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第21話 田舎王子と許嫁達の夜<凛編>




〇五十嵐 凛の夜


会食の解散後、彩羽さんの送りの申し入れを断った雅君にもしかしたらと私も知らないふりして送迎を申し入れた。

しかし、結果は彩羽さんと同じで断られてしまった、思いつめた顔の雅君をほっとけないけど此処は彼の気持ちを尊重する事にした。

なにより今日の私は父に言わなきゃならない事がある。


言おうとしていた内容に大幅な変更をしなきゃだけど大事な事だから。


自宅に戻り部屋着に着替え父の帰りを待つ、今日はお母さんも一緒に帰ってくる。

私は頭のなかで言うべき内容を組み立てながらリビングのソファーにて両親の帰りをまっていた。


しばらくすると部屋の外から『おかえりなさいませ』という声が聞こえてきた。

すると部屋の前から『・・・・が。お待ちです』と扉が開きお父さんとお母さんが入ってきた。


お母さんは欧州人らしくすぐに私に抱きついて来たので軽くハグをした。


お父さんはそのまま私の横を過ぎてテーブルを挟んだ目の前のソファーに座っり、お母さんは楽しそうな顔でテーブルの横に自分で椅子を持ってきて座った。

「で、話は雅君の事かな?」

最初に切り出したのは父だった。

「はい、そうです」

その答えに少し微妙な表情をしたがすぐに元に戻った。

「私はお前が許嫁の件をあまり好意的に考えて無かったのは判ってた・・・で?その件で私に話があると?」

切り出した父にうろたえる事なくこたえる

「はい、私は自分の気持ちに素直になると決めました」

黙って見つめてくる父の横で母が目をキラキラさせて嬉しそうに話を聞いている。

「まず、お父さん御免なさい」

そう言うとソファーから立ち上がって深々と頭を下げた、その頭越しに父が言葉をかける

「その謝罪は、なにに対しての謝罪と受けとめればいい?」

やはり父はすべてを承知の上で私に自分の口からの説明を求めている。

「はい、私からの謝罪は小さいころに、つたない料理の件で当時の担当だったシェフにお父様が怒ってらした件です」

頭越しで父の表情は読み取れない

「で?・・それがどうしたというのだ?」


「はい、あれは私が無理を言って当日の厨房担当だったシェフにお願いして手伝わせていただいた物です」

「あの時お父様から叱責されるべきは私のはずだったのに、私は自分で申し出る勇気が無くて今の今まで言い出せずにいました」


少しの沈黙の後・・・・


「ああ、もちろん判っていたよ・・」

やはり、父はあの時すでに全て判っていたのか



しかし!



私は、顔を上げて父を正面に見据え叫んだ

「では!何故無関係のシェフの方を処分なさったのですか?!何故私をその場で叱ってくれなかったのですか!?」


そう声を荒げる私に対し父は落ち着いた様子でまた少し寂しそうな表情をした

「そうか・・・彼がお前を変えたのか・・いつか成長すれば自ら話してくれると信じていたが・・・凜の・娘の成長を助けたのが一堂家の・・・」

そう物憂げにつぶやく


「凛、話しの腰を折るが、私からも質問だ」

こちらの昂った感情を抑制する間もなく父が逆に質問して来た。

「お前は今でも婚約に対し否定的か?」

この質問の答えは、昨日までと真逆になってしまっており自分でも戸惑っているが回答は直ぐ出た

「いいえ、私は彼・・・一堂 雅君の事が好きです、もちろん他の6人に譲る気は全くありません!」

そして続けて答えた。

「私は、彼への想いを遂げる為、今こうして過去への清算を決意しました、でないと彼への気持ちにも素直になる資格が無いと思ったからです!」

母は嬉しそう頷く

「そうか、やはりそういう風になるのか・・・」

少し考え事をした父は

「先ほどのお前の質問に答えるのであれば、今日お前たちの会食した店のシェフの味に覚えはないか?」

「え・・・?と言いますと?・・・・・・?・・・まさか!」

父は微笑み

「そういう事だ、そもそもお前が厨房で私に料理を作ってくれた事がとても嬉しくてな、お前の気持ちに協力してくれた彼女を処分などするわけなかろう私はお前があの場で自分が作ったのだと声をあげてくれるのを待っていたんだ、今日思いは遂げられた、ありがとう凛」

私はその場で泣き崩れた、それを見た母が傍にきて背中を撫でてくれた。

「お父様の寛大な心に気付けず・・・私は・・・私は・・・・」

ひとしきり泣いてソファーに座りなおした、しかし私の横にきた母に手を握られている。

「ところでだ・・凛・・・雅君は三宗の娘の料理を食べて何と言っていた?」

ビクっとなり答える

「は、はい・・・とても美味しいと・・・」

「雅君の好物はオムライスと聞いたが?どこからの情報だ?二階家か?」

「は、はい・・・詩織・・二階さんからの情報です・・・」

「そうか、わが店のオムライスを褒めてくれたとは聞いたが・・・二階の掴んでるレシピ・・・なんとしても・・・」

何やらいつなく険しい雰囲気の父に

「あの・・・お父様・・私・・もう一度料理を覚えたいの・・・ですが・・・」


『バン!』


父は思いっきり机を叩くと


「当たり前だ!事料理の事で五十嵐が他家に後れを取るなど有りえぬ!凛!お前にお母さんを暫く専属で付ける!」

母を見るとニコっと笑う

「え?でもお母さんは各店舗の指導者としての仕事が・・・」

「今日は私の後任の手付きを終えてお父さんと帰ってきたのよ、お父さんから貴方の料理の専属先生を頼まれてね」

驚き父の顔をみると少し照れてるようだ

「コホン!、何れにしろ雅君の好物だったオムライスのレシピはどんな手をつかってでも手に入れる!お前はまず雅君の胃袋を掴め!」

「決して負ける事は許さん!特に二階と三宗の娘にはな!」

照れ隠しなのかいつもよりトーンの高い声で話す父が少しおかしくて笑ってしまった。


「フフフ、お父様?私が負ける?有りえないわ!お母様より料理を習ってマスターすれば私に敵はいない!たとえ詩織さんでも恵美でも!」

そう強気発言をする私の周りに何年ぶりかの家族の笑い声が広がる・・・




【雅君ありがと、貴方への想いがあたたかな家族を取り戻す勇気をくれた・・・・そしてこれからは覚悟してね!】



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