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命の火

 俺は、この一連の事件の中でリオにさせたことを思い出す。


 一人暮らしの男の家なんぞに外泊させてしまったのは反省すべきことだし、我を忘れて俺は彼女にとんでもないことを押し付けたのだ。その上、首を絞めるという許されない乱暴まで働いた。

 俺がこれらの件について謝ると、リオは目を細めた。


「……マジで危なっかしすぎるんですけど、二人とも」

「「二人?」」


 タイミング良く、同時に尋ね返す俺とさや。


「二人って言ったら、ネムとさやちゃんしかいないでしょ! ほんと似た者同士だよね」

 

 俺たちは、顔を見合わせ、また笑ってしまう。それでまたしかめっ面をするリオ。「両手を合わせて何度も謝る二人の社会人の前で、腕を組んで呆れる女子高生の図」が展開される。

 リオは、呆れ返ったような顔をして、もういいよ、と俺のことを許してくれた。

 


「ふう……さて」



 リオが帰っていったあと、俺の病室には俺とさやしかいなかった。

 今後のことを話さなければならない。俺は、中原、ミー、さやの三人と通信を繋いで相談をすることにした。


 ノアとルナは、俺の要求を直ちに聞き入れて通信を開通させる。俺は、病室のベッドの上で姿勢を整え、それから話し始めた。


「今回の戦いは、今までと違うところが一つある」

「……ですね」


 相槌を打つ中原。


「敵を、こちらで捕らえましたね」

「そのとおりだ。話によると、リョウマは今現在、この病院に入院している。さやに蜂の巣にされかけて危うく死亡するところだったけど、あいつもアーティファクトだ。おそらく話くらいできるんじゃないか」

「ちゃーんと、死なないようにしましたよっ!」


 口を尖らせて言うさや。

 でも、きっと嘘だ。一部始終を聞いていた俺としては、到底信じることなどできないさやの抗議。まあ、結果として生きているから良しとしよう。 


「ゼウスに尋ねても、強力なセキュリティで縛られて敵のことは一切教えてくれないんだ。でも、あいつの口から直接喋らせれば、きっと情報が手に入る。これは千載一遇のチャンスなんだ」


 そう。こんなことは一度たりとも無かったのだ。

 今までの敵はみんな、死ぬか逃げるかしてしまったから。

 

「でも、俺はミミさんのそばを離れることはできません」


 中原が言うと、自信満々のさやの声が。


「大丈夫。わたしが行く」


 何が大丈夫なの? と思ったであろうみんなの無言の疑問に、さやは答える。


「必ず、吐かせるわ」


 口角を上げながら目を細めるさやは、本当なら可愛い笑顔と評するところ。

 だが、顔とセリフがアンバランスで、俺は震え上がった。


      ◾️ ◾️ ◾️

 

 俺たちは、さやの視覚・聴覚情報を共有し、リョウマとのやりとりを見守ることにした。


 さやは、ICUに出入りする男性看護師にお願いし、リョウマと話がしたいと掛け合った。

 だが、現状では無理だと言われる。

 さやは引き下がらず、ゼウスを使ってなら負担がないんじゃないかと提案したが、意思疎通は体力が必要で命に関わる、と断られた。


 これで諦めるかと思いきや、さやは、その男性看護師のパーソナルスペースにスッと入り、じっと見つめる。相手の顔が赤くなり、目線が飛び飛びになったのを見てとった瞬間、


「お願い」


 と切ない声で一言。



 えっ。



 能力に目覚めてから一段と振り切った感はあるが……

 いったい、どこまでが元々の本性だったのだろうか。

 考えるだけ無駄だ。俺は見て見ぬ振りをすることにした。


 ICUの入口を前にしたさやの視線の先に、警察官がいた。

 その警察官を、男性看護師とともにやり過ごし、さやはリョウマの枕元に立つ。

 リョウマは、鼻から上の部分を、まるでミイラのように包帯でグルグル巻きにされていた。  


「リョウマ」


 さやが声で呼びかける。

 

 返答はない。やはり、まだ意識がないのだろうか……

 と俺が思っていると、さやは、


「返事しないなら右足を切断する」

「ちょっ、起きてる! 起きてるからっ!」


 びっくりした感じのリョウマが、上半身をブルブルっ! と震わせる。身体をクネクネさせながら、必死にさやへ返答した。その様子に、男性看護師は目を見開いて驚愕していた。


「最初から返事しろ。殺すぞ」

「はい」


 リョウマがさやの支配下に収まる。

 というか、俺は最初から支配下に収まっているので、こいつの気持ちはなんとなくわかった。


 絶望しているのではない。

 湧き出る高揚感に、戸惑っているのだ。

 先輩として言おう。

 すぐに慣れる。身を任せるのだ!


「田中真弓のことを教えろ」

「……できない」


 さやは、リョウマの顔の真横──吐息のかかりそうな距離感まで顔を持っていく。

 おもむろにリョウマの股間へ手をやり、耳元でささやいた。


「一つずつ潰す」

「言います」


 秒で降参するリョウマ。


 さやはベッドの横に立ったまま、次の言葉を待っていた。


「これを言ったら、俺、消されるだろうなぁ……」

「自業自得」

「てか、負けてこんなところで捕まってりゃ、それ自体が万死に値するか」


 さやはフウっと息を吐き、


「自分の欲望のために無用な戦いを仕掛け、その結果本来なら目覚めなかったはずのわたしの力を目覚めさせ、自分たちの脅威を増やした。それが万死に値すると言うね、わたしがあなたの上司なら」

「あ──……。なんか言われそう」


 リョウマは会話に間をとる。

 余計な邪魔を入れずにさやが待っていると、やがて静かに話し始めた。


「真弓はね、『命の火』なんだよ」

「…………」

「ギガント・アーマーのね」

「…………なに、それは」


 俺は、その名前に、どこか聞き覚えがあった。

 かなり前に聞いた気がするような、でも、最近だったような。

 思い出せない。なんだったか……


「まだ運用は開始されていないが……地下に作られたその施設は、生きた金属『ネオ・ライム』で作られる巨大な生物要塞さ。有事の際には要人たちがそこへ逃げ込み、敵への反撃の起点となるはずの、国防上の重要拠点だ」

「はあ。それが、なんなの?」

「俺たちの身体は当然だが生きている。そこに同化させると、ネオ・ライムはうまく生命活動を開始するんだが……ネオ・ライムだけで作られたものは、それだけでは生命活動を開始しない」

「…………」

「その上、要塞なんてもの、躯体くたいが巨大すぎた。単に人間と同化させる程度では、全体がきちんと生命活動を開始してくれない。だから、エンジンの中の燃焼室全体に炎を伝播でんぱさせるが如く、ギガント・アーマーを構成するネオ・ライム全体に生命力をみなぎらせる『命の火』が必要なんだ。当然だけど、その役目をする人間は、いったんギガント・アーマーと融合すれば二度と元には戻れない」

 

 想像だにしていなかった話の内容は、俺たちの言葉を奪っていた。


「真弓の能力は『命の火/イグナイター』。ギガント・アーマーを始動させる、点火装置となる人身御供ひとみごくうさ」

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