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お任せします

 こいつ……ビルの床を全部ぶち抜いて、さらに地面までぶっ壊して、地下鉄構内まで到達しやがった!


 めちゃくちゃだ。俺の持っていたサイコキネシスのイメージと全然違う。手で触れずに物を動かせる……程度のパワーじゃない!

 

 触ったものを好きにできる力。……破壊とか、破裂とか。

 それ以外にも……? 能力の応用によって何ができるか、パッと想像がつかない。


「なあ。ひとつ教えておいてやろうか?」


 奴の言葉に対して、俺と中原は目線を送る以外の反応をしなかった。


「さっきお前の手を破裂させたのはね、全力じゃないんだ。最初から集中して全力でやれば、お前は全身が破裂する」

 

 床をぶち抜くとんでもない威力。それくらい、わけないだろう。


 次に繰り出す俺たちの攻撃は、もう決まってる。

 俺が「エレクトロ・マスター」を使って奴の心臓を止め、とどめに中原がオモクソぶん殴る。それだけだ。


 不安な点があるとすれば──


 間違いなく、奴の能力は「触れたもの」を好きにする力。だとすれば、それは、殴られている最中──すなわち「インパクトの瞬間」も、例外じゃない……よな。

 

 俺が悩んでいると、波動は、しゃがみ込んで床を触り始める。


 また何かを飛ばしてくるのか、と俺たちが身構えていると、奴は、破壊され床に転がっていたコンクリの破片に触れて、次々と粉々にしていった。

 意味もわからずその様子を見続ける俺たちの前で、奴は大量に堆積たいせきさせた砂山へと手を突っ込んで、手でかき混ぜ始めたのだ。


 「なに砂遊びしてんだよ。俺が犬っころならお前は園児、超能力を得てもオツムのほうはガキのまんまだな」


 挑発する中原を尻目に、波動はニヤついたかと思うとスッと立ち上がり、片手を顔の前まで上げ──。

 人差し指を、中原へピン、と向けた。

 

 床に積もっていた大量の砂塵さじんが一斉に中へ舞う。


 次の瞬間、砂は渦を巻いて動き出し、あっという間に、周囲の空間は砂嵐で覆われた。

 黄土色の旋風で目が開けられない。奴は、俺たちの視界を、完全に奪ってしまったのだ。


 しかも、この技の効果はそれだけではなかった。

 バチバチという音をたて、砂は猛烈な勢いで中原の体表へ叩きつけられる。


「ぐ、……」


 中原が後ずさった。


 不意に、ゴキっ! と音がする。

 中原の肩に、巨大なコンクリート片が直撃していた。奴は、砂嵐の中に大きな塊を混ぜてくる。きっと俺たちの視界を奪って行動を制限しながら、中原の体力を削ろうとしているのだろう。


 なんとかしなければならない。

 確か、すぐ横に階段があった。そこまでなら、中原を誘導できると俺は考えた。

 記憶だけでは頼りない。俺は、ゼウスを使ってネットに接続し、「駅の平面図」を取得して頭の中に表示させた。


「中原! ホームのほうへ下がろう!」


 ズアアア、という鳴動めいどうと砂色が作った無視界だけが感覚器を支配する中、俺は中原に退避を命じる。中原はミーを抱いたまま、俺がゼウスを使って共有させた駅の図面を頼りに素早く動く。


 階段の途中から視界が回復した。もしかしたら違う出口から駅を脱出できるかもしれない、という期待が胸を占め始めた矢先、

 


 ドガァン、という轟音ごうおん



 天井が派手に破壊される。強引に作った穴から身軽にスッと降りてきた波動は、またもや俺たちの前に立ちはだかった。


「ちょっとしつこくない? お前さ、そんな熱心に追っかけちゃ嫌われるよ、女の子に」

「そういうお前もモテるようには見えないな、ワンコちゃん」

「……うるさ」


 このクソ野郎はけっこう男前だったから、その言葉は中原の心を傷付けたらしい。望んだ恋を成就じょうじゅできずに苦しみ続けるウェアウルフは、ふてくされながら答えた。


「まさか、まだ逃げようなんて考えてんのぉ? あっきらめ悪いなぁ。言っただろ、俺を殺さないと生き延びられない、って」

「余計なお世話だ。機をうかがってんだよ、自分の心配だけしてろ」


 ガラガラのハスキーボイスで言う中原。波動はフッ、と肩の力を抜いて首をかしげた。


「なあ……。俺もさ、お前のこと、コロしてやろうと思ってたけどさ。俺とここまでやれるなんて、なかなかじゃん? お前はどうか知んないけど、俺は結構、お前のこと認めてんのよ」

