第65話 田舎王子に凄む獣と向き合う覚悟
------------------------------------------
〇七星 静流 回想続き
雅を抱きしめ、背中を撫でて落ち着かせてると、奥から鬼道館の館長が近寄ってきた
気配から敵意は感じなかったが、力が入ったのか雅も鬼道館長に気付くと視線を移した、アタイらの座るベンチの少し手前で跪き頭を下げる
「お初にお目にかかります、私【鬼道館】という空手道場で館長と務めます、鬼道 魁の父親で鬼道 道弘と申します。」
息子からは想像できないような清廉な気配だった、しかし気付けば雅は体の痛みも関係なく鬼道館長の前で土下座して頭を下げて謝罪を始めた
「申訳ございません!この度は息子さんに対し酷い仕打ちを!この償いは必ず!」
必死に謝罪し何度も地面に頭を打ち付ける雅に鬼道館長もアタイも驚く、鬼道館長は雅の方を優しく抱いてアタイの横に座り直させ、再び元の位置で膝をついて頭を下げる
「この度の件は、我が愚息とそれに踊らされた不詳の弟子共が起こした事に対する罰です、幸い誰も命に別状はありませんし多少リハビリは必要ですが後遺症が残るような者も居ませんでした」
鬼道館長からは雅とアタイに対する純粋な謝罪の気持ちを感じた
それでも、雅の自責の気持ちは収まらない、怪我をさせた本人にもその家族にも申訳なかったと訴える。
「雅様、愚息達が七星総代のお孫様にしでかした事は、明白です複数の映像と音声が証拠として提示されております、恐らく警察も雅様に対し不当な対応は出来ないと思います」
「今回の加害者の家族にもこの内容が通知されておりますので、逆に七星総代のお孫様が処分を希望されるのであれば、我が愚息と共にこの度この愚行に参加した全員をまとめて処分する事も可能です」
「何より、雅様に対する不敬な態度は万死に値します・・仮に雅様がお許しになられても他の6家の御大達が黙っては居ないと思います」
確かに、アタイには彼らを裁く権利があるのかもしれないが、そんな事をすれば雅は益々自分を責めるはずだ、そんな事は今のアタイには出来ない
「現に、我が【鬼道館】は廃館が決まりました、近日中に全国の道場をたたみ、全国空手連盟からも除籍となる予定です」
鬼道館長の言葉に、雅の狼狽がさらに増し顔色がどんどん青くなる
「そ、そんな!僕の仕出かした事で、僕が責められるならまだしも!どうして鬼道館長が責任を負うのですか!おかしいですよ!」
その時、館長の背後から猛獣の様な殺気だった気配を感じ咄嗟に雅の袖をつかんだ
「雅よ、それが親の責任の取り方だからだ・・」
「みやちゃん、皆の怪我は大丈夫よ私の方でなんとかしたからね」
現れたのは爺ちゃんと、祖母ちゃんだった、アタイでも今まで感じたことのない二人からの殺気立った気配に戸惑う、鬼道館長はその気配に完全に気圧されて萎縮してしまっている
「七星総代・・・御無沙汰しております・・」
「ああ、道弘か・・この度の失態・覚悟は出来てるな」
館長は二人からの圧に耐えれなくなり両ひざと頭を地面に付けて苦悶の呻きにも似たように声を上げる
「そ、総代・・この度の責任は我が【鬼道館】と私にあります、如何様にも・・」
「ほう、その覚悟、、惜しむらくは息子の教育を間違えた事だな・」
爺ちゃんの拳に殺気が集中して視認できるのでは、と思うほどの気がその右こぶしに集まる
「師匠!まってよ!、この人に責任は無いよ、悪いのは僕だよ、だから鬼道館長をせめなんでよ!」
アタイの横から飛び出した雅は爺ちゃんの凶器と化した右拳を握ると、背中越しで表情はうかがえないが子供の様な純真で優しい気配で爺ちゃんを包む
「あんた、あたしらの負けだよ、みやちゃんは大きくなっても昔と変わらないねぇ」
雅の気配と祖母ちゃんの言葉で、あれだけ猛っていた爺ちゃんの気配が一瞬で収まる
「道弘、道場の看板は暫くお前に預けておいてやる、お前のバカ息子と出来の悪い弟子を見事、半年で更生させて見せよ」
圧から解かれた館長は少し顔を上げ
「総代の御言葉しかと!この道弘の人生を掛けてお約束いたします」そのまま雅とアタイをチラと見て片膝をつき
「いずれ必ず、【鬼道館】が、雅様のお役に立てるようにこの道弘、鬼道に身を落して後進を厳しく指導してまいります、この度の御恩決して忘れません」
と告げると爺ちゃんたちに再び頭を下げてから公園の闇へと消えていった
