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17話 ストライフは尚も笑う

 また、失われた左腕が水晶で再現される。先ほどまでよりも不格好な、荒削りの水晶のような腕だ。その手に携えられる剣も歪な形をしている。


 負傷と無理な力の行使によりストライフが弱っている事は明白だった。


 なのに。


「もっとだ!! もっと、もっと輝け!! 最後の一瞬まで輝き続けるボクの命を、ボクが生きた証を、共に感じよう!!」


 力任せだが的確な斬撃がキョウカに迫る。


 その剣を受け流した時にはもう次の刃が迫っている。


 ――ここまでやってまだ、互角に立ち回ると言うのですか!?


 まだ、ストライフを下すには後一歩が足りない。

 キョウカもまた、跳躍の反動や度重なる地面との衝突により体力を消耗している。


 この乱暴な剣の打ち合いをストライフがいつまで続ける事が出来るのかも判らない。


 先にキョウカが力尽きてしまっては、今までの積み上げて来た全てが。


 ストライフと出会い、育んだ絆が。


 わかり合い、託された彼女の願いが。


 ここまで戦って来た、キョウカ自身の想いが。


 全てが無に帰する。


 それでは、何も意味がない。

 勝たなければならない。


 ストライフの為にも、自分の為にも。


 絶対に、負ける訳にはいかないのだ。

 ――倒すんだ……私が終わらせるんだっ!!

 

 ストライフの二刀を一刀で弾き、攻勢にでるキョウカ。

 文字通り人間の限界を超えて、キョウカは戦う。

 

 キョウカが振り下ろした刃はやはりストライフに防がれた。

 だが。ストライフの胸部に()()()()()()()()

「ッフ、アハハハハハ!!」 

 ストライフは笑う。あまりの楽しさに言葉すら忘れて。

 

 彼女は言った。〝斬撃の複製は衝撃よりも難しい〟と。

 彼女は言わなかった。それが、〝不可能である〟とは。

 

 だから。  

 

 キョウカは〝斬撃を複製した〟。

 

 龍でさえ困難だと認める所行を、キョウカは幾度となく繰り返す。

 例え刃の本体を防いでも、追従する偽りの斬撃がストライフを襲う。

 

 その場所はばらばらで、胸である時もあれば指先に掠る程度の時もある。きっとキョウカ自身にも制御できていないのだろう。だが、それが逆に防御の難易度を上げる。

 

 攻撃しているキョウカ自身にも把握できていないのならキョウカの動きや瞳から読むことなんてできはしない。

 

 ――なんて、なんて凄いんだキミは。なら、ならばボクも応えるしかない!!

 

 最早言葉なんて必要無かった。

 

 ストライフはただひたすらに、己の感情を味わうように笑いを止めない。

 キョウカの攻撃を受け止めた次はストライフが反撃する。

 

 そして当然の様にストライフも斬撃を複製した。

 

 ――キミが2つまでならボクは3つ生み出してみせよう!! ボクにだって師としてのプライドがあるからねっ!!

 

 見える斬撃と見えない斬撃の応酬。

 

 血が水晶が、キラキラと飛び散る。

 

 闘争の龍の快楽を貪るような嬌笑が響き渡る。

 

 互いに残された力の全てを賭けた全力の斬り合い。

 そんな極限の戦いが続くのかと思われた次の瞬間。

 

 キョウカが大きく剣を振り上げた。

 剣撃の応酬の最中、そんな事をすれば胴体が無防備になる。

 

 ――キミはここから、更に何を見せてくれるんだい!?

 何かを狙っていることは明白だった。だが、ストライフは真っ向から勝負する。

 

 振り下ろしを右の剣で受け止め、ガラ空きの胴体を左の剣で横に裂く。その斬撃を複製すれば斬撃が身体の何処を襲おうと致命傷は避けられない。

 

 ――コレでトドメだっ!!

 甲高い音を上げて、重々しい一撃がストライフの右腕にのしかかる。最悪、押し切られても良い。数秒だけでも止める事が出来れば、必殺の刃がキョウカの身体を切り裂くのだ。

 

 そう考え左の刃を繰り出そうとした、次の瞬間。

 

 水晶が砕け散る音が響いた。

 水晶の左腕が、制御を失い落ちていく。

 

 思わず視線だけを右腕に移動させる。

 叩き付けられたキョウカの剣は、鋭利な刃ではなく分厚く重々しい板のような形をしていた。

 

 視界の隅に、真っ二つに叩き割られた水晶の左肩が映る。

 瞬間的に理解した。キョウカが〝右腕に叩き付けた衝撃を、水晶の左腕に複製した〟と。

 

 ――このタイミングで、衝撃を――

 振り下ろしを弾かれたキョウカはそのまま身体を捻り、武器を再び剣へ変化させ左からの大ぶりな横薙ぎを行う。

 

 ――まだだ!! まだまだ終わらない!!!

 ストライフは残された右腕の剣でその攻撃を受け止めた。

 

 しかし。

 キョウカは方腕だけで剣を振るっていた。


 ――っ……!!?

 追撃は、囮だった。

 

 遙か昔に潰され、そのまま傷が塞がってしまった為に治療する事が出来なくなった右目。それは、ストライフにとって絶対的な死角だった。


 本来なら。例えその死角を突かれようとも持ち前の身体捌きと、闘争の中で研ぎ澄まされた直感。更に複製による攻撃や防御。様々な要素がストライフの身を守る。


 だが。


 戦いの果てに、ストライフは足を失い、偽物で誤魔化していた。


 腕を砕かれ、複製の力も限界まで行使していた。


 そして、満たされた疲労と至上の喜びが彼女の判断を鈍らせた。


 ただの戦いではない。

 極限状態にまで至った戦いだったからこそ生まれた、ストライフの致命的な弱点。


 キョウカはその一瞬を、貫いた。


 死角から、琥珀の刃がストライフの腹を穿った。



 世界が、一瞬だけ止まったように感じてしまう。



「ぐ……クク、エヘヘヘ、アハハハハハ!」



 血を吐き出しながら、ストライフは尚も笑う。


 その身体がゆらりと傾き、倒れた。


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