「…………」

「さっきも言ったけど、こっちはターゲットを捕捉する手段を持ってる。ここで逃げても、お前のことは近いうち絶対に見つける。それに……」


 波動は、ミーを指差した。


「その時は、その子のことを真っ先に狙うよ」


 中原が、噛みしめた牙の隙間からグルルル、と殺意をほとばしらせる。


「俺が仲間になってもならなくても、どっちみちこのひとのことは殺すんだろ」

「気が変わった。その女は、助けてやってもいい」


 大袈裟に両手をあげて言う波動。

 無言の中原をしばらく観察した奴は、ジェスチャーを織り交ぜ、表情豊かに話し始める。


「それに、言っとくけどねぇ。お前、仮にこの場をしのいだとして、その後、どうするつもりなの?」

「はあ? どうするって?」

「言わんでもわかってるっしょ、狼男よぉ。獣人のお前に生きる場所なんてないんだよ、この世の中で」

「ちゃんと人間の姿に戻って、隠し通すさ」


 そう答えた中原を、波動はあざけり笑った。

 

「くっくっく……わかってねえなあ。怒れば無意識に変身しちまう。喜べば尻尾を振っちまう。どうやって隠し通すんだよ。メンタル的にだってそうだぜ? 自分の欲望なんて、力を使えば一発で叶っちまうのに。まともに生きていけるわけねえんだよ。突如として超人的な力を持った、普通の人間なんてよぉ。」

「…………」

「だけど、俺たちならお前に居場所を作ってやれる」

 

 好き勝手なことを言う波動に、俺は脳の温度を上げつつも、奴の言うことも一理ある……と考えていた。

 

 ゼウスから引き出した情報によると、波動が所属する「グリムリーパー」と呼ばれる組織は、信じられないことに、どうやら国の組織のようだ。

 奴らの仲間になるということは、まあ……一種の公務員なのかもしれないし。

 きっと、国なら、獣人となってしまった中原の居場所を守ることもできる。


 俺は、なんとなく迷ってしまった。


 そんな俺の気持ちをよそに、中原は迷いなく、真っ直ぐに答える。


「ふん。問答無用でいきなり殺そうとしてきた奴が、今更何を言ってんだ? お前の言うことなんぞ信じられるか。ミミさんは俺が護る。俺の居場所は、彼女のそばって決まってんだよ」

「へえ。そうなんだ」


 波動は、まるで亡霊のように、力の抜けた身体を左右にフラフラと揺らしながらゆっくりと中原へ近付いた。


「なら……むしろその子、先に殺さないとねぇ。そしたら居場所がなくなるから、仲間になってくれるってことだよねぇ」


 意味不明な理屈をのたまってニッと笑う。


 正気とは思えない思考回路とその瞳を俺たちに披露した奴は、今日、もう飽きるほど見せつけてきた動作を、またもや延々と繰り返す。

 つまり、床に転がる「武器」に次々と手を触れていくのだった。


 大小様々な岩石が、一斉に、今度は全てミーを狙って飛んでくる。


 ミーの頭部を狙った岩を、肩で弾いて撃ち落とす。

 ミーの体幹を狙った小石の散弾を、背中で受けて防御する。


 一般客が避難して誰もいなくなった地下鉄ホームで、雨のように降り注ぐ永遠とも思える連射の中で、中原はひたすらミーを護った。

 


 やるしかない。



 俺のアビ、「エレクトロ・マスター」で奴の心臓を再び止める。

 決意を固める俺に、ノアとルナは声をかけた。


「もうわかっていると思うけど……『力』は、使い過ぎれば極度に疲労し、眠れない体質になってしまったお前を強制的に眠らせていた薬の効果は切れてしまう」

「特に、『接続されていない電気回路』を操るのは半端なく巨大なパワーが必要だ。次に睡眠が切れるまでに『エレクトロ・マスター』を使えるのは、一度だけだ」


 そして、ヒュプノスは一錠を超えて服用した場合には命の保証はない。その魔薬を、もうすでに俺は、二錠飲んでしまっている。


 間違いなく最後の勝負だ。

 これを外したら、終わり。ヒュプノスの効果が切れて、また俺は目が覚めて……いや、俺はもう、目を覚ますことすら、ないかもしれない。


 死んじまうんだ。俺も、ミーも、中原も。

 

