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神々の戦い

「ミーちゃん、来るっ!」

「わかっとるわい!」


 叫んだのは、ナキの能力・心眼「テレパス」で得た思考をシンクロするさや。

 同じく、リリスの能力「エージェント」の発動直前の違和感を感じ取れるミーもまた、攻撃のタイミングを把握していただろう。


 俺が気付いた時には、ミーはさやを抱きかかえて、超高層ビルの屋上を見下ろしていた。

 つまり、さっきまでいたテラスから上方向へハイジャンプしてとんでもない高さまで浮き上がり、上空で滞空中だったのである。


 東京タワーから見下ろせば、確かこんな景色だったような気がする。平常時に見れば素晴らしいと思えるはずの夜景が眼下に広がっていた。

 ただし、景色が素晴らしく見えるのは、あくまで自分が生きて帰れる安全な状況にいるからだろう。

 今はミーがジャンプしただけの状態。なんの安全措置もない。このまま落ちれば、ビルの屋上に叩きつけられて死ぬのは間違いない。

 

「ひっ……」


 さやが小さくうめいて、


「くっ」


 それと同時にミーが妙な声をあげる。


「どうしたのっ!?」

「かすったわ」


 遠くのほうから、ダダダダ、という連射銃撃の音が聞こえる。リリスとの距離はかなり離れていたから、音が少しだけ遅れて聞こえていたのだ。下方向を見たミーの視界、夜景が織りなす光の群れの中に、キラキラと輝く光の塊──つまりリリスが見えていた。


「しっかりつかまっときや!」

「ひいいっ」


 さやをお姫様抱っこするミーは、超高層ビルの屋上に向かって自然落下した。高さで言うと二〇メートル以上はありそうな距離を、どんどん加速しながら落ちる。さやの視界は閉じられていた。


「手はあんまつようないから、おんぶかな」


 そう呟いたミーは体勢を変更する。空中で、さやをうまいこと操ってヒョイっと動かし、


「どりゃっ」

「ぐえっ」


 がっしりと安定感のある着地を敢行。どうやらミーは、超高速で動き回るイダテン能力の影響で、移動に必要となる身体強度が飛躍的に高まっているようだった。

 ミーはイダテン様だから平気なのかもしれないが、さやは着地の衝撃で、内臓が出そうな声を出す。


 着地後、間を置かずに超加速。屋上を瞬足で走り抜けて反対側の柵を飛び越え──。


「いやあああああっ!」


 さやの絶叫とともに、またもや眼前には芸術的な夜景。理路整然と並ぶ窓の光が、視界を共有しているだけの俺にも鳥肌を立たせる。

 

 ミーは、地上三〇階はありそうな超高層ビルの屋上から何のためらいもなく飛び降りた。ビルの外壁沿いに落下する二人の視界の中で、無数の窓が高速で上方向に通り過ぎていく。


「ミーちゃんっ! あいつ、どっかから……」

「さやっ、あっち、防御っ!!!」


 加速しながら墜落する最中さなか、ミーは指差しながら、さやに合図した。


 ミーとさやの視界の中、落ち続ける二人の水平方向──およそ一〇〇メートルは離れた位置に、翼の生えた光る人間が。


「うああああっ!」


 叫ぶさやの真正面が光で満たされた。

 リリスとの間に張った光のバリア。具現化されたさやのスターバレットがリリスの銃撃から二人を護る。

 

 タタ、と二、三発程度の銃声。

 ふと気づくと、光の壁に無数の穴が空いていた。


「げっ! すっごい厚めに具現化したのに、あんな短い銃声で穴だらけ!」

「あいつ、時を止めるからな。その間にも撃っとったんやろ」

「知ってるよ! それを聞いてたから厚めに作ったのに……このやろっ」


 五秒間のうち、一秒間だけ時を止めることができる、リリスの能力「エージェント」。


 さやは、すぐさまリリスに向かって光弾を撃ち込み反撃を試みる。

 リリスは真横方向へ素早く飛んで回避行動を取り、さやは追撃するようにリリスを連射で狙い撃った。光弾の列がリリスに向かって、まるで光線のように連なっていく。


「そうか」

「そやな」


 二人は、一言だけ発して何やら同意した。


 と、何気なにげに下方向へ視線をやったさや。落下地点がもうすぐそこに迫っているのに気が付く。


「って、ミーちゃん、この落下距離でも着地できんのっ??」

「わからん」

「えええええっ」


 さやは目を閉じた。


 ミーは、目をそらすことなく落下方向へ視界を固定する。ビュウビュウと通りすぎる風の音は、速度が増すほどに大きくなっていた。


「できる。できる、できる」


 呟くようなミーの声。


「やれる。大丈夫。バネ。なめらかに、」


 スウっ、と大きく息を吸い込み、



 ダアンっ!!

