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03 禍々しい取引

「取引……それはどんな?」


 トリノがいやいや返事を返す。それと同時に彼の周囲を漂う白い風がいっそう濃くなり、周囲の気温ががくんと下がる。ジョイライドは可愛らしいくしゃみをした。


「オマエには悪いけどな……一個だけ、取引内容を言う前にしておきたいことがある」

「分かった。――死ね」


 その言葉と時を同じくし、瞬時にトリノの瞳が凍てつくような青に染まる。

 透明度を失い完全に具現化した白い風がジョイライドを保護するように包み込み、すぐ数多の刃へ形を変えてディレクションへ飛んで向かった。


「『ウィーニーウォーカー』!」


 一瞬で長い間を縮め、トリノへ迫るディレクション。その両手は水色の風に包まれていた。

 トリノは一瞬でその正体を看破し、相殺するべく白い風を操作する。


「取引する前にしては、少し暴力的すぎやしないか? 僕を殺すつもりなのかな」

「いや? オマエが死ぬわけないだろ、この程度で。それとも見込み違いだったか?」


 にやにやしながら挑発してくるディレクションの拳がトリノの腹めがけて振るわれる。激しくイラつきを覚えたトリノは方針を大きく転換した。


「――なっ!?」


 その拳を躱しもせず、防御もせずに受けた。斬撃という概念を纏った、物理法則を超越した拳をまともに受ければ、当然結果としてトリノの腹部を腕が貫通する。

 真っ赤な血がぶちまけられ、トリノの体がばたりと地へ崩れ落ちた。


「お……おいおい。冗談、だよな?」


 激しいめまいを覚えるディレクション。このめまいは、気分からくるものではないという考えに至る。ならば、これも攻撃? トリノからの?


 ブォン、と空を切る音が背後から鳴り――


「僕の勝ち、かな」


 今度はバットを後頭部に直撃させられたディレクションが倒れてしまった。その背後には、無傷のトリノが突っ立っていた。


「え? あれ? トリノ君がふたり?」


 混乱した様子のジョイライドだが、次の瞬間の視界に白い粒が入ったためギミックを理解した。


 先ほど腹に風穴を開けられた体は、精密に作られたトリノの『人形』だったのだ。それは既にトリノのコントロールを外れ、白い粒となって崩れていく。


 ジョイライドは、自分とディレクションが人形の正体を看破できなかった理由について考えを巡らせる。


「あー。また、サブリミナル効果か……それにしては今回は虹が見えなかったけど? 解説をお願いできるかい?」

「お断りだね」

「やっぱりそういうやつだよねぇ……」


 ため息を大きくついたジョイライド。首にかけている勾玉がきらりと光を反射した。


「家に帰してくれないかな。僕にも家はあるんだけど?」

「そのくらい知ってる。ただね、この空間の主はディレクションなんだ、その主を気絶させたのはトリノ君だろう? ワタシじゃ帰すのはちょっと無理だからね」


 不機嫌レベルがメーターの天井を激しく叩いている。


 トリノは頭を乱暴に掻き毟ると、バットを思い切り振り上げて気絶しているディレクションの脳天めがけて振り下ろした。


 ゴォオオオン、と鐘でも鳴らしたかのような鈍い音が鳴り、バットが盛大に砕けて破片をまき散らした。

 それと同時に、若干たんこぶのできたディレクションは呻きつつ起き上がる。


「取引内容を言ってくれるかな?」

「あーい。ま、簡単だよ、オマエを襲ってくる組織のメンバーをひっとらえて、オレっちかジョーに渡してくれればいい。メリットは、オレっちが組織の情報を提供することだな」


 ジョーというのはジョイライドの事か。


 トリノは面倒そうに顔をしかめた。それを見たディレクションは、なら、と追加の報酬を提案する。


「ひとりにつき一万出そうか。それでどうだ?」

「まあ、いいか」


 お金を出されると甘いトリノなのであった。


 サインや押印などはせず、口約束ではあるが、できるだけ破らないようにはしようと決めたトリノ。中学生ということでバイトもできず、親の小遣いもゼロだったのでちょうど金銭面では苦戦していたところなのだ。


「オレっちの電話番号はこれな。ほい登録登録」


 スマホの電話帳にディレクションの電話番号を登録し、念のため一度発信する。するとディレクションのガラケーからはベートーベンの『運命』が大音量で鳴り響いた。


「クラシックが趣味なの?」

「まあな」

「ふーん」


 自分から聞いておいて失礼なやつだな、とディレクションは悪態をつきかけたが、うかつにそんなことを言おうものならまた新しいバットで叩き殺されかねないと思いなおして言葉を飲み込んだ。


 ディレクションの中では、児玉トリノという存在は既に猛獣よりヤバいやつ認定されている。


「じゃあ、用は済んだでしょ。もう帰らせてよ」

「はあ、つれないやつだな。少しくらいお茶しても……ってここには何もないんだった」


 ぴくりとも表情を動かさないトリノ。


「ごめんって。何かあったらすぐ電話してな。じゃーなー」


 トリノの足元へ朱色の魔法陣が出現し、直後に周囲を白い光が埋め尽くした。

 これまでトリノ君は白い風を操る際に周囲が水浸しになっていました。ということはトリノ君の魔法は水操作……と思った方もいるかもしれません。全然違います。

 あとあっさり敗北したディレクションですが……本気出すどころか一割も力出してません。ガチです。その気になればトリノ君をぐにゃーってして新しい月作ることもできます。


 ジョイライド

 魔法『ウィーニーウォーカー』……手足の表面を起点として『斬撃』もしくは『分断』という概念を生成する。飛ばすことも可能。概念による切断のため物理的な防御が一切通用しない。

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