龍、プレデター。捕食を繰り返すほどにその危険性は増していく。今、目の前で揺らめくその翼は真龍の龍殻に備わるものと比べればまだ小さい。


 ――森林に寄生し活動を始めたのは最近という事か……。

 ハオは杖の先端を足場にコツンと触れさせた。すると杖を包んでいた無数の長い帯のような布きれがぶわりと広がって開いていく。


 そして中心からは一輪の花があしらわれた細く長い筒状の物が現れた。

 ハオはその頂点を握り、ゆっくりと引き抜いていく。すると真っ白な刃が輝いた。


 杖と思われていたそれは、刀と呼ばれる方刃の剣。

 自身の身体と大差無い大きさの剣を両手で構え深呼吸するハオ。


「こっちですよっ!」

 そしてキョウカを追い、背中を見せた亜龍に向かって飛び降りた。


 三日月の軌跡が煌めいたかと思うと亜龍の翼が宙を舞う。

 亜龍は悲鳴も上げない。

 

 ただ、狂ったようにのたうち、その巨体が少しずつ小さくなっていく。やがて異形の怪物は人間と大差無い大きさまで縮小した。


魂沌の龍(ケイオス)の元へ帰れ」

 二度目の太刀が亜龍の首筋を切り落とすと、亜龍は黒い霧となって天へと消えていった。


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