「雅、【練成】で解放したのか、無茶するもんだ、よほど儂の孫を気に入ったのかの?アハハハ」
先ほどまでの緊張感から想像できない明るい雰囲気で笑い出す爺ちゃん
「たっく!静流は見た目だけは私に似たからね、正確は凶暴なアンタそっくり」
「アハハハハ、何言ってる!狂暴なのはお前じゃろが!アハハハハ」
【ポフッ】と爺さんの脇を殴ると熊の様な爺さんが蹲る
「みやちゃんは、体大丈夫なの?少しお祖母ちゃんに見せておくれ」
祖母ちゃんの治癒気功だ
「所々赤くはなってるけど、ちゃんと気功で内側までダメージ出ないようにしてたようね・・・でもこの右腕は・・・」
そう言うと祖母ちゃんはアタイの方を見た、アタイは自分の仕出かした事に怖くなり萎縮するが祖母ちゃんは少し微笑んで理解をしてくれた
「ごめんね、みやちゃんお転婆な孫で・・・でも、ちゃんとばあちゃんが治してあげるからね」
雅に祖母ちゃんが治癒気功を使う、アタイのにわかとはケタが違う雅の中の気が正常に巡りだすのが外からでも判る
「みやちゃん、幸い折れて無くてヒビで済んでたから、1週間くらい安静にしてれば良くなるはずだよ」
祖母ちゃんはアタイの方を見ると、悪戯っぽく笑いながら
「それにしても、静流、みやちゃんにこんな怪我させて、こんな乱暴者じゃ嫌われて他の家の許嫁に取られちゃうよ」
「え、ばあちゃん・・その、アタイ・・」
雅が他の許嫁に取られる?雅が他の許嫁と笑顔で歩んでるシーンを想像するだけで、心臓が止まるかと思うほど苦しい
(そんなの嫌だ!)
「師匠に稲ばあちゃん、お願いだ聞いて欲しい!」急に雅が爺ちゃん達に話出す、アタイはまさか!と思い雅を止めようとするが
「七星さんは、俺との婚約を望んでないんだ、そして婚約を断りたいがもし断ってしまうと家から追い出されるのではと悩んでるんだ」
最悪だ・・・勘違いお節介の雅に絶望した眼差しを向けると、【俺に任せろ!】的な目をして頷く
「大丈夫じゃないって!なにも判ってないって!」アタイは必死に雅を止めようとするが、
「お願いします!二人から、ご両親を説得してもらって、七星さんを自由にしてあげて下さい!」
爺さんと祖母さんがアタイのと目があったので思いっきり首を横に振って否定した。
「みやちゃん、その事なんだけど、もう少し静流て女の子を理解してからでもよくないかな?」
「でも!七星さんの気持ちを考えてあげてよ!」
いや!アンタ以外皆わかってんだよ!
「いや!アタイの気持ちを考えつのは雅のほうだし、確かに最初はそう思ってたけど今は状況が変わったというか!とりあえずこの話は一旦無しで!」
「・・七星さんがそういうなら・・」
「ところで、みやちゃん?利き腕がそんなんじゃ不便じゃない?おばあちゃんが暫くお世話しようか?」
え?雅の世話?これってまさか・・
「大丈夫だよ、それに村に唯一の診療所を空けちゃ皆困るよ、俺はほら都会にはハンバーガーとかクレープとか箸やスプーン使わなくても食べれる物が沢山あるし、何とかなるよ!」
えええ、そんな不健康な・・そんなの食べるならアタイが・
「まぁ雅には、沢山お世話してくれる可愛い許嫁がいるしな?w」
爺さんはアタイの方をみてニヤリと(静流チャンスじゃ!グイグイいけ!)と合図するアタイはハッと気づき雅の右手をそっと握り
「雅をケガさせてたのは、ア、アタイだし!責任は取らないと!うん!そうだ、そうしよう!」
祖母ちゃんは何やらアタイの方を見て、誰かに電話を始めた
そんな時に爺ちゃんに呼ばれた
「静流、雅の力を見たのか?」
「ああ、見た・・」
「どう感じた?」
「あれは人の域を超えてる、アタイは雅が怖くて、無力な自分が情けなくて・・」
「静流、雅は今のままでは必ず破滅する」
「え?!どういうことだ!」
「雅は純粋だが他人の心をまだ上手く理解できない、それはお前も感じただろう」
「た、たしかに・・アタイの気持ちも・」そう雅の顔を見ると目線が合った、慌てて目線を外す
「雅の【解放】は力だけの解放だ、無邪気な獣が暴れまわるだけで、そこに好きも嫌いも善悪も無い」
「つ、つまりどうなる?」
「今回のように、敵対する者を再起不能にするのは容易に想像できるが、雅には女性に対する欲求を無意識に抑え込んでる」
「ま、まさか・・」
「そう、もしかしたらそのままの勢いで自分に好意を持つお前を含めた許嫁達、いやもしかしたら他の好意をもって近づく女性を手当たり次第に襲うかもしれない」
(雅が女性を襲う?まさかあんなにも優しい雅が?)
