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『ドラゴンズ・ディザイア』:龍の友人は龍を殺し涙する  作者: わじゅ
一章 闘争の果てに求むる願いは
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13話 『金剛石の剣』

 単純に、ストライフという龍の事が気に入ったから。それに尽きるだろう。


「え? そんなの当然の事だろう? キミは龍じゃない。無力でちっぽけな人間だ」

「いえ、そういう事では無く。私は、その、何処へ行こうが疫病神扱い、ハオ以外誰一人として私を『人間』として扱ってくれませんでした。人々にとって私は、龍の眷属にも等しいようでずっと、疎まれていました。だから――」


 人々はキョウカを虐げた。そうする事で龍への恨み辛みを誤魔化していた。キョウカは彼らにとって殴りつけるのに都合の良い砂袋でしかなかったのだ。


「誰かに期待された事なんてありませんでした。『私』という人格など関係なかった。必要無かったんです。私という個人は、生きながらにして殺されていた」


 ストライフはキョウカの提案に従い稽古をつけた。

 キョウカに、言葉通りの結果を望んだ。

 それは、キョウカの考えや行動を認めてくれた事に他ならない。


「私は初めて、私が私である事を求められた。それが、何よりも嬉しかったんです。そう考えたら、貴女の期待に応えなくてはいけないと、今はそうする事が、貴女への誠意で、私の生きる意味になると、必死に――」 


 元はと言えば、己の生きる意味、生きた証をハオに託したくて決心した行動だ。だが、龍との対話は予想以上に上手くいって。少しだけれど間違い無く、ストライフと心を交わす事ができた。ハオの力になりたいと言う想いに代わりは無いが、それと同じくらいにストライフの期待に応えたいという願いが生まれて。そのためにも目の前の訓練に打ち込む事。それでストライフが喜んでくれる事が今、キョウカが生きている意味だと感じた。


 キョウカが自分自身確認するように言葉を並べていると、突如子供のような笑い声が木霊する。その主は勿論ストライフだ。


「フフフ、アハハハハ!」

「ど、どうされました?」

「ううん、へへ、納得いっただけだよ。そうかそうか。キミも生きる意味を探していただけなんだね」

 晴れ晴れしい表情でストライフは笑い続ける。


「ボクの期待に応える事が、キミにとっての意味になってたんだね。なんだろう、なんて言えば良いんだろう。――ああそうだ思い出した。これは嬉しいって気持ちだ。こんな気持ちを、戦い以外で感じたのは……初めてだな」

 無邪気な、屈託のない笑顔を見せるストライフ。


「そうか、キミは、敵なんかじゃない。でも、じゃあ何なんだろう? ボクを笑わせてくれる。ボクの願いを受け止めてくれるキミは一体、ボクにとって何者なんだろう?」


 にこにこと笑いを含みながら、楽しそうに、不思議そうにストライフは首を傾げる。

「人間はそんな存在の事を『友』と呼びます。……最も、龍である貴女に、私が友人だなんて言うのはおこがましいかもしれませんが……」

「『友』? 友達……? そうか、これが――フフ、そっか、友達かぁ」

 どうやらその言葉を、ストライフは気に入ってくれたようだった。


「キミとの戦いが、ますます楽しみになってきたよ。キミなら本当に、ボクに見せてくれるのかもしれない。ボクという命を燃やし尽くした最高の戦いをさ」


 そう言うとストライフは立ち上がった。そして虚空に二振りの剣を生み出し、構える。

「こうしちゃいられない。龍の鎧にばっかり頼ってたから生身の方がなまってるかもしれないからね。万全の戦いをするためにも、身体を解しとかなきゃ。もう夜も遅いから、キミはゆっくりと休んでおくと良いよ」

 そう言うとストライフは戦う相手を求めて宵闇の中に消えていった。


「……私を、友達と認めてくれるんですね」

 一人残されたキョウカは焚き火を見つめながらじんわりと物思いにふける。

 孤独で、苦痛で、絶望しか感じなかった日々が、何処か遠くに感じる。


「このまま、彼女の元で戦い続けて過ごすのも、悪く無いのかもしれないな……」

 戦いこそが生きる意味だと言うのなら、その欲求をキョウカが発散してやればストライフに戦う理由は無くなるのではないだろうか? そうすれば、龍の脅威が一つ減る。


 それは十分に目的を果たしているのでは?


 そんな事を考えて居ると。


「それは無理だろう」


 もう一人の友人の声がした。


「おかえりなさい、ハオ」

「やれやれ、漸く戻って来れた。もう少し精度が高ければ良いのだが……」

 ぶつぶつとなにやら独り言を言いながら、荷物を下ろすハオ。

 そして、改めて真剣な眼差しをキョウカに向けた。


「キョウカ。1つだけ忠告しておく」

「な、何でしょうか」

 ハオはいつも、何処か飄々とした優しさと敬意を感じさせる雰囲気を持っていた。

 しかしこの時だけは厳しく戒める様な鋭い気配を纏った、とても冷たい声で言った。


「龍にあまり入れ込むな。辛くなるだけだ」


 ハオの言いたい事は判った。元より、真龍をどうにかしようと考えて始めた旅だ。下手に親密になっても、後には別れが待っている事は明白という事だろう。しかし――。


「それは……了承しかねます」

「何故だ」

「漸く、少しずつですが彼女の心が判ってきたんです。私は、真龍は心なき化け物等ではないと知ってしまった。もう、見て見ぬ振りなんてできません。だって、そんな事をしたら私は……私の心を無い物として扱い、私の存在を否定し続けた人々達と何も変わらないじゃないですか……」


