第69話 田舎王子と三宗 時貞
三宗 時貞 現三宗家当主 三宗 恵美の祖父にして東皇高校の理事長
「そして・・・井の中村の唯一の学校【いのなか学校】校長で唯一の先生、つまり雅君を幼少時からずっと教育してきた恩師・・」
「「「!?」」」
詩織の説明に、肉親でもある恵美すらも驚きを隠せない
「ほ、本当ですか!?お爺様!!、お爺様が幼少から雅君を教育してきた恩師というのは!?」
時貞は優しい微笑みを崩さず、ゆっくり頷いた
「いかにも、儂はこの東皇高校の理事長であるが、実質生活の拠点は井の中村にあり、二階の娘の申す通り雅を幼少の頃より教育してきた先生でもある」
そこまで話すと、3人をゆっくり見つめ話に補足する
「雅の学力は三宗が、身体的な鍛錬は七星が、掃除洗濯等の生活面の面倒は四葉が、法律上世話や手続きは二階が、遊びや絵描きなどで雅の心のケアは六橋が、雅の食事の事は五十嵐が、それぞれ受け持って雅を支えてきたんじゃ」
詩織以外は驚き言葉を失ってしまっている
「まぁ食事や遊びについては、各家の当代の嫁らが、雅に入れ込んでしまっていつの間にか当番制になってしもうたがな」
「つまり、幼少の頃より雅には心を落ち着かせる為の整った環境と若干重すぎる愛情をそそがれて、七星の言うところの【無邪気な獣】とやらを発現せずに【練成▪︎解放】の習得に至ったのじゃよ」
その事に、詩織は若干不機嫌さを込めて時貞に言い返す
「三宗の御大は我々許嫁達のみーくんに向ける愛情が当代に劣ると言いたいのですか?」
詩織の返しに、3人も時貞に言われている事の真意を感じ時貞を見る
時貞は4人を見つめ、さっきまでの微笑みを消して真剣な表情で4人に告げる
「この場でハッキリと言おう、今の時点で雅に相応しい【相手】は七星の娘だけだ!七星の娘だけが雅の暴走を自らの体と心で鎮め、彼の心に寄り添いそして癒した」
「雅の使った【解放】は不完全だ、それは雅には元々憎しみや怒りといった感情が乏しく【解放】するにも元々の蓄積量が無い、そこで【練成】を使い本来持ってる優しさや思いやりと言った感情を反転させて憎しみや怒りと言った感情に補填して使ってるのじゃ」
時貞の話しには詩織も含め衝撃を受けていた
「お、お爺様、も、もしかして・・その【練成】て技が暴走したら・・・」
時貞は静かに頷くと4人の表情に絶望的な影が落ちた
「それを止める事が出来たのが・・静流・・」
時貞は落ち込んでる4人にさらに追い打つ
「井の中村でお前達の先代らが雅にかけていた愛情は表面的な物では無い!お前らはもっと彼の本質に向き合い彼の深い愛情と苦悩を心で感じ寄り添わなければ、本当に七星に委ねる事になるぞ!」
時貞は詩織を見つめると
「二階の娘よ、お前は他の許嫁よりも事情に精通しているようだが、今このタイミングで雅が【揺り籠】から出されてお前達、6人の姫達に託されたのかその理由も判っておるのか?」
詩織は悔しそうに、俯く
「話が反れたが、恵美の質問に対して答えるなら、【井の中村】というのは雅を穏やかに成長させる為の【揺り籠】として存在するのだ」
「ゆ、揺り籠ですか??お爺様・・もう少し具体的に・・」
「ふむ、一堂 雅というお方はお前達も既にその人柄に触れて判っていると思うが、頭脳明晰、武人としても秀でており、その心は清廉で純粋、彼と触れ合うもの皆を幸せに出来る、稀有な人物だ」
4人は時貞の見立てに納得し静かに頷く
「そんな彼を暴走させること無く、6家4門が愛情を注ぎ育てていく場して存在していたのが【井の中村】という【揺り籠】だったという訳だ」
「雅を【揺り籠】から出した理由を二階の娘は知ってる様だが、その理由は次代の6家たるお前達に、我らの一堂 雅を託し彼と寄り添いそして支えてもらいたいという想いからだ」
詩織は力強く拳を握り時貞を睨み返す。
「私の、みーくんに対する気持ちは、当代達に負けてません!いやそれ以上です!」
他の3人も詩織に続いた
「お前たちの覚悟は分かった、しかし先ほどの話しで、当代達は今の時点では七星に雅を委ねるのが一番だという意見が大多数だ」
「つまり、この度の体育祭の勝敗で雅が転校する話しも、6家及び4門の合意で承認された」
恵美が時貞の元に駆け寄り詰め寄る
「お、お爺様!!、雅君がこの話を拒否するとしたら!決定は覆るのでしょうか!」
時貞は溜息交じりに恵美を見つめ
「はぁ・・ここにきて未だ雅に頼るか・・だからお前らは七星の娘に負けるのじゃ・・」
「四葉の娘よ、七星の娘と雅の事を話したと聞いた・・お前は七星の娘に何を感じた?」
話しを振られて少し驚いたが