「じ、じいちゃん、そうならないようにするにはどうしたらいいんだ!」
爺さんはアタイの肩に手をおいて
「静流、雅の事が好きか?」
突然の爺さんの言葉に、戸惑ったが爺さんの目は真剣だった、だからアタイも
「ああ、雅の事が好きだ、あいつに惚れた!」
爺さんはアタイの言葉を聞くと、優しく微笑みながら頷いて
「雅には、圧倒的に恋愛経験が足りないこれはわし等が意図的に雅にそういう環境を作らなかったからだが・・・」
????
「静流今は分からなくていい、今の雅には誰かを守る為に力を振るうには、守るべき相手を想う心と愛する気持ちが欠けてる」
「それが理解できないまま、力を使い続けると衝動に動かされてるだけの獣と同じになってしまう」
「おそらく今回の【解放】で結果としてお前を守ったが恐らく雅の衝動は〈自分の物を他人に取られるのが嫌〉という独占欲だったのだろう」
「・・・・・」
「しかしそれではダメなんだ、守りたい理由がそんな子供の様な理由ではあ奴の【無邪気な獣】はいつ牙を剥くか分からん」
「爺ちゃん、アタイにどうしろと?」
「静流、お前が本当に雅が好きで、生涯を共にしたいと思うなら、あ奴の心と体をお前の全てで守ってやれ」
「守るっていっても、雅の方が圧倒的に強いじゃないか、アタイに守る事なんか・・」
「守るにも色々あるのじゃ、ほれ祖母さんが呼んでおる、祖母さんが具体的に教えてくれるわい、いっておいで」
爺さんに背中を押され祖母ちゃんの所に向かった
「静流、アンタみやちゃんに惚れたんだね」
爺さんに本心を言った、もはや取り繕う必要もない
「ああ、アタイは雅が好きだあいつと添い遂げたい!」
祖母ちゃんは黙って頷くと悪戯ぽく笑い出す
「フフフ、祖母ちゃんさっき、みやちゃんの治療の時感じたけどアンタ口移しの治癒気功をつかったねw、しかも何回も!w」
思い出したら、あれはアタイのファーストキス・・・恥ずかしくて顔が赤くなる
「それとwさっき感じた限りあんたと、みやちゃんとアンタの気の混ざり方から、二人は心と体の相性が抜群だねw」
祖母ちゃんの爆弾発言に驚く
「か、か、体ぁーーー!」
「なぁ~にw?心のほうは否定しないだぁ~w」
からかわれてる事への苛立ちよりも、雅との相性が抜群と言われた事が嬉しくて体が火照る
「あ、相性よか・・爺さんがさ、雅を守る為の具体的方法を祖母さんが教えてくれるって言ってたからよ」
祖母ちゃんは優しくアタイの肩に手を置くと
「静流、あんたが、みやちゃんの事本気で好きなら、アンタがみやちゃんの大事な物になりなさい」
そう話す祖母ちゃんの言葉は胸・・いやアタイの心に直接響く
「で、でもよぉ具体的にどうやって・・」
「みやちゃんをアンタが文字通り全身全霊で惚れさすんだよ、気持ちの方はさっき言ったように相性抜群だし素直にアンタの心のまま、みやちゃんと向き合えばいいさ」
アタイの決意は固く黙って頷く
「体の方は・・そうさな・流華あんたの母さんにでも聞くといいw色々男を落す数々の奥義を教えてくれるさなw」
「ああ、さっそく母さんに電話で教えを乞うよ!」
奥義と聞いて気合が入るが、母さんは格闘技は全くの素人のはずだが・・
「それと、アンタは六橋の娘に対し誠心誠意謝罪しなさい!おそらくみやちゃんの事を想う他の許嫁達からみやちゃんをケガさせた事を非難され恨まれるだろう」
空に対してもそうだが雅にはアタイの個人的な逆恨みで迷惑をかけたばかりか怪我をさせてしまった、謝罪は当然で恨まれる事もそれこそ殴られる事も覚悟は出来てる
「それでも、アンタは謝罪して許してもらわなきゃならない、他の許嫁と同じ土俵に立たなきゃこの戦いには勝てないよ!」
アタイはもとよりそのつもりだ
「祖母ちゃんアタイに早急に空達に謝罪する機会を与えてくれ!」
決意の籠った黄金の瞳で祖母ちゃんにお願いすると
「ああ、判ってたよ早めになんとかする!」
祖母ちゃんはアタイを優しく抱きしめ耳元でささやく
「ああ、あんたの為に宗太郎(静流のちちおや)に言って、みやちゃんの隣の部屋を押さえて買っておいたから近い内に住めるようにしとくよ、ガンガン攻めちゃえw」
「ああ、勿論だ!」
-------------------------------------------




