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『ドラゴンズ・ディザイア』:龍の友人は龍を殺し涙する  作者: わじゅ
二章 例え、悪夢の如き生なれど
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19話 龍殻

 また、誰かの記憶を見ていた。

 

 拙い心にも、ほんの少しだけ光が差した。そして護りたい人が出来た。

 与えられた役割に従い続け、成果を上げていればきっと救えるだろうと思っていた。

 

 しかし。掬い上げた両の手からは大切な物がポロポロとこぼれ落ちて。

 助けたい人も、救いたい人も、何一つ護れないまま、時は流れていった。


 ◇  ◇  ◇


 目前に待ち構える巨大な化け物。

 

 巨木が意志を持ち、蠢いているかのような異形の存在。

 大蛇の様に太く長い身体に、小さな四肢が見える。


『同胞を殺した報いを受けなさい、人間ッ!!』

 龍の怒号が耳を貫く。枯木と生木がちぐはぐに混じり合ったような胴体からは、魂沌のケイオスを思わせる黒い障気が纏わり付いている。


 無数の憤怒、憎悪が形になったかのように障気は広く広がり槍の様にキョウカに殺到する。この障気に物理的な傷害能力は無い。


 しかし。


「っ、ぁああああ!!」

 振り払うことも、逃れる事は出来ない。胸に突き刺さる、悲しみと怒りの感情。

 ぐちゃぐちゃにかき混ぜられる魂。


 それはまさに、魂沌の龍(ケイオス)の精神干渉に似ていた。

 思考が滅茶苦茶に破壊される。迫り来る危機を察知できているのに、身体を動かせない。


 無数の木々がキョウカの周りに凄まじい速度で芽吹き、瑞々しい蔦がキョウカの四肢を拘束する。隆々とした樹木の枝が、キョウカの身体を切り裂こうとする。


 ――こんな所で……言葉も交わせずに終わる訳には……!!


 必死にたぐり寄せる己の意志。揺らぐ視界に、憤怒の龍(ラース)の頭蓋が映る。


「キョウカっ!!」

 その時。ハオがキョウカの前に飛び出した。


 キョウカを噛み砕こうとしていた憤怒の龍(ラース)の顎門がハオに迫る。

 そして、そこから先の記憶は無い……。

 

     ◇  ◇  ◇


 時は僅かに遡る。


『さて、残る龍は三体。次は誰に会いに行く龍を決めるべきだが……先に忠告しておかねばならぬ事がある』


 ハオはそう言うと、キョウカが携えていた琥珀の剣を手に取った。


闘争の龍(ストライフ)の力をあまり過信するな。お前自身判っていると思うが、お前が与えられた力は闘争の龍(ストライフ)が行使していた力には遠く及ばない』


『……確かに、ストライフと違って私が複製したモノは時間が経てば消えてしまいます』


『本来その力はその程度の代物だ。自身の魂を分割させ、望む存在を写し取り生み出す力だからな。当然使いすぎれば己を保てなくなる。故に定期的に複製した物体を元の自分の魂に戻す必要がある。だが闘争の龍(ストライフ)魂沌の龍(ケイオス)の干渉を受けていた。空を覆う闇に彼女の魂を示す紺色の淀みが存在していたのが証拠だ。それにより闘争の龍(ストライフ)は己が支払う代価を魂の集合体である魂沌の龍(ケイオス)に肩代わりさせる事で複製を超えた、『創造』もしくは『再構築』に近い性質を示していた』

 

 ハオが並べる龍の力の詳細を、疑うことなく真摯に受け止めるキョウカ。

 ハオは手に取った琥珀の剣を指さし、続ける。


『対して、お前が与えられた力は複製品、魂沌の龍(ケイオス)から切り離された魂を用いて作られたモノだ。既に変質させられてしまったが故に魂沌の龍(ケイオス)の影響を受けていない。そしてあくまで宝玉に記録された力でありお前自身が宿す力ではない。だから、その中心の宝玉が蓄えている魂でやりくりしていく必要がある。複製範囲、精度、持続時間等様々な縛りが纏わり付く理由はそこだ』


 そしてキョウカは、ハオが言わんとするところを察した。


『……身体の傷を複製で誤魔化す事には限界がある、と言うことですか』


『そうだ。宝玉の許容を超える治療はできない。その上、何らかの理由で宝玉が損壊する、物理的に遠く離れてしまう様な事があれば埋められていた傷は直ちに開く。闘争の龍(ストライフ)がお前を鍛えていた時にしたように、自然な身体の回復、成長に合わせて少しずつ複製分を消していけばいつかは本当の意味で傷を塞ぐ事はできるだろうが、戦いに身を投じるというのならば回復が追いつく訳がない』