 


 自動車が壁に衝突したかのような大音響とともに、ミーの視界に映る着地点のコンクリートは、ミーを中心としてまるで蜘蛛の巣のようにヒビが入った。


「さや。大丈夫か」

「いつつ……まあ、何とか。さっきの屋上の時より遥かに高かったのに、なんで大丈夫だったの?」

「さすがに一人背負ってこの高さは限界ギリギリやな。そやけど、できちゃうところが、やっぱ才能やな」

「自信過剰女……上っ!」


 さやの声に合わせて、ミーは瞬間的に水平方向へ動く。

 

 直後に鳴る、バラバラという破壊音。

 さっきまで二人がいた位置に、まるで雨のように銃弾が降り注いだ。


 ミーはビルの中に入り、閉じられたガラスの扉を、剣と蹴りでガンガン破壊して進む。

 やがて、大きな吹き抜けに辿り着いた。ここでミーは、さやを背中から下ろす。


「さや。ここで別れるで」

「そうだね。気をつけるんだよ」

「ふん。誰に言うとんねん、」

「ボケ! ……でしょ?」


 向かい合わされた二人の顔。

 ふっ、と口元を緩ませるミーは、すぐさま神速を発揮して元の方向へ駆けていった。

 

 さやの視界は、ビルの中を走っていく。ミーの視界は、ビルから出てリリスの姿を探しているようだった。


 どうして、二手に別れたのだろうか?


 俺は不思議だったが、しかし二人はほとんど言葉を交わすことなく、ゼウスでの会話もせず、完全に同意していたのだ。 


 さやはナキの能力「テレパス」が効いているから、リリスの接近には前もって対処できるだろう。その上、スターバレットで防御も可能だ。

 でも、ミーは違う。リリスの攻撃を防御することもできないし、敵の位置も感知できない。

 

 だから、俺は心配になってミーの視界を追った。


 ミーは、ビルの外にある道を走っていた。 

 目にも止まらぬ速さでビルの側面にある歩道上を駆け抜ける。ミーはそのまま、ビルに沿って直角に曲がろうとした。


 と、真正面、サブマシンガンの銃口を真っ直ぐにミーへ向けて宙に浮かぶ天使の姿が。


 フルブレーキをかけたミーは靴から煙を立たせ、さっき通り過ぎたビルのかげへと瞬間的に飛び戻る。サブマシンガンの弾はミーの残像を撃ち抜いた。


「ブンブンと鬱陶しい。飛び回るだけなら蝿と変わらんぞ」


 見下すリリスのセリフをよそに、ミーはビルのかげに入った直後に水平移動を止め、ビルの外壁沿いに垂直方向へと飛んでいた。ジャンプの推進力と重力が拮抗して、一〇メートルほどの高さでミーの視界は上昇を停止する。

 

 ゆっくりと落下を開始したミーの直下に、瞬間移動をしてきたかのようにリリスが突然姿を現した。奴は、ミーの姿が見当たらずキョロキョロとする。

 つまり、リリスは時を止め終わった直後。奴が一秒間のゴールデンタイムを使い切っていれば、ここから四秒間、奴は「エージェント」を発動することができない。


 ミーは、落下しながら猛烈な勢いで前転し始める。そのまま、縦回転と落下の力を利用し、リリスへ向かって真っ直ぐに剣を振り下ろす。


「ぐっ……!!!」

「よん」


 キャイイン、と鳴る、互いの武器の音。

 ギリギリのタイミングでリリスは上空からの奇襲へ対応した。

 が、受けきれず、体勢を崩す。

 ミーは着地と同時に連撃を開始。片手剣で防御するリリスを、両手で握ったミーの剣が押していく。一秒にも満たない僅かな時間に、キン、カン、という金属音が三、四回は聞こえていた。


「さん」


 逆袈裟さかけさに斜め下から斬り上げる。

 弾かれたリリスの剣は頭上高くに跳ね上がり、ミーの視界は、黄金色に輝くリリスの瞳を真正面から捉えていた。逆袈裟から、流れるように渾身の袈裟斬りへと繋げる。


「にっ」

 

 直撃したかと思われた瞬間、僅かにリリスの身体がブレて、致死の斬撃は間一髪で身体を反らして回避されたいた。

 ほとんどワープするかのような動き。きっと、エージェントの発動時間を残していたのだろう。

 渾身の一撃はかわされたが、ミーは空振った袈裟斬りの勢いを利用して回転連撃を狙った。

 大きく身体を反らしたリリスは体勢を戻すことができていない。しかし、回転を開始したミーの視界の端に、サブマシンガンを向けるリリスの姿が────


「いち!」


 回転斬りをすんでのところで取りやめて、ミーはとっさに身体をひねる。

 胸をかすめる弾丸の群れ。ミーは、残った回転の勢いを活かして回し蹴りをリリスの横っ腹へ叩き込み、同時に現場を離脱した。


「やっぱ強っ。なかなか……」


 隣のビルのかげに入り、乱れた息を整えるために少し休むミー。そこへさやが通信する。


「大丈夫?」

「ああ、手強いわ。一秒間しっかり時を止めてくれたらええんやけどな」


 くくく、とミーは漏れ出るような笑いをする。


「ほんま、紙一重やな」

「……言わなくても伝わってるよ。あなたのイカれ具合は」

 

 戦いを楽しむかのようなミーの態度。

 中原と同じく、どうやらこいつも戦闘種族だったらしい。

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