 外したら終わり、だ。



 …………



 でも、奴だって怖えはずなんだ。


「全力を出したらお前の全身を粉々にできる」なんて、言う必要のないことをわざわざ言った。

 その目的は牽制けんせいだろう。中原の攻撃を、もらいたくないんだ。

 もう、もらえない。それほどの威力。奴だって余裕はないんだ。


 だが、奴はヘタレじゃない。


 俺の力で心臓が止まっても、奴はまたゾンビのように立ち上がる気がするのだ。

 最も気掛かりなのは、インパクトの瞬間を待ち構えて、全力で反撃してくること。そうなれば、中原は木っ端微塵になってしまう。

 本当は武器が欲しいが、近くにいいものが見当たらない。床に転がっているコンクリくらいだ。


 これは賭け……。


 俺は、ミーを抱く中原へ、ゼウスを通じて静かに問うた。


「……なあ。俺に命、預けてくれるか?」


 ふっ、と中原が笑う。


「センパイのこと、いっぱい助けてきたんすよ、俺。センパイがミスった仕事なんて数限りないっしょ。なのにとうとう、命まで預けろって言いだしましたか」


 声帯を通さない、ゼウスが作り出した声で、中原はハハハ、と笑う。

 それから、声色を変えて、静かに、俺へ答えた。



「お任せします。全部」



 暴風雨のような瓦礫の嵐が止む。

 波動は、そこら辺の瓦礫へ、また手を触れていく。


 中原は俺の作戦を聞き終わった後、ミーを自分の後ろの床に優しく寝かせた。そして俺たちは、同じ瞳を通して波動を真っ直ぐに睨む。


「……へえ。なんか、覚悟決まったみたいだね。……なら、」


 波動は、上半身の服を全て脱いで投げ捨てた。


「最後の勝負、ってとこかぁ」


 やはり、肌同士で触れないと発動ができない能力か。

 

 

 ……やるぞ、中原。  



 薄く広がった粉塵が、ゆっくりと漂う地下空間。

 宙を舞う砂粒さりゅうの流れに、戦闘開始の合図を告げる人工的な動きが加わった。

 

 ウェアウルフの投げた投石。真っ直ぐ、波動へ、突き刺さるように飛んでいく。

 同時に俺は、抱いた思いを、強く、強く固めていく。



 神の名において命ずる──

 波動の心臓を、止めろ!

 


 パキン、と音が鳴ったかのようだった。

 子供部屋にいる俺のアバターを中心として、光の波動が同芯円状に何度も広がっていき──。


 発動、「エレクトロ・マスター」。俺は、奴の体内を流れる全ての電気信号を強制的に停止させる。

 直後、中原の投げたボウリングの球ほどもあるコンクリ片が、鈍い音を立てて波動の肩に激突した。



 くそったれ……これが急所だったら。これじゃ決まらないか……?



 波動はそのまま膝からくずれ、正座のような姿勢となった。

 続いて、力の入らないはずの奴の上半身が、ゆっくりと傾いていく。


 その奴の目に、心が凍る。


 つま足から頭まで、電気がビリッと突き抜けていく感覚。

 ほとんど人間とは思えないほどに見開いた目で、奴は俺たちを睨みつけた。



 電気信号は止まっているはずなのに。心臓まで止まっているはずなのに!

 

 

 波動の手がピクリと動く。

 倒れそうになる上半身を、支えて立ちあがりはじめる。

 殺意を秘めるにごったが、逆に俺たちの心を拘束しようとする。



 ──心臓を握り潰すかのような、恐怖と暗雲が立ちこめる中。

 


 神の支配する凍りついた時間が、悪魔の魔力を封じられなくても。

 勇気を振り絞り、俺の指示を忠実に守ってその命を業火にさらし──

 異次元の速度で踏み込み、波動との距離を詰める中原。ミーの上着を巻きつけた左拳で放たれるボディブローが、とんでもない速度で波動の腹へ。

 

 中原の拳が届くか否かの刹那せつな。下方から迫る拳を凝視した波動の口元が緩んだ。

 

 やはり覚悟していた。奴はタイミングに集中していた!

 布きれで覆うくらいじゃ大した対策にならない。わかってさえいれば、それも破壊すればいいだけだもんな。

 


 知ってるさ。だから、



 切り札に見える手も、こざかしいと思われる手も混ぜた。

 敵の罠をクリアすればするほど、もうこの先に何もあるはずがないという思いが膨らみ、心の目を曇らせるから。


 全くたいした罠じゃない。……でも、

 この先は、読めていたか? 



 粉塵を巻いて波動を襲う中原の拳。

 だが、波動がいくら待ったとしても、その拳が奴の腹に到達することはない。

 超高速で放たれた打撃は、恐らく残像が見えたはずだ。波動は、自分の腹に突き刺さった中原の腕の幻影を見ていただろう。その証拠に、驚いた表情で、目を見開いて、奴はその瞬間、眼球すら動かすことはできなかったから。

 

 フェイント。


 単純な戦法だが、超人的な身のこなしができるウェアウルフが繰り出せば、その効果は絶大なものとなる。


 意識の外から襲いくる、風を巻いて旋回しながら繰り出された打ち下ろしの右。

 波動は反撃の意思を込めることなく意識を絶たれ、糸が切れたようにその場で崩れ落ちた。

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