『やはり、他の龍達とも戦いは免れないのでしょうか』


『少なくとも憤怒の龍(ラース)魂沌の龍(ケイオス)がまともに取り合ってくれるとは考えられないな。悪夢の龍(ナイトメア)は……本人の対応はともかく、近づくだけで生命が蝕まれる以上対話するだけでも消耗するだろう』


 それらを踏まえた上で、次に向かう龍を決める必要がある。

 キョウカは顎に手を当てて少しだけ考えた後に、決断した。


『では次は憤怒の龍(ラース)の元へ向かいましょう。悪夢の龍(ナイトメア)を除いても二体の龍が控えている以上、近づくだけで命を削られるかの龍の元へ向かうことは得策では無いと思います』


 悪夢の龍(ナイトメア)の呪いがどれ程キョウカの身体を蝕み、命を削るのか判らない以上、出来る限り後回しにしなければ他の龍と戦う余力を残せないだろうという判断だ。


『良いだろう。だが、抽象的で申し訳ないが――憤怒の龍(ラース)は、強いぞ』


 ハオの言葉に、キョウカは一瞬驚く。


 真龍が驚異的な存在であることは今更確認し直すまでもない事実だ。どの真龍であれ人間と比べれば遙かに強く強大な存在である。そんな事は判りきっているのに。その上で尚ハオは『強い』と強調したのだ。


『それはつまり、憤怒の龍(ラース)はストライフよりも強大な力を持っているという事でしょうか』


憤怒の龍(ラース)闘争の龍(ストライフ)が戦ったという記録が無い以上確かな事は言えない。純粋な戦闘の力なら闘争の龍(ストライフ)の方が上だろうな。しかし憤怒の龍(ラース)に限った話では無いが少なくとも今後は先の戦いよりももっと厳しいモノになるという事を覚悟しておいた方が良い』


 闘争の龍(ストライフ)は確かに強大な存在だった。そしてその力を受け継ぎ、打ち倒したキョウカの実力は最早疑う余地は無いだろう。


 だが。


闘争の龍(ストライフ)はお前との戦いに|()()《りゅうかく》を用いなかった。それは、闘争の龍(ストライフ)龍殻(りゅうかく)を〝己より巨大な敵と対等に渡り合う為の武器〟と捉えていたからだ』


 龍殻とは、ハオが名付けた真龍の巨大な肉体の事である。闘争の龍(ストライフ)がそうであったように真龍達には皆、人の姿をした核となる存在が居てその核が龍としての力を用いてあの巨大な肉体を構成しているのだ。


 そのため、真龍の肉体を、〝人の姿をした核〟と〝核を護る殻〟として表現した言い回しだった。


『大型の亜龍や他の真龍に戦いを挑む時以外は殆ど可動式の寝床として扱っていた節すらある。だから闘争の龍(ストライフ)にとって龍殻はあくまでおまけに過ぎなかった』


 しかし、他の真龍は訳が違う。


『残った真龍達はそうはいかない。真龍と戦うというのならばお前は今後、龍殻も打ち砕く必要がある』

 確かに、それは簡単な事では無いだろう。いくら龍の力を託されたとは言えそれは完璧な模倣ではない。キョウカの宝玉ではストライフの様に龍の姿を模した鎧を複製する事は難しい。


 正確には、龍の人形を作るまでならできるだろうがそれを自在に操るという事が不可能に近い。あくまで人の身で龍を倒さねばならないのだ。


『話を憤怒の龍(ラース)に戻そうか。かの龍は古の時代、魂沌の龍(ケイオス)の右腕とも呼ばれていた存在だ。それだけ魂沌の龍(ケイオス)に親しい存在であり、大きな力を秘めている。くれぐれも油断するなよ』


 そんなやりとりをして、十二分に警戒と対策を行った上でキョウカは憤怒の龍(ラース)に挑んだのだ。


 実際、最初は決して悪い勝負では無かった。

 無尽に生い茂る新緑の猛攻をかいくぐり、龍殻に傷を付ける事も出来た。


 しかし、その時。憤怒の龍(ラース)の傷を埋めるように黒い障気が空から降りてきたのだ。そして、障気は憤怒の龍(ラース)の身体を護るように漂い始めたのだ。そこからは一方的だった。黒い障気は魂沌の龍(ケイオス)の様にキョウカの心を蝕んだ。


 正常な判断も動作も出来なくなったキョウカを憤怒の龍(ラース)の使役する樹木が捕らえ、逃げ場を無くし、絶対絶命の窮地に追いやられた――。



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