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第93話 二択以外の答え

 暫く間が空いた後にバトウが口を開いた。


「それでお前がアルバスを攻める理由は何だ? 自分の領地を広げるためか? それとも自分の民を殺された復讐をするためか? 依頼を受けるかどうかはこの質問の回答で決めさせて貰おう」


 バトウには俺がケルティアの領主で、村がアルバスの攻撃を受けたことも伝えてある。


 この解答で依頼を受けるかどうか決めると言われたが、俺の解答はそのどちらでもない。


 確かに領地を広げて時期魔王の座に近付くというのは重要なことだが、今はもっと大切なことがある。


 二択の回答からは外れるため、この答えでは納得して貰えないかも知れないが、それでもこれが俺の本心だ。


「私がアルバスを攻める理由...。それはこれ以上傷付く民を出すことがないようにだ」


「ほぉ...」


「アルバスをこのままにしておいては、いつまたケルティアが攻撃されるかがわからない。民にそんな不安を抱いたまま暮らして欲しくはないのだ」


「だったらアンタはアルバスの地には興味がないと言うのか?」


「全く興味がないと言えば嘘になる。だが、何のために攻めるかと問われれば私の回答はこうだ」


 バトウがニヤリと笑う。だが、その笑いは俺の発言に呆れたような笑いには見えない。


「良いだろう。アンタの依頼を受けてやる。丁度サーダンの依頼も終わったところだ。いつでも動くことが出来るぞ」


 バトウは俺の回答に満足してくれたようだ。


 むしろ2つの選択肢の中に本当の正解はなかったのかも知れない。


「それで報酬に付いてだが...」


 正直、満足な報酬を払うほどの余裕がケルティアにはない。


 マリスに頼めば個人の資産で払ってくれるとは思うが、それはしたくない。


「俺達の働きぶりを見た後で決めて貰って良い。何ならアルバスの国王が隠し持っている財産だけで充分支払えるんじゃないのか?」


 アルバスに勝利すればそれも可能か。国王ともなればそれなりに財産を持っている筈だ。


 だが、当然戦いに負ければそれは叶わなくなる。


 勝つしかない状況だが、魔流族が力を貸してくれれば勝利することが出来ると、アルロンが言ったのだ。疑う余地はないだろう。


「では交渉成立だ。私はこのことをアルロンに伝え、戦の準備を行う。詳しい日時が決まったら連絡したいのだが、どうすれば良い?」


「俺達は今日、村へ戻る。日時が決まったら俺達の村に来てくれるか?」


 魔流族の村? アルロンから説明を受けたケルティア領の村には含まれていなかったが、ケルティアに属していないからということか。


「マリス。バトウ達の村のことは知っているか?」


「はい。転移門(ゲート)を使えば行くことも可能です」


「そうか。わかった。日時が決まり次第直ぐに伝えるとしよう」


 バトウとの交渉が終わったタイミングでサーダンが部屋に戻ってくる。


「ん? 話は終わったのかい?」


「ああ、こちらの用件は済んだ。私達は失礼させて貰う」


 俺とマリスが席から立ち上がると、サーダンがマリスの前に立ち塞がった。


「待て。私の用件が終わっていない」


 サーダンの用件? サーダンは俺達の素性を知らない。何か用があるとは思えないのだが。


「私達に何の用だ?」


「お前に用はない。おい女! お前は私のものになれ。お前のように美しい女は私のような者にこそ相応しい」


 こいつはマリスを自分の女にしようとしているのか? 知らないということは本当に恐ろしいことだな。


「申し訳ありませんが、お断りさせて頂きます。ロディ様。行きましょう」


 マリスがサーダンの前から立ち去ろうとすると、サーダンがマリスの腕を掴んだ。


 こんな男がマリスに触れることなど俺には許せない。


「止めろ」


 俺はマリスの腕を掴んでいるサーダンの腕を引き剥がす。


 サーダンに力はなく、マリスの腕から簡単に手を離した。


「お前のような者が私の腕に触れるとは無礼だぞ! おい! バトウ。お前に新たな依頼を出すぞ」


「俺に新しい依頼だと? 一体なんだ?」


「この男を殺せ! 金は好きなだけ払ってやる」


 サーダンの言葉にマリスがピクリと反応する。


 マリスなら直ぐにでもサーダンを殺してしまいそうなものだが、それをしないのはこの場にバトウが居るからかも知れない。


 自分の勝手な行動で魔流族の力を借りられなくなっては、俺に迷惑が掛かると思ったのだろう。


「その男を殺すにはお前の持つ全ての財産を払って貰っても割に合わないぞ?」


「何を言っている? この男がそれほどの強者というのか?」


「その男ではない。その女だ。もしもその男を殺したらお前は確実にその女に殺されることになるだろう。下手をすれば俺達魔流族が皆殺しにされることだってあり得る」


 当然バトウはマリスの実力を知っている。仮にマリスとバトウが互角だったとしてもサーダンを守り抜くことは無理だとわかっているのだろう。


「この女がそれほどの力を持っているとでも言うのか? おい! 女。お前の名前は何だ?」


「何故貴方のような男に名乗らねばならないのかわかりませんが、良いでしょう。私の名前はマリス。四魔将(イビルアイ)ロディ様に忠誠を尽くす者です」


 マリスの言葉を聞きサーダンの表情が明らかに変化する。


 例えマリスの姿を知らなかったとしてもその実力は知っているだろう。


 自分のしでかしたことに頭の中が追い付いていないようだ。


「あ、貴女は元四魔将(イビルアイ)のマリス様ですか...?」


「はい。そうですよ。貴方のような男を街の代表に据えるとはリカルドは何を考えているのですかね。サマールはどうしたのですか?」


「ち、父上なら病に伏せっており、現在は私が代わりにこの街を取り仕切っているのです」


「なるほど...そういうことですか...。今直ぐにサマールのところへ連れて行きなさい」


「で、ですが...」


 マリスがサーダンを睨み付ける。


 睨み付けられたサーダンは一瞬身体を震わせた。


「もう一度言えば良いのですか? サマールのところへ連れて行きなさい」


「わ、わかりました...。こちらへどうぞ」


 サーダンが部屋の外へと出る。俺達はこの部屋にバトウを残しサーダンに付いて行く。


 サーダンの後に続いて歩いていると1つ部屋の前へ着いた。


「この部屋の中に父上がおります」


 サーダンが軽く扉をノックする。


「父上。父上に会いたいという方をお連れしました」


「私にだと...? 入ってくれ...」


 部屋の中から小さな声が返ってくると、サーダンが扉を開ける。


 サーダンに促され俺達は部屋の中へと入って行った。


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