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01 指さし

「またなー!」

「またね」


 児玉(こだま)トリノは夕暮れの日差しを背に受けながら駅へ向かっていた。ちょうど、この近所に家がある友人と別れる。


 ほとんど黒い髪だが、右前半は白くなっている。背丈は中学生男子として普通くらい、とくに細くも鍛えられてもいない。顔立ちはやや整った方で、まだ少年らしいあどけなさが残っている。


 彼のまわりを、ゆっくりと白い風が通っていく。すぐそばを通った猫が大きく身震いし、一瞬トリノの方を向き直ると、しっぽを二度振ってからまた歩きはじめる。

 部活も終わったし、トリノはあと一時間ほどがらがらの電車に揺られて家へ向かうことになる。いつも通りだ。


「ん」


 このあたりにしては珍しく、細い路地のほうから騒がしい声が聞こえた。右を向けば、小学生らしい八人がひとりを寄ってたかっていじめている。最近増えている、いじめの現場だ。トリノはよりにもよってその第一発見者になってしまったらしい。しまったという気持ちがわくが、すぐにチャンスのような気もしてきた。


 気づかれないように塀に隠れ、スマホで二枚写真を撮ってから数度スマホの画面をいじる。万一証拠があるか求められても対応できるように。


 すっかり、トリノの頭の中はいじめの犯人を叩き潰す方法で埋め尽くされていた。正義感というよりは、ただ自分がすっきりするためだけである。


「やめなよ」


 トリノが堂々と姿を現すと、いじめをしていた子たちは一瞬顔を見合わせた後、すぐトリノのほうに向きなおって、ひとりが口を開く。


「なんだよ。俺たちはただ遊んでるだけじゃねーか」

「それにしてはそこの彼だけ痣や擦り傷が多いようだけど」

「……もともとだよ、もともと! 俺たちがつけたって証拠はあるのかよ?」


 そう来たか……。

 内心で少しうめくトリノ。もちろん、いじめでこの傷がついたかどうかを示す証拠はない。


「ないね。だけど君たちがそこの彼を集団で攻撃していた証拠はあるよ」

「っ……邪魔すんなよ! クソジジイ」


 ひとりがばっと駆け出すと、それに追随するように全員が逃げていく。

 ふわりとトリノの周囲を舞う白い風が空へ上り、あとはトリノといじめの被害者だけが残された。


「……」


 被害者の少年はトリノをきつく睨みつける。


「余計なことすんなよ! 前も誰かが止めたけど、おもしろがって結局ひどくなったんだからな。事情も知らないで首つっこむなよ! ゴミが!」


 少年も、そう言うとばっと走り出す。彼はしばらく進むと、いじめの犯人たちとは反対方向の曲がり角を駆けていった。


「……悪いね」


 トリノがくるりと踵を返すのと同時に白い風が揺らめき、町の奥から複数人の悲鳴が響いた。――そう、ちょうどいじめの犯人たちがいるあたりから。


 それを聞いたトリノは、腕時計を確認すると駅の方向へ走り出した。

 今度は、いじめがなくなるだろう。……少なくともひと月ほどは。




 ――がたん、ごとん。

 トリノはがらがらの電車の中、吊り革に右手で捕まって小説を読んでいた。なぜ椅子に座らないかと問われても、特に理由はない。

 ただそうしたいからしているだけだ――トリノが学校中で変人呼ばわりされる所以のひとつでもある。


「ん」


 ぴちゃり、とトリノの足元から水の音が鳴る。気が付くと、トリノの周囲は少し水たまりができていた。


「この電車は暖房がきついね……」


 後ろを振り向くトリノ。二両編成のこの電車の、後ろの車体とこちらをつなぐドア。その窓から、しゅっと何かがひっこんだ。どうやら、こちらを監視している輩がいるようだ。


 トリノが迷わずドアを開く。だが、そこには誰もいなかった。


「……?」


 見間違いか、とも思ったが、よこからかたんと小さな音が聞こえた。

 そちらを向けば、一瞬だけ空気が陽炎のように揺らめく。


「……『ウェアエバー・ユー・アー』」


 その声に応じるように、白い風が一気に増幅する。それは車内をゆっくりと白く染めていき――


「はーっ! なんで分かるんだ……」


 ひとりの少女が突如姿を現した。

 あぶり出しには成功したので、白くなった車内はじわじわと溶けるように元に戻る。ただ、その床にはペットボトルをひっくり返したくらいの水があふれていた。


 少女の髪色は銀色、長い髪を左側で束ねている。淡い氷色の瞳はクールな印象を与えそうだが、今はじたばたしていて知性の欠片もない。

 首にはネックレスとして二つの勾玉をつけており、そして、頭には一対の猫耳、腰には二本の尻尾があった。


「君の名は」


 少女はその問いに、気まずそうに頭をかきながら答える。


「ワタシはジョイライド。猫又で……ちょうどキミの調査をしていたんだ。知り合いから頼まれてね」


 ふう、とひとつ深呼吸して冷静さを取り戻すジョイライド。


「調査……あんたにはこっちが危険な動物にでも見えてるのかな」

「いや、そういうわけじゃない。自覚はあるんじゃないのかい? 魔法が使えるんだろう、トリノ君」


 トリノが面白くなさそうに息を吐く。

 それと同時にジョイライドの周囲はいきなり白く凍り付き、ジョイライドが声を上げる。


「おい! ちょっと、いきなり攻撃するのは卑怯じゃないか!?」

「卑怯だろうが何だろうが知らないね。……どこでそれを知ったか、教えてもらえるかな」

「……知り合いから依頼された時に情報提供もあった。知り合いは君のような魔法が使える人の調査を行っている。なんで調査しているか、理由は伏せるけれど」


 噓は言っていなさそうだ。

 トリノが指を鳴らすと氷が解けてジョイライドの体も自由になる。


「うへ……服がびしゃびしゃだよ」


 ジョイライドが濡れてしまった服を手で仰いでいると、突然奥の車両から大きな音が鳴った。


「今回の調査はキミへの忠告も兼ねてたんだ。敵が来る、とね……言うのが遅かったみたいだけど」

「大事なことを先に言ってほしかったよ」


 ジョイライドがトリノの後ろに隠れるのと同時、車両のドアを蹴破ってひとりの女が現れた。

 こんにちは。僕です。

 この小説は「心のねじ曲がった人が主人公の小説が書きたい!」ってことで生まれたのです。ねじ曲がってますかね、トリノ君?

 週一投稿くらいになると思います。メインの長い小説もあるので。

 では、また。


 児玉(こだま)トリノ

 魔法『ウェアエバー・ユー・アー』……能力不明。

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