第99話 ラストジャッジメント
「食らうがいい!」
闇竜に向けて連続で5発の火球を放つ。
2発目と3発目は避けられてしまうが、残り3発は闇竜を捉えた。
魔法を受けると直ぐ様口が開き闇のブレスが放たれるが、先程同様に闇属性の攻撃で俺がダメージを受けることはない。
ブレス攻撃が終わると同時に闇竜が突っ込んでくる。
「今度は避けてみせる」
攻撃に対して身構えていると、闇竜は後ろを振り向き尻尾を俺に叩き付けてきた。
巨大な尻尾を避けることは出来ず、何とか受け身を取った体勢で尻尾に吹き飛ばされる。
「ぐはっ!」
再び壁に叩き付けられる。
先程よりは若干低いダメージだが、2発耐えられる程のダメージではない。
直ぐ様マリスが回復魔法を掛けてくれる。
再び火球での攻撃を繰り返す。
闇竜の攻撃を受けたらマリスに回復をして貰い、ひたすら火球を撃ち続ける。
そんな戦いが30分以上繰り返されていた...。
「ムチャクチャだ...。1度でもマリス様の回復魔法が間に合わなかったら、アンタは確実に死ぬんだぞ? それにマリス様のMPだっていつかは尽きる。それまでに闇竜を倒せると思っているのか?」
「それはやってみないとわからん。倒せなければ私が死ぬだけのことだ」
強化魔法には時間制限がある。
魔法が切れる直前にマリスが掛け直してくれているため、常に強化が掛かった状態で戦うことが出来るが、当然魔法を掛ける度にMPを消費する。
また俺のMPが尽きる度に魔法力補充でマリスからMPを分けて貰っている。
今の俺のMPで30分間も魔法を使い続けるなんて芸当は到底無理だ。
それに加えて俺がダメージを受ける度に完全回復を使っている。
こんな戦い方を続ければマリスだっていつかはMPが尽きる。
そうなれば待っているものは俺の死だ。
それまでに何とか闇竜を倒さなければ。
再び闇竜との戦闘が再開され、また30分程が経過する...。
「ロディ様...残念ですがここまでのようです。もうじき私のMPが完全に尽きます。そうなってはロディ様をお守りするすべがありません。それにもう時間がありません。闇竜は私に任せて下さい」
マリスが俺の前に立つ。
俺の代わりに闇竜を倒すつもりなのだろう。
時間がありませんとはどういう意味なのかわからないが、正直、これだけの時間を耐えれたのはマリスのお蔭だ。他の者ならもうとっくにMPが尽きていたことだろう。
「手を出すなと言った筈だ。闇竜は私が倒す」
俺は再びマリスの前に立つ。
マリスからMPを譲渡された俺のMPは満タンに近い。
そして闇竜の残りHPは後1割程だ。魔法を外すことなく、攻撃を避けきれば倒せる。
ただし、マリスの強化が切れたら速度の面でも闇竜と互角に戦うことは出来ない。決着を急ぐ必要がある。
なるべく避けられないように接近して火球を放つ。
接近したかいがあり3発全てが直撃する。
「後少し...もう少しだ...」
接近した分当然だが、闇竜の攻撃も俺を捉えやすくなる。
闇竜が振るった腕に吹き飛ばされる。
「がはっ!」
内臓が潰されたような感覚がある。
至近距離から攻撃を受けた分ダメージも大きくなる。
「ロディ様!」
マリスの完全回復が俺の身体を癒す。
「ロディ様...。もうロディ様の傷を癒すことは出来ません...」
ついにマリスのMPが尽きたようだ。
俺は更に火球を放つ。
魔法は闇竜に直撃する。
「後1発...後1発で」
後1発魔法を当てれば倒せる筈だ。
最後の魔法になることを信じ、闇竜に向けて火球を放つ。
俺が魔法を放ったのと同じタイミングで闇竜の身体が光り出す。
「バ、バカな...回復の光だと...」
闇竜の身体が光りに包まれると、今までに負った傷が消えていく。
火球は直撃したが、まるでその魔法が初めて受けた魔法かの如く、闇竜ピンピンしている。
俺が呆然としていると、俺に向けて闇竜の腕が降り下ろされる。
「くっ!」
闇竜の腕が俺に触れることはなかった。
トゥエントが俺の前に立ち、左手1本で闇竜の腕を受け止めている。
トゥエントの力を感じたのか闇竜は腕を引き後方に後退りする。
「タイムリミットだ。闇竜は一定時間が経過すると自己回復を発動させ、HPを全快させる。アンタは頑張った方だが振り出しだ。後は俺がやってやる」
トゥエントが槍を構え俺の前に立つ。
マリスの言っていた時間がありませんとは、自己回復が発動するまでの時間のことだったんだろう。
確かにこうなってしまえば俺に勝ち目はない。
だが、俺の中の何かがまだ勝機はあると言っている気がする。
それが何なのかはわからないが、まだ諦めたくはない。
「手を出すな。この戦いは私が先に死ぬか、闇竜が先に死ぬかの戦いだ」
俺は槍を構えたトゥエントの前に立つ。
「ロディ様!」
マリスが不安そうな顔で俺を見ている。
マリスから見てもこの戦いに俺の勝機はないのだろう。
「マリス。絶対に手を出すなよ」
「ですが...」
「自殺願望でもあるのか? 勇敢と無謀を履き違えているんじゃないのか?」
「黙って見ていろ。私が勝利するところをな」
俺は自ら闇竜に接近すると3発の火球を放つ。
身体が全回復した余裕からか闇竜は魔法を避けようとはせず、3発全てが直撃する。
魔法を食らった闇竜の腕が俺の身体を横から吹き飛ばす。
「ぐうっ!」
身体の骨が砕ける音が聞こえた。
もうマリスに回復して貰うことも出来ない。俺はこの場で死ぬのか...。
力が欲しい...。どんな相手にも負けないくらいの力が。
力が欲しいと心から願った瞬間...俺の身体が光りに包まれ出した。
「これは...癒しの光...?」
光りに包まれると身体の痛みが消えていく。まるでマリスに完全回復を掛けられた時のような感覚だ。
「頭に...言葉が浮かんでくる...」
不思議だ...。こんな言葉は転生する前を含めても聞いたことがない。
なのに何故、突然俺の頭に浮かんでくるのだろうか。
浮かんだ言葉を口に出してみる。
『最後の審判』
上空に巨大な光の剣が出現する。
その剣からは今まで感じたことがない程の力を感じる。
剣はそのまま闇竜へ向けて落下した。
「何だ...これは...」
剣は闇竜の身体を貫くと、断末魔とともに闇竜が崩れ落ちる。
今のは一体...。
たった一撃...たったの一撃であれほど苦戦していた闇竜を仕留めることが出来たようだ...。




