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04 襲撃者

「時間は……うん、変わってないね……。流石は、あんたの友達だと言っておこうか」


 がたん、ごとんとトリノは電車に揺られていた。先ほど突き破られたりびしょぬれになったりしていたのは、完璧に修復されている。


 空が暗く染まったころ、電車はようやくトリノの家の近所の駅に停車する。


「それで」トリノの周囲を漂う白い風がひとつ、びゅうと音を立てながら遠くへ飛んでいく。「なんでついて来てるの?」


 その少し離れた距離をつかず離れずで保ちながらトリノの後をついて来ているジョイライドが、ばつが悪そうに頬をかいた。


「言っただろう。トリノ君の調査もワタシの仕事の内なのさ」

「不快だよ」

「こっちも命を押さえられてるんだ。勘弁して欲しいな」


 そう説明を受けたトリノは、大きく息を吐いてから家の鍵を開けた。

 だが、ドアは開けない。ドアノブを握ったまま、トリノはもう片方の手の中指で壁をとんとんと叩いてビートを刻んでいた。


「……そんなにワタシに家を見られるのが嫌かい?」

「そうだね」


 そして、突然ドアを全力で引っ張り、金属の蝶番をぶち破って破壊した。


「うわあ……なるほど、もう次の襲撃者が送り込まれていたわけか」


 トリノが氷でできた拳銃を家の中に突き付けていると、その暗闇の中からひとりの男がゆらり、と現れた。


 肌の青白い、幽霊のような少年だ。七三分けの黒髪には、ところどころにつたが巻き着いていた。


「怖いねぇ。そんなに興奮しないでくれるかなぁ? ふふっ」

「残念ながら、僕は少年趣味じゃないんでね」


 バン、と大きな音を立てて拳銃が発砲される。飛び出した氷の弾丸はまっすぐ少年の額を貫き――


「そういう意味じゃぁ、ないんだけどねぇ!」


 後ろからナイフで攻撃を仕掛けてきた少年を、今度は銃を使わずに体術で地面へ叩きつけるトリノ。


 ジョイライドは少年の死体があったはずの場所と、トリノと交戦中の少年を交互に見つめて、何か納得したように頷いた。


「そりゃ失礼」


 アニメの変身ロボットのようなアニメーションで拳銃が組み替えられ、ロケットランチャーへと形を変える。

 地面に倒された少年の背に照準を向け、引き金を引く指に力を込めた、瞬間――再び、時が巻き戻った。


「無駄だよぉ。ぼくの能力『スプリング・リバース』は、時を巻き戻すのうりょ――」

「なら、能力を発動させなければいい話か」


 今度はアニメーションを経ずに出現したロケットランチャーが少年へ向かって発射される。


 脊髄反射的に魔法を発動させようとした少年を、トリノはとてつもない速度で往復ビンタすることで強制的に妨害した。そしてロケットランチャーの弾が着弾し、大きな音を立ててトリノの家ごと破壊してしまう。


「『ウェアエバー・ユー・アー』。僕の自動追尾弾さ」

「ぐぁあ――!?」


 鋭利な針の形状をしたつららが突然宙に現れ、少年の左腕を貫く。

 少年は痛みをこらえつつつららを抜き、投げ捨てるが、トリノの言葉通りそのつららは少年を追尾し、再びその手のひらに風穴を開けた。


「ぁああああ――! あ、アダムズ様ぁああああああああ!」


「アダムズ……!?」


 少年が両手を地面に当てると、そこを起点に朱色と緑色の魔法陣が展開される。トリノが両手を合わせて魔法を発動し、アスファルトの地面ごと魔法陣を破壊しようとするが、途轍もない圧力がかかっており大地は微動だにしなかった。


 妨害に失敗したトリノの代わりにジョイライドが手持ちの投げナイフを投擲するが、それさえなにかに弾かれて妨害されてしまった。


 そして、空気が大きく震え、何かが姿を現す。


竜輝(りゅうき)。まったく人様に迷惑をかけやがって」


 体のところどころにグリッチのような四角形の歪みが発生している、ヨーロッパ風の顔立ちの青年だ。サングラスをかけているが、その奥の青い瞳には赤い禁止マークと黄色い警告マークが浮かび上がっている。


「あ、アダムズ……? 本物なのか……?」


 ぐるぐると首を回してのんきにストレッチを始めるアダムズ。


 それを見て、ありえない、と言わんばかりに目を見開くジョイライドに、トリノが質問をぶつけた。


「知り合い?」

「ああ……うん、知り合いだよ、昔は姉弟みたいに仲が良かったのさ。でも、こんなグリッチはなかったし、瞳もマークなんてなかったし……第一、もう死んでるはずなんだ!!」


「あー? 誰が死んだって? ハハ、おれはこの通りピンピンしてるんだ、よォ!」


 トリノに途轍もない速度で殴りかかったアダムズ。とっさに生成した氷と水を交互に並べた壁がその威力を大幅に緩和するが、それでも壁を貫いた拳にトリノの肋骨が一本折られる。


「『マッハ』能力は健在なのか……! トリノ君、気を付けるんだ! アダムズは魔法で速度を大幅に上昇させられる!」

「そのくらいもうこっちだって把握してるよっ! 『青氷に映る虹(フロストバウンド)』ぉ!」


 付近に霧雨が降り注ぎ、四方向に色の配置の異なる虹が出現する。背後で苦しそうに荒い呼吸をしていた、竜輝と呼ばれた少年はそれを目にするとがくっと崩れ落ちた。

 だが、アダムズには全く効果が見られず……。


「『青雨の恵む勇気(ウォーターカラー)』!」

「ぐおっ!」


 続いてトリノがアダムズに水の槍を飛ばして突き刺すと、それが一瞬で蒸発し、アダムズの体内に溶け込む。


 その直後、アダムズの首の血管が破裂した。どくどくと赤黒い血が噴き出し、少々苦しそうな表情を見せたアダムズは、ようやく攻撃を止めた。


「アダムズ……アダムズ・グリーンティー、で合っているんだね……?」


 ジョイライドが、旧友の名を確認する。


「よく知ってるじゃねえか……チッ、クソ。体がまだ馴染まねぇ……いったんここは、引かせてもらうとするぜ……!」


 ひょいっと後ろに飛びのいたアダムズは竜輝の首をひっつかむと、人間には到底出せない速度で血を流しながら夜の闇に消えていった。

 それと同時に世界がぐにゃりと形を変え、まったく壊れていない綺麗なままのトリノ宅が出現する。


「念のための仮想空間が役に立ったかな……」


 今度はためらいなく家の扉を開き、中へ入るトリノを見て、ジョイライドは改めて畏怖を覚える。


「精密な水の操作に、仮想空間の制御……? トリノ君の能力は、本当に何なんだ……?」

 時を巻き戻す魔法ですが、既にこの前の小説で『コーラル・ディザイア』という同じようなものが出てきてますね。いちおう、差別化というか区別のために若干仕様が違います。さすがにイコールがいくつもあったら面白くないですし……。


 あと、アダムズについては前の短編小説『キサラギスカイ』を読めば少しわかります。ジョイライドについても。

 あとあと、トリノ君がアダムズにした攻撃はめっちゃグロいやつです。水の槍を胴体に突き刺した直後に気化させることで、血管内に大きな体積を持つ水蒸気を送り込み、内側から破裂されるのです。グロし!


 追加元竜輝(ついかもとりゅうき)

 魔法『スプリング・リバース』……時を10秒巻き戻す。ただし自身の関係者の記憶は残る。

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