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助っ人再び

 敵の本拠地へ乗り込む前に、俺には一つ考えておかなければならないことがあった。


 リョウマは操られるのを防ぐために自らゼウスをログアウトしたのであって、俺が物理的に通信を禁じたわけではなかったのだ。


 その結果、どうやらリョウマは、俺たちが強制した目隠しの最中にゼウスへログインして、俺がログインしている可能性が濃厚なタイミングについて、まんまと仲間に送信していたらしい。ついでに、さやの能力も、俺の家も、きっとバレているだろう。敵は「待っている」なんて言っていたが、まともに信用してはいけない。


 ということで、俺は引っ越しを余儀なくされる。

 どこへ行こうか、と迷いながら俺はベッドを背もたれ代わりにして床に座りながらタバコを吸う。

 すると玄関ドアがバターン! と開き、


「ぃやっほーっ! リオちゃんだよっ」


 と、いつものようにポーズをとりながら元気よく入ってくる女子高生。


 こいつは、とうとう日常的に俺の部屋へ入り浸るようになってしまった。こんなにズカズカ男の部屋に入ってくるなんて、一体どういうつもりなのだろうか。


 とか思いながらも、リオが身に纏っている制服、つまり、紺のブレザーと短いチェックのスカートが、どうしようもなく俺の心臓をバクバクさせる。これは間違いなく、不遇な俺の中学・高校生活のせいだ。女子高生の制服は俺の憧れの象徴、光り輝く青春そのもの。


「えっと。何の用?」

 

 平静を装って問いかける俺。できる限り声を低くする。

 リオは不満そうな顔をして、

 

「ちょっと冷たくない? こんな可愛い女子高生を前にして」

「女子高生なんだから、ピンクの髪はダメでしょ。真面目にしろって」

「はあ? 髪の色と真面目かどうかに、どういう相関関係があるっての? 証明できんの?」


 なんで、人んちへ勝手に入ってきた女子高生に、詰められないといけないのか。

 俺は何とか大人としての威厳を保つため、


「はいはい。そんで? 何の用だって言ってんの」


 あしらうように、すまして言ってやる。


「あー、言い返せないからって、そうやってごまかすんだ。相手に説教するつもりならねぇ、理由くらい、せめて煮詰めてから言ってくれる?」


 全く見逃してくれないリオ。


「見ず知らずの独身者の男の家に入り浸るのはどうかと思うよ」

「見ず知らずって何!? あなたの死を看取みとる関係になるところだったのに! ひどい」


 こんなことを言って目を潤ませたりするから、俺はどうも調子が狂う。

 

「あのね。俺は忙しいの。用が無いなら帰ってくれる?」

「ネムも忙しいことがあるんだ。何してんの?」

「俺は年中、忙しいよ、仕事から帰ってくるのはいつも深夜だし。しばらく違うところに行こうかと思って」

「もっと要領よくやったら早く帰れる、とかじゃないよね? えっ、どこ行くの」

「…………」


 もう話す気力が萎えしまった。しばらく無視してやろうと、俺は黙り込む。


「ねえ」

「…………」

「ねえったら」

「…………」


 ざまみろ。俺をバカにするからだ。

 と、後ろを向いた俺がニヤニヤしながら愉悦に浸っていると。 

 リオは、俺の後ろから抱きついてきた。


「なっ! ちょっ……」


 振り払って、慌てて振り向くと、今度は正面から抱きついてくる。

 リオは、至近距離からじっと見を合わす。

 こんな手を使うなんて卑怯だ! と俺は心の中で毒づき、目線をあちこちに飛ばしながら、顔が熱くなっていくのを必死にこらえた。


「……ねえ。どこへ、いくの」

「言わない」

「教えて」

「言わない」

「言わないなら、キスする」

「はあっ? なっ、なにっ、」


 リオは、ガッチリと俺の首の後ろに両手を回して、真剣な顔だ。

 唇と唇の距離が、ほんの二〇センチくらいしかない。

 

