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18話 よくやったな

「ストライフッ!!」

 貫いていた剣をすぐに消滅させ、キョウカはストライフの身体を抱き上げる。


「アハハ――カハッ……! ……クク、ホン、ト、キミは、凄いや」

 キョウカの腕の中で、ストライフはただ晴れやかに笑う。口から血を零しながらも、その笑顔は決して崩れない。


「最高の、戦いだった。ありがとう、キョウカ……」

「そんな……私は、私は、ただ……」

 ストライフ自身がこうなる事を望んで居た。彼女の苦悩を、彼女の渇望を理解し、受け止めたつもりだった。その上で全てを終わらせる為に刃を振るったつもりだった。


 なのに。キョウカの瞳からは涙が止まらない。


「貴女を欺き、貴女を騙し、私は卑怯者です……」

「極上の死闘に、卑怯なんて言葉は、存在しない。ボクは……楽しかった、それが全て」


 後悔が、悲しみが溢れて流れ落ちる。


「そんな顔、しないで。キミは、人の身で龍を倒した。胸を張ってよ、キョウカ……」

 命潰えようとするストライフを見て、キョウカは懺悔するように嘆く。


「結局、私は、自分が生き残る為に貴女を、この手で……」

「違うよ、キョウカ……。ボクはキミのお陰で、ボクが生きた証を……最高の闘争の果てにある命の輝きを見ることができた。ボクはやっと、報われたんだ……」

 ストライフは弱々しく右手を持ち上げる。そしてそっとキョウカの頬の涙を拭った。


「キミは、ボクの為に戦ってくれた……。ボクの願いを、叶えてくれんだ」

 そして、ストライフは最後に力を振り絞って励ますように言った。その表情はとても穏やかに笑っている。


「ボクが見つけた生きた証はこんなものだったけど。キミが叶えたい願いは違うだろう?」

 拳を握りしめ苦痛を誤魔化し、ストライフはキョウカに想いを告げる。


「だから、今度は、キミの番だ。ボクはキミを応援するよ。キミがこの世に生まれ、生きた意味。キミ自身がその手で掴み取るんだ。大丈夫、キミなら出来るよ。キミはボクの自慢の弟子で、最初で最後――最高の友達なんだから」

「……!」


 全てを伝えたストライフは、ゆっくりを瞼を閉じる。


「ああ……待って、待って下さい……」

 その身体が、黒い霧の様に空へ溶けていく。


「ストライフっ……!!」

 やがてストライフの肉体は無くなり、空の淀みから藍色の濁りが消え去った。


「……っ……」

 取り残されたキョウカは、ただ――


「うっ……く……あぁ……ああ……」

 さめざめと涙を流すばかりだった。


◇  ◇  ◇


「空の淀みが1つ消えた。闘争の龍(ストライフ)を……倒したんだな」

 あれから。ストライフが居なくなってからどれ程の時間が経ったのだろうか?

 自分はどれだけの時間を泣き腫らしていたのだろうか?


「……ハオ……」

 しゃがれたキョウカの声に、ハオは悲しげに俯いた。


「……だから、踏み入るなと言ったのに。辛いだけだと忠告したのに、お前と来たら」

 けれど。キョウカは弱々しく首を横に振る。


「……悲しいです。辛いです。どうしようにもなく、苦しいです……でも」

 涙からは逃げない。キョウカは漸くできた友人をその手で葬った。その罪悪感からも、後悔からも逃げはしない。全て受け止めて、その上でキョウカは立ち上がる。


「ストライフは、最後にありがとうと言ってくれました……とても安らかに、眠りにつきました……。私を、応援してくれました……」

 その言葉に、どれ程キョウカの心が救われただろうか。


「……私は私に出来る事を、私にしか出来ないことを成し遂げたい。私は龍にも心があるのだと知りました。龍達も嘆き、悲しみ、苦しみと渇望の中で藻掻いているのだと知りました。例え相容れなくとも、心を通わせわかり合うことは出来るのだと知りました」

 涙の止まらないその瞳は決して曇っては居なかった。


「私は、龍を倒します。龍を倒して――何よりも龍達を救いたい!」

 それこそが、全ての人間が龍を疎む中で、唯一その心に触れたキョウカにしか出来ない事。龍を殺す、龍の友人たり得る事。


 そしてそれは、龍をどうにかしたいというハオの願いにも通じる筈だ。

 これが、ストライフと心を交わしてハッキリと見えてきた、


 キョウカの、『生きる意味』……。


 ハオはその決意を静かに聞き届け、口を開く。

「……嘗て、〝英雄〟になろうとした人間が居た」


「……ハオ?」


 唐突な事に、キョウカはハオの真意をはかりかねる。


「龍を滅ぼし、世界を救おうとしたんだ。だが、結果は言うまでもない。今のこの現状がその答えだ。世界は変わらず闇と悲しみに閉ざされている」


 ハオは色が1つ消えた淀んだ空を見上げて、続ける。


「その人間は〝英雄〟になろうとして……なれなかった。結局その人間は業深い罪に捕らわれ、悠久の時を苦しんでいる」


 そしてハオはキョウカの目を正面から見据える。


「何かを救おうというのは、簡単な事では無い。ましてやお前が救おうと願うのは人の理解を超えた存在だ。龍はこの世の絶望の根源。それを救うというのは人々も、世界までも救うと言っているのに等しい」

 もう一歩キョウカに近寄って、ハオはその幼い姿に似合わぬ重みを含んだ言葉で言った。「お前は世界を救う〝英雄〟になる覚悟はあるのか?」


 正直キョウカにはハオの言わんとしている事、伝えたい事が半分も判らなかった。


 しかし、1つだけ確かな事がある。

「英雄になる覚悟という物が何なのか私には判りません。龍達を救いたいと願うこの想いすら、高慢で自分勝手な痴れ言なのかもしれません……」

 己の全てを賭けて挑むべき真の目標、叶えたい願いを見つけたから。そしてストライフが、応援してくれると言ったから。キョウカの生き方を、認めてくれたから。


「でも、これこそが私の見つけた、答えだと思うんです」

 この想いが、間違っているか正しい事なのかは判らない。


 けれど、


「私は、私という人間の全てを賭けて、戦いたい」

 ハオはキョウカの強い意志を確かに感じ取った。


「ハオはこの答えを……受け取ってくれますか?」

 本来なら聞くまでも無い問いだったのかも知れない。


「……それが、お前の生き方なんだな」

 ああ、いつものハオだと安心できる困った様な笑顔を浮かべて。


「大丈夫だ。間違ってなんかいない。闘争の龍(ストライフ)は最期に笑ったんだろう? それは、お前が生み出した笑顔。お前だから取り戻せた、かの龍の心の証だ」


 ハオの言葉が、キョウカの道を照らしていく。


「よくやったな」


 背伸びをして、無理矢理手を伸ばして。ハオはキョウカの頭を軽く撫でた。そして、

「俺は、お前がこの世界で為し得る事を最後まで見たい。一緒に居て良いか?」


 まるで、いつかの言葉を繰り返すように。けれど、その立場が入れ替わったように。

 ハオは、キョウカと共に行くと言ってくれた。


「――はい、勿論です!」


 ストライフは笑ってくれた。ハオは、認めてくれた。1つの戦いが終わり、キョウカは見つけ出した己の進むべき道を力強く歩き進めてゆくのであった。


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