 ハオはその言葉に悲しげに俯く。キョウカの言葉を否定する事が出来なかったのだ。

「――お前がそうしたいと言うのなら、俺は止めない」


 それでも、この世には歪むことのない現実がある。その事から目を背ける事はできない。

「お前が龍に歩み寄り、龍の心を理解しようとするのならば、もしかしたら龍と通じ合いわかり合うことも出来るだろう」


 だからこそ、ハオは伝えなければならなかった。

「だが。今の龍と人は決して相容れない。例え絆で結ばれようとどちらかが存続しようとするのならばどちらかが滅びるしかない。――そういう運命である事を忘れるな」

 そう言うとハオは踵を返し、再び何処かへ向かおうとする。


「ま、待って下さい!! わかり合って、絆で結ばれて尚、相容れないとはどういう事なんですか!?」


 ハオは振り返らず、背中で答える。


「確かに真龍には心がある。だが、それが『正常な状態にある』と思うな。そして、真龍は存在するだけで世界を脅かす邪龍であるという事もな……」

 最後に一度、夜の暗闇によって一段と黒く淀んだ空を見上げてハオは去っていった。


◇  ◇  ◇

    

「キミに、最後の贈り物をあげよう」

 ある朝、ストライフは突然そんな事を言い出した。


「最後、ですか」

「そうだよ。もう、いい加減ボクも限界なんだ。日々力をつけていくキミを見てると、身体の震えが止まらなくなる。キミと、戦いたくて仕方ない」

 爛々と瞳を輝かせ、それでもまだ堪えるように顔をしかめるストライフ。


「いつ、タガが外れるかも判らないから。もう、今渡しておくよ。ボクがキミに贈るキミだけの武器。ボク達真龍の外殻すら打ち砕く、剣を」


 突然、キョウカが懐にしまっていた宝玉が輝く。

「昔どこかで見た、この世界で一番硬い宝石の記憶を複製したよ。さ、その宝石で剣を創るんだ」

 キョウカは言われるがままに宝玉を取り出した。そして、いつものように力を使う。


 飾り気のないシンプルな、剣をイメージする。


 宝玉の周りに、氷柱が生まれるかの如く無色透明な結晶が生成されていく。それらは無数に凝集してゆき、やがて琥珀色の輝きと共に玉石を中心に備えた、荒削りの水晶のような刃を持つ宝剣が完成した。


「これが、私の剣……」


「金剛石って言ったかな。それをより強く改造した、すーぱー……なんだっけ? まぁいいや。硬いのは良いんだけど衝撃には弱くて脆いんだ。だからボクの得物とはあんまり合わなくてね。結局使わないまま記憶が掠れてきてたんだ。相応しい持ち主に渡せて良かったよ」

 龍の力を宿す宝玉を備えた、琥珀色の透明な刃を持つキョウカだけの武器。


 『金剛石の剣』


 これより遙かなる未来において龍殺しの名剣と伝承されるが、後の世界でその存在は確認されず行方は誰にも判らない。この剣がそんな伝説を帯びる事になる等、この時のキョウカは考えても居なかった。


「硬いのに、脆いんですか?」

「そうだよ。磨耗することは絶対に無い。切れ味だけは一級品さ。代わりに、瞬間的な衝撃を受けると欠けるし砕ける事もある。でもボクの力なら壊れた側から修理できるだろう? 削れないし壊れない、人間が龍と渡り合うに相応しい武器の完成さ」    

「龍と、渡り合う……」

 キョウカはその言葉に迷いを覚えた。


 確かにキョウカは強くなった。だが、ストライフの力の欠片とこの剣を持ってしても実際に真龍を打ち倒せるのかと問われれば確証はない。キョウカが戦ってきたのはあくまで意志の無い人形達だったからだ。


 心を持ち、超越的な力を扱う真龍と本気で戦ってどうなるかなんて想像がつかない。

「どうしたの? 心に迷いが見える。初めて会った時の強い意志は何処へ行ったんだい?」

 キョウカの内面を見透かしたストライフが問いかける。


「やはり、貴女と戦わなければいけないのでしょうか」


 その言葉に、ストライフは目を丸くした。


「……ここまできて、今更それを言うのかい?」


「貴女は私を一人の人間として、あまつさえ一人の友人として扱ってくれました。それが嬉しかったんです。私はもっと、貴女の元で、友として、弟子として。このまま共に生きていきたい。そんな思いを捨てきれないんです……」

「……キミは優しいな」

 ストライフはどこか遠い表情でキョウカを見つめる。


 そして――


「でも、そんなのボクには認められない」

 黒金の剣をキョウカの首に突きつけた。


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