第92話 カロラスを治める者
「あれがカロラスか?」
街の大きさとしては中規模な大きさだろう。
特に入り口に見張りなどは居らず、誰でも自由に出入り出来るようになっている。
「はい。そうです。中に入るとしましょう」
俺達は入り口に設置されている門から街の中へと入る。
中へ入ると辺りは魔族で賑わっていた。
まだ早い時間だというのにこれだけの魔族が街中に出ているのは珍しい気がする。
「見ない顔だな? カロラスの者じゃないよな?」
1人の男が俺達に話し掛けてきた。
マリスのことは知らないようだが、流石に街に住む一般の魔族では仕方がないのだろう。
「はい。私達はケルティアからやってきた者です」
「ケルティア? ああマリス様から領主を引き継いだ男が治めてるってところか。マリス様も突然出てきた男に領主の座を明け渡すとか一体何をお考えになっているのか...」
男の言うことはもっともだ。明らかに俺よりもマリスの方が領主として有能だ。
「マリス様が認める程の人物ということでしょう。ところでサーダンという方をご存知でしょうか?」
「サーダン様ならこの街を治めている方だぞ? この街の魔族なら全員が知っているお方だ」
俺の領地でいうホワイトみたいなものか。それだけの人物となれば、マリスが知っていてもおかしくない気がするのだが。
「そうなのですか。サーダン様のお屋敷の場所を教えて頂けますでしょうか?」
「サーダン様のお屋敷ならそこの道を真っ直ぐに進んで、突き当たりにある大きなお屋敷だ」
「ありがとうございます。ロディ様。それでは向かいましょう」
俺達は男に教えられた方向へと歩き出す。
「お前はこの街を治めているサーダンという人物のことを知らなかったのか?」
「申し訳ございません。他の四魔将の領地のことに関してはあまり詳しくないのです。ただ、私が知る限りこの街を治めているのはサマールという男でした」
サーダンではなくサマールという人物がこの街を治めていたのであれば、マリスの知らない間に街を治めている者が変わったことになる。
まぁ、年齢などもあるし代表が変わることなど珍しくはないと思うが。
暫く歩くと目の前に大きな屋敷が姿を現した。
正確にはわからないが、パントの屋敷よりも更に大きい気がする。
屋敷の入り口には武装をして、その手には槍を握っている2人の魔族が立っている。
「お前達。サーダン様の屋敷に何の用だ?」
「こちらにバトウという方がお見栄になると思うのですが、会うことは出来ますか?」
自分の正体を明かさずにマリスが兵士に対応する。
「そんな話は聞いていない。とっとと帰るがいい」
おかしいな。俺達がバトウに会うことをアルロンが取り付けてくれていると思うのだが。
「私達を追い返す前にサーダンに確認を取るが良い」
「サーダン様を呼び捨てにするとはふてぇ奴だな!」
兵士の1人がいきなり槍を突き付けてきた。
「ロディ様に武器を突き付けるとは無礼な!」
マリスが俺に突き付けられた槍を左手で握る。
「くっ...くうぅ...こいつ女のくせに何て力だ...」
「ロディ様。この者には死を持って償わせますか?」
マリスの右手が男の顔に向けられる。
「ひっ、ひぃぃぃ!」
男が槍を手放すとそれに合わせマリスも手を離し槍が地面へと落下する。
もう1人の男はこの状況にただ呆然としているだけだ。
「命を奪う必要はない。面倒なことになるだけだからな」
マリスが男に向けていた右手を引く。
「何の騒ぎだい?」
屋敷の扉が開き、そこから1人の男が姿を現した。
まさに貴族といったような高級そうな衣装を身に付けた男が俺達の方に歩いてくる。
「一体君達はなんだい? ん?」
男はマリスを舐め回すように見ている。
表情からして明らかに良いことは考えていない筈だ。
「私はバトウという男と話がしたくてきた。この屋敷にくれば会えると聞いたのだが?」
「あー、アルロンの言っていたのは君達のことか。君達のような者がバトウに何の用があるって言うんだい?」
「それは本人に直接話す。バトウに会わせてくれ」
男が今度は俺のことをジックリと観察し始める。
雰囲気やアルロンを呼び捨てにするような身分からして、おそらくこの男がサーダンなのだろう。
ケルティアNo.2の地位にいるアルロンと、たかだか1つの街を治めている男が同格なのは不思議な感じだが、所属が違えばこうなるのかも知れない。
「まぁ、いい。バトウに会わせようじゃないか。私に付いてくるといい。ちなみに私の名はサーダン。この街を統治する者だ」
サーダンが屋敷の中へ入っていくのに俺達も付いて行く。
サーダンの後に続き屋敷の奥へ進むと、目の前に大きな扉が付けられた部屋の前へと着いた。
サーダンが扉を開き中に入るのに続き俺達も部屋の中へと入る。
部屋の中は中央に大きなテーブルが置かれており、そのテーブルを囲うように8脚の椅子が置かれていた。
「そこに掛けて少し待っていてくれ」
俺とマリスが隣同士で椅子に腰を掛けるとサーダンが部屋から出て行く。
「あの男。あまり良い印象は受けなかったが、マリスはどう思ったのだ?」
「ロディ様と同じです。一度しか会ったことはございませんが、サマールは好印象な人物だったのですが...」
この際、違う領地の人選に関しては気にしなくても良い。
問題はサーダンという男が俺にとって障害になるかどうかだ。
この屋敷にバトウが居るとすれば、おそらく今バトウはサーダンに雇われている可能性が高いだろう。アルバスを攻めることが他のイビルアイに伝わっては問題が起こる可能性もある。
5分程が経過するとサーダンが1人の男を連れて部屋に入ってきた。
「こいつがバトウだ。私は少し席を外すので自由に話していてくれ」
そう言いサーダンは部屋から出て行った。こちらとしては好都合だ。
バトウは俺達の正面の椅子に腰を掛けた。
褐色の皮膚に細い切れ長の目。額の両サイドには黒い角が生えている。
能力値を確認しなくてもわかる。この男は強い。見ただけでそれを感じることが出来る何かがある。
「俺に依頼があるというのはお前か? 一体俺に何の依頼をしたいんだ?」
俺はアルバスを攻めるために、バトウ達魔流族の力を借りたいということを伝えた。