「わ、わかったっ! わかったから、離して」

「言ったら離す」


 リオは、じわじわ顔を近づけようとする。

 俺は自分からリオを抱きしめることで、自分の顔をリオの顔の真横へ持っていく。これでなんとかキスは回避した格好だ。

 しかし、逆にリオの胸が俺の身体に押し当てられる。案外大きいリオの胸に、俺の気持ちはどうしようもなく乱れてしまった。


「はあ、はあ。何なの、本当にもう」

「……教えてよ」

「まだ決まってないよ。それに、たぶん一日か二日間くらいだから」

「なんで?」

「いやあ……」


 リオは俺をベッドに押し倒した。

 上から俺を覗き込むリオは、真剣なのかふざけてるのかわからない表情で、それが余計に俺の気持ちをき乱す。


「あの。リオさん?」

「言わないとキスする」

「言います!」

「えーっ? 何でそんなにすぐ白状するの? したくないの?」

「だって君は女子高生でしょ」

「愛があれば大丈夫だって」

「無いから、愛」

「ひどい! あたしはあるよ、愛」


 会話がめちゃくちゃすぎる。

 とりあえず、敵と戦うことになったことは白状した。


「じゃあ、余計にあたしと協力関係を築いておくべきじゃない?」

「まあ、そりゃあ……」


 確かに、こうなってしまったからには、リオにも手伝ってもらう方が、こいつを大人しくさせるには有効だ。あえて当たり障りのない役目を頼めば一石二鳥だし。


「そんで? また、薬が切れそうになったら、飲ませればいいの?」


 その問いに対する答えは、もう俺の中で決まっていた。

 

「そんなことはしなくていい。君は、ただ、俺の容体が危険だと思ったら救急車を呼んでくれたらいいよ」

「でも、それじゃ……どうするの?」

「飲む時には、自分で飲む」


 当たり前と言えば当たり前のこと。

 こんなハタチにもなっていない女の子に、俺を殺せと言うなんて、ひどい大人もいたもんだ。

 

「……どうして? あたし、構わないよ」

「君のこと、殺人犯にはしない」

「…………」


 どういう心境かわからない顔をするリオ。

 ちょっとだけ眉間にシワが寄って、俺のことをじっと見て。

 でも、怒ってはいないと思った。


「うん。でも、何かお願いがあったら、遠慮なく言ってよね」


 俺の部屋の冷蔵庫をおもむろに開け、中にあるペットボトルのお茶を勝手に飲み始める。靴下を片方ずつ脱ぎ、ポイっとそこら辺に放ってくつろぐ彼女に、俺は尋ねる。


「ありがと。本当に助かるよ。ねえ、一つ教えて欲しいんだけど」

「ん? なに?」

「あの遊園地にいた時、どうして俺に、ついてこようと思ったの?」


 ずっと不思議に思っていた。

 当然だが、こんな可愛い女子高生が俺についてくる理由として、「俺のことを男として気になったから」なんてあるはずがないのだ。そんなの、これまでの人生で身に染みて知っている。


「ん──……。なにか、不思議な感じがして」

「どういうことだよw」

「特別な何かを感じた、というか。でも、それ、合ってたでしょ」

「そうだね。『神の力』を感じ取った、ってとこかな。そうだとすると、君のセンサーは大したもんだよ」

「でも、今は、そんなんじゃないかな」

「へえ。じゃあ、何なの」


 リオはニコッとした。


「そろそろさぁ、のらりくらりとかわすのやめて、どこにいくか教えてくれる? じゃないと……」

「ちょ、待って! わかった! そうだなあ……ホテルでも行くかぁ」

「ホテルに二人っきり、だね」


 あっ、と俺も自分の失言に気付かされる。


「ごめん! ダメだな。他のところ、考えるよ」

「いいよ。ホテルで」

「ダメ」

「ネムってさ、案外、倫理観を重要視するよね。欲望はないの? あたしのこと、めちゃくちゃにしたいとか思わない?」


 その言い方に、つい胸をざわつかせてしまった俺は、リオの胸とスカートに目を這わせた。

 すぐに別の景色へ視界を移したが、その仕草をリオには気付かれてしまい。


「ホテルにする。絶対に」


 目を細めてニヤッとしながら謎の決意表明をするリオに、俺はタジタジしてしまった。

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