少年が見たもの
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玄関に入った瞬間、何だか家の中の空気がいつもと違う、と敏感に察した陸は、急いで妙の部屋へ行き、ドアを開けた。
陸の直感は当たっていて、そこにはドアの方へ頭を向けて、うつ伏せに倒れている竜ニの姿があった。
「竜ニさん、どうしたの!? 妙姉! 何で竜ニさん倒れてるの!?」
動転しながら姉を見ると、妙もまた激しく動揺しているようだった。
血の気の失った唇を半開きにして、水面から顔を出した時のように、はっはっと息を吸っていた。その手には携帯が握られていて、今まさにどこかにかけようとしていた、という様子だ。
陸の大声で、彼女はハッと気が付いたように、体を大きく震わせた。そして口をキュッと引き結ぶと、携帯を耳に当て叫んだ。
「助けてください! 同居人が頭を打って意識がないんです!」
陸は、竜ニの様子を見ようと、部屋の中へ一歩踏み入った。その瞬間足を滑らせ、どすんと尻餅をついてしまった。
痛みに悶えながらも竜ニに近寄り、その体を仰向けにする。現れた竜ニの顔を見て、陸は思わず手を引っ込めた。
白目を剥いた人間というのを、幼い少年は初めて見た。ましてやそれが毎日顔を合わせていた者なら、身動きが取れなくなってしまったのも、無理はない。
そうこうしているうちに救急隊員が来て、あっという間に竜ニを病院へ連れて行った。陸は夢でも見ているかのような心地だった。
薫の口から、極めて柔らかい口調で訃報を聞かされた時、ようやく現実味が伴ってきた。
陸は、体も器も大きくて、気前よく遊び相手になってくれた義兄のことを思い、一晩中泣いた。
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