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 リョウマの心臓が止まっているのかどうか、今の俺には感知できない。

 エレクトロ・マスターを使って人間の体内に流れる電気信号なんてものを操りにいくと、ヒュプノスの効果はすぐに切れちゃうのだ。


 中原がガラスを割ったから……というか、ミーが病室内で剣を振り回してキャイン! というバカでかい金属音を鳴らしたからかもしれないが、いろいろ駆けつけてきた。

 一番最初に到着した看護師さんやお医者さんは、倒れたリョウマのことを観察し始める。すぐに奴は運ばれていった。


 ここで俺は、意識がボヤけて気が遠くなってくる。

 いつものやつだ。そう、クスリ切れだ。

 景色がグルグル周り出し、視界がボヤけて遠くなった。




 ────…………




 俺は、布団で仰向けになって眠っていたようだ。


 上半身を起こして部屋を見回したところ、ピンク色の髪の毛をした一人の女子高生が、俺と同じくベッドの上で、壁を背にして座っていた。

 彼女は目を覚ました俺の顔を見るなり、

 

「ネムっ! 救急車呼ぶねっ!」

「まっ……待って待ってっ! よく見て! ほら、まだ大丈夫だから!」

「……あっそ」


 自分の出番がまだだとわかったのでガックリきたのだろうか、俺が無事だとわかると、面白くなさそうな顔をしながら、リオはまた壁にもたれてボーッとした表情となる。


「何してんの?」

「ゲーム」


 どうやらゼウスを使って頭の中でできるらしい。

 

 こいつ、まさかゲームしながら俺に感動的なセリフを吐きやがったんじゃないだろうな? だとしたら、結構な影響を受けた俺の心をなんとしても返してもらわねばなるまい!


 とりあえず俺はリオを放っといて、現場にいる三人に連絡し、許可を得て視覚・聴覚を取得した。

 許可さえ得れば、この辺りは眠っている時と変わらない。が、さすがに監視カメラ映像は取得できなくなってしまった。


 三人の視点で現場を見る。


 警察を呼べ、みたいな声があちこちで聞こえるので、ミーは、警察が来る前になんとかして剣を隠そうと慌てながら、あっちへ行ってはこっちへ戻って、を繰り返していた。結局、雪人くんのベッドの隙間に隠す。

 容体の悪い雪人くんは別の病室に移された。彼はベッドごと移されたので、ミーは人知れず現場から剣を処分できてニヤニヤしていた。


 剣は見つからなかったが、警察は別に誰かの味方というわけじゃない。というかリョウマは死んでいるだろうからむしろ俺たちが被疑者として事情聴取されてしまう羽目になるだろう。

 俺をのぞくミー、さや、中原の三人は、病院の廊下の長イスに座らされた。

 

「いやほら。この男性看護師さんに、傷とかないでしょ? 俺たち、何もしてないですよ」


 中原が必死に釈明するが……

 

「そんなのはこれから調べるよ。そもそも君たちは、こんな時間に、ここで何をしてたんだね?」


 という警察官の尋問。当然、正規の面会時間でもない深夜帯であるため警察官の信用を得ることに失敗する。

 ゼウス通信で中原は、助けを求めてきた。


「センパーイ、無理っす。このままじゃ犯人扱いです」

「リョウマが死んでいたら、いくら謎の心停止が死因だとしても、お前ら殺人犯として捜査されちゃうんじゃ」

「えええーっ! 心臓止めたのセンパイなのに? 最悪っすね。身代わり逮捕だ」

「いやいや共謀でしょ。それにね、俺はもう、あんな化け物どもを人間と思うのはやめたの。だって、情け容赦なく殺しに来たじゃん。どう見てもあいつが悪いじゃん」

「でも、よく考えれば石化能力が本当にあったかどうか、現認してませんね。なのに殺しちゃったという」

「う。でも、さやに無理やりキスしたじゃんか。それに、イロイロ脅迫もした」

「それで、ムカついて私刑に処したと」

「お前、なに他人事みたいに言ってんの? 何度も言うけど共謀」

「あたし、お腹殴られたで!」


 とりあえず、グリムリーパーであることは確実なのだ。後悔するようなことは何一つない。

 やらなければやられていたのは、間違いないのだ。


 ミーは半目で「はあっ」と大きいため息を吐き、


「ネム、お前ホンマうまいこと逃げれたな。刑務所にブチ込まれたら、ちゃんと面会に来てや」


 早くも冗談を言う余裕のあるミー。いや、これはか。

 その横にいるさやは、一人、深刻な顔をしていた。


「ネム。わたしが、もし警察に連れて行かれたら、雪人のこと……」

「わかってる。できるだけ、会いにくる」

「うん。ありがとう」


 こんな感じで、どうやら俺たちは──というか、俺以外の三人は、警察へ連れて行かれる流れだったのだ。


 やらなけりゃ、やられていたのに、捕まっちゃうとは。

 正直どこか納得いかない気もしたが、殺してしまったのは事実だし仕方がない、とみんな半ば諦めモードに入っていた。

 その時、近くにいた病院関係者が、さやをじっと見て……


「さやかちゃん! さやかちゃんじゃない」

「エリカさん!」


 ん? と俺たち。


「あ、エリカさんはね、この病院の看護師さんだよ。雪人の世話を、ずっとしてくれてる人なんだ」

「初めまして。さやかちゃん、雪人くんに会いに来てくれたの?」

「ええ、容体が良くないって聞いて。さっきICUへ運ばれたドレッドヘアーのリョウマさんに、色々お話聞いてたんですけど」

「ああ、あの人ねぇ。あんな髪型してるのに看護師だなんて、ほんとうちの上は何考えてんだか」

「どういう経歴の人なんですか?」

「いやあ、それが全くわからなくて。どこから転勤してきたかすらわからないんだよね……」



「きゃああああああっ!」



 緊迫感は、場を一瞬にして異世界へと変えていく。

 さっきまで日常だった空間を、たった一瞬で地獄へと変貌させてしまう合図。

 この場合、女性の悲鳴がその合図に該当した。


 病院の廊下にいた俺の仲間たちは顔を見合わせる。

 同時に、この場にいた一〇名を超える警察官が、一斉に声のするほうへ走っていく。

 声のした方向を理解した時、俺たちは全員、何が起こったかを把握していた。


「やっぱダメっすか」

「ネム、あんたのエレクトロ・マスター、ホンマに効いてんの」

「疑うなって。確かに止まってんだよ。あいつら、心臓止まったところから動いてくるんだから。もう人間じゃないんだって」


 一度でも、グリムリーパーがアッサリやられてくれた試しはない。


 俺はなんとなくそんな気はしていたのだ。その証拠に、中原も、眉を上げてウザそうにため息をついている。

 女子二人の表情に余裕はない。眉間にシワを寄せ、互いに顔を見合わせている。

 気持ちはよくわかった。俺だって、前は、そうだったんだから。

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