第91話 族長に会いに
ファヴァルの工房の前へ着くと、そこにはファヴァルの姿があった。
「遅かったな。修復は完了しているぞ」
ファヴァルが魔剣を俺の前へと差し出す。
俺は剣を受け取り異空間収納へと収納した。
「ありがとうございます」
「お前の剣は明日中には完成させる予定だ。別に急ぎという訳じゃないんだろ?」
「はい。何時になっても大丈夫です」
「なら適当に取りにくると良い。忙しければ一月後になったとしても構わないぞ」
剣を作るのには結構時間が掛かるイメージだが、1日で出来るものなのか。
単純にファヴァルが凄いだけかも知れないが。
「では宜しくお願いします」
ファヴァルに剣のことを頼み工房を後にする。
「俺もファヴァルさんに斧を作って貰おうかなぁー」
呪われた武器の性能は通常の武器よりも遥かに高い。
ミスリルで作られた斧よりも邪悪の斧の方が高性能な気がする。
「ヘクトルにはその斧があるから大丈夫だよ」
「そうか? でも斧の二刀流とかかっこよくないか?」
斧だったら二刀流ではなく、二斧流というのが正しいのだろうか。
小型の斧ならまだしも、こんな大型の斧を2つ同時に扱うとか、余程の筋力がない限りは無理だ。
「それは流石にムチャだと思うよ...」
ヘクトルのバカな話に付き合いながらテベルへの道を歩いていると突然頭の中に声が響いた。
(ロディ様。聞こえますか?)
声の主はアルロンだ。アルロンが俺に対して思念通話を使用したのだろう。
(聞こえるよ。何かわかったの?)
(ケルティアに住む魔流族の族長の所在が判明致しました)
(わかったのかい? それでどこに?)
(現在はディルクシアの南にあるカロラスという街に居ます。詳しくは直接お話したいと思いますので明日、城の方まで来て頂けますか?)
(わかった。明日そっちに行くよ)
(お待ちしております)
会話が終わりアルロンとの思念通話が切れる。
魔流族。簡単に言えばディルクシアに所属をしていない実力を持った魔族の傭兵集団だ。
「ヘクトル。ミラ。俺は明日から暫くディルクシアに行ってくるよ」
「了解だ。また戻ってきたら教えてくれ」
「気を付けてね」
テベルに戻り村の中に入る。
そ れぞれの家に帰るため2人と分かれるとマリスが口を開いた。
「アルロンから連絡がありましたか?」
今回の思念通話は俺のみに向けてのものだった。
マリスには俺がアルロンと話していたことはわからない筈だが、表情などから気付いたのかも知れない。
「うん。魔流族の族長が見付かったらしい。今はカロラスという街に居るみたいだ」
「カロラス...リカルドの領地ですね」
リカルド? ディルクシアの南を治めている四魔将の名前だろうか。
正直イビルアイになったとは言え、自分以外の四魔将軍のことは全くわからない。
「何か問題があるのかい?」
「いえ。リカルドの領地なら問題はないでしょう」
リカルドの領地なら問題はないという言い方をしたということは、問題がある四魔将軍の領地もあるということだ。
家に到着し、中に入るがそこにエレンの姿はなかった。
今日は帰れないかも知れないと言っていたので、そうなったのかも知れない。
エレンの部屋に行き、修復の終わった魔剣を置いてくる。
明日から向かうディルクシアの滞在日数がわからない以上、剣は置いて行った方が良い。
「直ぐに食事に致しますね」
マリスが2人分の食事を完成させる。
それを食べ終わり明日に向けて、ベッドへと向かう。
ベッドに入り直ぐに眠りに落ちると、数時間の時間が流れた。
食事の良い香りが漂ってきて、俺は目を覚ます。
「ロディ様。朝の食事が出来ましたよ」
俺が目を覚まし、数分経過するとマリスが姿を見せる。
テーブルへと向かうがエレンの姿はなかった。まだ帰宅はしていないようだ。
食事を済ませディルクシアへ向かう準備をする。
職業を魔王に変更し、装備の方も変える必要がある。
「ロディ様。準備の方は整いましたか?」
「ああ。ルクザリア城への転移門を開いてくれ」
「かしこまりました」
マリスがルクザリア城へと繋がる転移門を発動させる。
転移門を抜けた先にはアルロンの姿があった。
この部屋は前回も来たことがある玉座が設置された部屋のようだ。
「お待ちしておりました。ロディ様」
アルロンが頭を下げる。
相変わらず全身黒のスーツを身に付けて、出来る男オーラを漂わせている。
「魔流族の族長に会うためカロラスに向かうつもりだが、相手に私のことは伝わっているのか?」
「はい。ロディ様の素性は話していませんが、依頼をしたい者がいるということは伝えてあります」
「わかった。それでは今からカロラスに向かえば良いのか?」
「はい。族長の名はバトウ。カロラスにあるサーダンという男の屋敷に行けば会える筈です」
「マリス。カロラスへの転移門を開くことは可能か?」
「可能です。ですが、サーダンという男の屋敷はわかりませんので、転移門で行けるのは街の入り口までとなります」
「充分だ。それでは頼む」
「お待ち下さい」
マリスが転移門を発動させようとしたところをアルロンが制止させる。
「どうしたのだ?」
「バトウは金だけで動く男ではありません。一度交渉が失敗に終われば二度と彼等の力を借りることは出来ないでしょう。交渉はくれぐれも慎重に行って下さい」
「忠告は忘れぬようにしよう」
改めてマリスがカロラスへの転移門を開く。
転移門を抜けた先には1つの街の入り口があった。