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『ドラゴンズ・ディザイア』:龍の友人は龍を殺し涙する  作者: わじゅ
一章 闘争の果てに求むる願いは
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14話 『龍の友人』となった者の責任

「っ……」

 こうなる事が判らなかった訳ではない。戦いを拒否することは約束を破ると言うことだ。例え友人であれ、いや友人と呼べる関係になったからこそその行為がどれほどの怒りを買うか予想できなかった訳ではない。


 それでも……言わずにはいられなかった。何より、友人となってしまった以上キョウカにはストライフを斬りつける覚悟が無かった。


 緊迫した時間が、凍り付く。


 このままストライフに見限られ、殺されるのかもしれない。でも、この手で友人を傷つける位なら、その方が良いのかもしれない……。


 キョウカはそんな事を考えていたが、ストライフが沈黙を打ち破った。


「……ホントはね。キミの気持ちは嬉しいんだよ」


「え?」

 その言葉は、予想外の代物だ。もっと怒りをぶつけられてもおかしくないと思っていた。


「……キミとの時間、正直に言うとボクも楽しかった。強くなっていくキミを見守る事が、ボクの期待に応えようとしてくれるキミを見守る事が、ボクを初めて、友人だと言ってくれたキミを見守る事が、すごく、すごく楽しかった。戦い以外にも楽しさや嬉しさを感じることが出来るなんて新鮮だった」

「では、何故……」


 ストライフは僅かに首を横に振り、目を見開いた。


「もう、遅いからだよ。もっと昔、例えばこの翼が出来る前なら……もしかしたらそんな生き方も出来たかもしれない。でもね、もう、もう無理だなんだ」


 カランと乾いた音を立てて、剣が大地にこぼれ落ちる。フルフルと身体を振るわせ、ストライフは言う。


「確かにキミとの日々はボクの心に響いたよ、でも、それじゃダメなんだ。最早ボクは、そんな物じゃ心満たされる事なんて無い!!」


 つぶれた右目を右手で掻きむしりながら、呻くようにストライフは叫ぶ。


「キミとの戦いを想像するだけで、わくわくが止まらない!! 胸の昂ぶりが収まらない!! 友人であるキミだからこそ、ボクの命の証を見せたくて仕方がないんだ!!」


 命の証。それがストライフにとって戦いを意味する物だった。


「ボクの命は、戦い続けた記憶の積み重ねだ! ずっと、この世に生まれ落ちたその時から戦う事を求められ続けた! そのあり方に、自分自身の意志を見つめた。自分は一体何のために生きているのか、ボクが生きた証はなんだったのか、悩みもした、迷いもした!」


 闘争の龍の哀しい咆哮が淀んだ空に虚しく響く。


「でも、見つけたんだ……目を潰され、腕を落とされ、命の危機を感じた時。もう死ぬのかと思ったあの瞬間。ドクドクと胸の鼓動が聞こえてきた。ジクジクと痛みが命を証明した。ゾクゾクと喜びの震えが止まらなかった……!」


 空の濁った藍色のうねりが、轟々と激しく暴れていく。


「戦いこそが、ボクの命を証明した! 戦いこそがボクが生きてきた意味だった! 故に! 戦いこそがボクの全て、ボクがボクである証なんだ!!」


 ストライフの言葉は、キョウカの胸に深く突き刺さった。己の存在、己の生きた意味への葛藤。それがどんなものなのか、よく知っていたからだ。その答えを遙か昔に戦いの中で見つけだしたからこそ、彼女は『闘争の龍』たりえたのだ。


「――だから。だからこそ、友達であるキミに見せたいんだ。あの時の様な満たされた心、至高の闘争の果て求める、ボクの命の輝きを!!」


 ……キョウカはやっと、彼女の心が理解できた。 


「キミが、ボクに認められて嬉しかったと言ったように、ボクもキミに、ボクの全てを受け止めて欲しい、ボクが今まで生きた証を認めて欲しいんだ」

 

 それが、『闘争の龍』の切望だった。


「お願いだよ、キョウカ――」

 涙が、止まらない。身体が、動かない。


「ストライフ……」

 安寧の日々なんて、彼女には何の慰めにもならないのだ。己の全てを出し尽くした闘争の果てこそが、彼女の求める唯一の願い。生きる意味。だから彼女は亜龍でも人間でも、戦意を見せれば戦いを続ける。例えそれが、望み通りの戦い足り得ない事が判っていても。


 生きている限り、世界その物を巻き込んで『闘争の龍』は戦い続ける。心満たされる至上の戦いを夢見て、世界を壊し続ける。


 キョウカは、ハオの言葉の意味を理解した。

 

 わかり合って尚、絆で結ばれて尚、相容れない――。


「私、は……」

 その願い、その思いはキョウカと何一つ変わらない。ただ、答えが違っただけ。だからこそ、キョウカには否定できない。己の生まれた意味、生きた証を遺すために決意をし、旅立ったキョウカには否定する事が出来る訳がない。


 ストライフの想いを、拒絶する事ができない。止め処なく溢れる涙を拭って、鉛のように重たい腕を、脚を、無理矢理動かして、剣を構えるしかない。


「……貴女の想いは、判りました」

 戦うしかない。何故ならそれが、『龍の友人』となった者の責任だからだ。


 そして、剣を構えたキョウカに、ストライフはその表情を明るくした。

「ありがとう、キョウカ……!」

 そして、周囲の大気が一変する。鋭い殺意に満ちる。


「ならもう、我慢は終わりだ! 戦おう、最初で最後の……ボクの友達!」

 異質で異様な気配。明確な殺意を向けられているのに、そこに悪意は無く、寧ろ暖かい。これがストライフにとって最大の愛情表現だった。覚悟が無い、だなんて最早言うわけには行かない。


大切な友人の想いに応えるべく、キョウカの戦いは始まったのだ。



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