第20話 田舎王子と許嫁達の夜<恵実編>
〇三宗 恵美の夜
初恋の想い人だった雅君が私の婚約者で未来の旦那様だった。
昨日お父様から婚約者の話を初めて聞いた時は、雅君との未来を閉ざされたと感じ人生に絶望してしまった。
本当は転入生の案内を任されていたが、昨日知った内容の衝撃と恐怖から『体調がすぐれなくて・・・』と先生に急遽代役をお願いする事にした。
私は、転入生が控室に入るまでの間トイレに隠れていた。
流石に、新入生の入場の時に生徒会員が抜けるのは、問題なのでタイミングを見計らって生徒会に合流した。
しかし、段取りを知ってる私は校長の話の後の展開を知っている。
いよいよ、転入生であり私の婚約者が姿を現す・・・動悸が激しくなり嫌な汗も噴き出してきた。
(たすけて・・雅君・・・・雅君・・・どうか・・・)
壇上に現れた転入生の姿をまともに見れず目を瞑り祈る
「私の・・・事を・・救い出して・・・・雅君・・・・」
そう祈る私の周りが騒めく・・・私は目をゆっくりと開き壇上の婚約者を目にした・・そこには
「雅君!!!」
それからの事は頭が混乱してよく覚えてないが、何度も準備ていたので集中してなくても問題なく式もすませられたようだ。
彼の周りは人だかりだった、どうも昨日発売の雑誌の表紙モデルだったようだ。
黄色い声に少しイラっとしていたが、それよりも雅君を侮辱するような声に怒りを感じていた。
凛ちゃんと一緒に教室に向かう途中での騒動に遭遇し私と凛ちゃんはそれぞれの腕章をつけると群衆に割ってはいった。
彼に挨拶されると「三宗さん」と他人行儀な呼び方をされムッとしてしまった。
「名前でよんでください!」なんと凛ちゃんも同じように反応していた。
凛ちゃんが雅君にただならぬ想いを持ってる事は判っていたが、でも残念!
私は彼の婚約者で生涯の伴侶となるの!私はさっきまでの不安が反転し絶対の自信に代わっていた。
しかしそうそう上手くはいかなかった・・・彼には6人も婚約者がおり私はその内の1人という、しかも凛ちゃんもだった。
私は内心激しく動揺していた・・・私の目の前の婚約者達は誰もが綺麗で魅力的で積極的だった。
会食の最後で他の3人からの強い意志が示された・・・私は・・・それでも・・・負けたくない!!
凛ちゃんは、私のかけがえの無い親友だがこの初恋だけは譲れない!
そう決意し、夜お父様が帰宅した後に話をする時間を設けてもらった。
「お父様、折り入ってお願いがあります」
リビングでお母さまの淹れた紅茶でくつろぐお父様の横に立ち軽く頭を下げる。
「ほう、恵美が私にお願いというのは珍しいな、特に中学生に上がってからは記憶にないな?」
お父様は嬉しそうに微笑み答える
「単刀直入に申し上げます、私と雅君・・一堂君の婚約遂行に際し御助力願います」
今度は深々頭をさげた私に少し驚いた様子だった
「と、いう事は恵美は雅君との婚約を受け入れ、他の6家と争うという事だな?その中にはお前の親友の五十嵐家の令嬢もいると思うが?」
顔を上げてお父様の目を見つめる私に今度は感嘆の声をあげる
「ほう・・恵美がこんなにも強い輝きを目に宿すとは・・・やはり・・・そうなるのか・・」
「はい、私は例え凛ちゃ・・・五十嵐の家が相手だとしても雅君を諦めるつもりは有りません!」
そう言い放った言葉にしばしの静寂が室内を支配する。
『カチャ』
そう無機質な音で静寂を壊したのはお母様だった。
「あなた・・可愛い娘が自分の恋の為に、初めて強い意志を示したのよ、親としては出来る限りの応援する事が子供への愛情ではなくて?」
そう優しく私をみて頷くお母様・・やはり一番の私の味方だ、胸がジーンとする。
父はお母様と私を交互にみると、少し寂しそうに微笑み
「父親としては複雑だけどね、これも恵美が三宗 恵美だからかな?」
そう意味深な物言いと共に再び真剣な表情になった
「恵美は、一堂 雅君の事を生涯愛し彼のおかれた境遇にも寄り添う覚悟はあるのだな?」
お父様から求められた覚悟の言葉の重さはヒシヒシと伝わった・・・だが!
「覚悟も、決意もとうに出来てます!私は他の人にも凛ちゃんに負けたくない!いや絶対勝ちます!」
その日久しぶりに3人で夜のティーパーティをした、お母様と二人で焼いたクッキーをお父様に食べてもらった
嬉しそうに私の焼いたクッキーを食べる父を見ながらも私はここに居ない彼を想い別にラッピングした袋を優しく撫でた
【お父様御免なさい、この綺麗に焼けたクッキーは・・・・・】