「静流からは、雅に対し自身の全てを以て支え、いざとなったら自身を犠牲にしてでも彼を止めると言う強い意志を感じたわ・・」
悔しそうに彩羽は話すと
「そう、少なくとも七星の娘はそれを言葉だけでなく実践した、暴走する雅を怪我した体をおして引き止め、壊れかけた心を自身の純潔の口付けをもって繋ぎ止め救った」
「儂ら当代の6家及び4門はこの対決に一切の関与をしない事をここに明言する!どうか正々堂々と六橋、七星を迎え打つがよい!」
そう告げると、時貞は詩織を見つめ悪戯っぽく微笑むと
「ああそうそう、今日の雅の晩御飯はほかの者が作るから不要じゃ」
驚き何か言おうとする詩織を時貞は振り返る事も無く部屋を後にした。
4人の許嫁達には沈黙が流れていたが、暫くするとその沈黙は静かな闘志となり4人を奮い立たす
「上等じゃない!アタシの気持ちが静流に負けてる?、はっ冗談じゃない!やってやろうじゃない!この体育祭、なにがなんでも勝つ!」
「ふふふふ、みーくんにとっての一番はこのアタシしか居ないってこと照明してあげるからw」
「あ、あたしは雅くんにそ、その、捧げてもいいと思ってる!だ、だからこの勝負全力で挑む!」
「そうですね、お爺様の言葉に少しイラっとしてしまいました、私の雅君に対する気持ちを表面上の事など・・あり得ないです!」
恵美が手を前に出すと、そこに凛が重ね、その上に詩織が手を置く、最後に彩羽が手を置くと4人はお互いを見合ってニヤリと笑うと
「「「「絶対勝つ!!」」」」
●一方帰宅した雅
「はぁ—-----」
生徒会室の一件の後帰宅するのに学校から出ると、あちこちでサインや写真を頼まれてそれに対応していると寮につくころには日が暮れていた
晩御飯は詩織が作ってくれると言っていたが・・
「あら、雅おかえりなさい、おそかったのね」
キッチンから懐かしい声がする
「え!?この声・・まさか!?」
ひょこっとキッチンから顔を覗かすのは、いのなか学校で給食を作ってくれていた校長先生の奥さんの恵ばあちゃんだった。
「恵ばあちゃん!?どうして俺の部屋に!?」
恵ばあちゃんは俺に鍵を見せると
「ほらぁばあちゃん達、雅の部屋のカギは皆もってるからね」
そういうと可愛らしい笑顔で微笑んだ
「ほら、今日はばあちゃんが腕によりをかけてご飯つくったから、一杯たべてね」
リビングの大きめのテーブルには、から揚げ、ポテトサラダ、卵焼き、コンソメスープ、カレーライスが並べられていた
「うわーーどれも学校で俺の好きなメニューだったやつばかりだ!!」
急いで荷物を部屋に置いて、洗面所で手を洗うと
恵ばあちゃんは何処かに電話をしていた
「ん?ばあちゃん電話?」
「ああ、もうすぐ付くっていうからご飯少し待ってね」
確かにテーブルには俺と、ばあちゃんの分以外に、2人分用意されていて全部で4人前だった
【ピーン・ポン】呼び鈴が鳴ったので出ようとすると、ばあちゃんに止められばあちゃんが玄関に向かった
「おおお、雅、元気にしとるか?」
「あ、あの、雅君お邪魔します」
ばあちゃんに案内されて現れたのは、井の中村の校長先生と恵美だった。
「校長先生!!ご無沙汰してます!先生こそお元気でしたか?」
おれは先生に、かけよりその手を取り懐かしさに頬が緩む
「ところで、先生?今日はなんで恵美と一緒に?」
校長先生は、恵美の肩を抱き
「なぁに久しぶりに孫に会ったもんでな、雅と祖母さんのご飯を食べるなら一緒にとおもってな」
「え!?恵美って校長先生と恵ばあちゃんのお孫さんだったんですか?!」
校長先生と恵ばあちゃんは顔を見合わせ逆に驚いていた
「ありゃ?わし等はとっくに知ってるものとばかり思っておったがの?知らんかったのか、アハハハハ」
恵美の方を見ると、軽く横に首を振っており、どうやら同じように知らなかったようだ
「まぁというのは建前でな、七星の娘にリードされとるみたいだし儂らからのアシストじゃ」
それを聞いた恵ばあさんが不機嫌な顔をして
「あの乱暴者の七星の娘が、最有力とかあたしゃ認めないよ!」
プィと顔をそむけた祖母さんの横顔は確かに恵美とそっくりだった
「ふっふふふ、あはっははは」
「どうしたの雅君急に笑い出して?」
「あははは。いやねぇ恵ばあちゃんの横顔みてたら、確かに恵美に似てるから何で今まで気づかなかったのかな?って思ったらおかしくてさーー」
恵美とばあさんはお互い顔を見合って同じように笑った
その様子を見ていた、校長先生は俺の方を向き食卓に座ると話を始めた
「雅、今お前の中にあるものは七星の娘のものか?」
----------------------




