表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

96/120

第96話 トゥエントからの提案

「この家がトゥエントの家になります」


 話からそれなりの地位にいると思うのだが、意外にも住んでいる家は俺の家よりも少し大きいくらいのサイズだ。


 外壁は茶色く塗られていて外見は本当に普通の家といった感じで、特に高級感などがある訳ではない。


 マリスが入口の扉を軽くノックする。


「トゥエント、私です。マリスです。中に居ますか?」


 マリスが声を掛けると中から小さな足音が扉に近付いてくる。


「はーい!」


 ガチャっと扉が開くとそこにはまだ10歳にも満たないだろう少女の姿があった。

 

 魔族の見た目と実年齢に関してはよくわからないので、あくまでも人間目線の見た目だ。


「クロエ。久し振りですね。トゥエントは居ますか?」


「あ! マリス様! パパならお部屋に居ますよ~。呼んでくるので少し待ってて下さいね。パパー!」


 クロエは駆け足で奥へと走って行く。


 どうやらクロエはトゥエントの娘らしい。


 トゥエントの人物像は勝手にムキムキのマッチョマンを想像していたが、どちらかと言えばクロエは小柄で華奢な体型をしている。母親に似たのか、そもそもトゥエントが俺の想像しているイメージとは違うのか。


 暫くするとクロエが男を連れて戻ってきた。


 男は軽く身長2メートル以上はある大男で、ムキムキのマッチョマン。額には1本の太い角が生えている。


 鬼という言葉が一番ピッタリくるような容姿だ。


 正直、俺の想像の遥か上をいっている。


「マリス様。こんな場所にまでおいでになるなんて...」


「貴方と話したいという方をお連れしました」


 トゥエントが俺をジロジロと見た後、キツイ目付きで睨む。


 どう考えても良くは思われていない筈だ。


「アンタは誰だ?」


「私は新しくケルティアの領主となった者だ」


「アンタが...。帰ってくれ。俺にはアンタと話すことなんてない」


 トゥエントは俺に背を向けて家の奥へ戻ろうとする。


 それを見たクロエが心配そうな顔をしている。


「お前は話がないかも知れないが私には話があるのだ。私の話を聞いてくれないか?」


「パパ。マリス様が悲しそうな顔をしているよ! この人のお話を聞いてあげてよ」


 トゥエントの足が止まる。


「...話を聞くだけだぞ。付いてこい」


 トゥエントが家の奥へと進んで行く。


 俺達はトゥエントに言われたように後を付いて行くと、1つの部屋に通された。


 部屋の中央に丸テーブルが置かれており、そのテーブルを囲うように6脚の椅子が置かれている。


 トゥエントに向かい合うように椅子に腰を掛けると、その隣にはマリスが腰を掛ける。


 どうやらクロエは自分の部屋へ行ったようだ。


「それでは話をさせて貰うが、私がここにきた理由は想像がついているな?」


「俺に軍に残るように説得をしに来たんだろう?」


「ああ、そうだ。ケルティアのためにお前の力を貸して欲しい」


「お断りだ。それだけなら話はもう終わりだ」


 トゥエントが椅子から立ち上がろうとする。


「何故なんだ? ケルティアを良くするために私に力を貸すのは、嫌なのか?」


「俺はマリス様だからこそ力を貸すと決めたのだ。他の誰かのために力を貸すなんて真っ平だ!」


 トゥエントが拳を握りテーブルを叩く。


 テーブルがグラッと揺れる。


「何故、マリスでなければいけないのだ?」


「俺はマリス様なら誰よりも民を幸せに出来ると信じていた。他の誰よりも民のことを思っているマリス様こそ領主に相応しいお方なのだ」


 トゥエントの言っていることは間違いではない。


 マリスは民を思い、民のために自分を犠牲に出来るような女だ。(俺にちょっかいを出してくる者に対しては厳しいが...)


「そのマリスが私に全てを委ねたのだぞ? それが信じられないというならマリスをも信じていないことになるのではないか?」


「...」


「トゥエント。私はロディ様こそがディルクシアにとって最も必要なお方だと思っています。どうかロディ様にも私同様、貴方の力を貸して頂けませんか?」


「...マリス様がそこまで言うなら俺から1つ提案をさせて下さい」


 拒否一辺倒だったトゥエントの心が動いた。


 結局はマリスのお蔭なのだが...。


「提案とは何ですか?」


「この街の北にある闇の谷。その谷に生息する闇竜(ダークドラゴン)を倒してきて下さい。私は弱き者に力を貸すつもりはありませんから」


 闇竜(ダークドラゴン)か...。今の俺では到底勝てるような相手ではないが、マリスがいれば何とかなるだろう。勇者ではなく魔王の時なら存分にマリスの力を借りることが出来る。


「もちろんマリス様がお力を貸すのは禁止です。マリス様なら単独で討伐してしまいますからね」


 ...流石に無理ゲー過ぎる...。


 仮にSランクの冒険者だとしても闇竜(ダークドラゴン)の単独討伐など出来る筈がない。


 先程トゥエントに能力値(ステータス)を覗かれた感覚があった。


 俺では絶対に勝てないとわかっていて提案を出しているのだ。


 要は諦めろと言いたいのだろう。


「トゥエント! 流石にそれは流石に厳しすぎます! ロディ様なら将来的には闇竜(ダークドラゴン)だろうと簡単に討伐出来るようになるとは思いますが、今のロディ様はまだ天礼(レクシール)を受けて1年も経っていないのですよ?」


「だったら諦めて下さい」


 やはり端からトゥエントは俺の配下になるつもりはないらしい。


 当然俺が諦めると思っているだろう。だが...。


「良いだろう。その話飲んでやろう。その代わりに私が闇竜(ダークドラゴン)を討伐した際には、お前も約束を守るのだぞ?」


 予想外の俺の返答に一瞬トゥエントが固まる。


「ひょっとして闇竜(ダークドラゴン)の強さを知らないのか?」


「いや。魔物(モンスター)の強さに関しては詳しい者がいてな。当然闇竜(ダークドラゴン)のことも知っている」


 トゥエントがニヤリと笑う。


「面白い。それをわかっていて戦おうとするとは、余程のバカか、何か秘策があるとしか考えられん」


 その2択なら余程のバカということになるのだろう。


 何故なら現状では闇竜(ダークドラゴン)を倒せる算段など全くないからだ。


「俺も共に行き、アンタの戦いぶりを見せて貰おう。マリス様が力を貸すかも知れないからな」


「好きにすると良い」


 マリスの力が全く借りれない? それは補助魔法や回復魔法も駄目だということか? 流石に絶望的過ぎる。


「クロエー!」


 トゥエントがクロエを呼びつける。


 扉が開く音がすると数秒後にクロエが姿を現した。


「ちょっと父さんは闇の谷まで行って来るから、クロエはお利口に留守番をしているんだぞ」


「うん。わかった。なるべく早く帰ってきてね」


「さて、それじゃあ行くとしようか」


 俺達は闇の谷に生息する闇竜(ダークドラゴン)を倒すため、ルーベルを後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